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136 ギルドマスターは炎上を覚悟します

pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!


久々の特大遅刻です……(汗

information ミンムー が撃破されました


 これで 【素敵なお茶会】 のメンバーは残すところわたし一人。

 比べて 【特許庁】 はノーキーさんと不破さんの二人が残っているのがちょっと癪なんだけど、とりあえずノーキーさんが引き連れてきた熱烈な()支持者たちと、騒ぎを聞きつけて後から後から沸いてきたプレイヤーたちを片付けるのに忙しい。

 そういう意味では今二人に落ちてもらっては困るんだけれど……


「グレイさんって結構我が儘なんですね。

 そういうところがクロウさんには可愛いんでしょうね」


 いつもの調子でいたら不破さんに笑われてしまった。

 忙しさのおかげでその胸元のはだけた装備を気にせずに済んだのに、こういうからかわれ方をされると…………ん? クロウ?

 クロウがどうかした?

 足りない筋力を補うため、ちょっとカロリーが脳にまで回らない状況みたい。

 ついでに体力もね。

 ノーキーさんも不破さんもわたしより歳上っぽいけれど、そこは男の人よね。

 全然元気で余裕。

 ちょっと息が切れてきちゃって、悪いけれど業火を使わせてもらうわ。

 でも落とし損ねたのは二人にあげるから許して。


「どうぞ」

「はぁ?

 ふざけんなや、グレイ!」

「クズは黙ってろ」


 当然のようにノーキーさんは大きな声で文句を言い出し、引こうともしない。

 それどころかどんどん前に斬り込んでいくんだけれど、わたしが撃たないと思ってやってる?

 お生憎様。

 どうせノーキーさんは一撃くらい食らっても落ちやしないんだもの、かまいやしないわ。

 冷静な不破さんはあっさりと了承し、屍鬼(しき)の長さを上手く利用して下がるタイミングに合わせて……


「起動……業火」

「あ、てめぇ!」


 あはははは!

 ノーキーさんには怒られちゃったけれど、でもやっぱり落ちないじゃない!

 しかもギリギリで交わして直撃は食らってくれないし。


「アホですが、脳筋なので」


 そこは不破さんもよくご存じで。

 じゃ、生き残りは早い者勝ちでよろしく……ってわたしが言い終わらないうちに二人とも斬り込んでいく。

 この早さはうちの柴さんムーさん並みで、掃討能力も高くて便利。

 そんな二人の討ち漏らしや、中距離から撃ってくる魔法使いを牽制しつつ 「隠れキャラ」 について不破さんと話す。

 不破さんがそれに気づいたのは屋上じゃなくて……だってほら、クロエもいっていたじゃない。

 剣士(アタッカー)が普通に屋上に上がっても仕方がないって。

 所在の知れた銃士(ガンナー)を狙って屋上に上がることはあっても、いるかどうかもわからないのにわざわざ上らないわよね。

 だからこそ銃士(ガンナー)も……一発ではだいたい落とせないのが普通だから、連射を外さずに当てるくらいの技術(うで)が必要になる。

 たぶん一番育成が楽なのが剣士(アタッカー)で、一番難しいのが銃士(ガンナー)だと思う。

 ゲーム内バランスでも一番多いのが剣士(アタッカー)だし、一番少ないのが銃士(ガンナー)

 そのあいだでフラフラしているのが魔法使いって感じかしら?

 プレイヤー数もだけれど、立ち位置も。

 不破さんが見つけたのは、数人がかりで斬りかかられた直後、移動しようとした矢先にこっそりとその場から逃げようとしたプレイヤーを見つけたのが最初。

 もちろんその時はなにも思わなかったらしいんだけれど、そのあとも物陰にじっと息を潜めているプレイヤーを何人も見つけたらしい。

 相手に戦意がなくても落としてあげるのが不破さんだけど……優しそうな顔立ちなのに結構シビアな性格なのよね。

 おまけにホストなのに、女性プレイヤーも容赦なしとか。

 それ、営業的にどうなの? ……って思ったのはわたしの心の中での話。

 絶対口には出しません。

 しかも今はイベント中だからポイントを稼ぐのは当然なわけで。

 だからわたしも、レベル差があろうと同じギルドだろうと落とすわけで……あ、別にこれはトール君を落とした言い訳じゃないから。

 断じて言い訳じゃないからね。


「思い出したんですよ、前回のイベントのこと。

【素敵なお茶会】 の女性プレイヤーがそういうことをしてたのをね」


 あ~ココちゃんか。

 の~りんと合流する予定で、それまでのあいだ隠れて待っていた。

 あのことか。

 確かイベントのあと、ちょっと言われてたっけ。

 公式サイトの掲示板でも、弱いのに参加してどうのこうのって……ん? ちょっと待って。

 つまり何?

