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170 ギルドマスターは甘えます

pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!

「グレイ? 気がついたか」


 ……はい、気がつきました。

 少し前からぼんやりと天井を見ていたわたしは、掛けられるクロウの声にぼんやりと答える。

 クロウが声を掛けてくれなければ、危うくそのままもう一眠りするところだったわ。

 眠いわけじゃないけれど、ちょっと怠い気がする。


「みんなは?」

「船に潜っている。

 カニやんとムーは隣にいるはずだが……」


 扉の閉まった戸口にもたれかかるように立っているクロウは、チラリと、見えない扉の向こうを見るように視線を送る。

 何をしているのかと思ったら、ラウラに規約を音読させているらしい。

 あの細かい文字でびっしりと書かれた規約を?

 あれを始めから終わりまで全部読むなんて、到底わたしには無理。

 ラウラの性格を考えても難しそうなんだけれど、逃げられないようムーさんに見張られているらしい。

 カニやんとラウラにはレベル差があるとはいえ、STRはラウラの方が上の可能性があるから。

 しかもその役目をラウラが懐いている柴さんに任せなかったところで、カニやんの怒りの度合いがわかるというもの。

 だから言ったじゃない、カニやんを本気で怒らせたら怖いって。

 世間じゃJCやJKを最強って持て囃す傾向があるみたいだけれど、大人だって本気で怒ることはあるんだし、本気で怒れば誰だって怖いの。


 本気の大人を舐めないで


 わたしなんて、本気で怒ったクロウが怖くて腰を抜かして、気絶までしちゃったんだから……わたしも大人なのに、情けなくて本気で泣きそう。

 運動不足のOLは腹筋もタルタルでスマートに起き上がることも出来ない。

 体をねじるように両手を使って起き上がるわたしがよほど大儀そうに見えたのか、クロウが手を貸してくれる。


 あ、ありがと


「悪かった」


 手を貸してくれながらクロウが、頭の上でぽつりと呟く。

 なにが?


「怖がらせるつもりはなかった」


 そのことは……えっと、それで腰抜かすとか、思い出すのも恥ずかしい。

 だから思い出させないで欲しい。

 でもわたしがそれを上手く伝えられなくて、気まずい空気になったところでカニやんから直通会話が入る。

 わたしが起きたのはギルドチャットで声が聞こえたからわかると思うけれど、わざわざ直通会話を使うのはなぜ? ……と思ったら、衝撃的なリクエストが入る。


『とりあえずグレイさんさ、そのままクロウさんに甘えてくれる?』


 ………………は?

 ごめんなさい、ビックリして思わず訊き返しちゃった。

 大丈夫、なんて言ったかは聞こえたから。


『じゃ、そういうことでよろしく』


 よろしくって……ちょっとカニやんっ?!

 どうしてそんなことをしなくちゃいけないのよっ?


『クロウさんの機嫌を直すため』


 それで直るの?

 一応口元を隠してぼそぼそと話しているんだけれど、これだけ近い距離にいられると、クロウにもわたしが誰かと喋っていることはバレバレ。

 でもクロウには聞こえていないから直通会話なのもバレている。

 気まずさが募って、わたしは恐る恐る上目遣いに見ると、すぐそこにあるクロウの顔がちょっと怖い……っていうと語弊があるんだけれど、別に怒った顔をしているわけじゃないの。

 怒ってはいないんだけれど、まだちょっと不機嫌が残っている感じがする。

 カニやんのいうとおりにすればこれが直るの?

 えっと、その……いつもクロウには迷惑ばかり掛けているからご機嫌取り……ゲフゲフ……じゃなくて、お役に立てるなら立ちたいところだけれど、カニやんのリクエストはハードルが高い。


 それはどうしたらいいの?


『いつもどおりでいいんじゃない?』


 カニやんはまるでなんでもないことのようにいうんだけれど、わたしにはそれじゃわからない。

 そもそもいつもどおりってなによ?

 出来たら教えて欲しい。


『出来ないから教えない。

 ギルチャ、切るの忘れないでね』


 助けてくれるどころか、ギルドチャットを切って(みずか)ら隔離されろとか……ちょっとカニやん鬼じゃない?


「どうした?」


 どうもしません……って言ってもたぶん無駄よね。

 もう一度クロウを上目遣いに見ると、とりあえずカニやんに言われたとおりギルドチャットを切る。

 ついでにクロウにも切ってもらう。

 ちょっと怪訝な顔をされたけれど、眉間に皺を寄せたまま切ってくれた。

 で…………で…………このあとどうしたらいいわけっ?

 あまりに気まずくて顔面が硬直し、変な汗が出て来た。

 脇下とか背中とか……でも水着のままだから汗染みの心配はないんだけれど、気まずい空気に窒息しそう。


「カニやんになにを言われた?」


 うん、バレバレ!

