166 ギルドマスターはお手伝いします
pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!
せっかくの休みの日、朝っぱらから遭遇したのはギルド 【暴虐の徒】 を主催するライカさん。
この人には他の人の話を聞かないという凄く迷惑な特技があって、今回もずっと抗議し続けているわたしの話なんて完無視。
たぶん本人に無視をしているなんて意識はなくて、自分以外の人が話していることにすらに気付いていないんだと思う。
ほんと、どんな耳をしているのか、どんな神経をしているのか。
一度 【暴虐の徒】 の他のメンバーに話を聞いてみたい……とか思っていたら、それがすぐに実現することになった。
ライカさんのお願いっていうのが、今回のイベントのメインであるダンジョン 【treasure ship】 の攻略を一緒にして欲しいっていうね。
このお願いを聞けば理由は自ずとわかるというもの。
だって 【暴虐の徒】 は剣士だけで構成されたギルドで、魔法使いが一人もいないんだもの。
わたしが知る限り 【treasure ship1】 の 【幻獣】 骸骨甲板長は物理攻撃無効の魔法攻撃対象。
ただの一人も魔法使いがいない 【暴虐の徒】 には絶対クリア出来ない。
そりゃ困るわね
もちろん協力するのはかまわないんだけれど、必ずしも 【treasure ship1】 が出るわけじゃないし、だからといって出るまで付き合うことも出来ない。
わたしだって 【素敵なお茶会】 で潜りたいもの。
しかも 【treasure ship1】 は攻略済みだからどうでもいいわけだし。
「もちろん、とりあえず今一回だけお願い出来ますか?
【暴虐の徒】 も全然メンバー揃ってませんし、一応掲示板で魔法使いの募集はかけてるんですが、さすがにこんな時間からは捕まらなくて」
……つまり、わたしが暇そうに見えたのね。
いいわよ、一回だけなら付き合うわ。
但し情報を頂戴。
全ダンジョンの数とか、他のダンジョンのボスとか。
「【暴虐の徒】 がクリアしたのは、【treasure ship5】 の航海士です」
あ、それ初めて聞く!
教えて、教えて!
「場所は甲板です。
あそこに見張り台があるでしょ?
出現場所はそこ。
物理攻撃で倒せます。
魔法はちょっとわかりませんけど……」
うん、そうね。
魔法使いが一人もいないんじゃお試しの一発も撃てないもの。
でもそこは別にかまわない。
魔法攻撃が効くかどうかより、物理攻撃で確実に倒せることがわかればOK。
しかも 【treasure ship3】 が歯抜けの状態だけれど、でもこれで、少なくともダンジョンが五つはあることがわかったし。
お礼として、わたしとクロウの他にカニやんも付けるわ。
丁度ログインしてきたから。
「俺もかよ……」
期間限定エリア 【海】 で合流した海パン姿のカニやんは、大きなあくびを一つ。
同じくそこに集まっていた 【暴虐の徒】 のメンバーとも合流する。
ちょっとビックリしたのは、剣士で構成されたギルドだってことはずいぶん前から聞いて知っていたけれど、二人ほど女性剣士がいたってこと。
勝手に男性プレイヤーばかりだと思ってたわ。
しかもわたしが知る女性剣士といえばローズとかちゅるんさん。
二人共布面積の極めて狭いビキニアーマーとか……ちゅるんさんのあれはなんていうのかしら?
たぶん鎧系の装備だとは思うんだけれど、特徴ばかりが凄すぎて呼び名がわからない。
まぁそんな具合だったから、普通の鎧装備っていうのにも驚かされた。
ライカさんほど重装じゃなくて、しかも鎧の下に可愛いブラウスとか着ているの。
衿のリボンとかクラシックなイメージで可愛い……なんて思いながらわたしは彼女たちを見ていたんだけれど、彼女たちが見ているのはもちろんクロウ。
………………
「グレイさん、なに考えてるか丸わかり」
いいわよ、別に。
どうせあの子たちはわたしなんて見てないんだから、わたしがどんな顔してたって関係ないわよ。
「妬くくらいなら……やっぱいい」
なにかを言い掛けて急にやめたカニやん。
話の途中で後ろにいるクロウをチラリと見たような気がしてわたしもクロウを振り返るんだけれど、うん、いつもどおりの顔ね。
格好いいけれど、表情は乏しいです。
ダンジョンをスタートする前にわたしたち三人の参加をライカさんが紹介してくれたんだけれど、【暴虐の徒】 のメンバーが声を揃えるの。
「女王陛下にはご機嫌麗しく」
……なに、これ?
