134 ギルドマスターは上って確かめます
pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!
information ラッキーセブン が撃破されました
えぇぇぇぇーっ?!
意外なインフォメーションが上がってきた。
ゲーム開始からまだ30分ほどしか過ぎていないのにランカーの一人、セブン君が落ちた。
これにはわたしだけでなくうちのギルドチャットもざわつく。
主催者とはいえ違うギルドなんだけれど、さすがにセブン君がこの早さで落ちちゃうとね。
『さ、すがに早すぎない?』
驚きのためか、インカムから聞こえるクロエの声が不自然に途切れる。
第二回公式イベントで行われた前回のプレイヤー同士のバトルロワイヤルでは、二人で撃ち合って撃ち勝ったクロエだけれど、ポイント数でセブン君に負けて下位に甘んじる結果に。
今回はどうなるかと思ったけれど、こんなに早い段階で落とされるなんて予想外も予想外。
驚くわたしたちの中でもクロエが一番驚いているかもしれない。
まぁ予想通りといえば予想通りだったのが、落ちたセブン君が暫定順位1位ってことね。
バトルロワイヤルは個人戦だから、セブン君が落ちたところで 【鷹の目】 が総崩れになるってことはないんだけれど、すでに何名か 【鷹の目】 のメンバーの名前をインフォメーションで見ている。
銃士有利と思われた今回のイベントエリア 【廃墟】 が、意外にも銃士不利に働いているなんて……違和感以外に何があるっていうのよ?
『ひょっとしてグレイさん、確かめようとしてる?』
さっきわたしから逃げたポイントが、探るように訊いてくる。
『誰がポイントだよ?』
カニやん。
だってさっき逃げたじゃない!
せっかくまた5P稼げると思ったのに、あの逃げ足の速さは何よっ?
『あんなに走ったの、学生時代の体育の授業以来や!』
なによ、その憎々しげな言い方は!
『で? ひょっとしてどこかに上ってる?』
今? ええ、ちょっと高めの廃ビルに上ってるんだけれど……階段が辛い……。
ほんと、このゲームをしていてつくづく運動不足を実感するわ。
いくら廃ビルだからってエレベーターとかエスカレーターとか、停めなくてもいいじゃない。
一階からちまちまと階段を上らなきゃならないとか……しんどすぎる……。
『えっとグレイさん、廃ビルだからエスカレーターもエレベーターも止まってるんじゃないですか?』
『あんな文明の利器がハッスル動いてたら、廃ビルが廃にならないだろうが。
ただのビルだよ、ただのビル』
トール君の正論を、カニやんが暴論で補足。
そんなこと、わざわざ二人がかりで説明してくれなくてもわかります!
わたしのこと、どんな馬鹿だと思ってるのよ。
いま何階にいるかわからないんだけれど、落ちた天井から空が見えるからおそらく最上階。
この階段を上れば屋上に着くはずなんだけれど……いくらわたしがうっかりさんでも、状況の確認をするためにわざわざ上ってまんまと罠にはまるようなボケはしません。
階段に這いつくばり、視線を床の高さにして屋上の様子を伺う。
見える範囲に他のプレイヤーは見当たらないんだけれど……うん? この音は?
…………歌詞までははっきり聞こえないんだけれど、これ、誰か歌ってるわよね?
もちろん知らない声。
インカムからではなくエリアチャットだから近くにいる誰かってことになるんだけれど……あ、わかった。
この声はたぶん……予測を付けたわたしはこっそりと立ち上がり、忍び足で屋上に出る。
そして昇降口の壁伝いに上へと登るはしごを見つけ出し、ゆっくりと上る。
いた
昇降口の上に、隠れるようにプレイヤーが一人、床に張り付くように寝そべっていた。
なるほど、考えたわね。
このあたりではこのビルが一番高いから、昇降口の上に寝そべれば他のビルの屋上に上がってきた銃士にも見つからない。
誰かが上がってきても、階段を上ってくる足音で気づく。
まぁ歌なんて歌っちゃって、すっかり警戒心を失っちゃってるけれど。
このプレイヤーがいつからここにいるのかは知らないけれど、よほど暇だったのね。
いざという時に備えているのか、手にだけは抜き身の剣を握っているけれど、NPC武器屋で売っている廉価装備。
何気なくこちらを見た目と目が合う。
あら、見つかっちゃった。
じゃ、さようなら。
「起動……焔獄」
「う、わぁぁぁぁ!」
慌てて起き上がってきたけれど、残念ながらその剣はわたしに届かず。
これでまたポイントを稼げたんだけれど、こんなところで派手に火の手を上げちゃったものだから周囲のビルにいた銃士にも気づかれちゃった。
最初の一発はわたしの手元に着弾。
ちょっと、当たったらどうしてくれるのよっ?
