162 ギルドマスターは暗闇に声を聞きます
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「そういえば 【特許庁】 の変態が言うには、あの骸骨、もう火葬されたあとだから火に強いんじゃないか? だそうですよ」
ダンジョンをクリア後の浜で、不破さんがそんな話をし出した。
もちろん 「変態」 っていうのはノーキーさんのことよね。
そういうことをいいそうな人ではあるんだけれど、ちょっと甘いと思う。
だって船と命運を共にしたのなら……それこそ海の藻屑と化したのなら、水葬よね。
火葬じゃないわ。
でも骨しかないからもう燃やせないっていうのはちょっと当たってるかな。
【幻獣】 は別だけど。
「なるほど、骨しかないから燃やせないが正解ですか。
確かに仰るとおりですね。
戻ったら早速あのクズに教えてあげましょう」
あら? てっきりいつものように、まずは蝶々夫人に報告するのかと思ったら違うのね。
「蝶々夫人はこんな馬鹿話、聞く耳持たずですよ」
そうかもしれない。
結構現実的だもんね、蝶々夫人って。
それにしても今回のイベント、わかんない……。
「そうですね。
イベント期間も長いですし、あいだに他にもイベントが入りますし」
ん? まだ他にもイベントがあるの?
でも訊こうと思ったら、インカムからなにか話しかけられたみたい。
もちろん不破さんがね。
時間切れかな?
まぁ仕方がない。
また何かわかったら教えてね! ってお願いして不破さんとはお別れしたんだけれど、一つ、すっかり忘れていたことを教えてくれた。
「そうそう、うっかり言い忘れていましたがミスコン、優勝おめでとうございます。
なにかお祝いをしましょうか?」
ミスコンって朝からやってたあのイベントのことよね?
……うん? 優勝オメデトウゴザイマス? ……って、誰が優勝したの?
そういえば 【特許庁】 のちゅるんさんが三位だったのよね。
「あれはあれでビックリしました。
もちろん優勝したのはグレイさんですよ」
…………そうなの?
だってわたし、途中で抜けたわよね?
最後まで参加してなかったのに優勝出来るものなの?
「投票シートにちゃんと名前がありましたから。
俺も投票させていただきました」
【特許庁】 からも三人エントリーしていたのに、よそのギルドの人に投票しちゃうとか。
しかもそれを堂々と言っちゃうとか、大丈夫なの?
「ご心配なく。
主催者が先頭を切ってグレイさんに投票していますから」
そしてそれを明言している、と……そりゃ代表者が投票してるんだもの、みんな自由に投票するわよね。
そもそも 【特許庁】 にそんな 「自主規制」 なんて効くわけないか。
個性と自由がモットーだもの。
それで優勝したのがわたし……ん? わたしなの……?
ちょっと目を白黒させて驚いていたら、わたしたちの会話に気づいたカニやんがしまったとばかりにぼやく。
「喋っちゃダメじゃん、不破さん」
それ、どういう意味よ?
「こっちの話。
不破さん、お疲れ様でした。
地下闘技場には行きませんけど、またお願いします」
「こちらこそ。
グレイさんも、今度はなにか、お祝いを用意してきます」
いらない……とはもちろん言わなかったけど、思った言葉は喉まで出かかったけれど頑張って呑み込んで不破さんを見送った。
どう足掻いても 【treasure ship4】 にしか潜れない 【特許庁】 のメンバーは今もまた潜っていて、不破さんはそれが終わってから合流する予定で、一度ナゴヤドームに戻るらしい。
わたしもそろそろご飯を食べるため一度ログアウトしようかな? ……と思っていたらインフォメーションが出る。
information クロウ からメッセージが届きました
あら? ログインしたのかしら?
わたしと同じくクロウも自動表示を切っているから、ログインしてもわからないのよね。
しかもクロウは挨拶もまともにしないし。
ウィンドウをポチって内容を確かめていたらカニやんが声をかけてくる。
「クロウさん、なんて?」
クロウも晩ご飯を食べるから、戻るのにもう少し掛かるって。
わたしも 「ご飯ログアウト」 をするとポチポチッと打ち込んでヘーンシン!
変身じゃないわよ、返信よ。
「どっちでもいい。
俺も飯食ってくるかな。
パパしゃん、来るんだっけ?」
うん、メッセージが届いてた。
「そっか。
じゃ、それまでに戻ってくるわ」
OK! じゃあ一度解散しましょう。
みんなもちゃんとご飯食べてきてね。
挨拶をして一度ログアウトしたわたしはご飯を食べ、数時間後に再びログイン。
すでに夜時間を迎えたゲーム内にはほとんどのメンバーが顔を揃えていた。
予定していたパパしゃんはもちろん、くるくるとの~りんも来たのね……ってことは、ほぼ全員が集合ね。
さすがイベント初日。
「とりあえず見ておこうと思って」
「初日は遅れてでも参加しておきたいかな」
「グレイさんのミスコン優勝は見られなかったけど」
大丈夫よ、わたしも表彰式は出てないから。
そういえばログインしてすぐにインフォメーションが出て、不破さんからメッセージが届いていた。
なにかと思ったら、あれから 【特許庁】 パーティーで二回潜ったらしいけれど、全て 【treasure ship4】 だったという報告で笑った。
つまり 【特許庁】 のメンバーは、不破さん以外、まだ 【treasure ship4】 しかクリア出来ていない。
五回潜って五回とも同じダンジョンって……誰か機関長に呪われてるんじゃないの?
