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182 ギルドマスターはそのうちする人です

pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!

alert 骸骨操舵手 / 種族・幻獣


 普通、舵を右なり左なりに回す……舵は切るっていうんだっけ?

 使い慣れない言葉にわたしは戸惑いっぱなしなんだけれど、でも舵を左右のいずれかに切れば、普通は船の向きが変わるもの。

 えっと、うんまぁある意味、これも船の()()が変わってるんだけれど、でも普通は進行方向が変わるものじゃない?

 どうして船の角度が変わるわけ?

 運転……じゃなくて、ずいぶんと操縦が荒い。


 下手くそなの?


 船体はほんの数秒で斜め45°……なんて人が耐えられる角度じゃないか。

 たぶん実際はもっと、それこそ15°とか緩い角度なんだろうけれど、そこに立っているわたしたちの体感ではかなりの傾斜に感じられる。

 しかも急に左舷がせり上がったものだから、とっさになにかを掴めなかったメンバーは、重力に後押しされるように傾斜を転がり落ち、勢いのままに海に転落したのならまだまっし。

 ちなみにこれで落第(ドロップアウト)……じゃなくてエリアオーバーしたのはJB。

 そのまま浜に転送されて中途離脱(リタイア)

 で、さっきも言ったとおりこれはマシなパターン。

 とっさに掴んだキンキーの腕、ホッと息を吐く幼さを残したその顔の向こうにギラリと牙を剥くものが見える。


 あれはなに?


 ううん、わかってる。

 いつの間にか船の(へり)が一面の剣山になっていて、転げ落ちたメンバーの体に刺さっている。

 あれ、痛い!

 絶対に痛い!

 見てるだけで痛い!

 の~りんなんて本気の悲鳴を上げてるし……うん、その姿も見ているだけで痛い。

 転げ落ちたのはの~りんの他に恭平さんとマコト君。

 STRを持たないの~りんはともかく、STR主体(メイン)にステータスを振っている剣士(アタッカー)でわりと慎重派の二人にしては珍しいと思ったら、恭平さんはハルさんを、マコト君はジャック君をそれぞれ庇って自分が落ちちゃったっていうね。

 たぶんあれは貫通ダメージ。

 普通の斬撃とは違い、少しばかり継続ダメージも出る。

 でも、ほら、の~りんはSTRがないから仕方ないのよ。

 踏ん張れないのよ……カニやんは要領で生き残ったパターンだから例外で。

 しかも紙のようなVITだから、三人が落下してすぐに、柴さんのフォローで難を逃れたゆりこさんが範囲回復を掛けたけれどの~りんだけは助からず。

 エリアオーバーによる中途離脱(リタイア)ではなく、被弾(ダメージ)によるものだから死亡扱い。

 転送によるタイムラグがあって、浜にいるの~りんの声がインカムから聞こえてくる。


『まだ痛い気がする』


 ご愁傷様。

 そっか、操舵手はこんな感じかぁ~。

 これ、【treasure ship】 の中で一番痛いパターンかも……。

 ちなみにベリンダはお得意の瞬発力でなんとか堪え、お調子者のラウラはムーさんのカバーで転落を逃れた。

 まぁ一瞬巫山戯ようとして、剣山に気づいたムーさんに怒鳴りつけられて大人しくしたらしい。

 あの子も残念なくらい学習しない子ね。

 あ、わたしもね……オハズカシイ……。


「ごめんクロウ、大丈夫?」

「ギリギリだな」


 そっか、やっぱりわたし、重いのね。

 ごめんなさい、明日からダイエットするわ。


『今日からじゃないんっすか?』


 JB、暇なのはわかるけれどうるさい。

 今から沈没船まで移動して、野良パーティーに混じって一周してきてもいいのに。


『う~ん、どうすっかな?』


 わかった、JBが考え込んでいるあいだにこっちを片付けるわ。

 しばらくの~りんと二人でゆっくりしていて。

 右に切った舵はいずれ元に戻さなければならなくて、ようやくのことで船が水平に戻る。

 けれど息を吐く間もなく、また舵を土台から外して投げてくる。

 うっかり立ち上がってしまったトール君の鼻先をかすめ、ベリンダの腕を切り裂く。

 幸い部位欠損ほど深くはないけれどかなりのHPが流出。

 これほど恨めしい思いで流出(ドレイン)現象(エフェクト)を見ることはそうないんじゃない?

 是が非でも 【Gの逆襲】 初日第三部は勝たなきゃ。

 もちろんここでもゆりこさんの回復スキルが炸裂。


 マジ聖女


 直後、舵が操舵手の手元に戻る前を狙ってクロウが大きく踏み込む。

 びっくりした……だってついさっきまで隣にいたんだもの。

 それが一瞬であんなところまで移動してるなんて思いもしなくて、ちょっと腰が抜けた。

 そんなクロウ渾身の一撃も、まともに食らったはずの操舵手は全くダメージを受けていない。

 被弾効果(ダメージエフェクト)が全くなかったの。

 つまりこれって、あれよね?


