184 ギルドマスターは万全を期します
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【Gの逆襲】 初日第二部の敗因も反対側がGに破られたから。
セブン君たち 【鷹の目】 を向こう側に配したのはせめてもの正解で、Gに押し潰されそうになった剣士たちの救出に尽力してくれたらしい。
そんなことなどつゆ知らず、終了を告げるブザーが鳴るまで、どかどかと爆撃まがいのことをしてたんだけどね、わたしは。
第三部はもう少し確実性を上げたいから……ううん、そんな建前なんてクソ食らえよ。
次は絶対に勝つ!
そのためにあらかじめ協力してくれるギルドと連携し、フリーのギルドやソリストたちがどちらに行ってもいいように備えることを提案。
装備を整えたり消費アイテムを購入したりしながら、開始一時間も前に集合した。
場所は二つの出入り口のほぼ中央にあり、大人数が集まれるだけの広さがある中央広場。
まぁ色んなメンバーが集まっているから、通りすがりのプレイヤーたちが物珍しそうに見ていくんだけど、その目が無遠慮すぎて居心地が悪い。
中央にある噴水の縁に座っていたわたしは、膝に抱いたルゥをしきりにモフり、心を落ち着ける。
こう……視線を意識せずに済むよう、ルゥのモフモフ感に意識を集中させる。
当のルゥはいつものように遊びに行きたがることもなく、時々きゅ~と嬉しそうな声を上げながら珍しくわたしのなすがまま。
そうやって一心不乱にルゥをモフる自分の姿が人目にどう映るかなんて、もちろん気づきもしません。
カニやんの指示でメンバーが壁を作って隠してくれていたらしいんだけれど、もちろんそれも気づきません。
筋肉の壁のあいだからチラチラとのぞく視線が、とにかく気になって気になって。
「いい加減、見られることに慣れたら?」
呆れ果てるカニやんの隣では蝶々夫人が、いつものようにポーズを決めて高笑い。
「人目なんて集めてナンボのものじゃない。
どんどんあたしを見てー!」
そんなことを言いながら、それこそ視線を集めるように両手を上げて広げてみせたり。
うん、蝶々夫人が注目されることが大好きなのはわかってるけれど、それをわたしのそばでしないでよ!
わたしまでみんなの視界に入っちゃうじゃない!!
「そこ?」
そこよ、文句ある?
ルゥの頬毛を心地よくモフッていたわたしは、カニやんを睨み返した拍子にうっかり指をルゥの口に突っ込んでしまう。
ちょっと、ちょっとね、手が滑っちゃって。
みんなと同じようにこのままバックリされちゃうかと思って凄く焦ったわ。
だって、それこそ 「噛んでください」 といわんばかりに自分からルゥの口に指を突っ込んじゃったんだもの。
絶対バックリよね! ……って思ったら、あら意外。
指でつまみたくなるくらい小さな牙でガジガジとかじるだけで全然痛くない。
「可愛いですね、甘噛みですか?」
ホッと息を吐くわたしに、少し高いところから声を掛けてくるのは中性的な顔立ちをした黒髪のセブン君。
【Gの逆襲】 に備えた通常装備のセブン君は、右肩にライフルを背負っている。
ん? これライフルで合ってたっけ?
ま、いいや。
射撃センス皆無のわたしが銃を装備することは絶対に無いし。
だったら知識なんていらないわよね。
「この子、海底散歩するんですよね?」
どうしてセブン君がそんなことを訊いてくるのかと思ったら、【鷹の目】 のメンバーが海底を歩いているルゥを見掛けたらしい。
もしSSを撮るなら可愛く撮ってあげてね。
よかったらわたしにも見せてねってお願いしたら、「わかりました」 と笑顔で返してくれたセブン君は後日、本当に見せてくれた。
それもSSじゃなくて、撮ったのもセブン君じゃなくて。
たまたまその時は時間があったからと 【鷹の目】 のメンバーが撮ってくれた動画なんだけれど、海底をフンフンしながら楽しそうにお散歩していたルゥが、珊瑚礁っぽいオブジェにそのくりっくりの癖っ毛を絡ませて身動きがとれなくなってしまうというもの。
え? これ、大丈夫?
