181 ギルドマスターはダイエットを考えます
pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!
さすがに3%の減少措置は結構辛い。
でも 【Gの逆襲】 初日第二部でもプレイヤー側は負けてしまったから仕方がない。
それもちょっとお間抜けな負け方で悔しい。
しかも次に負けたら5%の措置が待っているからもう負けられない。
3%でもかなり厳しいのに5%もHPが減るなんて。
あとがない感じ
【Gの逆襲】 は参加、不参加はもちろん、イベント時にログインしていなくても全プレイヤーが平等に措置を受ける。
だから死亡回数をもらいたくない人の多くは参加していないらしく、HPが5%も減少させられたら余計に参加人数が減るような気もする。
未だ死亡回数0のわたしが言うのもなんだけれど、そういう損得勘定で遊んでいて楽しいのかしら?
もちろんわたしだって攻略って意味では損得勘定するけれど、遊び方に損得勘定はなにか違うような気がする。
仕事でもないしね
どうしても仕事は会社の利益が第一になってしまうし、そもそも会社が利益を上げなければ仕事が回ってこず、お給料がもらえない。
つまり回り回って自分のためではあるのだけれど……ん? なんの話だっけ?
あ、遊び方の話ね。
当然のことだけれど、死亡回数が多いプレイヤーは弱いと思われるなんてこともない……し……ん? ひょっとして死亡回数を増やしたくない人は、そういう価値観ってこと?
そんな見栄、捨てちゃえばもっと楽しく遊べるのに。
いずれにしたって次戦は絶対に勝たなきゃならない 【Gの逆襲】 初日第二部。
でも勝ったとしても1%に戻るだけ。
完全にGとタイに戻そうと思ったら、二日目の第一部でも勝たなければならない。
そこで負けたら元の木阿弥というか、いつまでたってもタイに戻せない。
どう見たってこの 【Gの逆襲】 は火力ごり押し戦。
だから参加プレイヤーの数は減って欲しくないんだけれど、見栄っ張りプレイヤーたちが見栄を捨ててくれなければ難しいかも。
とりあえず次で勝って、モチベの回復を計るとしますか。
【特許庁】 みたいなギルドだと、負ければ負けるほど盛り上がるんだけれど……だから今、俄然盛り上がっているらしい。
絶好調!
ついでに他のプレイヤーも盛り上げてくれないかしら?
その多いに盛り上がっている 【特許庁】 は、負けた鬱憤を晴らすべく 【treasure ship】 攻略に繰り出している。
やっと機関長の呪いから解放されたらしいんだけれど、今はボーナスステージに取り憑かれているらしい。
一緒ね
【Gの逆襲】 で負ければ措置がそのまま 【treasure ship】 攻略にも反映されて影響を受ける。
だから次は絶対に勝たなければならないんだけれど、でもそれは全プレイヤーの問題で、ギルドとしては 【treasure ship】 攻略もある。
【Gの逆襲】 でギルドを超えた超団体戦を戦いながら、それ以外の時間では個人及びギルド戦が待っているのよね。
金貨の取得枚数でのギルドランキング戦では、上位ギルドにステータスボーナスがつく。
個人的にはこのあいだの金魚すくいで銃士と魔法使いをもらったから、今回は剣士が欲しい。
ということでギルドランキング戦では上位入賞を目指している。
だから周回をこなしたいのに、これが結構なかなか厳しい。
一周をするのに時間が掛かるのよ。
しかもHPが減っちゃって、合流までの時間にの~りんとか落ちるメンバーが増えてしまって課題が増える。
そんな時に限って来たわ……初見!
「これ、なんだと思う?」
鍵を三本集めたわたしたちが案内されたのは甲板。
だから一瞬 【treasure ship1】 の甲板長かと思った。
たぶんわたしだけでなく、みんなそうだと思う。
でも様子が違う。
まずは嵐が襲ってこない。
ざっぱんざっぱんと大波小波が忙しく襲ってきてわたしたちをさらおうとするのを、大きく揺れる船が手助けをするっていうあの嵐が。
甲板長の特徴だと思うんだけど、それが起こらないの。
空は綺麗なくらい澄み渡る青空で、眩しい太陽に日焼けが気になるくらい。
これから戦闘ってわかってるけれど、気分的に日傘を差したくなってきたわ。
どうしようかと本気で迷っているところにカニやんに話しかけられた。
一段高いところに立ってわたしたちを見下ろしてくる巨大骨格標本についての質問だと思う。
何度もいうけれど、骨格標本の目に目玉は入っていないの。
ただ眼窩が暗く落ちくぼんでいるだけなんだけれど、まるでそこに目玉があるように動く。
だからわたしたちが勝手にそう想像しているだけなんだけれど……あれはなに?
