146 ギルドマスターはナンバー1です
pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!
どうしてこうなったのか?
ほんっとうにわからない!!
どう考えてもわからないんだけれど、なぜか行われるミスコンテストに出場することになってしまった。
しかももらえる三種類の水着をマメに選ばれて、多少、色や形にバリエーションはあるものの全てビキニとか…………悪夢だわ。
もう目眩が止まらない。
「当日が楽しみでーす!」
この三種類の中からどれを選ぶか?
とっても重要な問題なんだけれど……とりあえずマメ、ぶっ殺すから覚悟してね。
せめてワンピースにしてくれればよかったのに、なにが楽しくて全部ビキニなのよ?
もう少し布面積の広いデザインにしてくれればよかったのに、そこにも容赦なし。
これでハイレグとか紐とかあったら……紐はちょっとあるけれど、どれにしたらいいのよ、これ?
ねぇクロウ……はいないんだった。
戻るまで待っていたら一緒に考えてくれるかしら?
だって自分じゃ決められなくて……三種類ともわたしの好みじゃないし、そもそも水着なんて高校を卒業して以来着たことなんてないし、買ってもいないし、お店に売り場を見に行ったことすらなかったのに。
でも絶対にどれかを着て出場しなければならないとか、これ、どんな罰ゲームよ?
当日ログインせずにぶっちすることも考えたけれど、ラウラが親父どもにどんな復讐をするつもりなのかは興味があるのよね。
凄く知りたい
でもこの水着の中から自分で選ぶことが出来なくて、クロウを待ってみた。
しばらくしたらギルドルームに戻ってきてくれたから相談してみたんだけれど、頭を抱えられてしまったわ。
うん、まぁ悩むわよね。
でもだからってカニやんはともかく……そもそもカニやんとクロエは相談にすら乗ってくれないだろうし、かといって脳筋コンビはエロ親父だし、恭平さんとハルさんは間違いなく逃げると思う。
だからクロウしかいないんだけど、事情を説明したら、頭を抱えながらも相談には乗ってくれたんだけれど、話をする前にまず、相変わらず掲示板に張り付くためにギルドルームにいたマメをぶん殴る。
もちろんクロウがね。
これは仕方がない
マメには大人しく吹っ飛ばされてもらった。
でも結局わたしは自分の水着を決められなくて、カニやんには 『鬼畜』 とか言われながらもクロウに選んでもらったのは紺色の水着で、縁に白いフリルがあってヒラヒラがちょっと可愛い。
うん、まぁでもビキニなんだけれど。
進んで着ようっていう気は毛頭ないんだけれど。
せめてもの抵抗に 【富士・火口】 に行ってスザクを落とし、関西エリアの琵琶湖湖畔にある森で大蜘蛛を大量ぎゃ……ゲフゲフ……間違えました、ちょっと多めに大蜘蛛をぶっ叩いて素材を集め、日傘と同じ藤色をしたロングパレオを作ってみた。
とりあえずこれを巻いてスカートの代わりにします。
でもビキニなのよ。
どうにかして上を隠す方法を考えて……あとでパーカーとかラッシュガードなんて便利なものがあるということを知ったんだけれど、ここ数年、水着というワードにすら触れなかったわたしは知らなかった。
情報は常にアップデートしなければならないということを久々に勉強したんだけれど、この時点では知らなくて、仕方ないから、とりあえずクロウにしがみついておく。
コンテスト当日、同じように水着姿で会ったゆりこさんやベリンダには水着を見せてとからかわれたけれど、出来るわけないでしょ!
堂々と水着ではしゃげる二人が羨ましい。
ゆりこさんは黒髪に映える鮮やかなオレンジ色のワンピース。
ずるぅーい!!
わたしもワンピースがよかったのに!
