160 ギルドマスターは口説かれます
pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!
やっぱり遅刻です、申し訳ありません(汗
はぁ~い、ルゥは泳ぐのがお上手ねぇ~。
浅瀬でルゥの前足を持って引っ張ってあげると、大きな頭を上げたルゥは後ろ足で水を掻いて泳ぐ。
ピンと立った短い尻尾がピコピコ動いて、ちょっと舵みたい。
ステータス画面の備考欄には、ルゥは泳げないって書いてあったけれどこうやって遊ぶのは大丈夫みたい。
けれどわたしが手を離すとルゥは水に沈んでしまい、ブクブク沈むしか出来ないわたしと違い、水の中でフンフンフンフンしながら歩き回るっていうね。
ん? この違いは何?
やっぱりSTRかしら?
「泳ぐ意志が皆無のワンコだな」
だって泳げないって小林さんもいっているし。
「そんなところまで飼い主とお揃いか」
わたしが創ったんじゃないわよ。
でも浅瀬くらいなら遊べるんだから。
「案外小林もカナヅチかもな」
それは否定しない。
小林さんの名誉なんてどうでもいいし。
わたしはルゥが可愛ければいいもの。
「結局中途離脱は死亡回数に入るわけ?」
二度目のダンジョン攻略を終えて休憩中のわたしは、ルゥを浅瀬で遊ばせながら作戦会議……というか現状の総括かしら?
この二回でわかったことをまとめてみようってことでカニやんと話してるんだけれど、現実の都合でクロウは一回ログアウト。
そのクロウに預けたままになっていた日傘をカニやんが預けられ、なぜか広げて差し掛けてくれている。
実際に日焼けするわけじゃないからいいのに……これ、端から見たら変な絵面だし。
なんらかの誤解を生みそうな気がするんだけれど?
「大丈夫じゃね?
女王陛下は特別だし」
『そうそう。
それこそそこら辺にいる見知らぬプレイヤーに、にっこり笑って持ちなさいって言えば誰でも持つって』
会話は聞いていたらしい柴さんは、少し離れたところで甲羅干し中。
さすがに三〇過ぎのおっさんには、初見ダンジョンの二連チャンは厳しかったみたい。
ムーさんと二人、浜辺に寝っ転がって筋肉休め。
……ん? なによ、そのキャラクター?
見知らぬプレイヤーに話しかけるのは大丈夫だけれど……ほら、ギルドメンバーの勧誘をしていたからね。
営業活動なら平気だけれど、どうして日傘を知らない人に持たせるのかが意味不明。
今、カニやんが持っているのもわたしにはわからないんだから。
「え? クロウさんに頼まれたから」
そうなのよね。
そもそもどうしてクロウはカニやんに日傘を預けていったんだろう?
普通にわたしに返してくれたらいいじゃない。
『で、どうなの?』
船の中では暇を持て余して少し機嫌の悪かったクロエだけれど、なんだかんだいって今はみんなと泳いで遊んでいる。
それはそれは楽しそうにね。
でも耳はこっちを向いていたみたい。
少し焦れたように答えを催促してくる。
マコト君の話によれば、たぶん計上されてない。
前にも同じような話をしたと思うけれど、一回、二回の違いなんて覚えてないもの。
それこそ急に十回とか増えていればさすがにおかしいって思うけれど、一回とか二回じゃね。
たぶん戦闘でHP0になれば死亡回数になるんだろうけれど……あ、でもあれか!
すっかり忘れていたけれど、浜に落ちているこの頭蓋骨骨。
骨が一つ多いのはご愛敬ってことにしてもらって、もしこれが不具合でここに転送されているとしたら、マコト君が中途離脱の扱いで……いやいやいや、逆だっけ?
中途離脱の扱いになるプレイヤーと一緒に頭蓋骨がここに転送されている、その可能性のほうが高いんだっけ。
でもその不具合が修正された場合、頭蓋骨を海に放り込んで骸骨を倒す方法が使えなくなるかも。
そうなるとますます魔法使いの仕事が少なくなる。
「ボスによって耐性や弱点が変わるっていうのも面倒だな」
『種類があるってことはそういうことだと思うけど?
でなけりゃわざわざ用意する必要もないでしょ』
「仰るとおりで」
そうねぇ。
問題は何種類いるかってことかしら? ……なんてわたしはルゥと遊びながら呑気に考えていたんだけれど、また運営にやられたっていうね。
まぁそれはもう少しあとの話なんだけれど……あら? わたし、いつの間にかルゥの手を離しちゃってたわ。
運営より先に自分がやったったみたい。
ルゥってば泳げないのにどこ行っちゃったのよ?
浅瀬といってもルゥには足が着かない深さだから、フンフン歩いているとどこにいるのか……と考えながら見回してみれば、ピンと立てた短い尻尾の先がウロウロしてる。
「あ、グレイさんっ?」
わたしが急に走り出したからカニやんが焦ってる。
大丈夫よ、ルゥを捕まえるだけ……ゴフ……。
「だけって言いながらずっこけるところがグレイさんだな」
『なにやってるの?』
ご迷惑をおかけします。
カニやんに手を貸してもらって立ち上がってみれば、すっかりルゥを見失ってるし。
うっそ、これ以上行ったら深くなるわよ。
ルゥってば自分が泳げないって絶対にわかってないし、それこそ足が着かないくらい深いところに行っても平然と海底をフンフンしながら歩いていそうで……って思っていたら、本当にそうしていたらしい。
「これ、グレイさんのですよね?」
唐突に現われていつもの妖しい笑みを浮かべる不破さんは、髪から水を滴らせてホスト感倍増。
なぜかその手にはルゥを抱えていた。
話を聞けば、かなり深い海底を安定のフンフン感で探索していたらしい。
ダンジョン 【treasure ship】 の攻略で集まっていた 【特許庁】 のメンバーが見つけて取り囲んだら、ものの見事にみんなバックリやられちゃったとか……ごめんなさい。
特に噛まれながらもちょっかいを出し続けたノーキーさんは頭をバックリやられたらしい。
水に入ればあの髪型も崩れてるだろうし、ノーキーさんは別にいいわよね。
で、ルゥがいるってことはたぶんわたしがエリア内にいるだろうと予測した蝶々夫人に言われ、不破さんが連れてきてくれたらしい。
もちろんバックリ食べられてるけどね……本当にごめんなさい!
