135 ギルドマスターはランカー狩りに囲まれます
pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!
information の~りん が撃破されました
information トール が撃破されました
『うわぁ~容赦ねぇ』
ちょっと柴さん!
なんかその言い方だと、わたしが二人を落としたみたいに聞こえるんだけれどっ?
わたしが落としたのはトール君だけで、の~りんを落としたのは別の誰かよ。
もちろん知らないけれど。
インフォメーションだって続けて上がったわけではなくて、あいだに他のプレイヤーの名前が幾つか入っている。
さすがに暫定順位でも上位に入るのが難しい二人だけれど、まぁそこそこいいところにはつけている。
もちろんまだ一時間、つまりゲームの開催時間を半分も過ぎておらず、インフォメーションの上がる間隔もそれなりに狭い。
狭いんだけれど違和感は否めない。
どうしてもギルドチャットの話題はギルドメンバーが優先的になるけれど、【特許庁】 の串カツさんや 【暴虐の徒】 のライカさんも落とされている。
これはゲームが始まって間もない頃にカニやんが言っていた 『ランカー狙い』 の売名行為が結構横行してるってことかしら。
もちろん他のプレイヤーとの遭遇率が高ければポイントを稼ぎやすいけれど、その分早く疲弊して落とされやすい利点と欠点の表裏一体化。
それにこの銃士有利の環境を不利に変えている 『隠れキャラ』 みたいな感じのプレイヤーたち。
トール君を落としてホッと息を吐いたところでわたしは改まってそこに考えを戻そうとしたんだけれど……
「考え事ですか、グレイさん?」
穏やかに声を掛けながらも現われたのは 【特許庁】 の、サブマス権限を持たないながらもサブマスみたいな不破さん。
しかもそのまま斬りかかってくるとか、ちょっとやめてよ!
わたしは不測の事態に弱いんだってば。
さっきトール君との対戦で換装したままの屍鬼で、不破さんの屍鬼を受ける。
もちろんまともに受けたんじゃSTRの差は埋めようがなく、打ち当てて剣戟だけを派手に響かせ即座に後退。
打ち払うことが出来れば斬り返しも出来るけれど、それこそSTRの差で押し切られるのが関の山だもの、無理はしない。
しかも不破さんってば、笑ってるのよ。
あのホストっぽい怪しい笑みを浮かべながら、楽しげに斬りかかってくるの。
余裕っていうよりわたしのこと、馬鹿にしてるわよね?
魔法使いのくせに剣士の真似事をしてって……
「あ、失礼。
グレイさんにお会い出来て嬉しいのと、インカムでクズが怒っていまして」
【特許庁】 のギルドチャットをわたしは聞けないから嘘か本当かはわからないけれど、もちろんクズといえば、ローズとともにアカウント停止処分が明けたばかりのノーキーさんよね。
不破さんの話によれば憂さ晴らしよろしく暴れまくっているらしいんだけれど……まぁ予想通り。
斬りたい放題のバトルロワイヤルで、なにを怒っているのかと思ったら
『グレイは俺の獲物だ!
勝手に触ってんじゃねぇー!!』
だって……………………ん? 誰がノーキーさんの獲物よっ?!
勝手なことを言わないで!
って思ったらそのノーキーさんが、沢山のプレイヤーを引き連れてやってきた。
「グレぇ~イ、会いたかったぜー!」
わたしは全然会いたくなかったんだけど。
アカウント停止処分を食らっているあいだなんて、絶対に会わずに済むと思って、その存在すら記憶から抹消してしまえるくらい安心しきっていたのに、復帰早々向こうからやってくるなんて不運以外のなんだっていうのよっ?
こうなったら自力で排除するしかないわよね。
ぶっ殺す!!
