145 ギルドマスターは力比べをします
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そもそもクロウはあまり機嫌がよくない。
まぁ理由はわかってるんだけれど……ええ、わたしのうっかりの尻ぬぐいの巻き添えです。
というのも第五回イベントで不破さんに作ってしまった借り。
あれの返し方を不破さんが指定してきた……っていうか、ご希望があったらしくて。
「クロウさんと対戦したいんです。
もちろん申し込みは自分でしますから、グレイさんから口添えしていただけますか?」
言葉の語尾こそお願いする形になっているけれど、あの妖艶な笑顔で、わざとらしいぐらい期待に満ちた顔をされたら断れなくて。
わたしが断れないってわかっていての作戦だと思うんだけれど、それはそれで結局わかっていても断れないのよね。
ごめん、クロウ。
不破さんが言うには、地下闘技場でクロウに対戦を申し込むから、キャンセルしないようにわたしからお願いして欲しいってことらしい。
まぁそれぐらいのことなら出来なくもないんだけれど、なんとかなるかな? って思ってお願いはもうした。
一応クロウの口からは 「わかった」 って返事をもらったんだけれど、以来機嫌が悪い。
そこになにやらうちの女性陣と揉めだして……いや、女性陣と揉める方が先だったかしら?
ちょっと記憶が曖昧なんだけれど、なにを揉めているのかも教えてくれなくて不機嫌が続いている。
こういう時でも相談すらしてくれないのよね、クロウってば。
それが原因かどうかはわからないけれど、不破さんとの対戦もまだらしい。
もちろんこれは不破さん情報。
何度か直通会話で誘ったらしいんだけれど、ギルド内での事情で……って断られているという話を、わたしに笑いながら教えてくれた。
これってつまり、わたしのほうから催促しろってことかしら?
言われた時は特になにも考えずに苦笑いで聞いていたんだけれど、今になって考えてみればそういう意味にも受け取れて…………ちょっと冷汗が…………不破さん、怒ってないわよね?
『相変わらず色々と忙しいな』
そう思うならカニやん、ちょっと不破さんに探りを入れてきてくれない?
『俺も忙しい』
なにに?
『なににって……ミスコンなんて時間稼ぎだろうから、次こそレベル上限開放が来るんじゃないかって噂、聞いてない?』
きいてない。
『そうみたいだね。
まぁグレイさんたちはもうレベル上限だし、実際に開放されるまですることないもんな』
そうね、言われてみればそうかも。
でもここしばらく、柴さんたちが忙しく出掛けていた理由と行き先がわかったかも。
レベル上げをしていたんだ。
となると行き先はどこかのダンジョン。
レベル上げが目的なら、経験値の美味しいシャチ金かな。
ナゴヤジョーは初心者用の銅、ドロップの銀、経験値の金……みたいな感じかな。
もちろんレベル制限があるからどこでも誰でも自由にってわけにはいかないんだけれど……うーん、わたしも久々に行こうかな?
ルゥも行く?
わたしの問い掛けに答えないルゥは、また飼い主を放ってフンフンフンフンフン……しつこいくらい臭いを嗅ぎながらあちらこちらを探索している。
ちゃんと前を見て歩いてね……っていっているそばから、向かいから来たプレイヤーとぶつかって。
前を見ていなかったのはお互い様なのに、有無をいわさずがっぷりいっちゃうんだから。
悲鳴を上げてのたうち回るプレイヤーから、最近はわたしが飼い主ってことが浸透してきたらしく、助けを求められてルゥを呼び戻す。
「ごめんなさいね」
「いえ、女王陛下にはご機嫌麗しく」
なにかしら、その挨拶は?
ルゥに噛まれたプレイヤーがそういって、やたら恭しくお辞儀をして行ってしまう。
第五回イベントのブーイングもなんとか鎮まりつつあるんだけれど、今みたいにわたしのことを 「女王陛下」 と呼ぶ見知らぬプレイヤーがとにかく増えて、今みたいに挨拶をしていく。
それこそなにもなくても、すれ違い様だけでこの調子なんだから。
言わせてもらうけれど、わたしは 「女王陛下」 と呼ぶことを許した覚えはないんだからね!
むしろ呼ばないでって、もう何回言ったと思ってるのよ?!
自分でも覚えていないくらい言ってるのに、誰も全然聞いてくれないとか。
あ……全然関係ないっていうか、話を戻して思いついたことがあるんだけれど
「レベル上げだったらスザクなんてどう?
