16 ギルドマスターは心配性です
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ココちゃんのフチョウ攻略クエストを無事クリアしたわたしたちは、屋上突入前から待たせているセブン君に会うべくナゴヤドームに向かっていたんだけど……
「クロエも一緒に来てって、なんだろうね?」
「やっぱり僕、行かなきゃならない?」
「あんた、さっき行くって返事しちゃったでしょう!」
最初に連絡をもらった時はなにも言っていなかったんだけど、それこそ用があるとしか聞いてなかったんだけど、なぜかセブン君からクロエも一緒に来て欲しいって要望があった。
しかもクロエってば即座にOKしたくせに、本当に気まぐれなんだから。
とにかく急いで戻っていたんだけど、もうすぐナゴヤドームってところでギルドチャットからカニやんが呼びかけてきた。
『グレイさん、フチョウ終わったー?』
「圧勝よ」
『じゃ、ココちゃんフチョウクリアだ。
おめー』
『おお、おめー』
こっちのパーティーを辞退したの~りんも一緒みたい。
だからココちゃんが、フチョウクエストに挑戦したことをカニやんが知ってたわけだ。
どこかのダンジョンに潜っているようなんだけど、しかももう一人いるみたいで叫び声が聞こえてくる。
でも二人とも全然気にしてないみたいなんだけど……
『グレイさんたち、これからどうするの?』
「セブン君に呼ばれてるからドームに戻る。
クロエも連れて行くから誘わないでね」
『あ、バレたか』
『ココちゃんとトール君はどうする?』
『こっち三人だから来る?』
三人? やっぱりもう一人いるわね、叫んでるのが……あ、わかった。
これは絶対にあいつよ。
『マメがいるから助っ人に回復が欲しい』
『うん、欲しい』
ほら、やっぱりマメだ。
今日も盛大に叫んでるわー。
ココちゃんは笑いながら二人の誘いを受けたんだけど、トール君はセブン君に会ってみたいらしくてわたしたちと一緒に来るっていうんだけど、まぁそれは別にいい。
いいんだけど……
『あ、トール君来ないの?』
『じゃ、誰かココちゃんの迎えに行ったほうがいいね』
『ん? あれ? おい、マメー?
カニやん、マメは?』
『え? マメ、いないの?』
『いない!
さっき食われてたの助けたばっかなんだけど……なんでいないんだよ?』
マメだからよ。
まだまだ甘いわね、二人とも。
目を離したのが運の尽き……っていうかマメの尽き?
あいつはいつでもバックリやられるんだから、ちゃんと見てなさいよ。
あの二人も一緒ならココちゃんにはいいレベル上げになるんだけど、でもトール君が行かないとなると……
『あーマメ!
お前、また食われてんのかー!』
『マジかよっ?
の~りん、頼む!』
マメだからね。
二人とも息を切らせて、マメを探して走り回ったみたい。
わたしは笑いすぎて息が切れるけどね、いつも。
二人ともマメの救出中みたいで、なにやら物音がしてる。
『頼むって……あ? あれ?
こいつ、魔法効かないっ?』
『たまにシャチ銀は出る、魔法耐性の奴!
叩け、叩け』
うん、いるわね。
魔法使いがパーティーに入ってると出やすいんだけど、の~りんってば、魔法使いのくせに今まで知らなかったって、どういうこと?
呑気すぎるんだけど。
マメのこと言えないんだけど。
さすがにカニやんは知ってたみたいだけど、それがシャチじゃなくて鯉っていうのは知ってる?
『ちょ、ちょっとココちゃんごめん。
クリアしたら迎えに行くから、ドームの入り口で待ってて』
『なるべく早く行くから』
「あ、あの!」
なにかしら?
ちょっと意を決したようなココちゃん。
彼女は火力がないから、ナゴヤドームからナゴヤジョーまでの移動も、だいたいいつも誰か一緒に行動している。
こういう状況だと誰かが送っていったり、お迎えに来てあげたりしていたんだけど、でも三人がいま潜っているのがシャチ銀だとしたら、マメがいるからちょっと時間が掛かるかな。
わたしが送っていってもいいんだけど、すっかりセブン君を待たせちゃってる。
さすがにこれ以上待たせるのは悪いよね。
クロエは行かせたら絶対に戻ってこないし、かといってクロウが送っていってくれるとは思わないから困ってたんだけど……
「わたし、一人で行きます!
ちょ、ちょっと時間が掛かっちゃうかもしれませんけど、ダンジョン前のロビーで待っててもらえますか?」
あら、いい傾向。
両手を握りしめて、やっぱりちょっと怖そうだけれど、でももう決めちゃったって感じ。
うん、いいわよ。
ココちゃんが頑張るっていうなら、わたしは当然応援する。
なんだかココちゃんが成長したような気がして嬉しくなっちゃう。
『えっ? ココちゃん、大丈夫っ?』
の~りんは凄く驚いた感じ。
うん、それもわかるけどね。
でもカニやんはちょっと違ったな。
落ち着いた感じで話しかけてる……っていうか、確認する感じかな?
