17 ギルドマスターは助けられます
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「……本当に男なんだ」
ちょっと幼いっていうか、ね……ジャック君の心の声がだだ漏れ。
しかもクロエを見ての第一声がこれだったから、わたしとセブン君は思わず噴き出しそうになっちゃった。
すぐにセブン君から説明を聞いて、クロエも連れてこいっていわれた理由には納得がいったけれど、当のクロエは珍しく仏頂面。
せっかくの美少年が台無しじゃない。
「僕が男でも女でもおまえに関係ないじゃん。
セブン君、【特許庁】 紹介してあげなよ」
もちろんクロエもギルド 【特許庁】 の主催者ノーキーさんや、実質的な采配をしているサブマスターの蝶々夫人とも知り合い。
それだったらクロエが紹介してあげたらいいんだけど……
「それだと僕がノーキーさんに借りを作るみたいで嫌」
……わかるけどね、その気持ちは。
言いたいこともすっごくわかるけどね。
ノーキーさんについては……そのうち出てくるんじゃないかな?
そうしたらわかると思う。
「主催者が女ってのも嫌なんでしょ?
グレイさん、カマ疑惑あるけどキャラ女の人だし、嫌なんでしょ?
だったらやっぱり 【特許庁】 が適任じゃん」
「でも僕、あそこに心当たりの銃士がいないんだよ」
自分の要領の悪さに苦笑いを隠せないセブン君だけど、確かに正直に全部話しすぎ。
余計なところは言わなきゃよかったのに、人に頼み事をする立場だからって全部話しちゃうなんて、どんなお人好しよ?
本当にいい子よね、セブン君って。
そういう意味じゃ、クロエとは大違い。
外見は金髪の美少年のくせに中身が黒い。
本当に真っ黒なんだから質が悪い。
クロエとセブン君、ちょっとキャラが被るのかと思ったけど全然似てなかったわ。
このあともグダグダと……主にクロエとジャック君が揉めちゃって……。
『そっち、面白いことになってるね』
カニやんがインカムから声を掛けてきた。
相変わらずシャチ銀に潜ってるみたいで、ちょっとアイテムの買い足しをするメンバーがいて休憩をしていたらしい。
もっともカニやんに聞こえるのはわたしとクロエの悪態だけ。
それでもだいたいの内容は把握できたらしい。
「全然面白くないんだけど、カニやん的にはどう?」
『俺? 主催者に従うよ』
「ずっる!」
もちろん最終的な決定は主催者がするつもりだけれど、迷ってるから相談してるんでしょ。
参考意見の一つくらいくれてもいいじゃない。
今【素敵なお茶会】には三人のサブマスターがいるけれど、クロウが喋るはずがないし、クロエは当事者。
だからせめてカニやんくらいはって思ったのに……
『でもそういう子なら 【特許庁】 も無理じゃない?
あそこ、個性集団だから』
それは一理ある。
カニやんは言葉を選んで 「個性集団」 なんて随分ソフトな言い回しをしたけれど、ギルド【特許庁】をわかりやすく言えば 「色物集団」 なのよね……うん、あそこにこのジャック君は似合わない……いや、案外水が合うかも……。
とりあえずこのままじゃ埒が明かないし、そろそろ決着つけますか!