ベリンダは真っ赤なビキニで、りりか様は……あら、りりか様も参加するんだ。
決してりりか様のことを忘れていたわけじゃないんだけれど、ちょっと予想外で驚くわたしに、りりか様は恥ずかしそうに顔を赤くして声を荒らげる。
「マメに無理矢理参加登録させられたのよ!」
…………わたしと同じね…………。
あの極振りに近いSTRにかなわなかったのも同じ。
でもマメってばギルドルームでクロウに殴られた時は軽く飛んでいったから、やっぱり倍近いレベル差はステータスポイントにも結構な差があるみたい。
つまり一時的とはいえ、今のマメが持っているステータスポイントを全てSTRに振ってもクロウにはかなわない、と……どんな鉄筋だろう、クロウのSTRって。
その差があってもマメがあれだけの強力を見せたってことは、いつものクロウはわたしに加減してくれてるってことよね。
マジ鉄筋
さすがにりりか様は自分で水着を選んだらしいんだけれど……えっ? ずるい!!
わたしは水着すら選べなかったのに……そんな恨みを同じ犠牲者のりりか様にぶつけても仕方がないんだけれど、彼女が選んだのはワンショルダーのワンピース。
黒とベージュのバイカラーで、ちょっと綺麗な感じのデザイン。
普通にトップスにありそうで、スカートやパンツを合わせたらオフィスカジュアルになりそう……あ、肩出しはダメだけど……。
そんな水着をわたしとりりか様に着せた張本人マメは、黒のハイレグ水着とか……しかもパンツが紐……紐……。
ゲームのプレイスタイルは人それぞれなんていつも言っているわたしだけれど、その水着を見せつけるようにわたしの前でポーズをとってみせるマメを見て、さすがに言葉が出てこない。
ただただクロウの陰に隠れて、脳筋コンビの冷やかしにも堂々とポーズをとるマメを、怪物でも見るような気分で遠目に眺めているのが精一杯。
その足下でルゥがウロウロしていたんだけれど、またフンフンフンフン……なにを嗅ぎ始めたのかと思ったら、フワフワと揺れているわたしのパレオの裾。
あ、これはヤバいかも……って思った矢先に、案の定、ルゥってば揺れる裾に興味を持ってじゃれついてきた。
ダメダメ、引っ張ったらパレオが外れちゃうからダメ。
結び目を押さえながら慌ててルゥの大きな頭を押さえようとするんだけれど、大きな眼をキラキラさせて凄く楽しそうに裾を前足で払ったり、噛もうとしたり。
間違ってわたしの手を噛んじゃダメよ!
狙ってる? これ狙ってやってるの?
まるでナゴヤジョーのシャチたちみたいにシャコーンとしようとして、寸前でクロウがルゥの首根っこを捕まえて持ち上げる。
わたしの目の高さまでルゥを持ち上げたと思ったら、そのまま押しつけてきた。
え? なに?
「これを持ってろ」
ルゥを抱っこしていろってこと?
ああ、なるほど。
ルゥを抱っこしていたら胸元を隠せるのか、確かにいい手だわ。
ついでに日傘を斜めに差せば背中も隠せるとか、クロウ、頭良い!! ……ってわたしは思ったんだけれど、なぜかゆりこさんやベリンダには不評だったこの作戦。
不評でもなんでも、今日のわたしはこの作戦で行きますから。
そもそも彼女たちがマメを使ってこんなことをした理由というのが、せっかくの女の人限定イベント。
日頃は参加出来ないりりか様も誘って、みんなで楽しみたいって思ったらしいの。
うん、気持ちは理解出来たし、その考えはいいと思う。
で~も~
わたしに水着を着せるのはやめて欲しかった。
もちろんこうなったら参加しますが、あくまでルゥと日傘を使ったこの作戦での参加です。
コンテストが終わるまで傘は畳まないし、ルゥは下ろしません……傘はともかく、ルゥは難しそうだけれど。
だってすぐになんにでも興味を持ってしまうんだもの。
そして勝手にフンフンフンフン……臭いを嗅ぎに行ってしまう。
とりあえず今はわたしの方を向いて機嫌良くしている。
なにかくすぐったいなと思って見たら、肌に直接肉球スタンプを押して遊んでいる。
いつもはチャイナドレスを着ていて肌に直接触れることは出来ないから、感触が珍しいのかしら?
跡が残るほど強く押すわけでもないし、爪を立てるわけでもない。
ルゥが楽しそうにしているならまぁいいわよね、好きにさせておいて。
そういえば、ラウラはどこに?
