132 ギルドマスターは第五回イベントに参加します
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わたしが胸当てを作ったのはそもそもそんな理由ではない。
けれどルゥの頭突きを回避するのに丁度よかったから、でもルゥはこの硬い感触が嫌いらしい。
だからルゥの頭突きを回避する時だけ装備すればいいか……なんて思ったけれど、それってとんでもない装備の無駄遣いよね。
最初にも言ったけれど、そもそもそんな理由で作ったんじゃないし。
わたしのステータスはほぼINT極振りといっても、あくまで 「ほぼ」。
つまり必要最小限のAGIやVITは持っている。
これがないと 「移動は遅い」 「柔らか過ぎる」 で、どんなに火力を持っていても話にならない。
もちろん装備を使ったステータスの補正もINTが中心だし、常時発動スキルもINTを中心に取得している。
お陰様で重火力なんていわれて持て囃されているというか、恐れられているというか……どちらもわたしとしては不本意なんだけれど、そうなってしまったものは仕方がない。
ゲームの定石通りに育成していたつもりのわたしとしてはこの上なく不本意なんだけれど、結果としてそうなっちゃったんだもの。
知らないわよ。
でもその分狙われることも多くなってきたし、噂される次のイベント開催に備えてちょっと耐久力を強化しようと思って。
で、VIT特化型の装備を作ってみました。
思った以上に綺麗な仕上がりに満足していたら、ルゥにはダメ出しを出されちゃって普段は装備出来なくなってしまった。
カニやんは 「躾の一環」 とかいって装備していたらいいって言うんだけれど、あの悲しそうな声で鳴かれたら無理よ。
それにわたしもモフモフ感が足りないような気がして、いつもの倍以上ルゥをモフらないと満足出来なくなったっていうか……こう……なんていうのかしら、禁断症状のようなものが……
「小林から返事が来た。
一時間で向こうが折れた」
だから今日もルゥをモフって中毒症状を緩和していたら、唐突にクロウが言い出した。
それがあまりにも唐突すぎてすぐには何のことかわからなかったんだけれど、ルゥの死亡制裁のことよね。
最初の返事は凄く早かったけれど、二通目がこの遅さってどういうこと?
引き延ばし戦術でわたしが折れるとでも思ったわけ?
絶対に折れないわよ。
それとも折れる不満に最後の抵抗を試み、返事を引き延ばしてわたしの気を揉ませたつもり?
甘いわよ、すっかり忘れていたから全く揉んでないし。
「そういうつもりはないだろう。
イベント開催準備で忙しかったんじゃないのか?」
例の小林さんが真面目に仕事をしている人ならね。
クロウが少しだけ小林さんの肩を持つようなことを言うから、わざと突っかかってみる。
「そこまでは知らないが……」
届いたメッセージを開いて読んでいたクロウは、ルゥを見て何か思ったらしく、なにかを言い掛けてやめた。
なによ?
気になるから言ってくれない?
「いや、せっかくのイベントだが、今回は一緒に参加出来なくて残念だな」
そう言ってルゥの大きな頭を撫でてくれようとしたんだけれど、ま、ルゥだからね。
空気も読まず、いつもどおりバックリよ。
「……いない方がいいな」
さすがにわたしも 「そうね」 としか言えなかったわ。
そもそも小林さんをはじめとする運営ってば、仕事なんてしてないじゃない。
このあいだの第四回が終わってから次の第五回開催まで、確かに間隔は開いていないけれど、第五回がプレイヤー同士のバトルロワイヤルならイベントエリアの用意とルールの詰めだけ。
シナリオすら必要ないとか、手抜きにもほどがある。
「ルゥの扱いに関しての詳細は、直接グレイのほうに連絡するそうだ」
そう最後に書いてあったのかなかったのか、クロウはメッセージを閉じる。
そのままウィンドウも全て閉じてしまう。
始まる第五回公式イベントの参加登録は明日から。
参加条件は前回と同じく、参加登録の時点でレベル20以上の全てのプレイヤーが対象。
武器の損耗や銃弾、MPの消費はなし。
ルールもだいたい前回と同じみたい。
問題はイベントエリアなんだけれど、こればっかりは当日、実際にイベントが始まらなければわからない。
前回の森林エリアではずいぶんと苦労した銃士。
あの環境では射線が通らず、特性である遠距離攻撃が全く生かせなかった。
今回も森林エリア、あるいは類似する環境なら参加を見合わせるといった声もあったみたいで、寄せられた質問の一つとして運営が公式サイトで回答していたんだけれど……
『事前にイベントエリアを公表する予定はありません』
まぁ公平性を保つ意味でも必要かもしれないけれど、あまりにも素っ気なさ過ぎる返事。
うちの銃士三名はどうするのかと思ったんだけれど、運悪くぽぽは現実の所用で参加出来ず。
なんだかちょっとホッとしていた感じだったけれど、別に不参加でもいいのに。
重火力ギルドっていうのを少し圧力に感じているのなら、何か方法を考えないとね。
それに前回のバトルロワイヤルでのココちゃんの件もあるし、イベント後にも注意が必要か。
というわけで、他のギルドは知らないけれど、【素敵なお茶会】 は自由参加。
運営が設ける条件さえ満たせば、勝手に参加登録しちゃってください。
あ、もちろんあとで登録したって教えてくれると嬉しいわ。
残念なことに参加登録開始時点でレベル20に届かなかったジャック君は、今回の参加は見合わせ。
わたしとしても、初めての本格的イベント参加がバトルロワイヤルっていうのはちょっとね。
だからよかったと思ったんだけれど、ジャック君には食い下がられた。
「斬られても撃たれても燃やされても泣きません!