破壊的な経験値がもらえるわよ」
わたしと一緒だったらほぼ確実に落とせるわよ。
以前と違って 【富士・火口】 は 【富士・樹海】 と分離されたインスタンスダンジョンだから 【灰燼】 を使っても樹海まで火の海になることはもうないんだけれど、パーティを組むなら使わないし。
そもそも再起動準備に24時間も掛かるから、使えても一回きりだし。
いや、使わないって
『同じことを考える奴が多くて、ずっと 【富士・火口】 に狼煙が上がりっぱなしなんだってさ』
あ~なるほど。
前にも説明したけれど、通称スザクと呼ばれる 【富士・火口】 は特殊なインスタンスダンジョンで、一組ずつしか入ることが出来ない。
挑戦者が入ると噴火口から空に狼煙が上がり、攻略に失敗すると狼煙が消えるだけなんだけれど、スザクを落とすと火口が噴火して派手に祝ってくれる。
このお祝いは運営からってことなのかしら?
わからないけれど、まぁ大人気になってるってことね、スザクが。
ちなみに失敗した場合……ほぼ確実に死亡状態になるんだけれど、その場合の死亡制裁はガッツリ経験値を持って行かれる。
それを考えたらスザクで経験値を稼ごうっていうのは結構ハイリスクなんだけれど、まぁ楽しければいいのよ、そのプレイヤーが。
でもおかげで混み合ってるのね。
じゃあやっぱりシャチ金に行こうかしら?
おいで、ルゥ。
油断するとすぐどこかに行こうとするんだから、抱っこね。
ちなみに片手に日傘を持っているので、もう一方の手だけでルゥを抱っこすることになるんだけれど、ルゥを前向きに抱くと、背中の毛がフワフワして凄く気持ちいいし、ルゥも短い手足でわたしの腕にしがみついてくれて可愛い。
ただあちらこちらを見て、すぐに興味がわいちゃって下りたがる。
だからわたしのほうを向けて抱き上げるんだけれど、そうするときゅーきゅーと可愛い声で鳴きながら頬ずりをしてくる。
うん、今日も安定の可愛さ
このルゥの可愛さが役に立つなんて、誰が思う?
わたしもこの時は思わなかったわ。
ルゥをもらってからずっと、イベントの日までね。
どうしてそんなことになったかといえば翌日、ログインしたわたしを待ち構えていたマメが……これ、待ち構えていたので間違いないわよね?
例のアイテム交換のために掲示板に張り付いていなければいけなくて、それでギルドルームにいたのは納得出来る。
でもわたしの姿がギルドルームに現われたと思ったら、いきなりうしろから羽交い締めにしてきたの。
これ、なんの真似?
よくわからないんだけれど、腹の立つことにマメはわたしより背が高くて、しかもSTRも高いみたいでビクともしない。
えっと……そうだったっけ?
ちょっとマメ、あなたのステータス、前と変わってない?
レベル的に考えて、このSTRは極振りにしないと得られないように思うんだけれど。
でも以前のマメは、万能職を気取ってステータスをあちらこちらに振っていたはず。
それこそ五つのステータスに満遍なく。
ひょっとして剣士目指してステータスを振り直したの?
「ステの振り直しはしましたが、剣士はしませーん」
はぁ? じゃあなんでこんなにSTRに振ってるのよ?
余裕綽々のマメに、わたしは抵抗を試みてそこら中の筋肉をプルプルさせている。
でもビクともしないって、絶対にこれ、極振り!!
この鉄筋具合はクロウ並みだけれど、マメのレベルはクロウの半分ほど。
VITやAGIに振ってたらポイント数が足りなくなるはずだもの。
『おいマメ、なにやってるんだ?』
「グレイさん捕獲」
うん、なんかよくわからないんだけれど、マメに捕獲っていうか、捕縛っていうか、なんかうしろから羽交い締めにされてる。
しかもビクともしない!!
そろそろ体力的に厳しくなってきた。
ちょっとマメ、なにがしたいのよ、これは!?
「イベントに参加して下さーい」
…………なに、それ?
しかもインカムの向こうから、これ、たぶんカニやんよね?
凄い溜息が聞こえてきたんだけれど、ひょっとしてマメの目的を知っている?
『まさかそんな強硬手段に出るとは思わなかったけど、おいマメ、ひょっとしてまた課金してステを振り直す気か?』
「そうでーす」
ちょっとマメ、なに考えてるのよ?
このSTR極振りが目的のための手段だってことはわかったけれど、ステータスの振り直しって、結構課金額高いじゃない。
そんな高額課金、何度もするつもりっ?
「大丈夫でーす」
そういう問題じゃないのよ!
もう、マメったら!!
『さすが廃課金。
金があるならいいけど、クロウさんはどうしたのさ?』
「クロウさんは脳筋どもがガッツリ監視してます!」
『手下みたいにいうな!』
『調子に乗るなよ、マメ!』
インカムの向こうから柴さん、ムーさんの声も聞こえてくるんだけれど、どうやら脳筋コンビは地下闘技場にいて、クロウも地下闘技場にいるらしい。
『ばっちり不破と対戦中』
つまりクロウにこの会話は聞こえておらず、わたしがログインしたことも知らないわけなんだけれど……えっと、こういうこと?
