172 ギルドマスターは愛犬に逃げられます
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「それでですね、コードが伸びてて、たぶん、アレにつながってます」
そう言ってキンキーが指さすのは、ボーナス機関長が持っているインパクトドライバー。
つまりキンキーが見つけたコンセントが、あのインパクトドライバーに電力を供給していると……なるほど。
抜いて
でもわたしの指示をキンキーが実行するより早く、少しだけ、わたしと話しやすいように物陰から顔を出していたキンキーを、ボーナス機関長のインパクトドライバーが狙う。
直後に飛び出す柴さんのナイスフォロー。
キンキーを物陰に押し込み、代わりにナットを背中に食らってHPドレイン現象を起こしている。
ちょっと柴さん、大丈夫?
「まだいけるが……でもそんなに保たないぞ、この調子じゃ」
大丈夫よ、もう終わるから。
もう一度言うわキンキー、そのコンセントを抜いて頂戴。
「わかりました」
ま、これで終わりよね。
思った通りキンキーが差し込み口からコンセントを引っこ抜くと、電力の供給を失ったインパクトドライバーは役立たずになる。
文明の利器って結構もろいのよね。
攻撃してこないのならこっちから行くわ。
「起動……焔獄」
火属性耐性のある機関長だからもう一撃くらい必要かしら? ……って思ったけれど、ここはボーナスステージ。
【幻獣】 である機関長は意外なくらい脆かった。
information ダンジョン 『treasure ship bonus stage4』 をクリアしました
ベリンダのファイアーボールでは無理だったけれど、本職の魔法使いであるの~りんのファイアーボールなら一撃で落とせたかも。
そのくらい直接攻撃にはあっけなかった。
どうやらボーナスステージの報酬はどこも同じらしく、機関長が消えたあとに現われた宝箱は思ったより小さくて、中身も料理長の時と同じ20枚くらいしか入っていない。
ケチ
ま、いいわ。
無事クリアだし、出ましょう。
浜に戻って柴さんたちの回復をして、必要ならアイテムの補充をしましょ。
次こそ新しいダンジョンに潜れるといいわね……なんて思いながら浜に転送されると、海底散歩を終えたルゥがお行儀よく待っていた。
もう満足したのかしら?
それともまたわたしがいないことに気づいて、慌ててここまで戻ってきて待っていたのかしら?
……うん、前者!
だって泣いてないもの。
暇潰しに浜辺に落ちている頭蓋骨で遊んでいたんだけれど、転送されてきたわたしの姿を見つけると短い足で猛ダッシュしてくる。
さすが 【幻獣】 のSTRは、この柔らかい砂浜でも立派な脚力を発揮。
そのジャンプ力も見事で、危うく頭突きを食らうところだった。
やーめーてー!
鈍いわたしには避けられなくて、でも寸前でクロウに額あたりを押さえつけられたルゥはそのままクロウの手をバックン。
そして拳骨を落とされるという最近のルーティンワーク。
やっぱり学習しないAIだったわ、残念な子。
しかもわたしが 「抱っこしてあげるからおいで」 って呼んだら、クロウを飽きたおもちゃのようにぽいっと捨てちゃうし……どこまでも残念だわ。
でもその可愛さで全てがチャラになっちゃう無敵感。
いつルゥに落とされるかわからなくてドキドキするわ。
「二人、買い出しにドームに戻るってさ」
少し面倒臭そうな柴さんの声。
ハルさんもダンジョン攻略に参加していて、必要なポーションをナゴヤドームまで自分で調達に行かなければならないから、ジャック君とキンキーが向かうらしい。
ちょっと待って、その人選は誰が?
どうして年少の二人が行くの?
わたしは虐め的要素を心配したんだけれど、二人の立候補ならいいわ。
時間が掛かりそうだから柴さんは自分で行くっていったらしいけれど、二人が自分たちが行くってきかなかったらしい。
まぁそういうことならいいわよ、わたしはモフって休憩するから。
ふっふ~♪
わたしとクロウは参加したばかりでまだアイテムは十分に持っているから、ルゥを砂だらけにしてモフっていたんだけれど、気がつくと手が四本になっている。
ん? 誰の手? ……って思って顔を上げてみたら、ルゥを挟んだ向かいにカニやんがしゃがみ込んで一緒になってルゥをモフっていたっていうね。
しかも……えっと、わたしもすぐには気づかなかったんだけれど、ルゥはもっと気付くのが遅くて、わたしが気づいてしばらくしてからカニやんに気づいてビックリ。
四肢をぴーんと張って硬直したかと思ったら、気にせずモフッているカニやんの手をピシッと手で払いのける。
それでも気にせずカニやんがモフろうとするから、ルゥもムキになってカニやんの手を払い飛ばす。
それを何度も繰り返して……まぁ最後はバックリやられちゃうんだけれどね。
それ以上に、飼い主のわたしを放ってカニやんと遊んでいるのが恨めしい。
「そこ?」
そうよ、わたしが悲しいのはそこ!
