148 ギルドマスターは素手で挑まれます
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【特許庁】 に所属する鍛治士のカジさん。
現役女子中学生……ゆりこさんの話によれば、ラウラは中学生らしいんだけれど、そのことを最大限にアピールする夏のアイテム 【スクール水着】 を作ったのもそのカジさんなのか?
そのスキルの高さにわたしは唖然としちゃったんだけれど……いや、もちろん真偽はわからないし確かめるつもりもないんだけれど、でも手作りってことは間違いない。
だから間違いなく誰かが作ったわけで、その完成度の高さに観客プレイヤーたちがどよめく。
もちろんラウラの他にも現役中学生はいるんだろうけれど、【スクール水着】 という発想がなかったみたいで、着用していたのはラウラだけ。
他はみんな、個性豊かな水着を着用していた。
中でも一番個性的だったのは、やっぱり個性派集団 【特許庁】 の女性剣士ちゅるんさん。
いや、えーっと、装備と変わらないような気がするんだけれど、あとで聞けば、背中と頭の羽根飾りを取れば水に入れるらしいかられっきとした水着だけれど……うん、まぁ装備と変わらないあれ。
スパンコールやビーズらしき物でキラキラしていて、フリンジも一杯。
羽根飾りを外しても、とても普通の水着には見えないであろう姿での参加。
個人的には羽根飾りを付けたまま水に入ってみて欲しい。
しかも今回は趣旨が趣旨だから化粧も濃くて……でもお化粧って課金よね?
実は 【特許庁】 って結構な廃課金ギルドかも……そんなことを改めて思っちゃったし、カジさんの多忙を想像してうんざりもしちゃったわ。
ちなみにこのゲームにはPKがあるため、運営の自主規制とやらで十二歳以下はユーザー登録出来ない
つまり小学生は登録出来ないんだけれど、ラウラ並みに幼い感じの女の子を何人か見掛ける。
みんな、運営が用意したデザインの水着を着ていて、中には背伸びをしてビキニを着ていたり。
恥ずかしげな初々しさがちょっと可愛くてほほえましい。
『いや、一番恥ずかしがってるのグレイさんだから』
『大丈夫、一番初々しいから』
うるさいわね、肩まで真っ赤になっているのは自分でも見えてます!
顔とか耳とか熱いなんてものじゃないんだから!!
「案外こういう時は堂々としているほうが目立たないものよ」
ベリンダがアドバイスをしてくれるんだけれど……ありがとう、気持ちは嬉しい。
でも無理。
彼女自身はくれたアドバイスを実践するように実に堂々と立っていて、確かに他の参加者たちと違和感なく馴染んでいる。
全員が出そろった特設舞台の上を見ても、艶やかというか、煌びやかというか。
その中にいるとマメの挑発的な水着すらそれほど違和感なく見える。
だからってわたしにも同じように振る舞えっていうのは……あ、涙が出てきた。
恥ずかしすぎて涙が出てくるとか、どんだけ情けないのよわたしってば。
『グレイ、落ち着け』
クロウが気を遣って宥めてくれているのはわかるんだけれど、声だけとか……生殺し!
そこに見えてるのに助けてくれないとか……ここに来てよぉ!!
『もう少しだけ我慢しろ』
もう少しっていつっ?
『また我が儘言ってクロウさん困らせて』
じゃあクロエがここに来て代わってよ!
カツラとか被らなくても、十分通用する美少年なんだから。
『うわー錯乱してきた』
『クロエ、からかうな』
『はいはい』
結局現状維持なのね。
これ、いつ終わるのよ?
暴れまくるローズを押さえながらもようやく最後の参加者を紹介し終えた小林さんは、ようやくのことでコンテストのルールを説明する。
もったいぶっていろいろと言っていたけれど、要約すると一人持ち時間10分で自己アピールをし、その後、規定時間内に観覧しているプレイヤーに投票してもらうというもの。
投票結果は終了1時間後、公式サイトと、各エリア内に音声アナウンスが行われるらしい。
「投票はお一人様1票となりますのでお間違いなく。
ではまずエントリーナンバー1、我らが女王陛下……あれ?
あの、泣いてます?」
言うなー!!
小林さんってば余計なことを……しかも半笑いで人の顔をのぞき込まないで。
近づくその顔にルゥが低く唸って威嚇するのを、大きな手でワシャワシャと頭を撫でてくれる。
……あれ? ルゥが噛まない。
唸って威嚇しているくせに、噛まずに撫でられてるのはどうして?
