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15【番外】 ギルドマスターは待ちぼうけ

pv&評価&ブクマ、ありがとうございます!


ギルドマスターはギルドマスターでも、今回は別のマスターをお届けします。

「ジャック君か、どんな子だろう?」


 ジャックという男性キャラからギルド【鷹の目】に加入申請があったのは、わたしたちがココちゃんのクエストでフチョウに向かった日。

 わたしもそうだけど、すぐに承認して加入ってわけにはいかないのよね。

 メッセージを送って待ち合わせをして、一度直接会って話してみる。

 そこでお試し期間のこととかを話して、納得してくれたらまずはお試し加入。

 セブン君も同じ方法をとっているから、まずはメッセージを送って待ち合わせをするんだけど、廃課金のセブン君は廃人でもあるから待ち合わせ時間はたいがい相手に合わせられるっていうね。

 廃人主催者(マスター)唯一の利点って、セブン君ってば自虐しちゃって。

 相手のレベルは12ってことだから、全くの初心者ってわけではなさそう。

 そこまでソロでレベル上げをしたのか、あるいはこれまで別のギルドに所属していたのか。

 後者の場合、辞めた理由も気になるところ。

 まぁそれで一度会ってちゃんと話をしてみようってことなんだけどね。

 今【the edge of twilight online】では次々にギルドが結成されているみたいで、公式のギルドメンバー募集トピックスも賑わっている。

 個人(ぼっち)ギルドや少人数がほとんどみたいなんだけど、トラブルも多いみたいで、悪口合戦でトピックスを乱立させたりしてちょっと問題にもなってる。

 正式サービス開始から二ヶ月が過ぎてプレイヤーも増えてきたんだけど、これはその証拠ってことかしら?

 もっと楽しいことで盛り上がってくれたらいいのに、不毛すぎる。

 約束の時間より二、三分前に約束の場所に着いたけれど、相手とおぼしきプレイヤーはすでにセブン君を待っていた。

 こういう時、わたしは凄くドキドキするんだけど、肩に銃を担いで歩くセブン君はいつもどおり。


「ラッキーセブンさん」


 セブン君が声を掛けるより先に向こうから声を掛けてくる。

 メッセージにそう書いてあったんだって、自分はセブン君を知っているから自分から声を掛けますって。

 これってちょっと体育会系のノリを感じない?


「ジャック君?

 初めまして、ラッキーセブンです」

「初めまして、ジャックです。

 あの俺、ラッキーセブンさんに憧れて、どうしても【鷹の目】に入りたいんです」

「うん、まずは説明させてもらえるかな?

 一応正規加入前の手順があるんだよね」

「はい、もちろんです」


 うん、やっぱり体育会系のノリね。

 セブン君はベンチにすわって話していたんだけど、ジャック君はずっと後ろで腕を組んで立ってたんだって。

【鷹の目】を軍隊か何かと勘違いしてるのかしら?

 確かに連中、迷彩ズボンを制服みたいに着てるけど、全然決まり事とかなくて凄く自由なんだけど……。

 まずセブン君が話したのはお試し期間のこと。

 それ以上に重要なのが、【鷹の目】が廃課金廃装備の廃人ギルドだってこと。


「課金は絶対なんですか?」

「ある程度はね。

 課金装備についてはみんなアドバイスとかしてくれるっていうか、課金以外の装備はあり得ないって空気だから」

「え? でも生産職が作る装備だって、結構性能いいですよね?」

「他のギルドはその会話OK。

 でもうちのギルドはそういう話はしないよ。

 生産職は整備士って位置づけだからね」


 当然 【鷹の目】 には生産職はいない。

 わたしには異次元の会話だわ。

 たぶんジャック君にもそうだったんじゃないかな。

【鷹の目】が廃課金廃装備の廃人ギルドっていうのは有名だけど、それがどんなものなのかはあまり知られていないと思う。

 わたしは……実はちょっと前に揉めたのよね、あることで 【鷹の目】 のメンバーと。

 セブン君とはβ版からの付き合いだけど、他のメンバーとはこの時に初めて話したんだけど、それでもやっぱり異次元な感覚だから、ジャック君にはもっと理解不能だったかもね。


「あと、廃人だからログイン時間が半端ないんだけど」

「それは、可能な限りログインします」

「どのくらい?」

「えっと……日にもよりますけど……だいたい夕方からは……あ、でも休みの日は徹夜します」

「君さ、銃士(ガンナー)希望だよね?」


 不意に話を変えられてジャック君は少し面食らったみたいだけれど、焦ったせいか、少し早口になりながらもセブン君への憧れを熱く語る。


「もちろんです!