見当たらない彼女の姿を探して周囲を見回したところで、テンプレから始まる運営の音声インフォメーションが入る。
コンテスト出場者は全員集合ってね。
指定の場所に行ってもラウラの姿が見当たらないんだけれど、水着姿の女の人ばかりって、ちょっと目の遣りどころに困る。
華やかっていうか……艶やか? っていうのかしら、こういう感じを。
『色気とは無縁だもんね、グレイさん』
ちょっとクロエ、まさかと思うけれどこの中に混ざってないでしょうね?
『なにが楽しくて自分から女の戦いに入るのさ?』
戦うって……うーん、まぁ戦いといえば戦いなんだろうけれど、別に剣で斬るとか魔法で溶かすってわけじゃないんだし、全然平和じゃない?
『今更ながらの平和主義宣言』
わたしは平和主義よ、なに言ってるの?
そりゃ色々やらかしてはいるけれど、やりたくてやっているわけじゃないし、狙ってやっているわけでもないんだから。
今回のイベント会場はナゴヤドームの中央広場で、噴水を撤去して特設ステージ……まぁそれらしい物が設えられ、わたしたち参加者は、そのステージ脇に設置された巨大なテントに集められた。
中にいてもエリア内のざわめきがテント越しに聞こえてくるんだけれど……
「暇な男どもがノコノコと集まりおって」
この強気な口調はシシリーさん。
自称 【漆黒の魔女】 を名乗るだけあって、水着も当然黒。
どうしてそんなにも堂々としていられるのかは疑問なんだけれど、うん、でも胸はわたしのほうが……ゲフゲフ……なんでもありません。
とりあえずわたしより背の高いゆりこさんやマメの後ろに隠れて彼女をやり過ごす。
まぁうちのギルド、わたしより背が低いのはラウラとキンキー、ジャック君しかいないんだけれどね。
それにしてもラウラはどこに行ったのかしら?
ゆりこさんが全然心配していないから大丈夫だとは思うんだけれど……そんなことを考えていたら、外から一際大きな声が聞こえてくる。
「プレイヤーの皆様には大変お待たせいたしました。
いつも 【the edge of twilight online】 をご利用いただきまして誠にありがとうございます」
さっき聞いたばかりのテンプレが繰り返され、広場に集まった多くのプレイヤーから容赦ないブーイングが浴びせられる。
「皆さんのお気持ちはよ~くわかります。
俺も同じ気持ちですから」
あら、テンプレじゃない言葉が出てきた。
どうやらイベントの進行役の声みたいなんだけれど、いつものクマとは全然違う。
新しい人なのか、それとも今回こそAIの登場か?
「でも絶対に言えって言われちゃって仕方なく言ってるんですから、そんなにブーイングしないで下さいって」
うん、たぶんAIじゃないわ。
今回も 【中の人】 は運営ね。
しかも、クマもそうだったけれど、今回も男の人。
プレイヤーの大半も男の人だけれど、運営もやっぱり男の人が多いのかしら?
それとも下っ端に男の人が多いのかしら?
「というわけで言うことは言ったので、早速始めさせていただきましょう。
以前に実施させていただきました化け猫屋敷に続く企画イベント、女性プレイヤーによるミスコンテスト。
ここに開催したいと思います!
わたしは今回のイベントの進行役を務めさせていただきます、運営の小林と申します」
出た、運営の小林!
『ここで登場か、小林君』
相変わらずお友達感覚なのね、カニやんってば。
広場にいるみんなにはその姿が見えているんだけれど、テントの中にいるわたしたちには声だけ。
どんな人かと思って覗き見しようかと思ったら、その必要はなかったっていうね。
「詳しいルールの説明は後ほどするといたしまして、まずは皆様に出場者をご紹介いたしましょう。
エントリーナンバー1、ギルド 【素敵なお茶会】 を主催します我らが女王陛下アールグレイ嬢」
………………は? わたしからっ?!
ちょっと待って!
まだ一人も出場者が並んでいない特設舞台に、わたし一人で出て行けとっ?
しかもエントリーナンバー1って、どういうことよ?
わたしより全然先にゆりこさんとかベリンダとか登録しているはずなのに、どうしてわたしの方が先なの。
これ、絶対におかしいわよね?
小林君、本編登場です。