「清楚な美人はとても恥ずかしがり屋でいらっしゃる。
ですが是非とも我ら下僕にお言葉をいただきたいのですが……しゃべれます?」
ルゥが小林さんを噛まなかったことは覚えてる。
そのことを不思議に思ったことも覚えてるんだけれど、でもそこから先をわたしはよく覚えてなくて、これはあとでみんなに聞いた話だから本当か嘘かはわからないんだけれど、なぜかわたしはこの場でルゥをみんなに紹介したらしい。
名前とか、すぐに噛んじゃうってこととか、今までに噛まれた人にごめんなさいとか、これからも噛まれたらごめんなさいとか、すぐになんにでも興味を示してフンフン臭いを嗅ぎに行ってしまうこととか……なんか、そのへんのことを話したらしい。
覚えてないけど……
本当に意識が遠ざかっていて、こう……記憶に薄もやが掛かった感じ。
沸き起こる大歓声にようやくのことでハッとしたのは、どうやらわたしの持ち時間が終わったところらしい。
つまり10分ほどわたしの記憶は途切れている。
で、次に来るのはもちろんローズ。
もうね、ローズに限らず 【特許庁】 のメンバーにはビックリさせられたわ。
とりあえずローズから紹介すると……
「エントリーナンバー2は 【特許庁】 の女性剣士ローズさんです。
どうぞ!」
紹介する小林さんから乱暴にマイクを奪い取ったローズは、舞台ギリギリまで前に出て、たぶん集まった観覧プレイヤーの中にクロウを探したんだと思う。
背が高いから、男性プレイヤーの中にいても目立つもんね。
「クロウ様ぁ~!」
見つけたと思ったら叫びながら手を振るとか……ビックリしすぎて、おかげで一瞬で涙が引っ込んだわ。
クロウがどうするのかと思って、それこそ手を振り返すのか見たくて、思わず観覧プレイヤーの中のクロウを確かめちゃった。
ガン無視
周囲にいるプレイヤーがクロウを見るんだけれど……ランカーのクロウはたいがいのプレイヤーに顔と名前が割れてるから注目を集めるんだけれど、当のクロウは我知らず。
それこそ同姓同名の違う誰かのことのように思っているような、ちょっと胸中複雑になるくらいの塩対応っぷり。
でも気にするローズじゃなくて。
「必ずや、この高慢鼻持ちならぬモヤシ女を倒してご覧に入れます。
だからその暁には、どうかこのローズと交際を!」
…………これ、告白よね?
今まで直接クロウにアタックすることのなかったローズに、どんな心境の変化があったのか。
もちろんわたしにはわからないんだけれど、とりあえずビックリした。
ビックリしすぎてルゥを落っことしちゃうくらい。
すっかり油断していたルゥはボトッと落っこちて、でもすぐには何が起こったのか理解出来なくて、落ちたままの状態で目を見開いてビックリしている。
数秒してようやく落ちたことに気づき、改めてわたしに抱っこをせがむんだけれど放心状態のわたしは気づかず。
それで焦れたルゥはヒラヒラするパレオの裾を軽く咥えてクイッと引っ張る。
あ、それは駄目! ……って止めるより早く結び目が解けちゃって、ハラリとパレオが外れた瞬間にどよめきが起きた。
え……っと、なに?
これまでも衝撃的な色々があってその都度どよめきが起きていたんだけれど、その中でも一番大きなどよめきのような……いやいやいや、とりあえず隠すのが先。
もう、ルゥの馬鹿!!
なんてことしてくれるのよっ?!
でも怒るのは後回しにして、慌ててパレオを拾い上げようと屈めば、またどよめきが起こって……なんなの、これっ?!
『女王、鼻血もののサービス』
『SS撮るの、忘れた!』
なんなのよ、脳筋コンビってば?
他のプレイヤーたちと一緒になって興奮しちゃって。
SSは、撮ったら一緒に存在抹消だからね!
それよりも隠すもの、隠すもの……って床に落ちたパレオを拾いあげようとしたら、先に伸びてくる手があって……小林さん?
返してって慌てるわたしに、もう一方の手で拾い上げたルゥを押しつけてくる。
わたしがルゥを受け取ったら、小林さんはすぐそばに立って……近い近い近い!
