141 ギルドマスターは残念です
pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!
恭平さんの登場で再燃しちゃった 【シシリーの花園】 の醜聞。
わたしは以前にハルさんから聞いて知っていて、そのハルさんは当事者である恭平さんから聞いて知っていた。
だからそれほど驚かなかったんだけれど、さすがにギルドを脱退した六名のうち四名も引退していたという事実に、集まったプレイヤーたちは驚きを隠せない。
始まる非難からシシリーさんを救ったのは……もちろんそんなつもりなんて全くなかったんだろうけれど、結果的にそうなった運営。
ポイントの最終集計並びに今回の問題についての裁定を下したらしい。
で、まるで生贄の如く、着ぐるみ一枚というなんともひ弱な武装でプレイヤーの前に立たされたクマが、奪い返したマイクを高々と上げて宣言する。
これに対して上がったのは歓声だけじゃなくて、それ以上のブーイング。
たぶんクマも 【シシリーの花園】 の醜聞のことは知っていただろうけれど、公式イベントの結果待ち時間にこんな騒ぎになるとも思っていなかっただろうし、よもや自分がブーイングを受けるなんて全くの予想外だったはず。
着ぐるみを着ていてもわかるぐらい引いている。
わたしなんてもっと酷いブーイングに遭ったのに、この程度で怯むなんて、運営にあるまじき軟弱者。
ひょっとして、下っ端どころかアルバイトが中に入ってるの?
かわいそうに……
まぁ下っ端とかアルバイトの運命よね、こういう損でハードな役目は。
せいぜいバイト代をはずんでもらってね。
さぁて、どういう結果が出たものやら……
1位 アールグレイ 【素敵なお茶会】 主催者
2位 クロウ 【素敵なお茶会】 サブマスター
3位 ノーキー 【特許庁】 主催者
4位 ノギ 無所属
5位 不破 【特許庁】
6位 カニやん 【素敵なお茶会】 サブマスター
7位 ミンムー 【素敵なお茶会】
8位 しば漬け 【素敵なお茶会】
9位 串カツ 【特許庁】
10位 恭平 【素敵なお茶会】
11位 リー 無所属
12位 ちゅるん 【特許庁】
13位 クロエ 【素敵なお茶会】 サブマスター
14位 ジャック・バウアー 【素敵なお茶会】
15位 ライカ 【暴虐の徒】 主催者
………………軒並みうちのギルドで埋められたのは快挙ってことでいいのかしら?
ちょっと意外すぎる結果にわたしは唖然としちゃったんだけれど、隣で 【特許庁】 も盛り上がっている。
前回はノーキーさん、不破さん、串カツさんの三人だった入賞者が、今回は一人増えて四人に。
誰かしら、このちゅるんさんって?
どんな人? ……って誰にともなく訊いてみたら、剣士組はみんな知っているらしく、盛り上がる 【特許庁】 の中でサンバを踊っている女性プレイヤーを指やら顎やらで指し示してくれる。
え? あの人?
だってそのサンバを踊っている女性プレイヤーってば、衣装も、その、なんていうのかしら?
ブラジルとかの、リオのカーニバルっていうの?
ああいうので踊っている本場のダンサーみたいに派手な……派手…………ねぇ、あれ装備なの?
だって本体も物凄く布面積が狭くて……改めて 【特許庁】 を見て、もうね、これは諦めたわ。
あの人たちがかなりの露出狂だってことは諦めざるを得ないみたいなんだけれど……だって、ほとんどの人が凄い露出が高いんだもの。
たぶん前回の装備よりも露出度が上がってると思う。
この調子じゃあの人たち、そのうち素っ裸で戦闘するんじゃないっ?!
もう、なんてものを見せるのよ!
恥ずかしくてちょっと錯乱しちゃったわ。
クロウに髪とか撫でてもらって、辛うじてボロ泣きは堪えられたけれど、ほんと、なんなのよあれは。
ちゅるんさんはその中でも色も派手派手で、頭とか背中とかに凄い羽根飾りを付けてて……ひょっとして、あれを作ったのもカジさんなの?
だとしたら、そりゃ一つを作るのに時間が掛かるわ。
どんなスキルがあれば作れるのよ、あれは?
