表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

156/806

156 ギルドマスターは鍵を揃えます

pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!

 カニやんが言うには、船倉で待っている暇なあいだ、ウィンドウを使って自分の状況を確認した。

 すると表示されるのは 『期間限定イベント ダンジョン【treasure ship】 進行中』。

 ここにタイムカウントが出ていないってことは時間制限はないと思われるが、なにかしらの仕掛け(ギミック)が作動するとカウンターが動き出す可能性は十分にある。

 初見のダンジョンって、こういうところが怖いのよね。

 それで気づかないあいだにタイムアップ。

 いきなりダンジョンから放り出されるっていうね。

 特に一般エリアでは内容的にも厳しい 【富士・樹海】 から 【富士・火口】。

 以前は一つながりだったこのエリアダンジョンは制限時間が二時間……と聞けばそれなりに長いけれど、樹海はMAPが存在しない迷路で広く、火口は高火力のボスレベルが二体待ち構えており、実際には二時間でのクリアは難しい。

 その証拠に、公式にある専用サイトではクリアしたプレイヤー名や所要時間などがランキング形式で表示されているけれど、未だ同じような名前が並ぶばかりで数えるほどしかいないときた。

 今は 【富士・火口】 が独立したインスタンスダンジョンとなっているけれど、制限時間はそれぞれ一時間とやはり短く、新たにクリア出来たプレイヤーはいないんじゃなかったかな?


 あ、恭平さんっ!


 そうそう、恭平さんがいたんだけれど、でもたぶん、恭平さんくらいじゃないかな。

 そんなわけで非常に貴重な時間を無駄にしたくないというプレイヤー側からの要望で、現在は時間制限がある場合、カウントがスタートした時点でカウンターが自動表示されることになっている。

 それが未だ誰にも出てこないってことは制限時間はない……あるいは、カウンターがスタートする仕掛け(ギミック)が作動していない。

 そう思っていいはず。

 骸骨に囲まれ、前にも後ろにも進めないこの状況でカウンタースタートだけは勘弁してほしいもの。


『これ、マジ消耗戦』

『打開策はないんかいっ?』


 インカムの向こうから聞こえてくる柴さんとムーさんの声は、少し疲れを含んで弾んでいる。

 息が切れるほどではないけれど、忙しいってことかな。

 ダメージは?


『俺たちはいいが……』

『ゆりのMP消費が半端ない』

「だろうな」


 柴さん班の状況を推測してカニやんの声も低くなる。

 これだと回復役がいない恭平さん班はもっと厳しいかな?

 打開策っていうか……打開にはならないかもしれないけれど、とりあえず状況を立て直しましょか。

 ということで、全員、もう一回甲板に集合!


『上かぁ~』


 一番余裕がないと思われる恭平さんの声……と思ったんだけれど、案外柴さんたちよりは余裕があるような気がする。

 これが歳の差?

 見た目で判断して悪いけど、恭平さんのほうが若そうだもの。


『うるせぇよ、そこの小娘』

『小娘がしょうもないこというから、キンキーが斬られただろうが』


 いやいやいやいやいや、それ、わたしのせいじゃないし!

 キンキーは大丈夫なのっ?

 しっかり守ってよ、そのために二人に託したのに。

 ねぇちょっと、キンキーは無事っ?

 ウンともスンともキンキーの声が聞こえないから心配になるんだけれど、あとでラウラが教えてくれたことによると、柴さんとムーさんが、わざとキンキーに静かにしているよう言ったらしい。

