179 ギルドマスターは喪女を卒業出来ません
pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!
ちょっと若ぶってみせたらみんなにドン引かれた。
なによ、ちょっと受けを狙ってみただけじゃない。
笑ってよ!
「……笑えねぇ」
「ってかグレイさん、キャラが違うでしょ?」
「キャラ変?」
「あれ? 喪、やめたの?」
ううん、してない……っていうか、喪は生態を表わす言葉だからキャラじゃない。
わたしが喪を卒業する第一歩として、まずは 年齢 = 彼氏いない歴 の黒歴史に幕を下ろす必要がある。
でも全く下ろせる気がしなくて、下りる気配もない。
そうやって二十三年が過ぎました。
下ろし方がわからない……
最近は、そもそも幕が用意されていないような気がしてきた。
ひょっとしてわたしは、黒歴史に下ろす幕から用意しなければならないってこと?
それって果てしなくない?
ちなみに勉強はわりと得意だったし成績もよかったけれど、家庭科の成績はギリギリの2だった記憶がある。
裁縫が駄目だったのか、調理が駄目だったのか……どちらかと聞かれれば、答えは両方。
不器用なのよ
自慢じゃないけれど、パソコンのキーは全然平気で叩きまくれるけれど、縫い物とか料理は全くといってもいいくらい駄目。
雑巾を縫っていて自分のブラウスを一緒に縫ってしまったのはまだマシで、包丁でリンゴの皮を剥いていたら指の皮まで一緒に剥いちゃって先生を卒倒させたのは、今でも同級生たちのあいだでは有名な笑い話。
そんな、まるでギャグ漫画のようなことを素でやってのけた過去の持ち主です。
これも一つの黒歴史
さすがにこんな奴を嫁にもらってくれる心の広い人はいないだろうから結婚は諦めているけれど、せめて死ぬまでに一度くらい彼氏が欲しい。
二人とか、三人とか、そんな贅沢は言いません。
一人でいいんです、どうか神様、お願いします。
一生に一度、彼氏が出来ればその思い出を胸に……いや、糧に、残りの人生を一人わびしく細々と生きていきます。
そして天寿を全うし、その思い出を冥土の土産に……
「もういいって」
なによ、カニやん。
最後まで聞いてくれてもいいじゃない。
「聞かねーよ。
必要ねーし」
そりゃカニやんはいいわよね。
その気になればすぐに彼女とか出来そうだし、結婚も出来そうじゃない。
「グレイさん、まだ23でしょ?
結婚とか諦めるの、早すぎない?」
いいの、憧れはするけれど自分のことは自分がよくわかってます。
高望みはしません、喪を卒業出来れば上々です。
「卒業出来れば結婚も夢じゃないでしょ」
だって友達がいっていたもの、彼氏と旦那様は別物だって。
「うん、普通に別物な。
ってかその友達とやら、別物の意味もちゃんと説明してやれよな」
ちゃんと説明してもらったわよ。
彼氏は……その、す……き……なだけでいいけれど、旦那様はソレだけじゃ駄目だって。
なんだか話がわたしの苦手な方向に進んできた。
汗染みを気にしなくてもいい水着装備とはいえ、顔の熱さはどうにもならない。
とりあえず手で隠してみたんだけれど、クロエに 「今更?」 って呆れられた。
とっくの昔にわたしの顔は赤かったらしい。
「大丈夫大丈夫、家事が出来なくても嫁にもらってくれる男はいくらでもいるから。
ついでに世の中って意外と狭いんだぜ」
ん? なんの話?
ちょっと待ってカニやん、わたしは彼氏が欲しいの。
嫁入りまで話を飛ばさないでくれる?
