169 ギルドマスターは警告されます
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見えない後ろ側がそんなことになってるなんて思わなくて、驚いてケツなんていっちゃったけれど……ケツって……ゲフゲフ……もう誤魔化し不可?
「俺のケツはどうでもいい」
うん、カニやんのケツは……だからケツじゃないってば!!
「釣られていうのもどうかと思うけど、俺もカニやんのケツには興味ないな」
恭平さん、そういう同意はいらない。
無事カニやんを発見し、海パンの裾を引っ張って連れてきたルゥは見事に任務完遂。
そのせいでカニやんが半ケツ……じゃなくて……でも他に適当な言葉がないからお尻の話は終わりにして……って言っているのにカニやん自身が尾を引っ張る。
「このワンコ、いうこときかない奴のくせにこういう時だけなんで忠実に完遂?」
カニやんの場合、犬のことをワンコっていってる時点でもうダメだと思う。
さっきも 「クソワンコ」 だったもの、立派な下僕ね。
ルゥに迎えに来てもらって嬉しいくせに、もっと素直に喜んだら?
とりあえずわたしは、無事に任務を完遂し、ご褒美を待ってお座りをしているルゥの大きな頭を撫でてあげる。
思わず力がこもるのは、クロウが頭に置いた手でわたしを押さえつけるのをやめてくれないからよ。
でも 【幻獣】 のVITの前に、わたしのモヤシなSTRは意味を為さず。
わしわしに頭を撫でられ、嬉しそうに目を細めてきゅーきゅーと鳴いている。
わたしも撫でられたい。
「いつでも撫でられてるだろうが。
まだイチャつきたいのか、この嫁は」
ズレた海パンを直したカニやんが少し偉そうに腰に手を当てているのは、また引っ張られた時に備えているから?
まぁ話を聞いたラウラが、ろくでもないことを企んで後ろに潜んでいるから正解かも。
一応キンキーが止めようとしてるんだけれど、ルゥのVITを前にわたしのSTRがないも同然なのと同じく、キンキーの制止なんて全くラウラは意に介していない。
悪ふざけが過ぎた時はカニやんもマジで怒るから、その時は諦めて怒られてなさい。
そろそろと集まりだした 【素敵なお茶会】 のメンバーたち。
特に集合時間を決めたわけじゃないからログイン時間がバラバラすぎて、適当な人数で一度潜りましょうってことになった。
早速小林さんは仕事をしてくれたらしく、明るい船内には花火が大量に落ちている。
これを最終日に全部使ったら、それはそれでやっぱりサーバーが落ちそうな気がするわ。
『だからって金貨まで増やせとか、どんだけ強突く張りなんだよ?』
探索する船内、やっぱり別班を率いるカニやんがインカムからぶつぶつと文句を並べてくる。
どんなメンバーが揃っていても、カニやんがわたしと同じ班になることはないんだけれど、逆に、なぜか別行動になることのないクロウはまだ不機嫌が続いている。
理由がわからないから放っておくしかないんだけどね。
金貨を増やせってわたしが要求したのも、小林さんがそれは無理って言ったのもちゃんと理由がある。
金貨はイベントストーリーでは原因究明のため臨時政府に提出することになっているんだけれど、その枚数がイベント用ウィンドウでちゃんと計上されていて、個人ランキング戦とギルドランキング戦になっている。
つまりダンジョン攻略はイベントの進行に必要で、金貨の回収が報酬ってことね。
不正がないよう自動計算になっていて、個人ランキングはもちろん、ギルドに所属しているプレイヤーの提出枚数はギルドごとに自動計上される仕組みになっているらしい。
まだイベント二日目とあって、計上はされているけれどランキングは表示されていない。
今日の夜には初日の計算を終えて表示されるかも。
そしてその夜にはたぶん骸骨がゾンビに変わるのよね。
でも今はまだ昼真っ只中。
骸骨が、あちらこちらの骨をカタカタ鳴らしながらしゃきしゃき歩いている。
やっぱり腐肉って重いのかしら?
『筋肉は美しい』
『腐っても肉、鍛えれば蘇る』
脳筋がよくわからないことを言っている。
火力の都合上、今回は脳筋をバラしてカニやん班に柴さん、恭平さん班にムーさんを組み込んである。
同じく双子も別にしたんだけれど、ラウラが柴さんにすっかり懐いてしまってカニやん班に編入。
その時のカニやんの嫌そうな顔ったら、いま思い出しても笑える。
なにしろアンチJCだから。
二人をバラしたのにはゆりこさんが欠席という別の理由もある。
回復役がいないから被弾そのものを避けたいのよ。
同じ理由でわたしの班にはジャック君がいて、殿をクロウに任せてマコト君と二人、わたしたちの前を歩いている。
夜のゾンビに比べて骸骨は歩みが速く、おかげで探索の進行ペースも極めて速い。
走って追いかけてくるくらいにね。
明るくて視界が利く分、一つ処にじっとしているとすぐに囲まれて身動きがとれなくなってしまう。
だからサクサク歩いてね。
昼時間の探索時において、魔法使いには仕事がない。
カニやん、の~りんと、三人揃ってそれぞれの班の真ん中で火力を温存されている……といえば聞こえもいいけれど、用は役立たずなのよ。
さっさとボス戦に入りましょ、することがない!