 だからトッププレイヤーのラッキーセブンさんに弟子入りしたくて」

「レベル20まではステの振り直しが出来るってことは知ってる?」

「はい、導入(チュート)で」

「そうだよねぇ~」


 少し困ったようなセブン君に、ジャック君はどうしても【鷹の目】に入りたくて志望動機……まぁセブン君がどんなに凄いかを熱く熱く、それは熱く語ったらしいんだけど、セブン君の気持ちを変えることは出来なかったらしい。

 まぁ【鷹の目】はちょっと特殊すぎるもんね。

 あの趣旨で、よくあれだけメンバーが集まったものよ。

 そう思うくらい不思議なギルドなんだよね。

 同じくらい不思議ちゃん揃いだし。

 しかも 【the edge of twilight online】 三大ギルドの一つとか……。


「……ダメ、ですか……」

「うちには合わないと思う」

「でも、せめてお試しだけでも!」

「う~ん、ちょっと待って、今考えてるから」

「はい」


 体育会系って、一歩間違えれば忠犬わんこ。

 本当に口を一文字に結んで、直立不動でセブン君の考えがまとまるのをずっと待ってる。

 わたしはこの場にいなかったから見られなくて残念だったわ。


「……提案なんだけど、他のギルドを紹介するから、そこに行ってみない?」

「他のギルドですか?」


 不満に思いながらも、とりあえず上の話は聞かなきゃならないのが体育会系。

 セブン君もちょっと苦笑いをしながら、とりあえず話す。


「君さ、クロエって名前、聞いたことない?」

「知ってます、銃士(ガンナー)ですよね。

 ラッキーセブンさんと同じくらい凄いって聞いたことあります」

「じゃ、話は早いや。

 クロエ君のギルドに行かない?

 僕、クロエ君とも仲いいし、あそこのギルマスとも仲いいんだよね。

 だから紹介してあげる」

「でもクロエさんって、女の人ですよね?」


 ……ま、名前がね、うん、名前が悪いのよ。

 これはジャック君は悪くないと思う。

 クロエのセンスの問題だと思う。

 まぁわたしもギルド名が 【素敵なお茶会】 でキャラ名がアールグレイだから人のことは言えないし、セブン君もね。

 だからかな、セブン君もちょっと呆気にとられちゃったみたい。


「俺、女の人に教えてもらうとか、ちょっと……。

 それに、確か 【素敵なお茶会】 って、主催者(ギルマス)も女の人ですよね?」

「グレイさん、女の人だけど強いよ。

 いま剣士(アタッカー)のトップはクロウさん、ノーキーさん、ノギさんの三つ巴だけど、クロウさんが他の二人を抑えられれば【ETO】最強はグレイさんだね」


【ETO】 は 【the e()dge of t()wilight o()nline】 の略ね。


「???

 灰色の魔女は魔法使いじゃないんですか?

 剣士(アタッカー)のトップ争いには関係ないんじゃ……?」

「グレイさんは最強の魔女だよ。

 あの人【ETO】最強魔法の灰燼が使える唯一の魔法使い(プレイヤー)だし、どういう細工をしてるのかわからないけど回復系最難関のリカームも使えるしね」

「攻撃系と回復系って、両立できるんですか?」

「実際両立してるんだよ。

 細工を知ってるとしたら、本人以外はクロウさんくらいじゃないかな?」

「だったらクロウさんのほうが強いんじゃないんですか?」

「クロウさんは、グレイさんに剣を向けないよ」


 それはわからない、わたしにはね。

 実際、今までにそんな状況になったこともないし。

 けど、少なくともセブン君はそう思ってるらしい。

 でもそれがジャック君には少し不服だったみたい。


主催者(ギルマス)だから?」

「それもあると思うけど、ギルマスとサブマスの立場が逆転しても変わらないんじゃないかな?

 僕も、個人的にはグレイさんに銃口を向けたいとは思わないしね。

 こういうのって人望……人柄っていうかな?

 グレイさんってお人好しだから。

 だから紹介するなら【素敵なお茶会(おちゃかい)】かな、と思ったんだよね。

 伝手なら 【特許庁】 もあるんだけど、あそこのサブマスやってる蝶々夫人とも仲いいし、君の希望どおり主催者(ギルマス)はノーキーさんだし」


 でもノーキーさんは、トッププレイヤーではあるけれど剣士(アタッカー)なのよね。

 しかもギルド運営はサブマスターの蝶々夫人に任せっきりで、遊びほうけている不良主催者(マスター)

 おまけに【特許庁】にはジャック君が興味を持ちそうな銃士(ガンナー)に心当たりがない。

……つまり消去法で 【素敵なお茶会(うち)】 なのね……


「それと君、勘違いしてるよ。

 クロエ君は男の子だから」

「え?」


 そもそもね、ゲーム内においてキャラの性別って関係なくない?

 わたしにはジャック君のそこのこだわりがよくわからない。

 結局クロエの性別については、会ってみればわかるってことでわたしに直通会話をしてみたんだけど、そこは前話 「14 ギルドマスターはやっぱり呪われています」 冒頭を参照ってことで待ちぼうけを食らわされることになったわけ。

 わたしからの連絡を待つ間に、レベル上げについて聞いてたみたい。

 ソロで頑張ったのか、あるいはどこかのギルドに所属していたのか。

 答えは前者っていうから、結構な頑張り屋さんね。

 でもソロにそろそろ限界を感じて、どこかのギルドに所属しようって考えたのもなかなか凄いことだと思う。

 たぶんMMORPG初心者ってわけじゃないんだろうな。

 そのあとも銃士(ガンナー)育成について色々と話してたらしいんだけど……


「それにしても遅いな、グレイさん。

 フチョウを出たって連絡があってから……30分???

 どんな道草食ってるの?」


 ごめんね。

 フチョウからは真っ直ぐ……なるべく真っ直ぐ戻ってきたんだけど、ちょっと色々あったのよ……。

 あ、でも草は食べてないから!


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