18 ギルドマスターは課金します
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気づくとpvが1000を突破しておりました、ありがとうございます。
今後ともよろしくお付き合いくださいませ。
「え? 豆の木さんって【鷹の目】にいたんですか?」
どうしてあそこで豆の木が出てくるのか。
全く何も知らないトール君からしたら話の流れが不自然だったらしく、訊かれたから正直に話す。
別に隠すことじゃないしね。
セブン君は割とうちのメンバーとも面識があって仲もいいし、カニやんともフレンドだし。
でも実はβ版からの付き合いのわたしやクロウ、クロエの次に付き合いが長いのが豆の木なの。
なにしろ彼女は元々 【鷹の目】 のメンバーだったから。
正確には今もそうなんだけど、あんまりにも彼女には 【鷹の目】 の居心地が悪くなって居づらくなって、それでもギリギリまで我慢していたみたい。
引退を考える段階になってセブン君に相談して、そこでセブン君が引退の回避手段として 【素敵なお茶会】 への移籍を持ちかけたわけ。
もちろんわたしはOK。
だから今もマメは【鷹の目】のメンバーではあるんだけど、【素敵なお茶会】のメンバーでもあるんだよね。
ただその話を受ける時にわたしが、もしマメが正式に【鷹の目】を脱退して【素敵なお茶会】への移籍を希望するなら、【鷹の目】は彼女の意思を尊重して欲しいってお願いしたの。
セブン君はちょっと驚きつつも苦笑いでOKしてくれたんだけど、他のメンバーが大反対で揉めちゃったのよね。
このあいだのノブナガの時、【鷹の目】が横殴りはルール違反とか屁理屈を捏ね出したのもそのことを未だに拗らせてるからだと思う。
ちゃんとパーティーリーダーのセブン君に、事前に横殴りの許可は取ったっつーの!
ご都合主義の事後承諾でもないっての!
「知らなかった?
あの子廃人よ、いつもいるでしょ」
「そういえば……」
トール君も心当たりがあるみたい。
「じゃ、廃課金なんですか?」
「気づかなかった?
あの子、あれだけ食われまくってるのに、死亡率結構低いの。
もちろんみんなの救出が早いってのもあるんだろうけど、結構硬いのよ。
最近はあんまり課金してないと思うけど、別にうち、非課金じゃないしね」
「ヒカキン?」
「あの有名なユーチューバーじゃないわよ」
音だけを聞けば同じだけど別物よ。
「でもそれって無課金って言うんじゃないんですか?」
「無理のない課金で無課金。
課金者に非ずで非課金。
わかった?」
「凄い理屈ですね」
ちょっと苦笑いされちゃった。
でも全然違うから。
ちなみにわたしは無課金です。
「トール君も課金は自由だけど、ご利用は計画的に、でよろしく」
『課金するなら相談してねぇ~』
「ちょっとマメ、あんたは!」
どこから聞いていたのか、マメが口を挟んでくる。
ギルドチャットでわたしとトール君の会話は聞いていたはずだから、セブン君から聞いたことも知っているはず。
でも声だけを聞いた感じじゃ、いつもと変わらないマメかな?
そんなわたしの心配を珍しく察してくれたのか、でもその割には本当にいつもどおりのような気もするマメ。
そのマメが、それこそいつもと変わらない軽い調子で告白してきた。
『あのですねグレイさん、このあいだセブンさんと話しまして、わたし、正式に 【鷹の目】 を脱退しましたー!
だから正式に 【素敵なお茶会】 のメンバーにして下さい!』
あ、あら? そうなの?
セブン君てばそんなこと一言も……いや、それらしいことは言ってたっけ?
