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153 ギルドマスターは骸骨と遭遇します

pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!

 てっきり脳筋コンビの悪戯かと思って振り返ったら、わたしの背後に立っていたのは本当に全く見知らぬNPC。

 しかも個人を見分けるのが極めて難しいその顔は骨しかなくて、本体ももちろん骨だけ。

 あれよ、あれ。

 学校の理科室にあった人体模型……は内臓が入ってるほうだっけ?


 間違えた


 えっと、内臓の入っていないほうは骨格標本だっけ?

 確かそんな名前だったはず。

 あれが意志を持って動き出した…………っていうと怪談よね。

 折しも季節は夏だし、まさに学校の怪談よ。

 ここは学校じゃなくて船の上だけれど。

 無茶苦茶いいお天気の真っ昼間だけど。

 動く時間を間違えたんじゃない? ……なんて問い質している時じゃないのは、骨しか無い手に手入れのよく行き届いた剣を握っているから。

 こう、もっと雰囲気を出すために錆びた剣にしてくれたらいいのに、とっても切れ味の良さそうな剣を手に持ってわたしのすぐ後ろに立っていた。

 ヤバいと思って装備を青チャイナに換えようと思ったら……


error このエリアでは装備の変更は出来ません


 ………………はぁ~?

 ちょっと待って!

 これってつまり、大人しく斬られろってことっ?

 嫌に決まってるでしょっ!!

 なにが楽しくてこんなへろっちょい骸骨に斬られなきゃならないのよ。

 わたしやカニやんよりSTRモヤシじゃないの? ……ってことはないか。

 ステータスは見掛けじゃないもんね、危ない、危ない。

 かといって素手で受ければほぼ間違いなく腕を失う。


 どうしたらいい?


 久々にシリアスな状況に遭遇しちゃったわたしを前に、骸骨は下あごを小刻みに動かしてぴっかぴかの歯を鳴らす。

 虫歯一つない並びのいい綺麗な白い歯は凄く耳障りな音を鳴らすんだけれど、しかもこれが笑っているように見えて、面白くないと感じるのはわたしだけ?

 なんか腹が立つの。

 換装出来なくても、装備を使ったステータスの底上げがない分多少火力が落ちるだけで、まったく攻撃が出来ないわけじゃない。

 とりあえず近すぎるんで下がってもらうわ。


「スパーク」


 思った通り、ちゃんと攻撃魔法は発動する。

 骸骨がどういったものなのかはよくわからないんだけれど、とりあえず武器が剣なら近接型。

 つまり剣士(アタッカー)と想定して戦えばいい。

 もちろん魔法による反撃も可能性はあるけれど、わたしの持つ常時発動(パッシブ)スキル 【愚者の(かご)】 は装備スロットに付与しているわけじゃないから、換装出来なくても、毒や重力系など、一部、【愚者の籠】 が発動しないスキルをのぞけば凌げるはず。

 だから用心すべきは物理攻撃のみ……と意気込んだわたしの前で、スパークによってノックバックした骸骨は尻餅をつき、次の瞬間、まるで床に叩きつけられたみたいな勢いでバラバラに砕け散る。


 弱っ?!


 なに、これ? ……って思ったのはわたしの早とちり。

 すぐさまバラバラーっと骨が宙に浮き、まるでVTRの逆再生のように元の人体模型に戻る。

 でもこの隙をわたしは逃さなくて、骨がばらけた時に落とした剣をすかさず拾い上げる。

 これを持って反撃しようと思うんだけれど……うん、モヤシなSTRだけどね。

 でも何もないよりマシのはず。

 しかも、少なくとも今、わたしの目の前にいる骸骨は丸腰になったわけだし。

 わたしのモヤシなSTRであの骨を砕けるかどうかは疑問なんだけれど、少なくとも武器を持った相手と素手で対峙するよりはずっといい。

 ところでこの骸骨、どうやったら倒せるのっ?


『Gは踏みつぶせる』


 ベリンダ、それは訊いてない。

 むしろ聞きたくない!


『誰か骸骨と遭遇した?』


 した!

 ちょっと恭平さん、これ、なに?


『この船の元乗組員ってことだと思うけど、歯を鳴らして仲間を呼ぶ。

 囲まれる前に移動したほうがいい』


 恭平さんは、偶然転送位置が近かったトール君とキンキーと合流。

 三人でわたしがいる甲板を目指している途中で骸骨と遭遇したらしい。

 脇からトール君が説明するには、広くはない通路で最初の一体と遭遇し、今、前後を挟まれて万事休しているらしい。

 魔法使い志望のキンキーはともかく、恭平さんとトール君はそれなりのSTRを持っている。

 けれど倒しても倒しても……というか壊しても壊しても復活する骸骨を相手に苦闘。

 しかも次から次に増えていくから質が悪い。


「とりあえずスパークで距離をとって。

 剣を奪って骨を折るとか、出来ない?」

『やってみます』


 いやいやいや、わたしも人にアドバイスとかしてる場合じゃないのよね。

 だってこの骸骨、人の……人じゃないか。

 言い直すわ。

 わたしに剣をとられたからって、代わりに落ちていた別のNPCの骨を拾って武器にするの。

 もちろん斬ることは出来ないから棍棒扱いなんだけれど、これが結構なSTRで。

 殴られたらわたしの頭ぐらい簡単に潰れちゃいそうで、想像しただけで結構グロテスクだわ。


『またアホなことを』


 そういうカニやんはそろそろ出られた?