 全く直通会話を使った意味がなかったっていうね。

 とりあえずわたしは深呼吸を一回……二回……三回……ちょっと落ち着いたかな? というところで、カニやんに言われたままをクロウに伝える。

 こうなったらどうとでもなれ! よ。

 だってわたしの下手な嘘なんてバレバレだし、それはそれでまた怒られて拳骨を食らうんだもの。

 それこそいつものパターンじゃない。

 だったら下手な嘘をつくより、カニやんを道連れにするわ。

 でもカニやんに言われたままを自分で言うのは恥ずかしいのよね。

 だからもう三回、深呼吸をしてから直通会話を使って伝える。

 自分でも馬鹿だって思うわよ、すぐそこにいる相手にわざわざ直通会話を使うなんて。

 でも恥ずかしくて、この方法がわたしの限界。

 ついでにカニやんのリクエストを実行する方法がわからないことも伝える。

 恐る恐るクロウの様子を伺ってみたら……怒ってはいないんだけれど、額に手を当てて困ってる感じ。


 これはどうしたらいいの?


 なにかいい案があれば是非とも提案してもらいたいんだけれど……って思ったところで矛盾に気づく。

 だってクロウがわたしを甘やかして、クロウの機嫌が直るっておかしいじゃない。

 もちろんカニやんがいう、わたしが甘えてクロウの機嫌が直るっているのも変な話なんだけれど。

 でもね、もう一つ気づいたんだけれど、あの扉の向こうにカニやんがいるってことは、たぶん、しばらくここから出してくれないわよね。

 恨めしく思って扉を睨んでいたら、その視界を遮ってクロウが隣に腰掛ける。


 なに? どうしたの?


 ぴったり横にすわられて感じる凄い圧迫感に思わず離れようとしたら、軽々と抱え上げられて膝に座らされた。

 は……はい?

 ちょっとクロウ、なにしてるの?


「さぁ、なんだろうな」


 いやいやいやいや、クロウがしてるんじゃない。

 なにって、それは私が訊いてるの!

 でもクロウは教えてくれなくて、逃げられないようにガッツリホールドしてくる。

 しかも肩に顎置いて、耳元で囁くのはやめて!


「どうすればいい?」


 どうって、手を放して膝から下ろして。

 そんなの言わなくてもわかるじゃない。

 どうしてわざわざ言わせるのよっ?


「それはダメだ」


 ダメって……じゃあどうしたいなんて訊かないでよ。

 もう、なんなのよ、クロウってば。

 じゃあせめて顔を隠したいから横座りさせて……ってお願いしたらこれは聞き入れてくれたから、クロウの膝に横座りし、ガッツリしがみついて顔を隠す。

 誰も見ていないってわかっていても恥ずかしいものは恥ずかしいのよ。

 心臓がバクバクして口から飛び出しそう。


「まだ怖いか?」


 いつもの低くてよく響くクロウの声は心地よくて、ちっとも怖くない。

 けれどどうしていいかわからず必死にしがみついていたから、それで怯えてるって誤解させてしまったのかもしれない。

 でも下手に喋ると声がうわずりそうな気がして、首を横に振って否定しておく。

 そうしたらクロウも少し安心してくれたみたい。


「そうか」


 声がもっと優しくなる。

 ねぇねぇ、もっとしゃべって。

 そういえばラウラ、音読させられているはずなのに全然声が聞こえなかったような気がする。


「ギルドチャットを切らされたんだ、クロエに」


 クロエ、ログインしたの?


「ああ、今はみんなと船に潜っている」


 お昼ご飯を食べ終えて再ログインしたクロエは、その前に潜った一周でまた機関長だったと聞いて大爆笑。

 でもわたしたちが抜けて、クロエたち後れてログインしてきたメンバーと入れ替えて二周目を潜ってもまた機関長で、苛ついたクロエが八つ当たりよろしく、ギルドチャットから聞こえてくるラウラの規約読み上げをうるさいって怒ったらしい。

 相変わらず我が儘なんだけれど、それがクロエだから仕方がない。

 それでカニやんがラウラにギルドチャットを切らせて、現在、孤立状態で読み上げを続けさせられているらしい。

 時間が掛かっているのは、読めない漢字も自分で調べなければならないから。

 結構なスパルタだわ。

 さすがアンチJC。


 容赦がない!