まずは 【鷹の目】 を正式に脱退するのが筋ってことで、セブン君に話して、わたしにも自分で言うのが筋だからってことで、セブン君にも【鷹の目】を正式に脱退したことをわたしに話すまでは黙っていて欲しいってお願いしたんだって。
キャラは残念だけど、悪い子じゃないのよね。
ま、だからあの【鷹の目】じゃやってられなかったんだと思う。
ちなみにわたしの返事は「OK」。
ほかにあるわけないでしょ。
そうじゃなきゃ、彼女が移籍を希望するなら……なぁ~んていって、わざわざよそのギルドに喧嘩なんて売らないわよ。
【素敵なお茶会】も三大ギルドなんて言われてるけれど、それが偉いとは思わないし、まして他のギルドと喧嘩しても面白いことなんてなんにもないんだから。
「そういえばグレイさんのあの装備、課金なんですか?」
「重装備? あれはβ版からの協力お礼ってやつね。
正式サービス開始に伴ってキャラは一から作り直しだったんだけど、お礼コードでもらえたアイテムなの」
あれはデザインとか色とか選べて、結構サービスがよかったな。
ちなみに同じアイテムは 【特許庁】 の蝶々夫人が着用している。
でも彼女は下にズボンを穿いていないから、いつも素足で悩殺ポーズを決めていたり。
袖無しはわたしも同じだけれど、彼女は上に何も羽織らないから、それはそれでセクシーなんだよね。
……わたしには無理だけど……
色もわたしが淡い紫に対して、彼女は真っ赤。
いかにもっていうチャイナドレスね。
ちょっと派手すぎて、ちょっと恥ずかしすぎてわたしには着られないデザインだわ。
「あ、でも課金アイテムなら、バザーや個人取引を見てからにした方がいいわよ。
公式に売買専用掲示板があるから、相場は結構マメが詳しいし」
正式サービス開始直後、今の【鷹の目】のメンバーが中心になってゲーム内通貨を稼ぐため、課金アイテムを過剰供給。
でも連中、相場を下げないため、カルテルとか結んで売買価格を操作していたの。
それが切っ掛けで 【鷹の目】 に集まったみたいだから、考えてみればその中心人物がセブン君ってこと?
……あ、なんか嫌なこと考えちゃった。
その相場も、最近になってわたしみたいな無課金ユーザーが参入して、ちょっと落ち着いてきた感じかな。
でも気をつけないと、詐欺や業者が参入している。
「あ、そうそう。
RMTって知ってる?」
「real money trade でしたっけ?」
「絶対ダメだからね。
うちは強制退会よ」
さすがにトール君もちょっとビックリしたみたい。
廃課金連中が相場を吊り上げていたから、ちょっと業者の参入が多かったんだよね、初期の頃は。
最近は相場が落ち着いてきたからか、業者らしきキャラも減ってはきているけれど油断は出来ないと思う。
トール君なんて素直だから、思いっきり引っ掛かりそう。
実際、アギト君にカモにされてたしね……。
RMTは売った側はもちろんだけれど、買った側もアカウントが凍結される。
つまりギルドが強制退会させなくても、運営が強制引退させちゃうってわけ。
「取引にしても、最初は誰か一緒に行ってもらうといいわ。
初心者ってバレたらぼったくられるわよ」
RMTじゃなくても、廃課金者でなくてもそういう人はいるのよね。
職を剣士に決めたトール君は、これから本格的にスキルを取得したり装備を調えたりと、色々考えてやらなきゃならないことが増えるわけで、だからこの辺のことはその前に言っておきたかったんだけど、ちょーっと考え込んじゃった。
ごめんね
「……課金装備と生産職の作る装備って、どう違うんですか?」
「色々よ。
でも、課金装備にハズレは存在しないかな?
硬さはマメで保証する」
『なんでわたしなんですかー!』
『実際、それでお前の死亡率低いわけだし?』
わたしが何かいう前にカニやんが割り込んできた。
まだ潜ってないみたいだけど、なにしてるんだろ?
そろそろみんな、ロビーに揃ってる頃だと思うけど……。
『わたしのお金でーす、使い方は自由でーす』
『課金についてはな~んも言ってねー。
装備についての議論だろうが、邪魔すんじゃねーよマメ』
『Oh No! わたし日本語わかりませーん!』
『バリッバリの日本人顔で外人ぶってんじゃねー!』
「……マメさんって、こんなキャラなんですね」
「こんなキャラなのよ。
あんまり喋らないと思ってたでしょ?」
本当は滅茶苦茶喋るの、うるさいくらい喋るの。
ちょっとはクロウを見習いなさいって言いたくなるくらい喋るのよ。
ま、クロウは喋らなすぎだけどね。
ようやくのことでわたしたち三人がナゴヤジョー、ダンジョン前ロビーに着くとメンバーのほとんどが顔を揃えていた。