休日とはいえプレイヤーの活動人数が増える時間にはまだ少し早いけれど、十人はいる。
その全員が揃ってこんな挨拶をしてくるの。
やめて
「【暴虐の徒】 はグレイさんの支持ギルドだから。
知らなかった?」
知りませんでした……っていうか、それはなに?
「え? 言葉どおりだけど?」
んー……よくわからないんだけれど、みんながログインしてくる前に攻略しちゃいましょ。
なにが出るか楽しみね……ってダンジョンに潜るため沈没船のところまで移動するんだけれど、この段階になってあることに気づいた。
他のギルドに協力するってことは、わたしが泳げないってことをその人たちにまで知られるってことに……
「泳げないんですか?」
クロウの背にしがみついて海中を進むわたしに、ライカさんが、わざわざ近づいてきて尋ねるから誤解のないように言っておく。
泳げないわけじゃないの、前に進まないだけ。
水だって怖くないし。
でもわたしが自力で現場到着するのを待っていたら、その日が終わっちゃうからこれが最善策なの。
「そういうことにしといてくれない?」
ちょっとカニやん、そのフォローはなによ?
しかもライカさんったら納得したように笑顔で 「わかりました」 って……何がわかったのよ、なにがっ!
始まったダンジョン 【treasure ship】 で、最初にわたしたちが気にしたのは骸骨が来るか、ゾンビが来るかってこと。
でも嫌な予感ほど当たるもので、昼時間は骸骨、夜時間はゾンビっていうわたしと恭平さんの予感が的中。
一晩ぐっすり休んだ骸骨たちは朝から元気で、気前よく剣を振り回し、狭い船内でわたしたちを追いかけ回してくれる。
閉じ込められたのは 【暴虐の徒】 のメンバー二人なんだけれど、これ、あれね。
不破さんが 【素敵なお茶会】 と一緒に潜った時の逆。
ギルドチャットが通じないから、ライカさんたちがなにを話しているのかわからなくてもどかしい。
でもたまたま行動を共にしていた 【暴虐の徒】 のメンバーが面白いことを教えてくれた。
閉じ込められている一人が機関室らしき場所にいるっていうの。
ん? これって……
【特許庁】 を呪って……じゃなくて、愛してやまない 【treasure ship4】 の機関長。
わぁ~い、わたしたち初めてなの!
あれは巨大なスパナ?
それともレンチだっけ?
あとでムーさんが教えてくれたところでは同じ物らしいんだけれど、大剣並みの大きさを誇るレンチを頭上に構えてわたしたちの前に現われたのは、この 【treasure ship4】 の 【幻獣】 骸骨機関長。
船の下層にあると設定されるこの機関室には窓がなく、でもどこかで火を焚いているのか、赤っぽい照明がまだらに室内を照らす。
これは夜ヴァージョンでも同じような感じになるのかな?
色んな大型機械が動いていてゴンゴンとうるさい中、皮がないくせに真っ白なあごひげを蓄えた巨大な骨格標本が、まるで武闘家よろしく、重そうな巨大レンチを両手でブンブン振り回している。
白いあごひげから老人を想像したんだけれど、ずいぶんとハッスルしてるわね。
実は見掛けによらず若いのかしら?
「そこ、問題じゃないから」
すかさずカニやんに突っ込まれた。
でも、ちょっとおかしいのよね。
不破さんに聞いた 【treasure ship4】 では、誰も機関室に閉じ込められなかったし、鍵も機関室にはなかった。
ひょっとしてそのへんに不具合があるんじゃない?
【特許庁】 がかけられた機関長の呪いも不具合のせいかも。
だとしたら運営に問い合わせを出したのは正解で、数日のうちに解消されるはず。
もちろん不具合だとしたら、の話だけれど。
個人的にはノーキーさんが機関長に呪われてると思ってるから。
不破さんに聞いた話では、打たれ強い骸骨機関長は物理強耐性……ということは魔法使いの出番ね。
よかったわ、ちゃんと見せ所があって。
もちろん機関長もただ突っ立っているわけじゃなく、スパナで打撃を繰り出してくる。
ドライバーやナット、それにネジや釘まで投げ放題。
しかも一個ずつじゃなく、まとめて何十個と投げてくるから捌くのも大変。
もちろんそれをするのはライカさんを筆頭とする 【暴虐の徒】 の剣士たち。
わたしやカニやんじゃ、捌くどころか、失敗を繰り返して数個食らったところで落ちるのが関の山。
でも相手は 【幻獣】 だもの。
その高すぎるSTRを真正面から相手にすれば、剣士でも吹っ飛ばされる。
正面から受けすぎ!
もっと上手くかわせない?