『相変わらず我が儘全開』
我が儘じゃない、発想が自由なの!
ところでカニやん、ハルさんは無事でしょうね?
『無事。
生産職はDEX持ってるせいか、結構殴れる』
それはつまり、やっぱり魔法使いが一番役立たずってこと?
『そうなんじゃね?』
その有用なステータスを間近に見てるカニやんのほうが落ち込むわよね。
「グレイ、頼めるか」
うん、その前にまずは現状の打破ね。
殿はクロウに任せているから大丈夫だけれど、決して広くはない通路を、前から骸骨が肩をぶつけながら並んで歩いてくるの。
NPCには譲り合いとか協力っていう思考がないらしく、肩をぶつけて相手を押しのけようとしながらガチャガチャと大きな音を立てて歩いてくる。
迎え撃つこちら側もマコト君とジャック君の二人がいるけれど、並んで剣を振るうには気を遣う。
骸骨は頭蓋骨を破壊して倒すから、プレイヤー側の攻撃は剣を上から振り下ろすことになるけれど、相手からの攻撃もある。
それを凌ごうとしたら、どうしても二人の剣が当たってしまうっていうね。
クロウのように一撃で落とせればいいけれど、さすがにこの二人にそこまでのSTRもスキルもない。
あまり使われることのない剣士の詠唱スキル 【一刀両断】 も二人のレベルではまだ取得出来ず、そもそも再起動準備があってクロウですら連続使用は出来ない。
もちろんクロウなら、スキルを使わずとも骸骨程度なら一撃以上の手間は掛からないけれど、うしろからも来てるのよ。
だからクロウは後方から迫る骸骨の相手をしなければならず、前方まで手が回らない。
そんなこちらの事情を骸骨が考慮してくれるはずがなくて……うん、まぁ当たり前か。
で、少しばかりわたしの出番になる。
魔法を使って骸骨の足を止め、二人がかりで一体ずつ落とす。
ジャック君には悪いけれど、タイミングと先攻はマコト君。
「わかってます。
俺、まだ全然追いつけてませんから」
無事に骸骨を落とせてホッと一息吐いたところで、ジャック君がつぶやく。
それを見てマコト君が少し優しく笑ってくれる。
昨日は何度か厳しく怒られてへこんじゃったかと思ったけれど、心配は杞憂だったみたい。
ちゃんと昨日の話を理解してくれてる。
これはジャック君も期待出来るんじゃない?
「俺もそう思いますが、もう少し、手伝ってもらえますか?」
あら、わたし?
二人の連携で無事に落とせたけれど、まだまだ道は開かず。
今度は三体? いや、四体ぐらいいると思う。
どこでどうしてそうなったのか、器用に骨を絡めあった団体様が押し合いへし合いしながら道を塞いできたの。
複雑怪奇に絡み合った骨はもう解くことが出来ないほどで、一度バラして組み立て直したほうがいいんじゃないかって思うほど。
しかも骸骨たちには解こうっていう意志がなくて、不自由な状態にもかかわらず頑張って剣を振り上げて襲ってくる。
そこでわたしの出番なんだけれど、これはちょっと難しくない?
「頑張ります」
「やります」
二人とも頼もしいこと。
ここはわたしも加勢しようかと思って足下に落ちていた骨を拾おうとしたら、その骨をクロウが踏みつける。
「大人しく援護していろ」
も、モヤシはモヤシらしくしていろと言われた。
ダンジョン攻略を始めて忙しくなってちょっとは機嫌も直ったかと思ったけれど、全然直っていないみたい。
どうしたら機嫌を直してくれるのかちょっと考えたんだけれど、それ以上に悩ましい問題が立ち塞がってくる。
そう! また辿り着いた 【幻獣】 が骸骨機関長だったの。
これはもう、絶対に串カツさんに呪いを感染させられてる!
逆に 【特許庁】 の呪いが解けていたらわたしが呪ってやるわ。
とりあえずボス戦まで仕事のなかったわたしは、ここまでの鬱憤を一気に晴らしてダンジョンをクリア。
【特許庁】 に問い合わせるべく、転送された浜でメッセージを打とうとしてウィンドウを開いた瞬間、いきなり警告音が鳴った。
何事かと周囲にいたメンバー全員がハッとする中、キンキーの悲鳴が上がる。
「やめろよ、ラウラ!」
ラウラはゲラゲラといつものように楽しそうな笑い声を上げているんだけれど、キンキーの声はいつになく切羽詰まっている。
いつものように兄弟でじゃれ合っているのかと思った見たら、そんな生やさしい状況じゃなくてわたしは気絶しそうになった。
だってラウラが、キンキーの海パンを半分……たぶん半分くらいだと思うんだけれど、下ろしてるの。
さっきのあれを見て悪戯を思いついたんだろうけれど、それはちょっと駄目!
