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150 ギルドマスターの耳は色々漏れます

pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!

 気がついたわたしの目に、一番に飛び込んできたのはルゥの大きな赤い目。

 マメの口撃にダウンしたわたしはギルドルームの休憩室に運び込まれたらしく、ベッドの上で天井を仰いでいた。

 二つ並んだベッドのあいだ、床に大人しく座っていたらしいルゥはわたしと目が合うときゅーっと嬉しそうな声を上げてベッドに飛び乗ろうとしたんだけれど、勢い余ってわたしの顔面にダイブ。

 一瞬でわたしの視界が真っ暗になる。

 ルゥ自身は自分のミスに気づかず、一瞬でわたしの姿が消えてしまったことにきゅ? と不思議そうな声を上げてるんだけれど、不思議でも何でもありません。

 わたしはあなたの腹の下におります。

 でもわからないルゥはしきりにきゅ? きゅ? きゅ? と……たぶん首を傾げてるんだろうけれど、残念なことに視界を塞がれているわたしにはその様子が見えない。

 でも柔らかい腹毛のモフッと感に十分癒されていたんだけれど、急にルゥの声が ぎゅっ! っていう不満げ……というか、ちょっと怒った声に変わったと思ったら、不意に視界が明るくなってルゥのお腹が遠ざかる。


 嗚呼ーっ!


 もっと癒されていたいと思ったわたしも不満だったんだけれど、明るくなった視界に入ったのはクロウの顔。

 久々に見る仏頂面にちょっと笑ってしまった。


「もういいのか?」


 わたしがベッドの上で体を起こすと、クロウは声をかけてくれながら膝にルゥを置いてくれる。

 見失っていた主人をようやくのことで見つけたルゥは、また嬉しそうにきゅーきゅー鳴きながらしがみついてきて、再びモフモフパラダイス。

 もちろんただモフモフしていたわけじゃなくて、そのあいだに状況を思い出していた。


「イベントは?」

「一応終わった」


 一応って、なんだか気になる言い回しなんだけど、あれからなにかあったの?

 それこそマメがアカウント停止処分で強制ログアウトとか……ないわよね?


「あいつならさっきまで隣にいたが、取引が上手くいったらしくて出掛けていった」


 ああ、掲示板の 「売ります・買います(トレード)」 ね。

 まだやってたんだ、あれ。

 飽き性じゃないけれど、さすがにあそこまで我慢強く張り付くっていうのは、ちょっとわたしには無理。

 必ずしも上手くいくとは限らないし、そもそもそこまで欲しいと思えるほどのアイテムもないし。


『あれは一種の収集癖だろ?

 他の廃課金連中は知らんけど、マメの場合は』


 そうなの?

 でもそうやって集めた大量のアイテムを保管するため、インベントリ拡張にも課金していると聞けばそうなのかもしれない。

 で、カニやんはどこにいるわけ?


『海。

 みんなで泳いでる』


 えーっと、みんなで一緒に遊んでいることはわかったんだけれど、その前に耳慣れない単語が聞こえたような気がする。

 ごめん、もう一度言ってくれない?


『え? だから海。

 グレイさんたちも来ない?』


 ………………それ、なに?

 あ、海はわかるわよ、もちろん。

 そこまでお馬鹿じゃないから。

 だけれど海で遊んでいるっていうのはどういうこと?

 MAP上に海は存在しているけれど、エリアの境界向こうの扱いで立ち入れない設定のはず。

 その海で遊ぶ?

 誘ってくれるのは嬉しいんだけれど、ちょっと意味がわからなくてクロウを見ると溜息を吐かれてしまった。

 え? なんで???