『当てようとしてるんだよ』
あら、そうだっけ?
とりあえず手を放してはしごを飛び降りる。
そのまま転げるように昇降口に飛び込むと、直後、はしご下の着地点に着弾がある。
そこそこ腕はいいようだけれど、反応がちょっと遅いかな?
到底俊敏とは言えないわたしに逃げ切られちゃうなんて。
しかも着弾から方角がわかったし、交わす時にチラリと振り返ってみたらキラリと光る物が見えた。
居場所がわかったからこちらから向かってあげる、待っててねぇ~。
次の目標が決まると意外と足って軽いものね、どんどん階段が下りられちゃう。
『普通に、上りより下りのほうが楽に決まってるだろ』
さっきからカニやんがうるさい。
またうっかりばったりどこかで会わないかしら?
とりあえずカニやんはわたしのポイントだから、他の誰かに見つかっても落ちないように。
『さっきも言ったけど、俺をポイント換算するなって』
『頑張って生き延びろよ、カニ』
『会ったら本気で落としに行くけどな』
『それでも落ちるなとか、お前らどんだけ鬼?』
カニやんてば、相変わらず柴さんやムーさんと仲良し小好しなんだから。
全然妬けないけれど。
とりあえずこのビルの屋上に一人、銃士がいるはず。
でも相手も馬鹿じゃないし、ちょっとくらい反応が鈍くても銃士。
わたしが落としに来るってことぐらいお見通しで、でもちょっと……本当に反応が鈍いみたい。
居場所がバレたらすぐにでも移動しなきゃならないはずなのに、ちょっと出遅れたみたいでまだビル内にいたとか。
瓦礫の山の中で階段を探していたら、落ちた天井、つまり二階の床の穴から撃ってきた。
そこからだと射程はともかく、視界は狭いわよね。
一計を案じたわたしが階段を探す振りをして物陰に身を隠したら、案の定、その穴からプレイヤーが下りてきた。
このまま逃げるつもりよね。
そうは行きません……てことで、卑怯を承知で背後から焔獄。
まぁ個人戦のバトルロワイヤルでこの程度は卑怯に入らないわよね。
女性銃士っていうのは初めて見たけれど。
フリーだったらギルドに勧誘したかったけれど、そういう状況じゃなくて残念。
『こんな時にまで営業活動?
熱心だね』
だって女の子、欲しいもん。
『グレイさんさ、そういうことばっかりいうから一時期、ネカマ疑惑が出たんじゃん。
わかってる?』
……そうなんだ、全然知らなかった。
でもでもだって、やっぱり女の子が欲しい!
『はいはい、ちょっと忙しくなってきたからあとでね。
起動』
カニやんってばモテモテ。
じゃ、わたしも次のポイントを探そうかしら。
でもさっき屋上にいたプレイヤーの様子を見る限り、クロエの話が気のせいじゃなくなるんだけれど……でもあれ、隠れて何をしていたの?
勝ち目のないプレイヤーに追われていたって感じでもなかったじゃない。
実際、あの廃ビル内には他に誰もいなかったし。
それにあの暇な感じ。
本当にいつからあそこでああしていたのか。
ちょっと休憩……にしては、ずいぶんと暇そうで歌まで歌っていたし……ん~わかんない。
『グレイ、ゲームに集中しろ』
ついにはクロウに怒られちゃった。
ごめんなさい。
でも大丈夫よ、一瞬で雑念を振り払ってくれる人が目の前に現われてくれたから。
「は~い、トール君」
「ぐ、グレイさん……」
あらやだ。
なによ、その嫌そうな顔は。
ほら、笑って笑って。
『普通に笑えないし』
忙しいカニやんに代わっての~りんが突っ込んでくれるんだけれど、の~りんだって暇じゃなくて、その証拠に、このあとわたしとトール君は対戦することになるんだけれど、その最中に上がったインフォメーションでの~りんが落ちたことを知ることになる。
とりあえず今は目の前のトール君よね。
今回のバトルロワイヤル戦と、第二回公式イベントとして行われた前回のバトルロワイヤル戦とで変わったルールがいくつかあるんだけれど、その一つに装備の変更がある。
前回はイベント開始時、つまりイベントエリア転送をもって武器の変更が出来なかったんだけれど、今回は何回でも変更が可能になった。
もちろんわたしが出した要望じゃないわよ。
でも変更されたってことは、結構なプレイヤーから要望が出たってことじゃないかな。
わたしは装備の変更はなしっていう前提で今回の参加を決めたから別にかまわなかったんだけれど、でも、せっかくあるルールだし、ここは利用してみようかしら。
トール君の防具製作はやっぱり間に合わなくて、今回はムーさんにお古の装備を借りての参戦なんだけれど、武器は例のりりか様お手製の片手剣。
使っているところは何度か見たことがあるんだけれど、実際に手を合わせるのはこれが初めて。
ちょっと長さを警戒して、わたしも装備を換えてみました。
クロウから預かったままの屍鬼にね。
「え? それ、屍鬼ですよね?」
そそ、クロウのを預かってるの。
使っちゃダメって言われてないし、大丈夫よ、きっと。
『怒りはしないが、自分が魔法使いだということを忘れるな』
確かに怒られはしなかったけれど、私とトール君の会話を聞いたクロウに、心配というか……これはひょっとして忠告なのかしら?