 そういう細かい演出はいらないから。

 こういう状況でそういうこと、しなくていいから。


 余裕があるじゃない


「ゆりこさんがいるし、そこは心配いらないでしょ。

 それより、甲板に出ても追ってくると思うけど?」


 追ってくるでしょうね。

 でもこの狭い通路よりは少し楽になると思う。


「オッケ。

 じゃ各々(おのおの)、そういうことでよろしく」


 カニやんの声にそれぞれの班長から返事があり、わたしたちも甲板を目指す。

 剣士(アタッカー)以外の(クラス)はSTRが足りなさすぎて頭蓋骨を割れない。

 絶対に割れないわけじゃないけれど、七回とか八回とか殴らないと落とせない。

 でも骸骨は動いて避けて、そんな何回も大人しく殴られてくれないのよ。

 だからほとんど剣士(アタッカー)以外の(クラス)じゃ対処なしなんだけれど、甲板に出れば頭蓋骨を割らなくても対処する方法がある。


「起動……業火」


 とりあえず後ろから来るのはこれで足止めして、トール君とクロウで前にいる骸骨を薙ぎ払って。

 それで一気に駆け抜けるわ。

 わたしの足が一番遅いんだけどね。


 お世話をかけます


 やっとの事で辿り着いた甲板には、一番苦戦していると思われた恭平さん班が一番乗り。

 わたしたちが到着した直後、沢山の骸骨を引き連れて柴さん班が到着。

 剣士(アタッカー)を中心に、甲板出口で迎え撃ってもらう。

 もちろん甲板にも骸骨はいるんだけれど、数体が、あてもなく彷徨っていただけ。

 プレイヤーが現われるとその首がまるで絡繰り人形のように一斉にカクッと動き、わたしたちを注目する。

 何度も言うけれど、骸骨は見事なほど綺麗に白骨化していて肉の一片もない。

 だから目玉も残っていないのに、なぜか 「見る」 のよね。


 不思議だわ


 甲板を彷徨っていた骸骨たちは標的を見つけ、わらわらとわたしたちに向かってくる。

 で、ここでわたしがモヤシなSTR一同にレクチャーを一つ。

 船内にいると出来ないんだけれど、ここだと頭蓋骨を潰す以外に骸骨を倒す方法がある。

 コツは力一杯いくことと、なるべく甲板の外側ですること。

 注意すべき点は方向……ってことで、持っていた剣を大きく振り切る。

 頭蓋骨の横っ面を張るように剣がヒットすると、首から頭部が吹っ飛ぶ。

 そのままの勢いで縁を越えて海に落ちると、頭部を失った瞬間は慌てて探そうとした骸骨は、次の瞬間、バラバラに崩れ落ちる。

 これならSTRがモヤシでも骸骨を倒せる。


「これ、バッティングセンターだな」

「あたし、結構得意なのよ」


 カニやんには頑張って素振りをしてもらうとして、ベリンダにはやってもらいたいことがある。


「なに?」


 その俊敏性と跳躍力を生かして、あの一番高い柱にある見張り台に上って欲しいの。

 わたしの指示に、ベリンダは手を止めて見張り台を見上げる。

 まさかと思うんだけれど、高所恐怖症ってことはないわよね?


「大丈夫、大丈夫」


 じゃあお願い出来る?


「OK。

 でも上ってどうするの?」


 そこから見える海の状態を確認して欲しいのと、甲板にも骸骨の沸き位置があるかもしれないから……


「状況をオペレートすればいいのね」


 頭の回転が速いベリンダは、わたしが言い終えるのを待たずに先回り。

 なんだかわくわくしているような彼女は、それこそ今にもあの柱をよじ登りそうな感じ。

 出来る? ……なんて訊くのは野暮かしら。

 もちろん剣士(アタッカー)の誰かにお願いしてもいいんだけれど、状況的にも、メンバー的にもベリンダが適任だと思う。

 ただ、落ちないでよ。

 ダメージを与えなくても頭蓋骨を海に放り投げれば骸骨を倒せるってことから推測して、たぶん海に落ちるとリタイアになると思う。


「そんなヘマはしないわ、任せてよ」


 甲板から上にある船室に上がり、そこから柱をスルスルと上っていくベリンダ。

 猿も恥ずかしくなるような滑らかな速さで上ると、心配で見上げていたわたしに手を振ってくれる。

 配置についたって意味だと思ったんだけれど、次の瞬間 『ねぇ!』 と声を張り上げてきた。

 いやいやいや、インカムがあるから大丈夫よ。

 甲板に出ると波の音が結構するんだけれど、全然普通に話してくれても十分に聞こえるから。

 わたしの指摘にベリンダはちょっと恥ずかしそうに続ける。


『えっと、三本目の鍵、あった』


 ……そんなところに?

 思い切り近くにあったことにわたしは目から鱗が落ちるようなショックを受けたんだけれど、ベリンダから 『どうしたらいい?』 と訊かれて我に返る。

 【秘密の小部屋の鍵】 なるものは三本揃えなければならないらしいんだけれど、じゃあ三本揃えるとどうなるのか?

 まぁ普通に考えてボスの登場よね。

 一応念のために訊いておくけれど (偽) とは書いてないわよね?


『大丈夫』


 さすがにベリンダに笑われちゃった。

 ううん、ベリンダだけじゃなく、インカムからは他にも誰かが噴き出す音がいくつか。

 だって運営ってば要素を盛ることに余念がないんだもの。

 この状況で偽物をつかませて、プレイヤー(わたしたち)が調子を崩すのを狙ってるかも。


「あり得なくもないけど……」


 わたしの考えを否定しないカニやんだけれど、笑っているのはどうして?

 この笑いは半否定って意味かしら。

 とにかく、鍵を三本揃えたら何かあると思っていい。

 みんな、気をつけてね……とわたしが声をかけるとそれぞれに返事があり、ベリンダに鍵を拾うよう指示する。

 すぐには何も起こらなかったから一瞬拍子抜けしたんだけれど、でも油断は大敵。

 遠くに雷鳴を聞いたと思ったらにわかに空が暗くなり、それこそ物凄い速さで黒い雷雲が空を駈け埋め尽くす。

 海も荒れ始め、高くなる波に船が激しく揺れ出す。


「ベリンダ、すぐに下りて!」

『了解!』


 振り落とされないか心配で彼女を見ていたら、一際大きな揺れにわたし自身が甲板を転がるとか……ひぃぃぃ、落ちる!


「屈め!」


 ごめんクロウ、一瞬遅い。

 せっかく声をかけてもらったんだけれど間に合わなくて、転倒する勢いのままに甲板を縁まで転がったところで海に放り投げられる……寸前、伸ばした指先に縁が引っ掛かる。

 でもモヤシなSTRは自重すら支えられなくて、一瞬でも助かったと思う間もなく指先が滑る。

 今度こそ無理! ……と思ったところでカニやんが腕をつかんでくれたんだけれど、やっぱりSTRがモヤシなのよ。

 わたしの設定自重を支えるのが精一杯で引き上げられないとか……これ、どんな罰ゲーム?


 落ちるぅ~


 生きた心地がしない連続から救出してくれたのは鉄筋STRのクロウ。

 この揺れの中をギリギリで駆け付けてくれた。

 二人とも、ありがとう。

 まだまだ揺れの収まらない甲板でへたり込み、ホッと息を吐いたのも束の間、忘れかけていたベリンダのことを思い出す。


 彼女はっ?


「人の心配してる時じゃないでしょ」


 そういって苦笑いを浮かべるベリンダがすぐそこにいた。

 今度こそよかった……と息を吐くわたしだけれど、全然よくなかった。

 出てきたのよ、アラートが。


alert 骸骨甲板長 / 種族・幻獣

いよいよボス戦???

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