例えば一回目のクリアの時に何か、機関長に悪さをしたとか。
「【特許庁】 のメンバーは何をしてもおかしくはないからな」
それこそ本当に呪われていても驚かないとカニやんは冷静。
「誰か、機関長に好かれたんじゃない?」
クロエは他人事だと思って大笑いしてるんだけれど、この先、わたしたちも笑えなくなるんだけどね。
すでに三回潜って一回被りがあるもの。
これから四回目を潜るんだけれど、夜の海はちょっと不気味。
今日は土曜日のイベント初日とあってこの期間限定エリア 【海】 も終日多くのプレイヤーで賑わっている。
この時間もまだまだ沢山いて賑やかなんだけれど、浜から見渡す海の広さと暗さは琵琶湖の比じゃなくて。
しかも潜った海の中は、昼間と違って本当に暗い。
全く見えないわけじゃないけれど、何かが出てきそうな感じがする。
クロエには 「恐がり」 って笑われたけれど、一人では潜りたくないかな。
「潜れないじゃん」
それこそなに言ってるの? ってカニやんには突っ込まれたけれど、潜れるわよ!
何度も言うけれど水が怖いわけじゃないし、全く泳げないわけでもないの。
ただ前に進まないだけ。
「それを世間ではカナヅチって言うんだよ」
それじゃあなに? カニやんはわたしが世間とズレてるっていうわけ?
「かなり」
否定してくれないのね。
ところで昼間、不破さんと一緒に潜ったこと、誰かクロウに喋った?
どこがどうとは上手く言い表せないんだけれど、クロウの様子が変。
海に入る前にそのことを訊かれて素直に答えたらムスッとされた。
まぁ沈没船のところまでは連れてきてくれたんだけれど、なぁ~んか変な感じがするの。
「うわぁ……馬鹿正直」
どっちが?
わたし? それともクロウ?
あ、でも馬鹿って付けたってことはわたしかっ!
ちょっとカニやん!!
「どっちもね」
うがーっ!!
「はいはい、怒ってないで行くよ」
というわけで期間限定イベント 【treasure ship】 。
ギルド 【素敵なお茶会】 による第四次攻略を開始します! ……ってことで転送されたんだけれど、暗い……暗いっ?
なに、この船内の暗さはっ?
沈没船だから船内に火の気がないのはわかるけれど、この暗さはなに?
全くの闇ってわけじゃないけれど、それでもギリギリ物が見えるかどうか。
ちょっと手探りじゃないと進めない感じ。
どこかに明かりになるようなものがあれば……
『こういう時の花火っすよ』
『違うと思う』
せっかくのJBの名案を即座にぶっ潰したのは恭平さん。
一緒にいるわけじゃないけれど、反応の速さはさすがというべきかしら?
で、どちらが正しかったかと言えば恭平さん。
インベントリから花火を取り出して火を付けたらしいJBは、すぐさませつなげな声を出す。
『あ~すぐ消えるっす!』
花火だからね。
儚さは桜といい勝負よ。
それよりなにか聞こえない?
呻いているような低い声みたいなものが……
『さぁ、こっちは聞こえないな』
『僕も聞こえないよ』
『僕もです』
カニやん、クロエ、くるくる、それぞれどこにいるのかはわからないけれど、聞こえないっていうからわたしの空耳ってことかしら?
ところで今回閉じ込められたのは誰?
『グレイは?』
わたし? わたしは……手探りでそのへんを探ってみたんだけれど、細く長く続いている感じだから通路だと思う。
近くに開けられそうな扉もない感じ。
とりあえずクロウ、その不機嫌な声をやめてくれない?
ログアウトしているあいだにも何回か潜るかもっていっておいたでしょ。
不破さんが一緒になったのはルゥを届けてくれたおかげで、ついでに幾つか情報も聞けたし。
ルゥから目を離したのはもちろん反省してます。
用事があるのは仕方のないことなんだから、仲間はずれにされたとか、子どもみたいに拗ねないでよ。
『そっちに行っちゃってるんだ』
『さすが喪女、発想が斜め下』
そこは斜め上って言うところじゃないの?
『グレイさんって、美人なのに惜しいというか、残念というか……』
腹黒い二人はともかく、恭平さんまで……わかってるから言わなくていい。
わたしがハズレだってことはわかってるから、言わないで。
『とりあえずクロウさんは機嫌直したほうがいいんじゃない?
子どもみたいに拗ねてると思われてるよ』
『可愛いじゃない』
カニやんはともかく、ベリンダにまでからかわれてるんだからクロウってば。
しばらくして全員が自分の状況を把握出来たんだけれど、今回は人数が多いから閉じ込められているのは三人。
その三人がよりによって年少組の三人で、今のところ鍵を見つけられたのはキンキーだけ。
暗くて手元すらよく見えないから探すのに手間取っていて、ひょっとしたらあとの二人も回収までに見つけられるかもしれない。
もちろん閉じ込められた場所にあればね。
それより…………やっぱりほら、なにか聞こえてこない?
低い声が……誰か唸ってない?
あ、もちろんメンバーの誰かが唸ってるとは思ってないわよ。
でも、だからこの声は誰のものかってことなんだけれど……。
『Gじゃないのか?
夜になってハッスルしてるんじゃないの?』
Gなら昼間でも十分ハッスルしてたわよ。
どうしてあんな明るいうちから好き勝手に動いてるのよ、あいつらは!
どう考えたって設定間違ってるでしょ。
あとで小林さんに抗議するわ。
とりあえずこの声がなんなのか…………あら? 誰かいる?
『近くに?』
『動くな、グレイ』
……他のメンバーはわたしの声をインカムから聞いている。
わたしもみんなの声をインカムから聞いている。
つまり近くには誰もいない。
じゃあこの、ゆっくり近づいてくる足音は誰?
しかもさっきから聞こえていた低い呻き声、これも近づいてきてる。
つまり……そういうことよね?
「起動……」
夏はやっぱりホラーですw