淋しい!!
というわけでルゥ、抱っこしてあげるからこっちにおいで……って両腕を広げて呼んだら、ルゥってば毛繕いを始めてしまった。
どうしてっ?
どうしてなの、ルゥっ?
「どこまでもマイペースなAIだな、呆れる」
勝手にルゥをモフって気晴らしをするカニやんにも呆れるわ。
もちろんカニやんが説教を終えて戻ってきたということは、ムーさんもラウラも戻ってきたんだけれど、そのラウラが口を尖らせて言うの。
「結局脱衣に関する注意事項は規約になかった!」
脱衣って…………まぁラウラにしては言葉を選んでくれたと思うことにする。
えーっと、そうよ、装備の着脱に関するルールは、アバターを設定する時にあったはずだもの。
だからユーザー登録と、チュートリアルのあいだね。
規約への合意はユーザー登録の前でしょ、書いてないわよ。
「え?」
気分を変えるつもりなのか、さっきとは違う水着を着たラウラはさらなる説明を求めるようにわたしを見る。
わたしなりの解釈だけれど、遅刻が多かったり、忘れ物が多かったりすると、罰として生徒手帳の校則を書き写しさせられたりしない?
あれと同じだと思う。
アンチJCのカニやんにしては、ちゃんとラウラに合わせた罰を考えたんだと思ったけど、これについてはあとでカニやんに言われた。
「別にアンチじゃねぇーし」
あら、そうなの。
その割にちょっとキレ気味なのはなぜ? ……あ、やっぱり今のはなし。
何気なく訊いちゃったんだけれど、カニやんの眉間に深い皺が寄っちゃったからなしでお願いします。
ギロリとわたしをひと睨みしたカニやんは小さく溜息を一つ。
それで気を取り直してくれたらしい、助かった。
「買い出しに行ったのはあの二人だけ?」
うん。
なんかインベントリに余裕がなくて、ポーションとかあまり持てないみたい。
何を入れているのかちょっと気になるところね。
「あいつらさ、ラウラもだけど、装備を作ろうとして色々溜め込んでるけど、売り飛ばしていいクズと素材になるドロップ、全部そのまま置いてるから」
どうしてカニやんがそれを知ってるのかと言えば、説教を終えたあとわたしたちと合流しようとしたらラウラがポーションを買いに行きたいって言い出して、まだ固定の装備を持っていない彼女たちが何をそんなにインベントリに入れているのか気になったらしい。
それで訊き出した……と。
なるほど。
今は花火もあるから余計に厳しいかも。
誰か教えてあげて。
その程度のことならゆりこさんだって知ってるはずなのに。
「あの人、課金装備使ってるじゃん。
だから気にならないんじゃね?」
なるほど。
戻ってきたら、攻略wikiなどを見て不要なものを処分するようにいわなきゃ。
生産職じゃない三人は自分で装備を作れるわけじゃないから、生産職の人にお願いするのには素材の他に通貨も必要になる。
インベントリに抱えている不要なクズを売れば、少しはその足しになるしね。
さてカニやんたちも合流したし、あの二人が戻ってきたらすぐに潜る予定だけれど……次はなにが出てくるのかしら?
「またボーナスステージだったんだって?」
そ、ボーナス機関長。
「なに、その命名」
わかりやすくていいでしょ。
「ひょっとして、全てのステージにボーナスがある?」
うん、それはわたしも思った。
だとしたら攻略ダンジョンの他に、少なくとも4つボーナスステージがあるということになる。
「スゲーな、8分の1の確率」
でもそれは本当にダンジョンが四種類だった場合。
そもそもわたしたちはラスボスに船長がいると考えているから、少なくともダンジョンの種類は五つ。
ボーナス船長がいるかどうかはわからないけれど。
「最低9分の1か」
「大量に金貨をくれるならいいけど、そうじゃないならボーナス船長なんていらないよ」
わたしたちの話を聞いていたクロエの率直な意見に激しく同意。
通常ダンジョン 【treasure ship】 だと、金貨は通路などに落ちているドロップだけ。
クリア報酬自体が存在しない。
個人報酬やギルド報酬はその金貨の取得数に応じてランキングされているから、周回を重ねる分にはいいけれど、早めに全ダンジョンクリアしてイベント進行に備えた方がほうがいいのかしら?