どこでマメが、クロウが不破さんと対戦の約束をしているってことを知ったのかはわからないんだけれど、それを利用して、クロウが地下闘技場に向かったのを見計らい、脳筋コンビに見張らせて、その隙にわたしを捕まえることにした。
もちろんわたしがログインする前に対戦が終わるようなことがあれば、柴さんとムーさんが足止めする手はずになっていたらしい。
そんでもって文句をいいながらも二人がマメに手を貸したのは買収されたから。
なにか欲しいアイテムがあったみたいなんだけれど、そのアイテムと交換で今回のマメの策略に手を貸すことにしたって……二人が欲しいアイテム = わたしの価値 っていう図式が気に入らないんだけれど、それを確認するのは後回し。
ちょっとマメ、こんなことをしてなにが目的よっ?
その確認が先って思うわたしの前にインフォメーションが出る。
information ベリンダ からメッセージが届きました
え? なに、これ? このタイミングでベリンダからメッセージって……そういえばベリンダってばどこにいるのかしら? ……なんて考えてたら油断しちゃったわ。
マメってば、表示されたインフォメーション画面からわたしの手を使って……いつもクロウがする要領でわたしの手を操り、インフォメーション画面からウィンドウを開き、そこから公式サイトにアクセス。
あ、ちょっと待って!
マメが何をしようとしているかようやくわかったんだけれど、少し遅かったみたい。
よりによってミスコンに参加登録しちゃうとか……ちょっとー!!
あれだけ出ないって、水着なんて着ないっていったのに、なにしてくれちゃってるのよ!!
「ギリギリで間に合ったわね」
どこにいるのかと思ったら、ギルドルームの隣にある休憩室から出てきたベリンダとゆりこさん。
二人してそこで何をしていたのかしら?
「なかなかクロウさんが離れてくれないから、間に合わないかと思ったわ」
「あの唐変木。
どんだけグレイさんを独り占めしたいのよ」
「ふ、ふ、ふ~、マメの作戦勝ちでぇ~す」
『作戦終了ってことだな?』
『マメ、約束忘れるなよ』
「二人とも、褒めてつかわすぞ」
………………誰か、この状況を教えて。
すっかり脱力しちゃって床に座り込むわたしに……あ、ただ体力の限界に来ただけなんだけど、用が済んだマメが腕を放してくれたのでとりあえず床に座って休憩。
このやりとりの全てを知っていそうな人に訊いてみる。
カニやんね。
『え? だからグレイさんをミスコンに出場させるためだろ?
グレイさんは絶対に嫌だって言うからクロウさんに説得してもらおうとしたのに、あの人、頑として首を縦に振らないから。
当たり前っちゃ当たり前なんだけど、どうしても出て欲しいんだってさ、ゆりこさんたちは。
で、マメが脳筋どもを買収して不破さんの件を聞き出して、地下闘技場にいるクロウさんを監視しているあいだにマメが……あとは言わなくてもわかるだろ?』
あとは今あった出来事ね、わかった。
つまりゆりこさんたちは直通会話を使って、クロウにわたしをミスコンに出場するよう仕向けてもらおうとしたのに、全然聞き入れてくれなくて、クロウはそれで不機嫌だったと。
で、参加登録の締め切りが迫った今日、実力行使に出た。
『珍しく自分で要約出来たじゃん』
『頭は悪くないからな』
カニやんの言葉に、わたしに代わって言い返したクロウの声は久々に怒っている。
不破さんとの対戦、終わったんだ。
訊くまでもないと思うけれど、一応訊いてみる。
「勝敗は?」
『勝った』
うん、やっぱりそうよね。
訊いた私が野暮だったんだけれど、不機嫌なクロウの声は凄く平板。
えっと……これ、わたしが悪いの?
だって、わたしだって騙されたっていうか、填められたのよっ?
なのにわたしが怒られるって……なに、この理不尽。
しかもわたしとクロウが話しているあいだにもマメがわたしの手を操っていたらしくて、もらえる三つの水着を選択していたっていうね。
ちょっと待って、わたしにビキニを着ろっていうのっ?
ウィンドウに表示されたデザインを見て、わたしは一瞬気絶しそうになった。
だって、こんなの……着るだけでも死ぬ思いなのに、これを着て人前に出るとか……無理!
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理、ぜーったい無理!!!!
マジ、死ぬ!
というわけで結局ミスコン参加です。
次話、ミスコン開催! ・・・のはず(汗