しかもノーキーさんてば追っかけみたいな連中をわんさと連れてきた。
みんながみんなノーキーさんの熱狂的なファンで、熱烈に追っかけているのかと思ったら……その熱狂振りを見ればあながち外れではないんだけれど、目的が真逆っていうね。
つまり追いかけてきたプレイヤーたちの目的は、ノーキーさんのサインや握手なんかじゃなくて首。
相手かまわず喧嘩を売るが如く中途半端に斬りまくり、どんどん相手を増やしていったらしい。
わたしなら一人ずつ確実に落とすか範囲魔法で一気に落とし、溶かし損ねたプレイヤーを個別でとどめを刺して片付ける小心者戦法。
ノーキーさんは、こう……相手が多ければ多いほど燃えるタイプで、盛り上がるタイプで、乱切り……はお料理なんだけれど、乱取り……ほら、柔道とかの練習方法。
うん、あれともちょっと……いや、全然違うけれど、道場破りっぽいって想像したら出てきたわけで…………あ、あれだ。
武者修行っぽい。
浪人っぽい風貌をしているのはノギさんだけれど、やり方も全然違うんだけれど、でもあの二人はちょっと似ているかもしれない。
口に出して言ったら二人とも怒るのがわかっているから絶対に言わないけれど、しかも今はいってる暇もないし。
だってノーキーさんの取り巻きたちが、わたしたちにまでその触手を伸ばしてきたんだもの。
ちょっとノーキーさん!
「このクズが」
「やかましいんじゃ、不破!
てめぇが勝手にグレイと会うからだろうが!」
知らない人が聞いたら誤解されそうなニュアンスがあるんだけれど、まぁノーキーさんの頭にそんな細かいことを言うつもりはない。
言っても仕方がないもの。
「来るならこれ、全部片付けてから来たらどうだ」
「お前らにもポイント、分けてやろうと思って」
「お前のおこぼれなんぞいるか」
…………【特許庁】 ではこんな会話をしてるのね。
とりあえず、わたしは 【素敵なお茶会】 のメンバーなんだから、【特許庁】 の内紛というか、お家事情に巻き込まないでくれる?
仕方がないからノーキーさん、不破さんとは一時休戦。
共闘することになっちゃったのは不可抗力よ。
『グレイ、大丈夫か?』
クロウ?
うーん、とりあえず今のところは大丈夫だけれど、数が多くて忙しい。
集まったプレイヤー同士が斬り合うことはなく、ひたすらにわたしたち三人だけを狙ってくるんだもの。
そっちはどう?
『悪いが、今回は会えそうにない』
うん? それって結構ヤバいってこと?
忙しくもそんな話をしているあいだにもインフォメーションが上がってくるんだけれど……
information ジャック・バウアー が撃破されました
information クロエ が撃破されました
幾つか、不定期に上がってくる中に二人の名前を見つける。
あ、忘れられがちだけれど、ジャック・バウアーはJBの正しいプレイヤー名ね。
ノーキーさんと不破さんにとってJBはランカーでもないからスルーだったんだけれど、顔見知りってことで、クロエの撃破インフォメーションにはノーキーさんだけが冷やかすようにヒュッと口笛を吹いた。
そんな二人ですら驚いたのは……
information ノギ が撃破されました
え? ノギさんが落ちた?
一瞬わたしの見間違い……ほら、よく似た名前の別のプレイヤー名かと思ったの。
戦闘をしながらチラリと見ただけだったから。
でも……
「うわぁ~お、ノギが落ちた!」
「結構早かったですね」
人の不幸を派手に喜ぶノーキーさんはともかく、さすがに不破さんもスルーしなかったからわたしの見間違いじゃないみたい。
でももっとわたしたちを驚かせたインフォメーションが……
information クロウ が撃破されました
…………嘘…………クロウが落とされた?!
誰にっ? ……っていうか、このタイミングだとノギさんの可能性が高いかな。
もちろんたまたまタイミングが合っただけってこともありうるんだけれど……ただ、クロウに限って、ノギさんの撃破インフォメーションに驚いて隙を作っちゃったってことはあり得ない。
この第五回公式イベント、プレイヤー同士のバトルロワイヤル戦は何かがおかしくて、そのおかしな現象……というか、おかしなプレイヤーの動きの一つがこの 『ランカー狙い』。
実際に今、その現象にわたし自身が立ち会っているというか、渦中にいるというか。
可能性としてはノギさんもクロウも、この現象でゾリゾリHPを削られていったのかもしれない。
ただこんなに早く落ちたってことは、とどめを刺せるだけの剣豪と出会った可能性が高くて……どう考えたってこの二人で遣り合ってるわよね。
『旦那、落ちたな』
『暫定1位。
あくまでもノギに譲る気はないらしい』
『クロウさんらしいっていうか、俺もヤバい』
『落ちる時、挨拶していった方がいい?』
その声は恭平さんよね?