だから参加させてください!」
…………そんなことを言われても、参加条件は運営が決めることで、いちギルドの主催者ごときにどうにか出来るものではなくてね……これ、説得に結構時間が掛かりました。
しかもみんなったら、ジャック君の懇願を聞いて大笑いしちゃうとか……やめてあげてよ、本人は真剣なんだから。
「どうしてもダメなんですか?」
だって参加登録出来ないじゃない。
それこそシステムは運営しかいじれないものだし、いじったらアカウント凍結どころか逮捕されちゃうわよ。
犯罪行為だもの、即引退事案ね。
いや、追放か……。
トール君の時もそうだったけれど、初参加は団体戦で、みんなでわいわい楽しくやりたいわたしとしては、バトルロワイヤルがジャック君の本格的戦闘デビューにならなくてほっとしてたんだけれど……
「あれのどこがわいわい楽しくだよ」
カニやんには毒づかれちゃったけれど、わたしは結構楽しかったんだけ……ど…………ノギさんの強襲があったっけ、思い出したわ。
それで初参加のトール君がえらい目に遭っちゃって……思い出した、思い出した。
確かにあれは心臓に悪かったわね、うん。
あの時はわたしも落とされる覚悟を決めたもの。
だって振り返ったらノギさんがいるとか、心臓が止まるかと思ったわ。
クロエの警告がなければ振り向く前に落ちてた。
そのクロエも今回のイベントではもちろん敵の一人。
借りは別の機会に返すわ。
「そんなの返していらないよ」
余裕ね、トップ銃士は。
わたしなんて装備の再考とか、小心者らしくイベント当日ギリギリまで悪あがきしたわよ。
ちょっと細工はしたけれど、結局装備自体はいつものまま。
前日に受け取った運営の小林さんからのメッセージによれば、やっぱりルゥを連れての参加は無理だけれど、腕輪に入れておけば連れて行ってもいいって。
もちろん出してはあげられないけれど。
『一般エリアに置いて行くと他のプレイヤーの迷惑になると思われますので、是非腕輪にて休眠状態でイベントエリアにお連れ下さい』
これってつまりルゥに噛み癖があるって、しかもそれが結構凶悪だって小林さんはわかっていて……いや、自分で設定したくせに、迷惑とか酷いこと言わないで欲しいわ。
だったらもう少し治してくれてもいいのに。
ルゥにはちょっと悲しい声で鳴かれちゃったけれど、イベントが終わったら一杯撫でてあげるって約束して腕輪に入ってもらった。
でもこれでルゥとも一緒にいられるし、わたしの不在中にまたどこかで迷子になって鳴いてやしないかとか、心配しなくていいもの。
これはこれでよかったかもしれない。
始まったイベントは、色んなところで全然よくなかったんだけれどね。
特にわたしがバトルロワイヤルと聞いて最初のほうで心配した、前回のココちゃんの一件。
それが別の形でイベントに影を落としちゃうっていうか、白けさせたっていうか……まぁそれはあとで出てくる問題なんだけれど、まずはイベントエリアの環境。
『いつも 【the edge of twilight online】 をご利用いただきまして誠にありがとうございます』
テンプレから始まる運営の音声アナウンス。
そしてイベントはこのアナウンスから始まったんだけれど、わたしたち参加者が転送されたのは廃墟と化した都市部。
高さが揃わない壊れかけたビル群の中を大小様々な道が縦横無尽に走る、そんな町並みが今回のイベントエリア。
転送位置からざっと周囲を見回してみたんだけれど、これは銃士有利かな?