それにここに来たってことは、不破さんだけダンジョン攻略に参加出来なかったってことじゃないの?
あのメンバーが、特にノーキーさんが待っていてくれるなんてことないでしょ?
「それは別にいいんですよ。
クロウさんいないみたいだし、口説いちゃおうかな」
この人はなにを言ってるのかしら?
ちょっと脳がショートしそうになったからルゥで癒しておこうと思って、とりあえず機嫌の悪いルゥを先に受け取る。
もう、勝手にどこかに行っちゃうのはやめてよね。
めっ! と叱ったあと、きゅっと抱きしめる。
そうしたらなぜか不破さんがちょっと残念そうな顔をするの。
なに?
「その水着、よくお似合いですよ。
でも先にそれを返しちゃったら隠れてしまいますね」
……えっと……隠すためにルゥを使ってるんだけど?
「日傘は差さないんですか?
清楚なお嬢様って感じがしてよかったのに」
ああ、それならカニやんが……
「ここにあるけど何か?」
ちょっとカニやん、今までどこにいたのよ?
しかも絶妙なタイミングで出てきたと思ったら、少し離れたところで様子を見てたとか。
なんでそんなことする必要があるのよ?
ちょっと聞いてる? ……うん、全然聞いてないわね。
「不破さぁ~ん、あんたなにしに来たの?
よその主催者口説くとか、なに考えてんの?」
「やぁカニやん、地下闘技場で対戦しない?」
あら? 不破さんって確か、強い人としか対戦しないんじゃなかったっけ?
「十分強いですよ、カニやんも。
魔法使いがノギさんと引き分けるなんて、どれだけ強いか自分で確かめたいじゃないですか」
綺麗な顔をした男の人が、物騒なことを穏やかに話す。
なんとも形容しがたい違和感の人。
元々ホスト感満載っていう以外、得体の知れない人ではあったけれどさ。
「クロウさんがいないのは残念ですが、遊んでおられるのなら一緒に船に乗りませんか?」
それってつまり 【treasure ship】 攻略のお誘いよね。
でも 【特許庁】 のメンバーはすでに潜ってしまっているから、うちのメンバーと一緒でいいのかしら?
「もちろん。
グレイさんと二人きりでもいいですが」
むしろそのほうがいいとか……わたしには不破さんの頭の構造が理解出来ない。
でも 【特許庁】 パーティーもすでに二、三回クリアしていそうだし、ここは情報交換を兼ねながら一緒に潜るのもいいかな?
そう思ってカニやんをみたらカニやんもこちらを見ていて、小さく頷く。
OKってことね。
早速みんなに声をかけたんだけれど、残念ながらゆりこさんが晩ご飯の支度のためじきにログアウト。
ゆりこさんが来られないならキンキーとラウラはちょっと危ないかな?
ジャック君はどうする? って訊いたら、最初は行くっていっていたんだけれど、不破さんを知らないのよね。
もちろん見たことぐらいはあると思うんだけれど、わたしたちの予想に反した人見知りが発動して急遽不参加に。
ジャック君はそういう性格じゃないと思っていたから、意外すぎ。
露骨に驚いたら悪いと思って隠したつもりだったんだけれど、バレていたかもしれない。
夜にはパパしゃんがログインするって連絡が来たから、時間があればまた潜りましょうねってことで不参加者とは海で別れ、いざ深海へ! ……となったまではいいけれど、ここで大問題が発生。
ねぇねぇ参加者の皆さんに質問でーす。
「なに?」
「なんでしょう?」
近くにいたカニやんと不破さんが応えてくれる。
もちろん声を出したのが二人ってだけで、他のメンバーもこっちを見る。
思った以上の視線を集めてちょっと恥ずかしいのですが、しかも改めていうのも恥ずかしいのですが、さらには不破さんというよそのギルドのメンバーがいるところで言うのはもっと恥ずかしいのですが、言わないとわたし自身が困るので頑張っていいます。
わたしは泳げません。
そしてクロウはいません。
そうすると、わたしはどうやって船まで行けばいいのかしら?
「あ……」
「そっか」
「うわぁ」
まぁ反応は色々だったんだけれど、とりあえずやに下がった顔をしている脳筋二人は却下します。
「悪いけど俺、泳ぎは得意じゃない」
まぁカニやんのモヤシなSTRじゃ難しいかも。
恭平さんかJBにお願いしようかと思ったら、二人してわたしから目を逸らせる露骨な回避行動。
ちょっとーっ!!
「モヤシって……ああ、ローズが言ってたあれ。
あいつ、自分の絶壁を棚に上げてグレイさんに失礼なことを……。
じゃあクロウさんの代わりに俺が連れて行ってあげましょうか?」
海パンこそ普通の海パンを穿いている不破さんだけれど、ちょっとわたしの日本語が怪しいけれどそこは見逃してもらうことにして、水の滴る前髪を掻き上げながら流し目って……それ、わざとよね?
ちょっと不破さん!!
このまま不破さんとくっつくのもありですかね?