「どれ?」


 さっきは自力で堪えたカニやんの突っ込みに、脳筋コンビが続く。


「こそあど言葉が増えたら歳だぞ」

「女王、ヤバくね?」

「ヤバそ」


 なに言ってるのよ、わたしはまだ23よ!

 30オーバーのオッサンどもに言われたくない!


「俺はまだアラサーな」


 うん、知ってる。

 何歳かは知らないけど、いつも対等に喋っている……というか罵り合っているカニやんと脳筋コンビだけれど、現実では脳筋コンビよりカニやんは少し歳下の20代後半。

 確かクロウと同じような歳よね?


「旦那の方が上じゃなかったっけ?」


 そうなの?

 でも1歳とか2歳とかの違いでしょ。

 あまり変わらないような気がする。

 とりあえずJBとの~りんも待っているし、仕掛けるわ。


「この距離で?」


 詠唱を始めようとした矢先の突っ込みは、わたしのうっかりを的確に指摘。

 ちょっと恥ずかしい。

 それこそクロウや脳筋コンビなら一瞬で詰められる操舵手との距離も、わたしにはちょっと遠い。

 しかもあの高さを飛び乗るなんて……見ている分には爽快だけれど、あれを自分でやれといわれると、ね。


 無理


 もちろん魔法使いは中距離攻撃職(ミドルレンジクラス)だから剣士(アタッカー)ほど敵に近づかなくてもいい。

 だからあの高さを上らなくてもいいけれど、せめてあの真下くらいには行かないと届かないかな?


「んじゃ、旦那の後退を待って突っ込むか」


 わたしとカニやんだけで突っ込んだら、たぶん飛んでくる舵で首を刎ねられるのがオチ。

 そりゃカニやんは人並みの反射神経があるから、持ってる短剣で打ち返せるかもしれないけど、わたしはね。

 日々デスクにかじりついてパソコンを叩きまくっているだけのOLに、そんな反射神経はありません。

 高校生くらいまではちょっとくらい持っていた気もするけれど、今じゃすっかり退化。

 それこそ干からびて、神経の片鱗すら残ってないんじゃない?

 ほら、草の蔓が枯れちゃうあんな感じに。

 一撃のみならず、二、三撃を操舵手に食らわせつつも欠片ほどのダメージを与えられなかったクロウは、操舵手に背を向けることなく綺麗に後退。

 もちろんそのタイミングを操舵手も見逃さず舵を投げて攻撃を仕掛けてくるんだけれど、後ろに目でもついているのか、調べてみたくなるくらい見事に(かわ)す。

 それがアクション俳優っぽくてちょっと格好いい。

 わたしも真似してみたいけれど、やっぱりあれは無理かな。

 どうして男の人ってあんな風に動けるのかしら?


「みんながみんな、出来るわけじゃないから」


 カニやんのしんどそうなぼやきに、すかさず脳筋コンビが突っ込みを入れてくる。


「教えてやろうか?」

「やって出来ないこともない」

「ステータス縛りがなければな。

 行くぞ」

「ほい来た」

「来たほい」


 さて、【幻獣】 攻略よ。

 ボーナスステージの 【偽幻獣】 とは違って 【幻獣(ほんもの)】 は高STRの高VIT、そして高HPは伊達じゃない。

 案の定かな、わたしの焔獄一撃ではもちろん、カニやんの加勢を得てもすぐには落ちてくれない。

 クロエやぽぽたち銃士(ガンナー)のINTはもちろん、恭平さんが使える魔法レベルじゃとても歯が立たない。

 う~ん、面倒臭い。


「起動……避雷針」

「あ、それ……」


 なにかを言い掛けたカニやんの声を轟く雷鳴が遮り、一瞬で走る稲妻が操舵手を脳天から突き刺す。

 剣山を思い出して、ちょっと意趣返しのつもりだったんだけれど落ちてくれたわ。

 ただこの一撃でカニやんが気づいてくれたことがある。


「ひょっとしたら雷撃系が使えるかも」


 どういう意味?

 海に生きる男たちにはカニやんお得意の氷水系の魔法攻撃は、無効に近いくらい効果がない。

 そこでずっと火焔系で攻めていたんだけれど、それでも若干の耐性を感じていた。

 いくらいつもの装備じゃないからって、ここまで与ダメが低いのはおかしいって思うくらいにね。

 でもなにかしら魔法攻撃対象には効く属性があるはず……と考えたら、避雷針 (イコール) 雷撃系の可能性に気づいたらしい。

 なるほど、特に火焔属性に耐性のある料理長で試してみたいわね。

 わたしたちはそんなことを話しつつ、ダンジョンを出て浜に転送される。


「どうする?