ううん、いらない……っていうわたしの返事が聞こえていたかどうか?
information 恭平 が撃破されました
information カニやん が撃破されました
「おお、カニが落ちやがった!
ザマァミロ」
「黙れ、クズ。
俺はちょっとカニやんと話したかったんだけどなぁ」
前回、散々カニやんに削られたノーキーさんは、未だ根に持っていたみたい。
でも自分で落とせなかったことは悔しくないらしい。
わたしはわたしのポイントを奪ったどこぞの誰かを心底恨んだわ。
一応訊いておくけれど、柴さんやムーさんじゃないわよね?
『いや、ちが……』
『俺は違う』
information しば漬け が撃破されました
柴さんの返事が途中で切れたのはそういうことね、わかった。
でも、こんなにもどんどんメンバーが落ちていくと、一人取り残される不安みたいなものが沸き上がってくる。
しかも忙しい中で訊けば、【特許庁】 ももうこの二人しか残っていないらしい。
そういえば不破さん、さっきカニやんに訊きたいことがあるって言っていたけれど、急ぎでなければあとで訊いておくわよ。
「いえ、訊きたいのはこのイベントのことなので」
不破さんってば、ノーキーさんに対する態度とわたしに対する態度が大違い。
しかもこの忙しい中でも使い分けられるとか、器用ね。
もちろん気づいたノーキーさんが声を上げて怒ったんだけれど、完全にスルーしてわたしに話しかけてくる。
「カニやん、なにか言ってませんでした?
このイベント、ちょっと変わってるとか?」
つまりあの話かしら?
いや、どっちの話かしら?
「どっち? ……といいますと?」
この 『ランカー狩り』 か 『隠れキャラ』。
どちらの話かと訊いてみたら、不破さんってば吹き出して笑いだす。
「なかなかの表現ですね。
ランカー狩りなんて珍しくはないですが、『隠れキャラ』とは絶妙な表現ですね」
ちなみに気づいたのがクロエだって教えたら、すぐには誰のことかわからなかったらしい。
二、三回斬ってから、不意に 「ああ、確か銃士の」 だって。
まぁギルド戦とかでも絶対に銃士は前に出てこないし、姿を他の人に見せることだって滅多にないし。
クロエ自身、あまり社交的な性格でもないってこともあるか。
で、不破さんが気になったのは 『隠れキャラ』 のほう。
いつもの不破さんなら、こういうことはまず蝶々夫人に報告するんだけれど、今回は個人戦のバトルロワイヤルだもんね。
火力をほとんど持たない彼女は参加しない。
それでギルドは違うんだけれど、カニやんを探していたらしい。
『隠れキャラ』 に気付いたのがクロエってことや、屋上に多くいるらしいってことを聞いて不破さんは、すぐそこにいたノーキーさんに斬りかかる。
え? ちょっと???
「このクズが!
こいつら引き連れて来なければ、今すぐにでも屋上にいる連中を斬りに行けるのに」
その忌々しいっていうか、憎々しげな口調から不破さんが怒っているのはわかるんだけれど、その怒りが向けられているのはノーキーさん?
それとも集まってるプレイヤー?
それともそれとも隠れているプレイヤー?
「全部」
結構ガッツリした欲張りな返事が返ってきたんだけれど、不破さんは、わたしたちが求めていた答えを持っていた。
もちろんそれがこの時点で正解かどうかはわからなかったんだけれど、とりあえず 【素敵なお茶会】 にも原因があるといわれれば協力するしかないわけで、わたしはこのあと、炎上覚悟の決断を迫られることになった。
次回あたりでいよいよあれを出してみようかと・・・(汗