前回は10位以内に付けていたライカさんも、今回は順位を下げてギリギリ15位入賞。
一緒にランクインしていた同じ 【暴虐の徒】 のポールさんは大幅に順位を落としている。
そういう意味ではあまりにも早く落ちたセブン君も、今回は入賞を逃すという大番狂わせ。
同じくクロエも入賞こそしているけれど、10位以内を外してしまった。
シビアだわ……
無所属でありながらも……ノギさんも無所属だけれど、あの人はあれだから例外として、事前情報などで不利な無所属プレイヤーでありながらも、リーさんは順位を上げて大健闘。
柴さんたちと知り合いだっていうし、どんな人か、一度会ってみたいかも。
うん、そのうち紹介してもらおっと。
健闘といえばJBも。
正式プレイヤー名での表示になったのは残念賞だけど。
カニやんやムーさん、柴さんは不破さんに負けたのが面白くないみたいで、そこに本人がいるとわかっていて文句タラタラ。
でもそこは大人な不破さん。
大らかな笑み……いや、不敵な笑みでサラリと受け流している……っていうか、挑発しているっていうか。
みんな順位はいいんだけれど、その中でも一番の健闘は恭平さんよね。
さすがにカニやんや脳筋コンビには勝てなかったけれど、剣士に転職してそれほど長くないのにギリギリ10位入賞とか。
正式プレイヤー名での表示に加え、剣士歴の短い恭平さんに負けたJBはダブルパンチでダメージ倍増。
悔しさのあまり頭でもおかしくなったのか、いきなり噴水に頭を突っ込んだ。
これ、大丈夫?
さすがにちょっと心配になったんだけれど、脳筋コンビに 「武士の情け」 とかよくわからないことを言われて放っておいたんだけれど……ま、まぁ、窒息することはないだろうから大丈夫よね。
最下位から下位10位はプレイヤー名を秘匿されるのは前回と同じ。
下位11位から上位16位までは公式サイトのみでの発表となり、15位からクマが紹介していくんだけれど、12位のちゅるんさんの時は、それはそれは盛大に 【特許庁】 が盛り上がる。
ちゅるんさんは盛大に羽根を揺らして踊り、その周りでメンバーたちが鳴り物で騒ぐ騒ぐ。
蝶々夫人や不破さんまでがタンバリンとか振っちゃって、次の表彰に移るのに時間が掛かった。
しかも11位は無所属のリーさんだったから、その差にちょっと空気がおかしくなったくらい。
でも10位で恭平さんの名前が読み上げられたら、また 【特許庁】 が騒ぎ出しちゃって……これ、お祝いしてくれてるってことかしら?
9位の串カツさんの時も盛り上がっていたし、5位の不破さんの時も。
3位のノーキーさんの時が最高潮で……っていうか、3位からはインタビューがあって、クマが向けるマイクを奪い取ったノーキーさんが他のプレイヤーたちまで煽っちゃって……もうこれ、表彰式じゃない。
サンバカーニバルよ!!
2位のクロウで一回静かになったんだけれど、クマにマイクを向けられたクロウってば、たった一言。
「俺はいい」
……え? それでインタビューは拒否出来るの? っていうか拒否しちゃったとか、ちょっと待ってクロウ、狡くないっ?!
そんなたった一言で?
じゃ、じゃあわたしもそれで……ってわけにはいかないのよね、特に今回は。
クロウにインタビューを拒否されたクマも、名誉挽回、汚名返上……は意味が違うか。
プレイヤー側にいいようにあしらわれてなくし掛けた立場を取り戻すが如く……うん、これよ!
表現ばっちり!!