「とりあえず飯食うか。
昼の部が13時スタートって、結構罠だよな」
それは 【Gの逆襲】 のスタート時間ね。
次は二手に分かれて、両方とも防衛してHPを取り戻すわ。
夜露……
「それ、もういいから」
いきなりカニやんの手に口を塞がれて邪魔された。
そんな乱暴に邪魔しなくてもいいのに……と文句を言いながらも、自身で決めたルールに従って 【海】 エリアから通常装備に戻してナゴヤドームに戻る。
【treasure ship】 をクリアして浜に転送された時にはまだ戻っていなかったルゥも、わたしたちが話しているあいだに戻ってきていたらしく、足下にちょこんと可愛くお座りをしてわたしが気づくのを辛抱強く待っていた。
もちろん黙って待っているはずはなくて、頬ずりとか自己主張をしながらね。
可愛い
うん、今日も安定の可愛さよ。
お馬鹿さと残念さもね。
さて、じゃあわたしもお昼ご飯を食べましょう。
とはいえ連日のGショックであからさまに食欲は落ちてるんだけどね。
集合時間を12時半にしたから早めに解散。
その集合時間より早めにログインしたわたしは、柴さんたちの話を思い出してNPC武器屋へ。
通貨で購入出来る装備を使い捨てにしようと思ってたんだけれど、店にはすでに柴さん、ムーさん、それにクロウの姿が。
もうログインしてたんだ。
ちゃんとご飯食べたの、三人とも。
「母親みたいなこと言ってるなよ」
「それよりなんで女王がここに?」
「俺らと一緒にG殴るつもりか?」
NPC武器屋のNPC店長と、挨拶を交わして開く購入ウィンドウをポチろうとしたまま動きを止めているわたしを見て、脳筋コンビは不思議そうな顔をする。
ううん、全然不思議じゃないの。
必要なのよ
もちろん前衛として脳筋に紛れて参戦なんてしない。
あの筋肉の壁に入ったら、わたしなんて一瞬でプチって潰されちゃうわよ。
Gよりも先に、筋肉にね。
でもこれは必要なの。
またあんな小さなGが脳筋の壁をかいくぐってきたら、次こそはルゥが可愛い肉球で潰す前にわたしが退治しなきゃ。
一応ここに来る前に、ランタンみたいにイベント専用の用意があるかもしれないと、わずかな期待を持ってNPC雑貨屋をのぞいてみたんだけれど、残念なことにコック○ーチもゴ○ジェットもなくて。
もちろんメーカーは問わないし、性能も不問……いえ、性能は最低限致死量で。
でも見事に裏切られて落胆し、仕方がないからNPC武器屋に来たの。
耐久値も攻撃力も高くなくていいけれど、わたしのモヤシなSTRでも扱えるレベルじゃないとね。
どれにしようかしら? ……なんてウィンドウを眺めていたら、いつでもポチれるようスタンバっていた指を、手首をつかんだクロウの手が操作する。
どれがお薦め?
選んでくれるのかと思って見ていたら、クロウにポチらされたのは 「閉じる」 ボタン。
すぐさまNPC店長が、なにも購入していないのに
「ありがとうございました!
またのご来店をお待ちしております」
だって。
いわゆる定型文の棒読み……いや、抑揚はあるか。
こういう声って、駆け出しの声優さんとかが担当するのかしら?
有名タイトルの主要キャラなんかだと、それこそ大御所声優さんが担当することもあるらしいけれど、店長とはいえ名もないNPCだもの。
さすがにね、それはないでしょ……っていうかクロウ、邪魔しないで!
鎧をつかんで猛抗議するわたしを無視して、クロウってばギルドルームにいるハルさんに呼びかける。
「ハンマーの販売場所を知らないか?」
『あれは雑貨屋ですよ』
「わかった、ありがとう」
『どういたしまして』
ん? ハンマー? そんなもの、どうするの?
クロウがなにを考えているのかさっぱりわからなくて首を傾げていたら、クロウってば柴さんとムーさんに挨拶をして、わたしを抱えるように、さっき行ってきたばかりのNPC雑貨屋へと連れ込む。
さして広くはないNPC武器屋は筋肉が三人もいれば結構狭苦しいんだけれど、足下は意外にそうでもなくて、いつものようになにもないところでもフンフンフンと臭いを嗅ぎながら楽しそうに散策していたルゥは、突然飼い主をさらわれて大慌て。
もちろん散策に夢中になりすぎて、すぐにはわたしがいなくなったことに気づかなかったんだけどね。
残念な子だから
慌てて追いかけてきたと思ったらクロウの頑健な足にガップリ。
でもすぐにまた違う場所に来たことに気づき、フンフンと散策を始めてしまう。
本当にマイペースなのね……自分の飼い犬だけど、呆れるわ。
犬じゃないけど
で、クロウは何をしにここに?
そういえばハルさんとハンマーがどうとかって話していたけれど、わざわざわたしを連れてくる必要があったの?
でもなにも答えてくれないクロウはNPC雑貨屋のNPC店長と定型の挨拶を交わし、購入用のウィンドウを開く。
なにをポチったのかと思ったら、接地面っていうのかしら?
それとも殴打面?
打撃面?
ずいぶんと平べったいイメージのハンマーで、日曜大工用にしては少し大きめかしら。
それを渡してきた。
うん? つまり万が一の時はこれでGを潰せと?