うん、ちゃんと帰ってきているから大丈夫なんだろうけれど、ハラハラドキドキしながら続きを見ていたら、どんなに頑張っても絡まった毛が取れないことに短気を起こしたルゥはそこで大暴れ。
手足は短いんだけど本性は 【幻獣】 なのよ。
STR任せにオブジェをボロボロに破壊して勝利すると、毛に破壊したオブジェの破片を絡ませたまま、まるで何事もなかったかのように機嫌を取り戻して散歩を再開。
カメラワークもアングルもばっちりで、ルゥがとっても可愛く撮れたそんな内容の動画が後日送られてきた。
その撮影時にはセブン君も一緒にいたらしいんだけれど、この時はまだ海底を散歩するルゥを見たことがないって話をしていたら、途中からノーキーさんが聞き耳を立てていたらしい。
不意に大きな声を出して割り込んでくる。
「思い出した!
その犬、海の底歩いてた奴!」
うん、そうよ。
前に海底散歩中のルゥを見つけて不破さんが連れてきてくれたことがあったけれど、発見した時、ノーキーさんも一緒にいて散々噛まれたんでしょ?
不破さんから聞いてるわよ。
「余計なこと話してんじゃねぇー!」
「お前の記憶がサルなんだよ」
どうやら蝶々夫人を追ってきた不破さんについてきたノーキーさん……という組み合わせらしい。
この状況で主催者がおまけというのは明らかにおかしいんだけれど、【特許庁】 だし、ノーキーさんだもんね。
間違ってはいないのかも。
当然今回も 【特許庁】 と 【鷹の目】 も参加。
そしてライカさん率いる 【暴虐の徒】 とそのお友達ギルド 【アタッカーズ】。
今回はさらに別のお友達ギルドも協力してくれるという。
「紹介します、こちらが……」
「初めまして、ギルド 【グリーン・ガーデン】 でギルマスをしていますアンジェリカです。
アンって呼んでください!」
「サブマスのフレデリカです、初めまして!」
普段のライカさんはとても穏やかな感じの人。
その穏やかな紹介を、最後まで言い終えるのを待ちきれないとばかりに割り込むのは二人の女性プレイヤー。
勢いの止まらない二人の挨拶はまだまだ続いていたんだけれど、わたしが聞き取れたのはほぼここまで。
どちらもはきはきと喋るタイプで、しかもちょっと早口。
お互いに被っていようと気にせずしゃべり続けるこれは、ひょっとして噂に聞くマシンガントーク?
空気を読まないのが特徴のライカさんも、女の人が相手だと弱いのか、呆気にとられているわたしを見て苦笑を浮かべている。
えーっと……一通りお二人がしゃべり終えるまで待たなきゃいけないってことかしら、これは?
わたしの高校時代の友達にも一人で喋り続ける子がいたけれど、ここまで凄くはなかったわ。
この二人、どこで息継ぎしてるのかしら?
それともこれ、まだ喋っているけれどノーブレス?
それってどんな肺活量?
「息を吸いながらも喋ってるんじゃね?」
それは凄い呼吸法ね。
「教えてもらわなくていいからね」
カニやんに続くクロエ。
二人とも少しうんざりしている感じね。
カニやんはともかく、どうしてここにクロエがいるのかと思ったら……だってほら、 【特許庁】 が近くにいる時はうるさいからって離れちゃうじゃない。
そのクロエがわざわざここに来たのはもちろん用があったから。
「【グリーン・ガーデン】 には銃士がいるんでしょ?」
「あ、はい! います!」
勢いよく一息に答えるアンジェリカさん。
クロエの空気を読まない割り込みでようやく二人のお喋りが止まると、苦笑いのライカさんが紹介を続けてくれる。
【グリーン・ガーデン】 は 【素敵なお茶会】 と同じくらいの規模のギルドだっていうから、メンバーは二十人くらいね。
構成は半分くらいを剣士が占め、魔法使いは主催者のアンジェリカさんだけ。
残りはみんな銃士という、ちょっと面白い構成かな。
十人くらい剣士がいて、十人くらい銃士がいるって感じかしら。
ちなみにサブマスのフレデリカさんは剣士で、ライカさんとはフレデリカさんつながりらしい。
【treasure ship】 攻略では、一人しかいない魔法使いのアンジェリカさんをレンタル依頼され、ライカさんを袖にしたらしい。
もちろんクロエたちがあれだけ戦えるのだから 【グリーン・ガーデン】 の銃士たちも十分な火力になるし、魔法戦も出来るはず。
でも 【幻獣】 である料理長や操舵手を落とそうと思ったら、ちょっと火力が足りなくなるので絶対に本職の魔法使いが必要になる。
だから余計にライカさんたちも苦労しているみたいだけど。
そのライカさんたち 【暴虐の徒】 とお友達ギルドの 【アタッカーズ】 はセブン君の 【鷹の目】 と一緒に反対側の防衛に回ってもらう。
伊勢湾側は 【素敵なお茶会】 と 【特許庁】、それに 【グリーン・ガーデン】 で防衛。
【特許庁】 と 【グリーン・ガーデン】 の銃士はクロエの指揮下に入ってもらうから、その引き取りに来たってわけ。
【グリーン・ガーデン】 は男女比も半々みたいなんだけれど、女性プレイヤーの装備がちょっと気になる。
アンジェリカさんもフレデリカさんも凄くスカートの丈が短いけれど、ビキニアーマーじゃないから全然マシではある。
二人ともゴスロリっぽいミニドレス装備で、魔法使いのアンジェリカさんはともかく、剣士のフレデリカさんはあれで剣を振り回して最前線を走り回るのかしら?