 あれらの 「隠れキャラ」 はみんな、イベント開始からずっとああやって隠れていて、イベント終了まで生き延びようとしてるってこと?

 生存点だけを稼ごうとしてるってこと?

 ココちゃんのやり方を見て、ああいうやり方もありって思っちゃったわけ?

 そう思っちゃうのもなんだけれど、でも……ねぇ不破さん、それって楽しいの?


「楽しい? とおっしゃいますと?」


 だから、そんなことをして楽しいの?

 わざわざイベントに参加して、それもバトルロワイヤルってわかっていて参加したのに落とされたくないだけでなく、他のプレイヤーを落とす気もなくて、二時間、ただずっと息を潜めて物陰に隠れているだけって、楽しい?

 少なくともわたしは楽しいとは思わないんだけど……きっと、ドキドキにハラハラで冷汗が止まらなくて、汗染みが気になって気になって生きた心地がしないと思う。

そもそもそれってどんなプレイよ?


「一種のMプレイでしょうか?」


 さすがに不破さんも苦笑い。

 実際にある種の我慢大会よね。

 それも被ダメも与ダメもない、ただただ本当の我慢大会。

 か、考えたくない……。

 だって被ダメと与ダメの我慢大会にはある種の緊張感があるもの。

 隙を見せれば被ダメと与ダメのバランスが崩れて命取りになるから。

 でもそれすらないって…………なるほど、だから歌なんて歌っていたのか。

 あの屋上でわたしが見つけた 「隠れキャラ」 のことを思い出したんだけど、確かに暇で暇で仕方がなかったでしょうね。

 もっと早く気づいていたらギルドメンバーを使って狩りだしてあげたのに……ちょっと自分でも性格が悪いって思うけれど、でも……そりゃゲームの楽しみ方は人それぞれだけれど、それでも他のプレイヤーを馬鹿にするような楽しみ方はなしだと思う。

 性格に合わないとか、選んだ(クラス)には不利なゲームとか、色々あるとは思う。

 だから運営だって参加を登録(エントリー)制にして配慮しているわけだし。

 その運営がこのタイミングで動いたのはなんの偶然?

 不意に音声インフォメーションが入ったのよ。


『これよりMAPに全生存プレイヤーの位置情報を表示いたします』


 イベントはすでに開始から一時間以上が過ぎ、でも残り時間三〇分というわけでもない。

 ずいぶんと中途半端な時間で、じゃあ生存プレイヤーが一定数を切ったのかと思ったら、MAPに点で表示される数は三〇人以上。

 あ、あれ?

 確か前のイベントでは三〇人を切った時点で、プレイヤー同士の遭遇率を上げるため表示に切り替えたけれど、今回はキリのいい時間でもなければ、人数も五〇人以上残っている……なに、この人数?


 五〇人っ?!


 いくらなんでも残りすぎでしょ?

 しかもMAPに表示される生存プレイヤーの位置情報はほとんどが動かない。

 もちろん全部が全部ってわけでもないでしょうけれど……わたしたち三人を表示する点もこうやって話しているから動かないわけだけれど、でもほとんどが 「隠れキャラ」 ってこと?


「なに、これ?」

「なんでしょうね」


 抜き身の屍鬼を片手に不破さんがわたしを見る。

 わたしがなにを考えているのか察したのか、その顔に不敵な笑みを浮かべる。

 けれど一人だけ、厄介な人がいるのよね。

 息を合わせたわけじゃないけれど、ほぼ同時にわたしと不破さんの目がノーキーさんを見る。


「不破さんはわたしに協力してくれる?」


 一応確認しておくわ。

 いつもカニやんは 「主催者(マスター)に従う」 っていってくれるけれど、そもそもこの二人は違うギルドだもんね。

 しかもノーキーさんはわたしと同じ主催者(マスター)で、不破さんが従うとすれば 【特許庁】 の主催者(マスター)であるノーキーさんだもの。

 二対一のこの状況は普通にわたしに不利で、さすがにランカーであるこの二人が一斉に斬り掛かってきたら間違いなく首を落とされる。

 どう頑張っても交わせるのは一人だけ。

 二人なんて無理よ。

 だから不破さんの返事次第なんだけれど……


「喜んで」


 あら、いいお返事。

 参考までに訊きたいんだけれど、どうして協力してくれるの?