今回の骨格標本は甲板より少し高いところに立って、舵のような物を前にしている。
「ような物じゃなくて舵だろ?」
カニやんではなく恭平さん。
じゃあ訊くけれど、あれが舵だったとしてあの骨格標本はなに?
「操舵手」
ん? んん? ねぇ、操舵手と航海士っていうのは別物なの?
「当たり前」
恭平さんには、さも知っていて当たり前といわんばかりの反応をされてしまった。
でも知らないのよ、わたしは!
「あ~……グレイさんはそこからね」
隣でカニやんも露骨に呆れるんだけれど、ベリンダや、丁度 【Gの逆襲】 を終えたところにログインしてきたゆりこさんまでが 「知らない」 と答えてさらに呆れられる。
「わかった、まとめてあとでな」
「女の人ってそこからなんすね」
JBまでがいうんだけれど、それはどうかしら?
女性全般が知らないとは思わないし、当然知らない男性だっていると思う。
そういう知識に男女差はないはず……たぶん。
「ま、いいから、あとで」
カニやんに繰り返される。
うん、あとでね。
だって操舵手って、初見も初見で事前情報もない。
その存在そのものを初めて知ったくらいだもの、これ以上の無駄話をしている余裕はない。
というわけで初見 【treasure ship3】 の 【幻獣】 骸骨操舵手攻略を開始します。
ちなみに同じ 【treasure ship3】 のボーナスステージはクリア済み。
何が起こったかといえば、遊園地とかテーマパークにあるバイキング。
この大きな船がいきなりあのバイキング船のようにグーンと大きく前に揺れて、そして後ろへ大きく揺り戻す。
たまに一回転とかして、わたしたちを遠心力で振り回すの。
最初はいきなりだったことと船が大きくて状況が理解出来なかったんだけれど、三回も四回も振り回されればあの感覚を思い出す。
もちろん落ちたらエリアアウト。
これも何回かクリアしたんだけれど、ラウラってば何回も振り落とされちゃって。
エリアアウトは死亡回数に計上されないけれど、個人報酬はもちろんもらえない。
でも巫山戯てやってるんだから知らないわよ。
クリア後に出てくる宝箱の金貨は毎回同じ枚数だから、毎回クリア出来たメンバーだけで山分けしました。
まったく……
ただボーナスステージとは違う位置に操舵手が立っていたことと、わたしたちはまだ 【treasure ship5】 の航海士とも遭遇していないこともあって、すぐにはこれが操舵手だってわからなかった。
でもライカさんの情報によれば、航海士は、あの操舵手の背後に建つ一際高い帆柱の見張り台に出現するらしい。
そしてボーナスステージは一応一通りクリアした。
だから通常ステージなのは予想がついたけれど、初見なので 「あれは誰?」 となったわけ。
ボーナスステージではすでに対面を済ませた操舵手だけど、この大きな船を操ることが操舵手の攻撃だったらしく、他にはこれといって仕掛けてこず。
遠心力に振り回されながらも果敢に挑んだ脳筋たちの物理攻撃に沈んでくれたけれど、ボーナスステージの操舵手は 【偽幻獣】。
だから通常ステージに現われる 【幻獣】 とは弱点が違う可能性がある。
そもそもSTRやVIT、HPのパラメーターが大きく違う。
通常ステージだと物理耐性のはずの甲板長が、ボーナスステージだと物理攻撃で落ちたくらいにね。
しかもエリアアウトとか……一番恥ずかしい負け方じゃない?
ボーナスステージ同様、まずは脳筋コンビが仕掛ける。
素早く接近を試みると、一度低く取った姿勢から操舵手の高さまで力強く跳躍。
そのまま骸骨たちから奪った剣を操舵手の頭に大きく振り落とすんだけれど、土台から舵が取れる。
そして操舵手はその舵をまるで盾のようにして二人の剣を防ぐと、次の瞬間、舵から無数の短剣が飛び出して二人に襲いかかる。
「マジかっ!」
「ヤベ!」
二人の焦る声が聞こえる。
取り外された舵から放たれた短剣に方向性はなく、それこそ四方八方に。
でも二人は面積が大きいから、それなりに食らったみたい。
短剣を浴びた勢いで後ろへ……つまり後方に控えるわたしたちのほうへノックバックする。
でも筋肉の塊は運動神経の塊でもあって、尻餅をつくなんて楽しい姿は見せてくれない。
ややバランスを崩しながらも着地、すぐさま反撃の備えて身構えるところにすかさずゆりこさんの回復魔法が掛かる。
ゆりこさんGJ
わたしの位置からでは二人の背中しか見えていなかったから、何本食らってどのくらいのHPが流出したかもわからない。
もちろんゆりこさんの回復は強力だけれど、みんな、基本パラメータが3%も減っているってことを忘れないでね。
一瞬遅れて、その二人を狙って操舵手が投げた舵が飛んでくる。
縁から突き出る突起物は間違いなく刃物よね?