もうね、マイクでわたしを殴る気かっ?! ……っていうくらい勢いよくマイクを突きつけてきた。
クマ的にはクロウに続いてわたしまで逃してたまるかってことだったんだろうけれど……うん、ちょっと前歯に当たって痛かったわ。
言っておくけれど、決してわたしが出っ歯ってわけじゃないから。
クマが目測を誤ったっていうか、勢いをつけすぎたっていうか……とにかく運営はわたしを失格にせず、ポイントもそのまま計上。
つまり 【灰燼】 の発動を公に認めた。
その上でわたしの順位を1位とした。
まぁつまり、ポイントの総取りか、処分か……その賭けにわたしは勝ったってことよね。
それが運営が下した裁定である以上、プレイヤーはそれに従う……わたしも例外なく。
ええ、もちろん従うわよ、従うけれど……。
「えっと……そ、の……」
……お願い、みんなこっちを見ないで。
そんなにみんなに見られると恥ずかしくて……言わなきゃいけないことも言えなくなる。
何度も言うけれど、わたしはこういう人に注目されることが苦手で……逃げたい……。
クマはクマで、逃すまいと 「さぁ!」 「さぁ!」 とか繰り返してわたしになにか喋れと迫ってくる。
わかった、喋るからちょっとマイクを離してよ。
近すぎて、鼻をすする音が入ってるとか……どんだけ辱めるのっ?
これ、なんのプレイっ?!
「……つ、次のイベントもみんなで楽しみましょうね」
……………………わかってる。
凄く残念ってわかってるから、誰もなにも言わないで。
でもこれが精一杯なの、わかって。
今のわたしにはこれが精一杯なの!
あまりにも情けない主催者に周りでみんなが笑って……ない?
ない木の代わりにクロウにしがみついて、こっそり周りの様子を伺ってみたら誰も笑ってないんだけれど、代わりに聞こえてくるのが……
女王陛下、バンザーイ!
…………これ、なにかしら?
「なにって、女王陛下賞賛」
カニやんってばそれこそ 「なに?」 って顔をするんだけれど、唱えているのはプレイヤーたちで……うん、まぁ煽っているのはノーキーさんを筆頭に 【特許庁】 の人たちなんだけれど……けれど……なに諸手を挙げて繰り返しているのかしら?
しかもさっきのサンバカーニバル以上の盛り上がりというか、迫力というか……だってこの広場に集まったプレイヤーのほとんどがやってるのよ。
声まで揃えて、両手を挙げるタイミングも一緒。
なによ、これ?
「すげぇな、地獄からいきなり天国とか」
いやいやいやいや、地獄はわかるけれど……イベントエリアから一般エリアに戻ってきた時のあの感じよね、うん、わかる。
ブーイングとか、痛いくらい刺々しい視線とか。
でもこれは天国っていわないのよ、わたしにとっては!
っていうか、わたしを女王って呼ばないでって何回言えばわかるのよっ!!
「そんなもん、とっくにみんな忘れてるって……」
出来たら早めに思い出してくれる?
とりあえずこれで無事に表彰式も終了ってことで、わたしは可能な速さでギルドルームに逃げ込む。
い、息が……切れる……イベント一つこなしたあとだから、さすがにちょっと疲れた。
こういう時はあれよ、ルゥで癒しましょう! ……ってことでルゥを腕輪から呼び出してみる。
待ってましたー!! とばかりにご機嫌なルゥはきゅ! って可愛い声を上げて腕輪から登場。
ぽんっと中空に現われたのを両腕でキャッチすると、ルゥも嬉しそうにしがみついてくれ……た……と思ったんだけれど、すぐに不満げな声を上げだした。
いつもの可愛いきゅって声じゃなくて、ぎゅーぎゅーって……不満度MAXな声を上げ、大きな眼まで吊り上げてわたしの胸元を睨んでいる。
指先でつまみたくなるような小さな牙まで剥いてなにを怒っているのかと思えば……ああ、胸当てか。
イベントが終わってからバタバタしていて、うっかり外すのを忘れていた胸当て。
ルゥはなぜかこれが嫌いなのよね。
「だからそいつ、オスなんだってば」
ちょっとカニやんは黙っていて。
今はルゥのご機嫌を取るのに忙しいんだから……っていい返しつつ胸当てをとる。
データだから一瞬で出来るんだけれど、タイミングが悪かったっていうか、なんていうか。
胸当てに敵意を燃やしたルゥってば、爪で掻いたくらいじゃどうにもならないってことは学習したらしく、それなら噛み砕いてやろうとでも思ったみたい。
そう、噛みついたのよ!
い……たぁ……あ~!!
もうこれ、どうしたらいいのっ?
よりによって胸を噛まれるとか……恥ずかしくて死にそう……。
とりあえず第五回イベントはこれで終了。
色々と事後処理は残りますが、次話は番外編の予定です。