「小林が言っていただろう?
イベント期間が二週間もあって長いって。
それを考慮して確率を下げているなら、来週には上げるんじゃね?」
なるほど。
あまりにもクリア出来ないとプレイヤーの士気が下がっちゃう。
それは運営としては望まないところよね。
状況を見ていじってくる……というか、後半戦で確率を変更するのは大前提なのかも。
前半戦はとにかく周回を重ねて金貨を集め、可能な限りクリアしていくって感じかな?
よし! そうと決まれば、ジャック君たちも戻ってきたし潜りましょうか!
さっきは機関長は機関長だったけれど、ボーナスステージが出て来たってことは呪いの効果が薄まったかもしれないし……なんてわたしはお気楽なんだけれど、クロエは手厳しい。
「薄まっただけじゃ意味ないじゃん、呪われてることに変わりないんだから」
そ、そうね。
とりあえずルゥ、またお休みよぉ~って呼んだら、ピューと海に逃げられてしまった。
あの短い足をフル回転させて。
う、そ……
しかもルゥが潜ってしまったあとの海を、呆気にとられて見ていたらみんなに大爆笑されてしまった。
「グレイさん、おっとりし過ぎ」
「飼い主から逃げるとか、どんなワンコ?」
「ワンコ、かっけー」
違う、みんな違うから。
今のは逃げるなんて思わなかったらうっかりしていただけよ!
「泣くほどのことかよ?」
「行くぞ」
他のプレイヤーに害を為さないのなら遊ばせておけというクロウに捕まって、わたしも海へブクブクと。
しかもずっと背中に張り付いていたのに、今回は前って……どんな罰ゲームよ?
クロウだって泳ぎにくいと思うのに、全然普通にすいすい泳いでるの。
途中で、本当に楽しそうにフンフン水中散歩をしているルゥを見掛けたら、短い尻尾をブンブン振って海中散歩を全開で満喫中。
その様子を見て思ったんだけれど、ねぇクロウ、ひょっとしてわたしも海中散歩が出来るんじゃない?
出来るなら、わざわざ運んでもらわなくても自力で沈没船まで歩いて行けるかも……っていうか、歩くわ。
試したいから下ろして……ってお願いしたら睨まれた。
ごめんなさい
どうしてわたしが謝らなければならないのか?
ちょっと理不尽を感じるんだけれど、この状況ではわたしに自由も権利もないらしい。
泣く泣くクロウにしがみついたまま沈没船に到着した。
「だから泣くことじゃないよな?」
どうやらカニやんは、わたしがまだルゥに逃げられたことを泣き続けていると思ったらしい。
違うわよ、新たに涙要素が増えたのよ、説明しないけど。
もういい!
この鬱憤は 【幻獣】 で晴らすから!
そう思って潜った 【treasure ship】 は……あら、これは初めてのパターンじゃない?
ひょっとして 【特許庁】 に感染させられた機関長の呪いが解けたっ? ……なぁ~んて喜んだんだけれど、それもビミョーな感じ。
何かおかしいのよね。
鍵を三本揃えて辿り着いたのは一見食堂兼台所だったんだけれど、それは窓のない船内の一室っていう共通点による勘違いで、どうやら違う。
広い部屋の中央に大きめのテーブルがあって、その上には火の灯った蝋燭が何本か。
それに豪勢な……う~ん、時代が違うかしら?
たぶん豪華な食事という演出だと思うんだけれど、わたしの目には美味しそうに見えない料理の盛られた皿が幾つか並べられていて、その向こう側に巨大な骨格標本がすわってナイフとフォークを構えている。
どうやら今からお食事だったらしい。
ごめんなさい、邪魔をするつもりはないのよ。
ランチかディナーか知らないけれど……時間的にはランチかしら?
昼食にはちょっと遅いけれど、晩ご飯にはずいぶんと早い。
あえてどちらかといえば昼食なんだけれど、それにしてはずいぶん重そうな食事内容だからやっぱり晩ご飯なのかしら?
どう見てもディナー向けのメニューを前に、フォークとナイフを構える海賊ってなにかしら?
そもそも骸骨がご飯を食べるの?
だって消化器官持ってないじゃないっ?
食べた物はどこに行くのよっ?!
ちょっと本気でそんなことを考えたら、カニやんと恭平さんに突っ込まれた。
「そこは問題じゃない」
「女の人って現実的だな」
VRゲーム(SF)部門 日間ランキングで70位に入りました~!!
ありがとうございます!!!!
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。