ラウラは 【素敵なお茶会】 のメンバーで、わたしはその 【素敵なお茶会】 の主催者。
責任者として注意しなければいけない場面なんだけれど、思いもよらない状況にすっかり驚いてしまって、両手で顔を覆ってその場にへたり込んでしまった。
さすがに悲鳴を上げたらキンキーが気の毒なので、それだけは頑張って堪えた。
堪えたけれどこれが限界。
キンキーに抵抗されながらも、笑いながら悪戯を続けようとするラウラを止めにいけない。
だからまた一つ警告音が鳴り、キンキーのそばにウィンドウが出る。
たぶんあれは警告表示。
わたしも初めて見るからなにが表示されているかは知らない。
海パンを脱がされそうになっているキンキーを見るのは恥ずかしいけれど、そのそばに表示される警告表示に冷汗が出る。
だって警告音と共にあれが表示されるってことは、運営倫理に触れてるってことよね。
このままだとどうなるんだっけ?
「警告に従わなければ処分される」
すぐそばに立つクロウの声が怒ってる。
気のせいじゃなくて、100%怒ってる。
冷汗どころか、ふ、震えてきた。
「柴! ムー! やめさせろ!!」
「柴やん、ムーさん!」
初めて聞くクロウ本気の怒声が、重なるカニやんの声をほとんど打ち消してしまう。
わたしたちよりラウラたちの近くにいた柴さんとムーさんが、状況を理解して慌てて止めに入る。
けれどまだ悪ふざけを続けようとするラウラに、拳を握りしめたクロウが浜を大股に近づく。
なにをするつもりかなんて考えるまでもないじゃない。
慌てて立ち上がってクロウを追いかけたんだけれど、運動不足のOLは足腰も弱くて、柔らかい砂の上は走れない。
転びそうになりつつギリギリで追いつくと、クロウの腕にしがみつく。
しかも情けないことに、すっかり腰が抜けてしまって腕にぶら下がるのが精一杯。
それでもビクともしないのがクロウの鉄筋なSTRよね。
うん、さすが
「グレイ?」
「待ってクロウ」
「グレイ、放せ」
「ダメ、それはダメ。
お願い、子ども相手にそれはやめて」
いつものように拳骨制裁ならともかく、今、本気で殴り飛ばそうとしてるわよね。
顔を狙ってるのか、体を狙っているのかは知らないけれど相手は子どもなの、やめて。
ちゃんと叱るし、ルールも説明するから。
とりあえずキンキー、警告に応えて。
装備を直して警告に返事をして頂戴。
「は、はい」
柴さんとムーさんがラウラをキンキーから引き離してくれ、キンキーは慌てて水着を直す。
そして表示される二枚のウィンドウそれぞれに対応しようとしたけれど、なにをどうすればいいかわからず戸惑う。
慌ててわたしとクロウを追ってきたカニやんがキンキーのうしろからウィンドウをのぞき込み、指示を出してくれる。
どうやら間に合ったらしくウィンドウは無事、全て消えた。
このゲームには幾つも現実に近い感覚で遊べるように仕様が盛り込まれていて、装備の着脱もその一つ。
換装はプレイヤーの任意。
データだから一瞬で出来るけれど、例えばマントを脱ぐとか、脱いだマントを手に持つとか、そういうことも出来る仕様になっている。
同じ意味で、ほとんどの剣は腰に帯びる仕様だけれど、プレイヤーの任意で手に持つことも出来る。
そのほうがアバターに個性を出せるしね。
でもここで設けられている運営倫理が 「全裸は不可」。
ここはゲームの世界だけれど、やってはいけない明確なルールがあるの。
だから 【特許庁】 のメンバーが、あそこまでの露出をしていながらも一人として全裸がいないの。
いま気がついたけれど、ひょっとして 【特許庁】 のメンバーは、運営倫理に触れる触れないのギリギリに挑戦してるのかしら?
運営にしてみれば迷惑な話だけれど……この倫理は開発著しいVRゲームのあいだでは基本ルールとなりつつある。
ラウラはそれを冒したけれど、ちゃんと説明をせずにいきなり殴り飛ばすのは乱暴すぎる。
たぶん知らなかったんだと思う。
もちろん知らないから許されるわけではなく、処理が間に合わなければキンキーはアカウント停止以上の処分を受ける羽目になっていた。
でも殴り飛ばすのはなし
そりゃプレイヤー同士のバトルロワイヤルなら歳下相手でも容赦しない。
斬られる、溶かされる、撃たれるは覚悟の上での参加だもの。
攻撃手段としてある以上、殴る、吹っ飛ばすも当然あり。
それらを受ける覚悟が出来ないなら、そもそも参加資格はない。
でも今はそういう状況じゃないの。
もちろんいつものクロウならこんな短気に走ることはないからわたしもビックリしちゃって、今も体の震えが止まらない。
小林さんと会ってから苛ついていることはわかっていたけれど、なにをそんなに苛ついているのかわからない。
とりあえずわたしがクロウを止めたから、代わりに、カニやんに説教を食らいながら柴さんとムーさんに拳骨を落とされるラウラ。
それを見ながらわたしは気絶することにした。
ちょっと限界……
暴走著しく……そもそもの原因はルゥですが、まだやらかします。
学習しないAIなので(涙