「説明したと思ったんだが……」


 そう前置きをしてクロウがしてくれた話によると、今回のミスコンテストはそもそも期間限定イベント 【海開き】 を記念して行われたっていうか、盛り上げるために行われた前夜祭イベントのようなものだったらしい。

 しかもそれは公式サイトにもちゃんと書かれていて、クロウは、その説明をする時にちゃんとわたしに話していた。

 でも、どうやらわたしの耳はミスコンの 「絶対に水着なんて着たくない」 というところに囚われて、本題のところ、つまり 【海開き】 という部分を綺麗さっぱり聞き逃していた……とういうか、聞きこぼしていたというか……わたしってば、もう……。

 さすがにこれは申し訳ない。


「ごめん」

「いつものことだと思ってる。

 動けるなら行ってみるか?」


 そうね、ちょっとのぞきに行ってみようかな。

 あ、でも先に言っておきますが、わたしは泳ぎません……という前提で、ルゥの散歩を兼ねて行ってみることにした。

 場所は伊勢湾。

 前に不自由の女神イベントをやった場所で、ナゴヤドームからもそれほど遠くない。

 いつものようにフンフンフンフンフンフン……臭いを嗅ぎながら歩くのかと思ったルゥが、珍しく、わたしやクロウを先導するように前を歩く、

 短い足で、こう……自慢げっていうか、誇らしげっていうか……わたしにルゥの思考回路は全然わからないんだけれど、尻尾をブンブン振って楽しそうだから別にいいんだけれどね。

 でも着いた伊勢湾エリアになぜかわたしは入れない。

 主人のわたしが入れないから当然ルゥも入れなくて、見えない壁に思い切りぶつかってビックリしている。


 かわいい


 最初は見えない壁に肉球を押しつけたりしていたんだけれど、そのうちに体当たりとかしだして、挙げ句の果てには短い舌で舐めた。

 ん? 舐めた???

 ちょっとルゥ、なにしてるの?

 お腹が空いてるの?

 ご飯を食べるとは聞いてないんだけれど……短い舌でぺろぺろしているのはちょっと可愛い。

 これは見えないエリアの壁で、たぶん、とんでもなく高い 【幻獣】 のSTRをもってしても破壊することは出来ない。

 これを通過するには条件を満たすしかないんだけれど、ルゥはたぶんわたしが通れれば一緒に通れると思うんだけれど、わたしはどうしたらいいのか?

 相談するようにクロウを見たら、なぜか水着姿になっていてわたしは絶句してしまった。

 さっきまでいつもの装備だったのに、わたしがルゥを見ているあいだに一瞬で換装……いや、まぁデータだから一瞬で出来るんだけれど、どうして水着なのよ?


「水着装備でないと入れないらしい」


 うっそぉ~?!

 また水着を着なきゃいけないって、どんな罰ゲーム?

 やっといつもの青チャイナに戻したのに、日傘を差して機嫌良くルゥと散歩していたのに、どうして水着?

 また水着っ?

 しかもクロウが水着を着てる……っていうか、どうして今回、男性用の水着までガチャが出たのかこれでわかった。

 なるほど、イベント参加用の必須アイテムなわけね。

 せっかくの新エリアだからちょっとくらいのぞいてみたい気持ちもあるけれど、水着を着るのは嫌。


 嗚呼~


 道端で本気で頭を抱え込んで悩むわたしに、遥か頭上でクロウが笑いを堪えている。

 ちょっとクロウ、ここは笑うところじゃないの!

 そりゃクロウは脱いだっていいわよ、全然平気じゃない。

 でもわたしなんて……ローズに 「モヤシ女」 とか言われたんだから!!


 モヤシ女って……


 そりゃちょっと痩せてるけど、でも胸はローズより全然……ぜ…………ゲフゲフゲフゲフ……ちょっとクロウ、今のはなしでお願いします。

 もうね、無茶苦茶笑いを堪えてるの、クロウが!

 イベント中に見たあの懐かしい無表情はどこに行ったのよっ?


「悪い。

 ローズか、そういえばなにか言っていたな」


 うん? ひょっとしてイベントのあとでローズに会ったの?

 わたしがぶっ倒れているあいだにあの告白に返事をしたの?

 思い出すと一気に気になってきた。


「いや、会ってないが……あれは返事がいるのか?」


 ん? いる? いるの???