ちょっと離れてっていうのも聞かずに、持っていたパレオを腰に巻いてくれる。
ついでにルゥと一緒に落とした日傘も拾い差し掛けてくれるとか……バニーガールじゃなくてホストよね。
不破さん顔負けのホスト感だわ。
「ご無礼をいたしました、女王陛下」
にっこりと笑って恭しく一礼……ってこれ、なんのプレイ?
ホストプレイ?
よくわからないんだけれど、小林さんに観覧プレイヤーからブーイングの嵐が巻き起こり、わたしにはローズの敵意が向けられる。
「魔女、覚悟しろ!」
そう言っていつものように背負った大剣を抜こうとするんだけれど、いま着ているのはいつもの装備じゃなくて水着だからね。
そこにはなにもなくて、振り上げた右腕が空振りする。
この人ってひょっとして、現実でもうっかり仮想現実の癖が出ていそうな気がする。
もちろんそれで恥をかくことがあっても、わたしは全然心配しないけれど。
気にもならないわよ、見ず知らずの他人だし。
そもそも今は現実のことなんてどうでもよくて、仮想現実の話よ。
だって武器はなくても、剣士のローズが相手じゃSTRの差はどうにもならない。
このままじゃタコ殴りっていうか、ボコボコにされちゃうわ。
どうする?
ルゥをけしかける?
すでにルゥはローズに敵意全開で、わたしに抱っこされながらも低く唸り声を上げ、眉間に深く皺を寄せ、つまみたくなるくらい小さな牙を剥いている。
そのルゥにしても、ちょっと力を込められればわたしにはかなわないSTRの持ち主。
本気でルゥが暴れたら、この場に止められるのは……小林さんなら止められるかな。
今はこんな小さくて可愛い姿をしているけれど、本性は 【幻獣】 だもの。
プレイヤーの相手じゃない。
でも小林さんなら……と思ったんだけれど、小林さんが止めたのはルゥじゃなかった。
「はいはいローズさん、実力行使はなしですよ。
失格になります」
「なんだとっ!」
……なるほど、ここなら素手ででもわたしを倒せると踏んだのね。
うん、確かに倒せるけどね。
そういえばさっき、わたしのことを 「高慢ちき」 とか 「モヤシ女」 とか言ってなかったっけ?
「モヤシ女はあってるけど、高慢鼻持ちならぬ、よ」
苦笑いを浮かべながらベリンダが言うと、優雅な笑みを浮かべるゆりこさんが続く。
「ねぇこれ、クロウさんはなんて答えるのかしら?」
クロウの気持ちなんてわからないけれど……もっとわからないのは、どうしてそれをわたしに訊くのかってこと。
そもそもこの会話はクロウにだってギルドチャットで聞こえているんだから、本人に直接聞けばいいじゃない。
『またこの嫁は鬼畜なことを……』
『グレイさん、そのうち捨てられても知らないよ。
とりあえずそばで怒ってるのが鬱陶しいから、これ、早めになんとかしてよね』
クロウ本人は、とりあえずわたしが泣き止んだから安心したのかなにも言わないんだけれど……いや、クロエの話では怒ってるんだっけ?
なにに怒ってるわけ?
まずそこをわたしにわかるように説明してくれないと、手の打ちようがないんだけれど。
「そんな悠長なことを言っていると、本当にローズに取られちゃうわよ」
さっきからゆりこさんの匂わせ発言が続いているんだけれど、わたしには意味がさっぱりわからない。
いや、でもね、匂わせ発言ってわかるだけでも進歩してると思わない?
ねぇねぇ、進歩してるわよね、わたし。
『してる、してる』
なぁ~んか全然褒めてないんだけど、カニやんのその言い方は。
『当たり前だろ、褒めてないんだから』
『あの、訊いてもいいっすか?』
JBの質問にわたしが 「いいわよ」 って答えるより早く、恭平さんが割り込んでくる。
『やめた方がいい。
お前、結構爆弾落とす確率高いから』
『たいしたことじゃないし。
クロウさんとグレイさんって、デキてるんすよね?
こんなラブラブで、今更ローズさんの割り込む隙なんてないっしょ』
一呼吸ほどの間があって、何人かの声が被って聞こえる。
『それ、爆弾な』
JBの特製爆弾投下でグレイの喪女卒業も日も近いっ?!(笑