「……うん、わかった。
とりあえずクロエとジャック君は黙っててくれる?」
意を決した割に、ここで思わず溜息が出ちゃう。
「セブン君、この話はなかったことにしましょ。
もちろん 【鷹の目】 が加入を断るかどうかはセブン君が決めればいい。
【特許庁】を紹介するかどうかも好きにして。
でも 【素敵なお茶会】 は無しで」
「え? なんでですか?」
……ここでトール君が口を挟んでくるとは思わなかった。
あまりにも意外なところから意外な意見が出たんで、わたしやセブン君はもちろん、クロエまでちょっとビックリしてる。
「なんでって……最初からメンバーと揉めてるし……」
「最初は揉めなくても、加入してから揉めることだってありますよ。
だったら最初は揉めても仲良くなれるかもしれません」
なかなかポジティブな意見じゃない、面白い。
うん、面白いからちょっと意地悪をしてネガティブに押し返してみた。
「でもジャック君はセブン君がいいって言ってるのよ」
「トッププレイヤーを近くで見たいって気持ちは俺もわかります」
そう言ってトール君はちらりとクロウを見る。
うん、トール君にはいいお手本……になっているならいいんだけど……当のクロウは相変わらず反応無し。
「しかも【素敵なお茶会】ってトッププレイヤーが三人もいるんですよ。
凄いじゃないですか、自慢ですよ。
しかも俺たち、間近で見られるし、一緒に戦えるし」
もうね、青春どころかVRMMO生活満喫中! って感じの勢い。
そこまで楽しんでくれてるなら、わたしとしても嬉しいんだけど……ジャック君はどうかな? と思ってちらりと見たら、なんだか様子が違う感じ。
あら? あららら?
「主催者が女の人っていってもグレイさんですよ。
魔法使い最強の魔女じゃないですか」
魔女って……なに?
トール君は話すのにすっかり夢中になっちゃってて、おそらく無意識に言ってるんだと思うんだけど、でも、魔女って……
『じゃ、俺もの~りんも魔男?』
すかさず魔法使いカニやんがインカムから突っ込みを入れてくる。
わたしも負けずに突っ込み返しておく。
「魔男でしょ」
『うわ~なんか男娼みたいで嫌やな、その響き』
だって音読みと訓読みの関係を考えたらそうなるじゃない。
「まおとこ」にしたってろくな響きじゃないのは一緒よ。
「仲間にいるってだけでも凄いし、一緒にバトれるのも楽しいし。
俺、剣士でステ振り直しなしで行くって決めたんですけど、今、武器をどうするか考えてます」
あー、あれか、さっきのココちゃんの武器屋での話ね。
なるほど、確かに剣士三つ巴は三人とも大剣だもんね。
あそこに片手剣や大斧で乗り込むとか、ちょっとかっこいいんじゃない?
「でもさ、トッププレイヤーと一緒にいても、自分まで強くなれるとは限らないんだよ」
あら、やだクロエってば、そんなにジャック君が嫌いなの?
あのアギト君ですら……あの子の本性を一番最初に見抜いていながら平然としてられたのに、珍しく拗らせてる。
ま、ジャック君の第一声があれだもんね。
男女のセブン君には憧れるけれど、名前だけでクロエを女と決めつけちゃうとか、ジャック君もジャック君だし。
でもそのジャック君はちょっと様子が変わってて、なにか言いたそうにトール君の熱い話に耳を傾けている。
これはあれだな、うん。
……ま、いいかな?
『トール君、面白いね。
どうするの、グレイさん』
「どうするって言われてもねぇ……」
カニやんの声は、セブン君とジャック君には聞こえないけれど、当然ギルドチャットなので他の三人には聞こえている。
聞こえていても無視しちゃってるクロエはともかく、クロウを見れば、わたしの言わんとしていることを察してくれたみたいで大きく頷いてくれた。
ふむ、これはやっぱりクロエ次第か。
「じゃ、こうしましょ。
ジャック君がいいなら加入申請して。
【素敵なお茶会】は仮加入を認めるわ」
「ちょっとグレイさん?」
「マジっすか?」
さっきの提案を翻すわたしに、クロエとジャック君がほぼ同時に声を上げる。
どっちにも意外だったみたいなんだけど、セブン君はなぜかご機嫌。
結局こうなることをわかっていたみたいな感じで、中性的な顔に麗しい笑みを浮かべてるんだけど、もちろん胸はぺったんこ。
うん、男だもんね。
わたしはその顔には騙されないんだから。
「但し正式加入は、お試し期間中にクロエと和解できれば。
もちろん他のメンバーと揉められても困るけど。
いい、カニやん?」
『主催者の決定には従うっていったじゃん』
ちょっと溜息が聞こえたけれど、不服そうではない感じ。
ううん、むしろ 「やっぱりね」 みたいな感じ?