「つまらないからですよ。

 ランキング中盤をそんな奴らが埋めて、なにが面白いんです?

 それで他の連中が白けたら、いずれゲーム自体が白ける」


 …………過疎(かそ)るのも時間の問題よね、そうなると。

 わたしと違ってそこまで見据えてるとか、本当に頭のいい人。

 どうして不破さんは 【特許庁】 のサブマスターにならないのかしら?

 わたしと不破さんの意見が一致したところで、問題はあと一つ。

 ほぼ同時にその視線がノーキーさんを見る。


「ほぉ、二対一かぁ~?

 いいぜ、来いや」


 大剣を片手に持ってノーキーさんがわたしたちを挑発する。

 生憎だけれど、わたしは他に仕事があるからノーキーさんのお相手は不破さん一人よ。

 不破さん、いっておくけれど制限時間はまた別のプレイヤーがここに現われるまで。

 それまでにノーキーさんを落とせれば、ポイントは不破さんのものってことで。


「てめ、魔女の手下に成り下がりやがって!」

「あんたには落ちてもらわないと困るんだよ」


 不破さんを罵るっていうか、挑発するっていうか……とにかく口の悪いノーキーさん。

 でも不破さんにも理由があるのよ。

 たぶん、これからわたしがしようとしていることは批判を浴びる。

 それこそ炎上必須。

 それを不破さんは支持してくれた……つまり一緒に吊し上げられる覚悟を決めてくれたんだけれど、ノーキーさんを巻き込むわけにはいかない。

 幸か不幸か 【素敵なお茶会】 には優秀なサブマスが三人もいる。

 事態を悪質と判断した運営がなんらかの処罰(ペナルティー)をわたしに科しても、ギルドの運営に支障はない。

 そりゃ多少はゲーム内で肩身の狭い思いをするかもしれないけれど、たぶん、理由を話せばみんなはわかってくれると思うし。

 でも 【特許庁】 のメンバーが不破さんをどう処するかはわからない。

 それ以上にアカウント停止処分が明けたばかりの主催者(ノーキーさん)を、これ以上処分対象にするわけにはいかないのよね、不破さんは。

 クズとか散々な言い方しているけれど、結局 【特許庁】 の人ってみんなノーキーさんのことが好きなわけで、不破さんも例外じゃないから。

 そんでもってノーキーさんも、脳筋のくせにそのへんをわかってるっていうね。


「俺だけのけものにしてんじゃねーぞー!」

「うるさい、おとなしく落ちろ」


 派手に剣戟を響かせて斬り結ぶ二人。

 不破さんがノーキーさんに押され気味なのは、決して不破さんが主催者(マスター)であるノーキーさんに遠慮しているからじゃない。

 普通に強いのよ、ノーキーさんが。

 ノーキーさんが不破さんを落とすか、不破さんがノーキーさんを落とすか、あるいは第三者の登場で引き分け(ドロー)になるか……個人的には不破さんにノーキーさんを落としてもらいたいところだったんだけれど……なにしろこれまでにあんなことやこんなことをされて……ああ、思い出すだけでも腸が煮えくりかえるあの屈辱の数々。

 いっそ自分の手で! ……て思ったけれど、ここは不破さんに譲る。

 でもどちらも剣豪でそう簡単には決着がつかなくて、制限時間がやってくる。

 来ちゃったのよ、他のプレイヤーが。

 わたしが引き分け(ドロー)を告げるより早く、二人がそのプレイヤーに斬り掛かる。

 一見不仲に見える二人だけれど、こういう時の呼吸はぴったり。

 でも二人の対戦が引き分け(ドロー)という結果が出たので、わたしも待機を終了して仕事に取りかかる。


「起動」


 始める詠唱に、一瞬でわたしの足下に展開される巨大な魔法陣。

 その大きさに、ノーキーさんはもちろん、不破さんも驚く。


「なんだよ、このデカさっ?」

「この大きさは……」


 たぶんこのゲームで使われる詠唱魔法の中でも、一番大きな魔法陣じゃないかしら。

 私のこの行動を運営がどう判断するか、プレイヤーたちがどう思うか、成功するか……不安要素は色々あるけれど、詠唱を始めてしまったらもう止められない。

 わたしはゆっくりと呪いの言葉を唱える。


「……かい……じん……」


 わたしの二つ名 「灰色の魔女」 の由来であるスキル 【灰燼(かいじん)】。

 このゲーム、【the edge of twilight online】 最凶のぶっ壊れスキル、二度目のご披露よ。

ようやくスキル 【灰燼】 の発動です。

長かった・・・(涙

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