『本当に大丈夫?』
「わたしだって、ファイアーボールくらいはあるんです、大丈夫!」
『そっか……あ、の~りん、マメ!』
『ちょ! おま……待てやー!』
なんかこの直後にの~りんも悲鳴を上げてたから、巻き込まれたかな?
まだまだ甘いわねぇ~。
『ココちゃん、ごめん。
じゃさ、こっちもちょっと時間が掛かりそうだから、先に着いたらロビーで待っててくれる?
マメがさ、さっきから食われてそのまま進路逆走で連れてかれんの。
なんでシャチ、あんなに足速いんだよ?
足ねぇーくせによー!』
カニやん、あんたまで息切れまくりって……面白すぎるでしょ。
おかげでココちゃんの緊張もちょっと解れたみたい。
笑ってる。
「わかりました。
向かいますね」
『うん。
でも無理なら呼んでね。
マメ回収して行くから』
「はい」
「グレイさん、顔がたるんでるよ」
クロエに言われなくてもわかってます。
いいじゃない、嬉しいんだから。
とはいえ手ぶらで行かせるわけにはいかない。
ウィンドウを開いてインベントリをのぞいてみたんだけど、わたしの厳つい装備じゃ、たぶんココちゃんは使いこなせないだろうし……あ、これ、まだあったんだ。
今のメイスの前に使っていたレイピア。
うーん、メイスに比べれば軽いんだけど、扱いはメイスのほうが断然楽だよね。
他になにか……危うくインベントリの整理整頓を仕掛けて、我に返る。
こんなことをしている時じゃないって思い出したのよ。
「とりあえずココちゃん、やっぱりドームに一度戻ろう。
その杖で雑魚殴るのはもったいないから」
魔法使いの杖は打撃武器じゃないけれど、もちろん殴れる。
でも用途が違うから耐久の減少が半端ないのよ。
だからといってナゴヤジョーまで素手で殴り続けるのもね、さすがに。
セブン君を待たせてるのはわかってるんだけど、かといってココちゃんを手ぶらで行かせるわけにもいかないし……急げー急げー……とにかく急いで、みんな!
こういう時って、どんなに速く歩いても、全然速く感じない。
それどころか時間が過ぎるほうが速く感じてしまうから余計に焦る。
これからもココちゃんが、中部東海エリアくらいは一人で歩けるようにって考えるなら相応の武器も必要になるけれど、とりあえず今は即席ってことで、ナゴヤドーム内にあるりりか様の店じゃなくてNPCのいる武器屋へ。
帰りはカニやんたちが一緒のはずだから、行きだけの使い捨てなら初期装備でも十分かな。
あ、でも初期装備でも選べるんだっけ?
オーソドックスな剣の他に、メイスや斧に槍……槍なんてあったんだ。
「槍って使いやすい?」
誰にともなく訊いてみたんだけど返事がない。
だけどそれは無視の沈黙じゃなくて、迷ってる感じの沈黙。
クロウやクロエはともかく、後ろをついてくるトール君もなにかを考えている顔をしている。
そういえば今ログインしているメンバーに槍使いはいない……いや、うちのギルドには、そもそも槍使いがいないんだ。
そっか、だから槍があるってことを覚えてなかった……んだと思う。
ようやくのことでカニやんが、ちょっと困ったように返事をしてくれた。
『槍って、突き刺すの難しくない?
他の近接武器ほど敵に近づかなくていいけど、逆に距離感取りにくいと思う。
斬るにしたって刃の部分が小さすぎて、やっぱり扱いにくい気がする』
確かに、ちょっと変わった間合いになるかも。
つまり全然初期装備向きってわけじゃないのね。
とりあえず槍をボツにしたところで、トール君が面白いことを教えてくれた。
「そういえば前にTVで言ってたんですけど、槍って、本来は殴るための武器だそうです」
「殴るの?」
『殴る?』
カニやんと声が被っちゃった。
歴史学者か学校の先生か、トール君もよく覚えていないんだけれど、カニやんが言ってるようなことをその人たちが話しているのをTVで観たんだって。
で、槍の正しい使い方は殴打なんだって。
「そうなんだ。
じゃ、運営にも教えてあげましょ」
同じ打撃武器でもメイスとは間合いが違うし、槍特有の殴打スキルとかが出来たら面白くない?
ひょっとしたら槍使いも増えるかもしれないし、そうしたら前衛職のバランスも変わるかもしれない。
そう思ってウィンドウを開き、早速運営に要望を送る。
それを面白そうに見ていたクロエが言うのよ。
「ほら、また運営に難癖つけてる」
だから要望だって言ってるでしょ、人聞きの悪い。
結局喋らないクロウを喋らせた結果、やはり初期装備の中でも剣が無難だろうってことになった。
NPCからゲーム内通貨を使って初期装備の剣を購入。
早速装備したココちゃんを改めてドームの出入り口まで見送って……本当は初めてのお遣いよろしく、ナゴヤジョーに辿り着くまで後ろをこっそりつけていきたかったんだけど……だって心配じゃない。
でもそんなことを言ってられなくて……だって、気がついたら一時間近く経ってたの……。
「ごめんセブン君、向かってるから!
ドーム内にいるから、もう着く!
ほんと、ごめん!」
直通会話でひたすらに謝りながら、わたしは三人と一緒に中央広場に向かった……。