あれ、当たれば斬れるわよね?
ダメージ食らうわよね?
でももちろん二人がそれを食らうことはなくて、かすりもしない。
空振った舵がどうなるのかと軌跡を目で追うと、不自然な弧を描いて操舵手の元に戻る。
なに、今の動き?
なにかこう……操られている感じ。
わたしは飛んできた舵だけを目で追っていたけれど、全体を見ていたカニやんが言う。
「操舵手が自在に操れるってことか?」
なに、それ?
どういう意味?
「手が動いてたんだ。
その動きに合わせる感じで舵がこう……ヨーヨーみたいな感じ?
糸で遠隔操作されてるみたいな」
もちろん糸は例え。
でも観察していたカニやんの目には、見えない糸で操られているような動きに見えたらしい。
そして同じ攻撃がもう一回。
狙われたのはまた脳筋コンビだったんだけれど、さっきの一撃を交わしたあともすぐに身構えていたから今度も舵は空振り。
今度はわたしもその動きを見ていた。
なるほど、確かにカニやんの言うとおりかも。
ただヨーヨーとは違って、重力を無視した動きだけどね。
だから一見フリスビーを投げているような感じなんだけれど、自在に操っているところがヨーヨーに近い。
あれ、結構難物かも。
「二連続で狙われるとか、お前ら相当恨まれてるんじゃないか?」
少し冷やかすような恭平さんがいうのは、ボーナスステージではこの二人がことごとくボーナス操舵手を殴り続けたから。
なにしろあの遠心力に耐えられるSTRとVITがないと身動きがとれないの。
遊園地やテーマパークのバイキング船と違って安全ベルトがないから、わたしは帆柱にしがみついて耐えるのが精一杯。
それだって油断したら吹っ飛ばされそうで、何度ヒヤリとしたことか。
マコト君たちも頑張ればなんとかなりそうだったみたいだけれど、どうしても時間が掛かる。
そのあいだにもわたしを含むモヤシ連中が吹っ飛ばされてしまう恐れがあって、見かねた脳筋コンビがサクッと落としてくれたわけ。
もちろん二人だって油断をすれば遠心力で吹っ飛ばされるけれど、そこは筋肉のプロだから。
で、ボーナス操舵手と遭遇するたびに二人が殴り続けたから、相当に恨みを買っているんじゃないかって恭平さんは茶化すの。
「実は 【偽幻獣】 って 【幻獣】 の子分?」
「うわ、ヤベぇ。
ボコボコにしちゃったよ、俺ら」
「やべぇな。
謝ったら許してくれるかな?」
「無理じゃね?」
「じゃ、叩くベ」
「ラジャ」
……どうしてそうなるのかがよくわからないんだけれど、それが脳筋的思考なのかもしれない。
前向きな結論を得た二人は再度仕掛けようとするんだけれど、操舵手が手に持っていた舵を土台っていうのかしら?
つまり元の位置に戻したの。
そうして大きく右に回すと……あ、これはわたしたちから見て右ね。
操舵手が手にした舵を右に回すと、激しく軋みながらも船が大きく右に揺れる。
もちろんわたしたちもぼけっと突っ立っていたわけじゃないけれど、たまたま掴まるものが近くになくて、いつもいい場所にいてくれるクロウに掴まれる。
うん、わたしが掴んだんじゃないの、クロウがわたしを掴んだの。
助かったと息を吐く間もなくわたしはすぐ近くにいたキンキーが、船体の傾きに合わせて甲板を滑りながらも伸ばしてくる腕をとっさに掴む。
直後、掛かる二人分の負荷に、クロウが低く呻いた。
ごめん、わたし重いかも!!
今回はただのエリアアウトにはなりません。
ちょっと痛い……いえ、結構痛いかも……(涙