なんだかよくわからないことを言われてしまった。
どう解釈したらいいのか、抽象的すぎてわたしには難しすぎるのよ!
でも杖だと……杖は確かに剣より長いけれど、端のほうを持つ剣に対して、杖は……もちろん個人の癖や持ちやすさなんかもあるけれど、少なくともてっぺんを持ったり一番下を持ったりしないわけで、結果的に長物として使おうとしたら剣より短くなってしまう。
大鎌に変えたとしても……そもそも大鎌だと使い方が全然違うわけで、長さだけを比較するわけにもいかなくなる。
で、トール君の剣の長さを警戒したわたしは、同じく長刀の屍鬼に変え、その刀身を鞘から抜き取る。
これ、自分で使うより人が使っているところを見るのが好きなのよね、本当は。
だからクロウに使って欲しいんだけれど、砂鉄ばっかり贔屓しちゃって。
誰かあの砂鉄、へし折ってくれないかしら?
それこそノーキーさんあたりに頼め、ば……だめだめ、考えちゃダメ。
ノーキーさんは存在を考えたら現われちゃうから考えちゃダメ。
今、わたしが一番会いたくないのはクロウなんだけど、その次くらいに会いたくないプレイヤーじゃない。
とりあえずトール君をポイントにします。
覚悟!
「行きます」
両手に剣を握り、正面にわたしを見据えるトール君は礼儀正しく宣戦するんだけれど、不意に片手を離す。
あー……これはあれよね?
剣士や銃士なら気づかないかもしれないけれど、わたしは魔法使いだもの。
そこから繰り出される初手は見当がついた。
でも何も対策をせず、トール君に先制を任せる。
だからわたしが気づいていないと思ったらしいトール君は、予定どおりに仕掛けてきた。
「ファイアーボール」
前にも説明したけれど、魔法を使うのに杖は必需品じゃない。
威力を上げるためのブースターのようなものであり、魔法を放つ方向を決めたりするのに使う。
もちろん放つ方向はプレイヤーの任意だから、指さしは必ずしも必要ではない。
これも前に説明したけれど、魔法使いは詠唱さえ出来れば、腕をなくそうと、足をなくそうと戦うことが出来る。
つまり指さしも必要ないし、杖を持っている必要もない。
プレイヤーの意志だけで出来るから、全方位攻撃可能。
もちろんこれだけをきけば一番楽な職に思えるけれど、飛距離や範囲魔法の影響範囲は、ステータスに依存されつつもプレイヤーの任意。
つまり一瞬であれもこれも考えなければならず、結構な集中力を要する。
その負担を軽減する方法の一つが杖で方向を示すこと……なんだけれど、トール君は魔法使いじゃない。
だから初歩的な方法として自分の手でその方向を示した。
使った魔法も初歩中の初歩魔法ファイアーボール。
INTを持たないからMPは少ないし、発動した魔法に威力もない。
けれどフェイントとしてはこれでも十分なのかもしれない……相手が普通の剣士や銃士ならね。
残念なことにわたしを含むほとんどの魔法使いには意味がないのよ。
剣士が魔法を使ったことに驚くことはあっても、これがフェイントだってことはすぐにわかるし、そもそもわたしに魔法攻撃は効かない…………って、あれっ?
トール君、知らなかったっけっ?!
「……え?」
ファイアーボールでわたしの足を止め、気が逸れたところで斬りかかろうとしていたトール君は、常時発動スキル 【愚者の籠】 によってファイアーボールが消失するのを見て呆気にとられる。
うん、やっぱり知らなかったのね……あらららら。
でも動きを止めちゃダメじゃない。
対人戦に不測の事態はつきもの……対人戦じゃなくてもね。
STRのないわたしが狙うのはその首……なんだけれど、さすがに露骨すぎて止められちゃった。
ふふふ、もちろんフェイントよぉ~ん。
「起動……焔獄」
「え? あっ!!」
information トール が撃破されました
ひょっとしたらトールもクロエの戦略(?)を真似たつもりかもしれません。
全然足止めにならなかったわけですが・・・屍鬼を出したついでに、次話あたりであの人も出しておこうかと思います。