 ギルドチャットを切っちゃったからわたしたちにはわからないんだけれど、今も 【海】 エリアにいるメンバーで 【treasure ship】 に潜っているらしい。

 【特許庁】 の戦績も気になるところね。

 【素敵なお茶会】 にまで呪いを感染させて、自分たちだけ先に進むなんて許さないわ。


「そっちは訊いていないが、あとで訊いてみるといい」


 うん、そうする。

 そういえば……思い出すのもちょっとあれなんだけれど、でも気になるから思い出す。

 この状況以上に恥ずかしいのは、みんなの前でルゥにお尻の臭いを嗅がれたことくらいだもの。

 だから思い出すけれど、なにが気になったのかといえばどうしてキンキーの時だけ警告表示(アラームディスプレイ)が出てしまったのかということ。

 だってそもそもラウラがあんな悪戯を思いついたのは、ルゥに海パンの裾を引っ張られたカニやんを見たから。

 でもあの時は出なかったのよね、警告音(ビープ音)警告表示(アラームディスプレイ)も。

 なのにキンキーの時だけ出た。

 しかもなかなかラウラがやめなかったから二度も警告された。

 あれ、三回目が出たら強制ログアウトさせられるんだって。

 そのあと、正式に処分されるらしい。

 この件にはラウラも気づいて無茶苦茶に暴れて抗議したらしいんだけれど、カニやんに拳骨を落とされたらしい。

 そもそもルゥに脱がす意図はない。

 ただカニやんを引っ張ってわたしのところに連れて行きたかっただけで、カニやんはカニやんでルゥに逆らうわけがないのよね。


 愛犬家だもの


 なんだかんだいってルゥが大好きだもの。

 文句いう振りして、結局ワンコ呼ばわりだもの。

 可愛くて仕方がないのよ、本当に可愛いし。

 だから海パンが脱げないように押さえつつ、大人しくついて行っていたのが正解。

 JBは半ケツなんていっていたけれど……またケツっていっちゃった、もう!

 言い直して……JBはお尻が半分見えてるっていっていたけれど、恭平さんの訂正によれば


「割れ目は見えてないからセーフだったんじゃない?」


 ………………えっと、つまり……男の人の腰履きでパンツが見えてるあの感じ?

 あ、違うか。

 女の人が、ちゃんとそれ用のパンツを穿いてローライズを穿くあの感じ?

 その恭平さんがさらにいうには


「あれでアウトならビキニアーマーもアウトだろ?」


 どうやらカニやんはそのレベルだったらしい。

 つまりラウラはやり過ぎた。

 しかも処分されるのがラウラ自身ならともかく、被害者のキンキーっていうのはなし。

 そういう意味もあって今回は厳しめのお説教となった。

 でもキンキーも、行き場を失ったファイアーボールをなぜかラウラに投げつけたりしてるのよね。

 ひょっとして喧嘩でもしてるの?

 ラウラのしたことは、小学生男子が気になる女の子のスカートをめくるあの感じの悪戯っぽいんだけれど、度が過ぎる。

 一緒にいたくないのなら、ちょっと 【素敵なお茶会(ギルド)】 を離れてみるのもいいわよ。

 知り合いのギルドに、しばらく間借りさせてもらえるよう頼んでもいいし。

 ほら、二人には古巣に当たる 【特許庁】 とか。


「色々気を回して大変だな」


 クロウほどじゃないわよ。

 自分の仕事だけでも大変なのに、部下(わたしたち)の指導をしたり、監督しなきゃならないんだもの。

 わたしは好きでやっているゲームなんだもの、こんなの全然大変じゃないわ。

 そういえばルゥを出してもいい?

 退屈を持て余してまた勝手に遊びに行かれたら困るんだけれど、クロウには小さく息を吐かれた。

 でも無言で腕を解いてくれたからOKってことよね。

 腕輪からポンッと出て来たルゥはきゅー! っと元気な声を上げ、広げたわたしの腕に飛び込んでくる。

 可愛さの余りぎゅっと抱きしめたら、運悪くルゥの目の前に水着の肩紐があった。

 うん、凄く場所が悪かったわ。

 でもわたしは気づかずルゥに頬ずりとかしてモフを満喫していたら、いきなりの警告音(ビープ音)


 え? なにっ?


 ハッとして顔を上げると、前足をつかむクロウの手にルゥがガッツリと噛みついている。

 何があったのかと思ったらルゥがじゃれついて水着の肩紐がずれ、ただでさえ布面積が少ない水着がずれて…………ルゥ、これは駄目!

 ルゥがずり落ちるのも気にせず、わたしはとっさに水着を直す。

 なにが楽しくてクロウの目の前で水着を直すとか、しなきゃならないの?

 これ、今までの中で一番の羞恥プレイ!

 もちろんルゥには何が起こっているのかわからないんだけれど、クロウがもう一方の手で拳骨を落とす。


「小林、殺す」


 クロウ、怖い、怖い!

 せっかくクロウの機嫌を取ろうと思ってこんな恥ずかしいことまでしたのに台無しじゃない、ルゥの馬鹿!

 いやいやいや、それ以上の問題がある。


 …………今の、見えてないわよね?

トラブルは一段落で、イベントに戻ります。

たぶん・・・(汗

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