えっと……その……パンツとか、見えない?
大丈夫?
そのミニドレスは凄く可愛くてわたしもちょっと着てみたくなるけれど、ゴボウが露出するから駄目ね。
後ろとか気になって、たぶん戦闘どころじゃなくなるし。
そんなことを考えながらルゥの頭越しに二人の足を見ていたら、その四本の足がどんどん近づいてくる。
え? なにっ?
「そんなことないって!」
「戦闘が終わったら着てみるっ?」
「わたし、これの色違い持ってるし貸してあげる!」
「えー、こっちのほうが似合わない?」
「足ほっそいし、白タイツがいい!」
「靴は黒!」
「いっそメイドスタイル?」
「あ、でも女王陛下だしイメージ違うくない?」
「でも足は出したい」
……また始まった。
わたしは着るなんていってないのに、勝手に着ることを前提にしたコーディネイトがどんどん進められていく。
しかも二人揃って、座っているわたしに視線を合わせるように少し腰を屈めて顔を近づけてくる。
どんどん近づけてくる。
近い近い近い!
二人の気迫に圧されて背をのけぞらせるわたしは腹筋が足りず、ほんの数秒、全身をプルプル震わせて堪えたものの、力尽きて噴水に落ちるところをクロウに助けられる。
もちろん二人に悪気なんて全然なくて、クロウの登場でようやくわたしが水没する寸前だったことに気づいてくれた。
「ごめん!」
「大丈夫っ?」
「もう、あんたが調子に乗るから」
「ギルマスだって自分好みのコーデ押しつけようとしたじゃない」
とりあえずこの二人は早めに引き離しておいたほうが良さそうね。
それに、そろそろわたしたちも移動したほうが良さそうだし……と思ってクロウの手を借りて立ち上がったところに、先に歩き出そうとした柴さんが思い出したように振り返る。
「そういやさ、ノギ、誘わね?」
「のぎっち、暇してやんよ」
数歩遅れてムーさんも足を止める。
あら、ノギさんいるの?
だったら呼んでよ。
配置は、伊勢湾側はノーキーさんがいるからセブン君側がいいわね。
「おっけ、おっけ」
「マジ暇してやがるから、とんでくるぜ」
……というか、どうして誰も誘ってあげないの?
普段仲良くしてるくせに。
まぁノギさんも、日頃は孤高ぶってるもんね。
柴さんたちならともかく、他のプレイヤーには誘いにくいかも。
不破さんなんて故意に無視してそうだし。
脳筋コンビの連絡を受けたノギさんは本当に暇をしていたらしく二つ返事で参加を決め、私は配置につきながらセブン君にノギさんの参戦を報せておく。
連携とは無縁なノギさんだけれど、火力だけは定評があるもの。
そうやってわたしたちが移動を始めると、広場内にたむろしていたプレイヤーたちも動き始める。
それも結構な人数が。
死亡回数を増やしたくないプレイヤーには参加を忌避されるかと思ったけれど、どうやら杞憂だったみたい。
次こそは勝って兜の緒を締めよ! ……じゃないわ。
これは勝ってからいうことよね。
間違えた!!
イベントのラストに予定している花火大会まで筋書きは出来ているのに、なかなか途中が進まない。
どんだけGで引っ張るつもりなのか・・・(涙