なるほど、あの小さなGを潰そうと思ったら剣だとやりにくいんだ。
それで扱いやすく、確実に潰せるハンマーを使えと。
でも武器としてのハンマーは大きすぎてわたしには扱えない。
持てないわけじゃないけれど、重さに振り回されてちゃうのよね。
しかも攻撃目標が小さすぎて逆に当てられないかも。
それでクロウが探してくれたこのハンマーは、雑貨屋に売っているってことはたぶん生産職用ね。
鍛治士が使う道具だと思う。
鉱石とかを粉砕する用とか。
剣や刀を鍛えるためのものとはちょっと違うような気がする。
それともこれが雑貨屋に置いてあることをハルさんが知っていたってことは、調合士も使うのかしら?
例えば薬草をすり潰す……のはすり鉢とすり棒か。
ん? お料理?
そうね、それだとお料理だわ。
調合が調理実習になっちゃう。
えっと、なんていうんだっけ?
理科の実験で使ってたあの白いお皿……あ! 乳鉢と乳棒!
調合って調理実習より理科の実験に近いから、たぶん使うならそっちね。
いずれにしてもこのハンマーは使途が違うから耐久がすぐに削れちゃって使えなくなるだろうけれど、早々わたしの出番があるとは思えないし。
上手くいけばこの二日間、残り五戦をこれ一本で凌げるかもしれない。
もちろん使えなくなったら買い換えればいいだけだもの。
そのための通貨アイテムよ。
問題はハンマーなんかじゃなくてG……よりもプレイヤーの連携かしら?
開戦時間よりも30分も前にわたしたちが集まったのは、一応対策を練るため。
そのためにまず必要なのは前回の敗戦理由と、その状況の確認。
Gに破られた出入り口側にいたプレイヤーが何人も、公式サイトに立てられたトピに書き込んでいてくれたからそれはすぐにわかった。
まぁ簡単な話。
人数が少なすぎて押し切られたっていうね。
「みんな終わったらそのまま 【海】 に行こうと思ってたのか、【海】 側に近いほうの出入り口に集まりすぎてて、反対側が手薄になっていたってだけってやつ」
普段はみんな、行き先に合わせて出入り口を使うけれど、このイベント期間中は、どうしても伊勢湾に近い出入り口のほうが人通りが多くなる。
それがそのまま 【Gの逆襲】 に影響してしまったらしい。
『伊勢湾側に 【素敵なお茶会】 が陣取っていたのも過剰火力とか言われてまーす。
ムカつく!
そう思うならお前が反対側に行けー!』
サイトはもちろんわたしたちも見たけれど、最初にトピを調べてくれたマメは酷く立腹中。
もちろん 【Gの逆襲】 に参戦しない彼女はギルドルームに待機中で、その声はインカムから聞こえてくる。
まったくマメってば、連日ギルドルームに籠もって一体何をしているのやら。
たまには出て来て一緒に遊べばいいのに。
「今回は二手に分かれる?」
そうね、手薄になりそうな反対側には私が行くわ。
伊勢湾側はカニやんに任せていい?
「じゃ、分けよう。
銃士はクロエに任せるとして、剣士だな」
いつものように手早く班分けを始めるカニやんに、さすがにこの時ばかりはクロエも文句はいわない。
もちろんクロエも、三人いる銃士をどう分けるかを考えなければならないしね。
伊勢湾側はカニやんを筆頭に、魔法使いはの~りん。
剣士は柴さんとムーさん、それにマコト君とジャック君とラウラ。
残りはわたしと一緒に反対側の防衛へ。
銃士は三人揃ってわたしと一緒に反対側の防衛に向かうことにした。
一回目の敗北を考慮して反対側の火力を少し多めにした班分けだったんだけれど、でもみんなが同じことを考えるのよね。
つまり二回戦は一回戦と真逆、反対側の出入り口に火力が集中してしまったの。
その状況にわたしが気づいたのは開始時間直前。
だって普通にたむろしているだけのプレイヤーだって当然いて、誰が参戦するのかわからなくて。
念のため、カニやんに訊いてみる。
そっち、どう?
『保たねーよ』
ちょっと絶望というか、諦めているような感じの声がインカムから返ってくる。
もちろん向こう側の様子はわたしにはわからないんだけれど、でも見なくてもわかる。
無理よね。
でもでもでも、二連敗は駄目よ!
だって二連敗なんてしたらHP3%減少。
さすがに3%はそろそろわたしも厳しい!!
まだGの活躍は続きます!