さすがに第二回イベントでランキング上位に入ったライカさん。
それにもう一人、上手い剣士がいる。
あとで柴さんたちにきいたら、その人はポールという、やっぱり第二回イベントで上位入賞をしていた剣士。
この二人はさすがに上手いんだけれど、他のメンバーは機関長の攻撃を正面から受けすぎて消耗が激しい。
これ、結構無駄な消耗戦してるわよ。
でもせっかくお手伝いに来ているんだもの、全員クリアさせてあげたい。
わたし自身はあとで 【素敵なお茶会】 のみんなと挑戦するからいいとして、もちろん 【暴虐の徒】 も今回参加していないメンバーがいるからこのあとも何回か挑戦するでしょうけれど、それはそれで参加者全員で協力し合ってクリアしてもらうってことで、攻撃ペースを上げるわ。
一人も中途離脱、あるいは落ちる前に機関長を落とす。
だから自身の防御が疎かになっちゃうのでクロウ、よろしく。
「相変わらず旦那遣いの荒い嫁だな」
余計なお世話です!
ん? ちょっと待ってよカニやん、誰が誰の嫁で、誰が誰の旦那よ?
「グレイ、仕事が先だ」
うん、わかってる。
珍しいところでクロウに割り込まれてちょっと調子が狂っちゃったんだけれど、しかも機関長も料理長と同じく熱さに強い。
こんな熱の籠もる部屋でずっと仕事をしているなら当然よね。
では最大火力で撃ちたい放題……じゃなくて……もう、クロウの馬鹿。
調子が……
「水系撃つとか、普通に寝ぼけてるのかと思った」
間違えてウォータースライサーを撃ったことをカニやんがいじってくる。
いいじゃない、ちゃんと機関長は落とせたんだから。
無事にダンジョンをクリアしたわたしたちは、ライカさんたちと転送された浜でお別れ。
掲示板でかけていた募集に、二人ほど魔法使いが応募してきたらしい。
今度はその人たちと潜るっていうから、お待たせしちゃ悪いのでわたしたちはさっさと退散。
すでに浜で待っていた何人かの 【素敵なお茶会】 のメンバーと合流し、潜ろうかと話していたら新たにぽぽがログインしてきた。
ナゴヤドームからならそれほど移動に時間は掛からないから待ちましょうってことになって、少しばかり浜で時間を持て余していたらあることを思い出した。
機関長の髭で思い出したのよ、すっかり忘れていたことを。
日傘を両手に持って差していたわたしは、すぐ横に立つクロウの足をじっと見る。
うん、やっぱりない。
次にクロウと立ち話をしているカニやんの足をじっと見る。
うん、やっぱりない。
「すね毛はないのね」
結論が口からこぼれちゃったのはご愛敬。
そう、以前にきいた 「男性プレイヤーのアバターにすね毛はあるの?」 っていうあの疑問ね。
通常装備だと誰も足を見せてくれないから確かめられなかったんだけれど、今ならパンツ一枚だし……ゲフゲフゲフゲフゲフゲフ……わたしってばなに言ってるのよ、もう!
しかも最後まで言ってからじゃ誤魔化しようもないじゃない、恥ずかしい。
「恥ずかしいもなにもあるか!
あんた、まだそれ言ってたのかっ?」
だって疑問だったんだもの、仕方ないじゃない。
「だからクロウさんに見せてもらえっていっただろうが!」
ええ、いま見せてもらったわよ、勝手に。
ついでにカニやんの足もね。
男の人の足って、筋肉の付き方が綺麗で羨ましい。
『野郎の足見てなにが楽しいんだ』
『どうせ見るなら女王の足。
そのパレオ取らない?』
どこから聞いていたのか、柴さんとムーさんのドスケベ脳筋コンビ。
波打ち際で双子と遊んでると思ったのに、しっかり耳だけはこっちを向いてたみたい。
絶対に取りません!
わたしのゴボウみたいな足なんて見てどうするのよっ?
「えー、せっかく綺麗な足なんだし、見せればいいじゃない」
健康美を絵に描いたようなベリンダ。
それだけ綺麗な足なら見せ甲斐もあるでしょうけれど、ゴボウは見せてもしょうがない。
それこそクロエの毒舌の餌食になるから嫌。
とりあえず、すね毛が無事に解決してすっきりしたわ。
「あのな……」
なにかを言い掛けたカニやんが、いきなりわたしの腕をとって上に引っ張るの。
そして言うの。
「あんたも脇、ツルツルだろうが!」
ちょ……ど…………どこ見てるのっ?!
これですね毛は解決です。
ついでに脇○も解決しました(涙