早速どこかで響いた銃声がコンクリートの壁に当たって反射する。
とりあえず射線を切らないと……と思ったら剣士が二人、わたしに向かって走ってくる。
近接の剣士、中距離の魔法使い、遠距離の銃士、それがそれぞれの攻撃範囲。
魔法使いは剣士の間合いに入ったら終わり……なんだけれど、お互いに移動しているとこれがなかなか微妙な感じ。
こんな通りのど真ん中にいたら、銃士に撃ってくれっていってるようなものじゃない。
剣の間合いに捉えられない限りわたしは移動優先なんだけれど、それを、剣をブンブン振り回しながら卑怯とか罵ってこられてもねぇ。
最低限必要な銃士対策なんだけど、この人たち、さっきの銃声が聞こえなかったのかしら?
装備から見た感じはレベル20台。
武器の剣はオリジナルっぽいけれど、防具の大半はNPC武器屋の廉価版商品。
それも全部は揃っていなくて……片方だけ腕装備がないっていうのは、ひょっとしてお洒落のつもりなのかしら?
個性をとるか強さをとるかは個人のプレイスタイル次第だけれど、個人的に言わせてもらえば、そういう楽しみ方はもう少しレベルを上げてからの方が楽しいと思う。
幸いにして射線を切れる物陰に入るまで銃士に狙われることなく、この剣士二人にはわたしのポイントになってもらった。
今回のイベントも開催時間は二時間。
五分経つごとに生存点が1P入って、プレイヤーを一人落とせば5P。
つまりこれでわたしには10Pが入ったんだけれど、イベント開始からまだ五分も経っていないから落ちた二人は0Pのまま。
まだまだ生存する参加者数が多いから遭遇率も高く、次々に死亡インフォメーションが上がってくる。
これが出てくるとイベントが始まったなって感じがしてくるわ。
うん、頑張ろう!
さぁ~て、うちのメンバーはどこにいるのかしら?
『ちょ! 狙うな、探すな!』
あらやだカニやんってば、弱気な悲鳴なんて上げちゃって。
わたしもクロウとは会いたくないけどね。
『また酷いこといってるよ、この嫁は。
ほんと、旦那をなんだと思ってるんだか』
よくいうわよ、カニやんだってクロウとは会いたくないくせに。
『当然。
グレイさんとクロウさんとクロエとセブン君とノーキーさん、ノギさんには会いたくないね』
またずいぶんと沢山いるわね。
カニやんってば、我が儘なんだから。
まぁわたしをのぞけばみんなランカーだし、わたしも会いたくないわね、そのメンバーとは。
『よく言うよ。
このイベント参加者全員が一致する、今一番遭遇したくないプレイヤーナンバー1のくせに』
ずいぶんな言い様じゃない、クロエってば。
そういうクロエとだってわたしは会いたくないわよ。
でも、銃士の中でもトップクラスの射程を持つクロエの照準器。
あれがあると、どう考えたってクロエのほうが有利なのよね。
うっかりすると射線が通っちゃう。
さて、どう動くか?
物陰に潜むわたしはウィンドウを開いてこのイベントエリアのマップを確認するんだけれど、表示されるのは自分がいる周辺と自分の位置だけ。
今回は地図も自分で作らなきゃならないらしくて、その場所に行かなければ表示されない。
つまりイベントエリア全体のMAPを作ろうとしたら、エリアの隅から隅まで自分の足で行かなきゃならないっていうね。
しかも前回の森林エリアと違い、今回は廃ビルが林立する廃墟。
つまり同じ位置情報でも上下にプレイヤーが存在するっていう難しさ。
すぐそばのビルにプレイヤーがいるとわかっても、それが剣を構えて通りに飛び出してくる剣士なのか、途中の階から撃ってくる魔法使いなのか、あるいは屋上で銃を構えている銃士なのか、全くわからないのよ。
序盤の今は他のプレイヤーは表示されないけれど、たぶん終盤、生存プレイヤーが減ってくると遭遇率を上げるため表示に変わるはず。
これは結構混乱するかな。
しばらくモフはお預けです……思った以上に寂しい……