 もう一周してもいいけど、微妙な時間だな」


 自分のウィンドウを開いて時間を確認したカニやんに問われたタイミングで、またしても腕輪に収納する前に逃げ出したルゥが戻ってくる。

 海からフンフンしながら上がってきたルゥは、波打ち際で不意になにかに気づいたように足を止める。

 そして周囲を見回してわたしを見つけると、きゅーっと嬉しそうに鳴いて戻ってくる。

 短い尻尾をブンブン振っちゃってね。


 お帰り


 毎日毎日一人でどこを探索しているんだか。

 今度一緒に潜ってみようかしら? ……と思ってたら、本日二度目のライカさんからお呼びが掛かった。


call ライカ / 暴虐の徒


 なにかしら?

 最近のセブン君はコールなしにいきなり話しかけてくるし、【特許庁】 はカジさんを含めて当たり前のようにいきなり話しかけてきて、ノミのようなわたしの心臓を止めようとする。

 絶対にわざとやってるのよね、みんな。

 それに比べてライカさんは礼儀正しくて……人の話を聞かないっていう特技の持ち主ではあるけれど、まぁそれは時と場合によりけり。

 なんの用かと思って受けてみた。


『今、お忙しいですか?』


 ううん、丁度攻略を終わったところ。

 なにかあった? ……って訊こうと思ったら、遮るように先に話し出された。

 うん、まぁライカさんだからね。

 人の話を聞かないのよ。


『実は次の 【Gの逆襲】 戦のことでご相談がありまして。

 さっき協力してくれた 【アタッカーズ】 とは別に、もう一つの知り合いギルドも協力させてくれって連絡がありまして、どうでしょう?』


 さっき協力してくれた 【アタッカーズ】 はその名の通り、【暴虐の徒】 と同じ剣士(アタッカー)だけで構成されたギルド。

 剣士(アタッカー)つながりで知り合ったらしい。

 その 【アタッカーズ】 の協力を、現在絶好調に炎上している公式サイトのトピで知った別の知り合いギルドが 「【アタッカーズ】 にだけ声を掛けるのは狡い!」 とライカさんに猛抗議してきたらしい。

 ライカさんの言い訳としては、【アタッカーズ】 とはたまたま現場で鉢合わせ、その場で話がついただけ。

 そのギルドも、その場に居合わせていればちゃんと誘っていたという言い訳までをわたしに話してくれる。


 訊いてないのに……


 まぁそんなわけで協力体制をとってくれるギルドが増えることになった。

 断る理由はないしね。

 この話をカニやんたちにしたら、脳筋コンビが


「それ、あそこじゃねぇか?」

「アンちゃんところな」

「そうそう、そこ」

「ギルド名、なんだっけ?」

「俺もそれ、訊いてるんだけど?」

「思い出せん」


 ……なんだか脳筋コンビらしい会話だわ。

 しかもアンちゃんっていうのは 「(あん)ちゃん」 じゃなくて、アンという通称らしい……ということは女の人?

 どんな人? どんな人?

 わたしはとっても興味津々なんだけれど、なぜかカニやんには嫌そうな顔をされ、脳筋コンビはニヤニヤ笑うだけで教えてくれない。

 どうやら恭平さんやJBも知ってるみたいなんだけれど


「どうせ直接会うんしょ?」

「先入観ない方がいいんじゃない?」


 なんだか不安になるようなアドバイスをくれた。

 まぁライカさんのお知り合いだからちょっとは覚悟するけれど、でもそこは違うとカニやんに指摘される。


「先に言っておくけど、すでにギルドに所属しているプレイヤーを勧誘するのはマナー違反だからな」


 そんなのわかってるわよ!

 だからいつも……このあいだも珍しい女性銃士(ガンナー)を見つけたのに、しかもイベントで名前もわかったのに、すでにギルドに所属していたから涙を呑んで諦めたばかりなのに……。

 そもそも主催者(マスター)をしているわたしが、そんなマナー違反をするわけないでしょ! ……あ、カニやんが嫌そうな顔をしたのはそういうこと?


「そういうことです」


 ちなみにカニやんは、通称 「アンちゃん」 を知らないらしい。

 紛らわしいわね。


「俺のせいじゃなくて、グレイさんの日頃の行いだろ?」


 わたし、そんなに女の子ばっかり見てる?


「見てる」

「見てる」

「ってか男、見ないよね?」


 うん? なんだか冷汗が出て来た。

 わたしの苦手な方に話が向かい始めた気がする。

 えっと、そんなことはないと思う。

 脳筋コンビと一緒に攻めてくるカニやんから目をそらしたら、たまたまそこにクロウがいて、目が合っちゃって……あ、あれ? なんか顔がにやける?

 こ、ここはそういうタイミングではないはずなのに……にやけが止まらない、どうしよ……。

ちょっと痛い話は早めに切り上げました。

次話は第三戦です、もちろんG対戦のw

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