 あえて訊かれると返事に困るんだけれど……っていうか、そういうことをわたしに訊かないでよ!

 なんか腹が立つ!!


『これはあれか?』

『自覚のないあれだな』


 そこの腹の黒い二人、なに? はっきり言って!

 どうせわたしが喪女だからわからないって言いたいんでしょ。


『残念』

『はずれ』

『あのローズの告白、グレイさんに勝ったらって話だから返事はいらないんじゃね?』


 あ、そうか。

 よくよく思い出せば、確かにローズの宣言はわたしに勝てばっていう前提があった、うん、間違いなく。

 なんか、カニやんの説明に納得して凄くホッとするのはなぜ?


『そこが喪女だから』


 そこはわからん。


『とりあえず着替えをどうするか、早く結論出せば?』


 う、うん、そうする。

 諦めて着替える。

 だってせっかくの新エリアなのに、しかも期間限定だからずっとあるわけじゃないから、一度くらいは入っておきたい。

 それになんかね、ルゥがそろそろ焦れて、見えない壁を噛もうとしてる。

 よく動物が見えないなにかをじーっと見ている、あの感じでルゥは見えないエリアの壁に向かって低く唸り声を上げ、つまみたくなるくらい小さな牙を剥いているの。

 これ、絶対に噛む。

 しかもそのうちに巨大化しそうな気がする。

 仕方がないから着替えたばかりの水着に換装したら、次の瞬間に壁が消えてまたルゥがビックリしている。

 壁があると思って突っ込んで、そのままでんぐり返しするとか、どんな可愛さ?

 しかも本人……人じゃないけれど、狼だけれど、ルゥは何が起こったのかわからなくてキョトンとしてるの。

 これはこれで可愛いからよし!

 ルゥは自分で歩きたいだろうから、日傘を差して、持ち手を両手で握りしめて誤魔化すことにする。

 ついでにいうと、ちょっと前をクロウに歩いてもらう。

 もちろん壁にするためにね。


『この嫁、相変わらず鬼畜』


 カニやん、うるさい。

 結局ルゥはでんぐり返しをしたことはわからないままだったんだけれど、壁が消えたことでエリアに入れるようになっただけで大満足。

 初めての場所にフンフンフンフンフンフン……興味津々に臭いを嗅ぎながら歩き始める。

 わたしとクロウはそのあとを追うように期間限定エリア 【海】 に入る。

 結構な広さのエリアには沢山のプレイヤーがいて、当然のように全員が水着を着用。

 遊んでいるメンバーを探そうと浜辺を見回して、わたしはあることに気づく。

 ここ、ちょっと無理。


「グレイ?」


 もうね、ちょっと前を歩いてなんて我が儘は言いません。

 ガッツリクロウにしがみついた。

 だって右を見ても左を見ても、上半身裸の男の人ばっかりじゃない。

 これ、恥ずかしすぎる!

 同じ水着でも、布面積の広い女の人の方が全然マシじゃない!!


『それも違うけどな』


 だからカニやん、うるさいってば!


『全裸ってわけじゃなし、どこまで喪女だよ?』


 自分で言うのもなんだけれど、果てしなくよっ!!


『あ、それとさ、そのへんに大きな貝があるだろ?』


 貝?

 言われて見渡せば、確かに浜辺のあちらこちらに大きな……巻き貝っていうの?

 ヤドカリでも入っていそうな感じの大きな貝が置いてあるっていうか、埋まっている……わけではないのかな?

 あるけれど、それがどうかした?


『バックリ来るから気をつけて』


 えっ?! それ、どういう意味? ……って驚いているあいだにも、興味津々にフンフン近づいたルゥが、突然中から出てきた黒っぽい何かに引きずり込まれてしまう。

 一瞬のことではっきりとは見えなかったんだけれど、ガッツリルゥを捕まえて、それこそルゥが鳴き声を上げる間もなく引きずり込んじゃった。


 うそ、ルゥっ?!

結局フンフンするルゥは、まだまだやります。

もちろん飼い主も・・・(笑

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