『無理。

 なんなんだよ、この固さ。

 クロウさん、そっちは?』

『出られた。

 いま上に向かっている』

『出られたんだ』


 なんだかショックを受けているようなカニやん。

 クロウの鉄筋STRと魔法使いのモヤシなSTRを比べても仕方ないのに……。

 とりあえず動ける人は甲板に集合なんだけれど、ベリンダも船倉から出られないみたい。

 Gが沸く船倉ね。

 すぐにでも出してあげたいけれど、もうちょっと待っていてくれる?

 そもそもわたし自身、目の前の骸骨を片付けるのに忙しい。

 一つ考えたのは船から海に放り投げるというか、捨てるというか……でも骨しかないくせに結構なSTRとVITを持ってるのよね。

 どんな骨密度よ? っていいたくなるくらい重くて、わたしのモヤシなSTRじゃ持ち上げられない。

 距離をとるためにスパークでノックバックさせて、バラバラになったところをすかさず頭蓋骨だけ拾い上げる。

 そして海に放り投げようとしたんだけれど、どうやら骸骨は頭蓋骨に執着があるらしくて凄い勢いで取り戻しに来た。

 ここでもう一回スパークで吹っ飛ばし、バラバラになったところを持っていた頭蓋骨を(へり)から海に力一杯放り投げる。

 えっとこれ、産廃の不法投棄になるのかしら?


『散骨ってことでいいんじゃないすか?』


 それこそ海の男なんだから水葬でしょう……なんて珍しく難しいことをいうJBなんだけれど、小姑が重箱の隅を突いてくる。


『っていうか、人の骨を産廃扱いかよ』


 NPCだからいいじゃない!


『散骨は粉骨するのが条件だ。

 そのままの頭蓋骨を捨てると死体損壊になるんじゃないのか?』


 ちょっとクロウ、大真面目に嫌なことをいわないでよ!

 いま、どこっ?


『もう上に出るが、悪い、おまけを連れてきた』


 あ~……たぶん骸骨ね。

 そういえばこいつ、さっき笑ってたもんね。

 恭平さんの話じゃ、骸骨は歯をカタカタ鳴らして仲間を呼び集めるっていってたから。

 でもとりあえずわたしの前にいた骸骨は壊れたわ。

 さっきのスパークの一撃で崩れたあとは復活しないの。

 これは頭蓋骨が重要なのか、あるいは一本でも骨を失えば復活出来なくなるのか。


 どっちだろ?


 とりあえず船首側から上がってきたクロウの後ろから、骸骨たちがウゴウゴ出てくる。

 いや、(うごめ)くとはちょっと違うかな?

 骨だけに動きがゴツゴツしてるっていうか、滑らかさとは全く無縁。

 それこそ血とか肉とか皮とかなくした時に滑らかな動きとは絶縁したみたい。

 あれ、ロボットダンスとか踊れそうよ。


『見たいの?』


 全く興味ない。

 とりあえず数が数だし、ちょっと燃やしてみましょうか?

 避けてよ、クロウ。


「起動……業火」


 広い甲板上で盛大に燃え上がる業火の焔。

 その中でクロウを追ってきた数体の骸骨たちが動きを止めるんだけれど、ダメージは受けていないような気がする。

 肉がないから発声もしなくてとても静かだし。

 あまりに手応えのなさにちょっとイラッとしたわたしは、さっき奪った剣を手に走り出すと、焔の中に足を止めている骸骨の一体の頭を吹っ飛ばす。

 剣をバットの代わりにホームランを打つ要領で。

 吹っ飛ばされた頭蓋骨が甲板から海上に出た瞬間、残った本体が焔の中に崩れ落ちる。

 それを見たクロウも、床に落ちている、さっきわたしが倒した骸骨の残骸から骨の一本を拾い、次々と焔の中に足を止める骸骨の頭蓋骨を吹っ飛ばす。


 ひょっとしてここはバッティングセンター?


 そんな錯覚を覚えたわたしは、どうして人がバッティングセンターでストレスを発散出来るのかを初めて知った。

 これ、結構爽快なんだもん。

 ただ飛ばす方向を間違えると本体は崩れず、頭蓋骨を探しに行ってしまうっていうね。

 でも見えていないらしく手探りで探すんだけれど、そもそも頭蓋骨があっても目玉は入っていないから見えていないはず。

 なんなのかしら、この矛盾は。


「まぁそこはゲームってことで」


 そういうことにしておきましょう。

 このダンジョンの要領はまだわからないんだけれど、とりあえず閉じ込められたまま出られないカニやんとベリンダをのぞいた全員が甲板に集合。

 みんなほぼ無傷ってことで、二人の救出に向かいつつ船を探索してみましょうか。

 あ、でも船内で骸骨に遭遇したらどうしたらいいのかしら?

 頭蓋骨を外に放り投げようにも、都合よく船窓があるとは限らないだろうし。


「あれな、女王には無理だろうけれど、頭をぶっ壊せばいけるぜ」


 それは骸骨のVITを上回るSTRを持つ柴さんには可能ってことね。

 じゃあ鉄骨なSTRを持つクロウもOK。

 柴さんの相棒であるムーさんはいうまでもなく、JBや恭平さんは? ……といっているあいだに遭遇した骸骨の頭を、手にした骨で粉砕してみせる恭平さん。


 お見事


 でもこれでわかった。

 つまり頭蓋骨が弱点ってことね。

 しかも物理攻撃でしかそれは出来ない……ということは、わたしたち魔法使いは役立たずってこと。


『まさかと思うけど、俺、このまま放っておかれるパターン?』


 カニやんってば、にわかに心配になっちゃって、ふふふ……。

 でもこの状況で魔法使いは役立たずなのよね。

 どうしようかなぁ~。


『ちょっと待てや、こら!』

このままカニやんを放っておいても進行に支障はないのですが、どうしますかね?

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