たぶんカニやんも、セブン君と同じくこうなると思ってたんだ。
だけど……ここでの急転換は誰も予想しなかったと思う。
そう、突然クロエが言い出したのよ。
「じゃあさ、いつもどおりのお試しで」
なによ、それ?
っていうか、急にいつものクロエに戻っちゃってるけど、あんたの心中は一体どうなってるのよ?
「僕とのことが解決しても、いつもどおりのお試しルールは有効なんでしょ?」
「それはもちろんだけど……いいわけ?」
「いいよ。
さっさと決めて」
珍しく拗らせてると思ったら、なんで急に?
やっぱりクロエってわからない。
先々尾を引かないならいいんだけど……そんなわたしの心配をよそに、クロエに急かされる形でジャック君からギルド加入申請が送られてくる。
でもね、この状況で主催者じゃなくてクロエが受理しちゃうっていうのはどういうこと?
……やっぱりあんた、まだ怒ってるんじゃないの?
ほんと、わかんない。
「なんかグレイさんがグルグルしてるのは放っておいて、カニやん、まだ潜ってる?」
『潜ってるよ。
話が終わったんなら来る?』
「行く。
ついでに噂の新人君連れて行くよ、顔みたいでしょ」
『気が利くね。
じゃ、今ログイン中で他に参加希望がいるなら、ナゴヤジョーロビーに集合ってことで』
なんか呆気にとられちゃったんだけど、とりあえず和解ってことでいいのよね。
早速クロエってば、ジャック君の都合も聞かずに連れて行っちゃうし。
いや、まぁわたしも手なんて振って送り出しちゃったけど、向こうにはカニやんもの~りんもいるし、大丈夫よね。
他のメンバーも来るって言ってるし。
「わたしもすぐに行くわ」
「俺も、グレイさんたちと行きます」
『オッケー。
アイテム買い足して待ってる』
魔法使いが三人もいるから、MPポーションの消費が激しいんだろうな。
ついでにマメもいるしね。
「そうそう!
セブン君、この子はうちの新人のトール君」
トール君がついてきた目的を思い出して紹介すると、セブン君はちょっと考えて、すぐに思い出したみたい。
「前に、ノブナガでちょこっとだけ会ったよね」
「あ、はい、そうです!」
「あの時はごめんね、うちのメンバーがグダグダ言っちゃって。
悪い人たちじゃないんだけど、勝ちにこだわりがあるからついつい」
「いえ、大丈夫です」
そういうことにこだわらないのがトール君よね。
ほんと、いい子。
「まだノブナガの分もあるのに……マメさんの借りだけでも返せたらと思ってグレイさん呼んだけど、これじゃ返せたことにならないよな。
あ~あ、借りばっかり増えてっちゃうよ」
「別にマメの件は貸しでもなんでもないけど……」
「このあいだ会ったんだ、マメさんに」
「会ったの、マメに?」
「うん、楽しそうにしててよかったよ。
グレイさんに頼んだのは正解だったね」
ゲーム内だから元気そうとは言わないよね。
そっか、マメと会って話したんだ、セブン君。
……っていうか、マメは大丈夫なの?
あの子、セブン君に会ったなんて一言も言ってくれないんだけど……。
ついつい考えこんじゃったら、セブン君に申し訳なさそうな顔をされた。
「なんかマメさん、グレイさんに話があるみたいだよ。
切り出してきたら聞いてあげてよ」
「そりゃもちろんだけど……」
「じゃ、お呼びが掛かったから僕も行くよ。
マメさんとノブナガと、借りはちゃんと返すから」
気長に待つってことでセブン君と別れ、わたしたちもみんなが集まっているナゴヤジョーに向かうことにした。