131 ギルドマスターはモテます
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【あ】 と 【ま】 たった一文字の違いで、ゲーム一INTを持っている = 一応頭がいい はずの魔法使いがアホになるだなんて。
しかもこれをゲームで一、二位を競う脳筋に言われるなんて、今の今まで思いもしなかったわ。
つまりこれが 「馬鹿と天才は紙一重」 ってやつね……嘘だけど。
とりあえずわたしはインカムで柴さんの話を聞きながらウィンドウを開き、【特許庁】 所属の鍛治士カジさんにメッセージを送る。
もちろん装備の完成を急いでねっていう我が儘な催促なんだけれど、なにを思ったのか膝に抱いていたルゥが、その末尾に肉球スタンプを捺印。
可愛すぎる!!
もう、ルゥのこういうところ、大好きよ。
つい今し方、その無邪気な凶悪スキルで殺されそうになったけれど。
でもこれをカジさんに送るとか、もったいなくない?
ルゥの肉球はわたしだけのものにしておきたかったのに……また打ち直すのも面倒だし、打ち直してもルゥはスタンプしそうだし、仕方がない、このまま送りますか。
ポチッとね……よし。
じゃ、話を戻しましょうか?
今度はちゃんと覚えてるわよ、柴さんもムーさんもカニやんとは組みたくないって話でしょ。
答えはカニやんが嫌いだから。
「え? そうなんですか?」
真剣に考えていたジャック君……じゃなくてトール君の言葉に、わたしのみならず、インカムの向こうから幾つも吹き出す声が聞こえてくる。
けれど当事者であるカニやんはそうもいかなくて。
『やめてくれ、ここでギルドの調和を乱すような発言は』
もちろんみんな冗談だってわかっていて吹き出したあとは爆笑してるんだけれど、いわれているカニやんだけがシリアスモード。
もう、いやぁねぇ~。
『ここ最近、俺の扱い酷くない?』
大丈夫よ、みんなカニやんが大好きだから。
『安心しろ、俺もカニすきは大好きだ』
『食いもんじゃねーよ。
さっさと話を進めろや、脳筋』
『あいよ。
でだな、どうしてカニよりの~りんがいいかっていうとだな、楽だからだ』
「楽ですか?」
やっぱりジャック君じゃなくてトール君ね。
実際に一緒に戦っているからカニやんの火力は知っているけれど、ひとたびボス戦に突入したらトール君はすっかり夢中になっちゃって後方の様子を知らないのよね。
だから単純に火力のあるカニやんのほうが楽だと考える。
うん、それは普通だと思う。
でも 【素敵なお茶会】 だとちょっと違っていて、特にカニやんは。
最初に柴さんが説明したとおり 【素敵なお茶会】 は団体戦が得意で、個々の火力の高さを生かしつつ人数でごり押しする。
その人数を統括する役目がカニやんなのよね。
も、もちろんわたしも協力するけれど、その相談している様子を柴さんってば 「井戸端会議」 とか言うのよ。
『それは買い物に行って帰ってけぇへんおかんらがしてることだろうが』
カニやん、その例えもわかりにくい……っていうか必要ないから。
そもそもそんな言い方しないでくれる?
まだ要領をわかっていないジャック君に、まるでわたしたちが後方でサボっていると勘違いされたらどうするのよ。
もちろん休みなくお仕事しろっていうのならするわよ。
剣士が対象と最接近しているところに業火を撃ち込んであげる。
それこそご希望なら、ドッカンドッカン撃っちゃうから。
もちろん剣士も一緒に吹っ飛ばしちゃうけど。
でも柴さんたちは一撃くらいじゃ落ちないだろうから、演蛇、焔獄や業火のコンビネーションで確実に落としてあげる。
『いやグレイさん、前科あるよな?
俺の記憶が正しければ、間違えて範囲魔法を撃ち込んだことがあるよな?
吹っ飛ばそうとしたよな?』
んー……そんなこともあったかしら?
あら? なぜか冷汗が……き、記憶にはないんだけれど、この冷汗がなにかを物語っている気がする。
誤爆……そう聞けば覚えがあるような、ないような……。
『脳筋より記憶力が悪いとか』
うん、それは今自分でも思ったわ。
だからカニやんは黙っていてくれる?
『そんな感じでカニとグレイさんはよそ見してることが多くて、特にグレイさんと組むと、いきなり突っ込めとか止めを刺してこいとか、無茶振りが凄い』
「出来るようになります!」
『いま出来なきゃグレイさんが死ぬだろうが』
ジャック君の頑張りを容赦なくへし折る柴さん。
まぁそこでへし折ってくれないと、わたしの死亡フラグが立っちゃうってことよね。
でも加減はしてあげてくれない?
『ぶっちゃけ、トール君やマコッちゃんとか、若手同士で組みたいって言われれば、俺らも頑張ってフォローするけれど、さすがにグレイさんとカニに関しては、落ちられると困るんだよ』
だから嫌々ながらも柴さんかムーさんが担当しているっていうね。
もちろんわたしとカニやん、二人ともが生き残っていなければならないわけじゃない。
どちらかが生き残ればいいし、最悪、クロエとクロウがいればどうにかなる。
うちのサブマスは三人とも有能だからね。
クロエには 「面倒臭いから嫌だよ」 って言われ、クロウにはスルーされちゃったけど……けど、どうにかなるのよ。
もちろん恭平さんの参加もあって、これからはもっと面白くなりそうな予感はしている。
「でもグレイさんは最強火力なんですよね?
そんな簡単には落ちないんですよね?」
『単体で女神を落とせるからな。
あ? ……あれ? お前、第一回イベント知ってたっけ?』
「いました。
イベントには参加してないけど……」
確かジャック君が参加したのは、第一回公式イベントの少し前よね。
で、第一回と第二回は大型モニターでゆりこさんと観戦。
今のところ参加出来たのは第三回だけ。
第五回にレベル制限が付かなければ参加もありだけれど、噂どおりなら、たぶん制限が設けられると思う。
『ギルマスの火力はお墨付き。
俺らクラスだと、足止めを食らった時点で死亡フラグ確定。
たぶんクロウさんでも最初の一撃で首を落とせなきゃ、ノギやノーキーの二の舞だと思う。
この二人の一対一は見たことないけど』
確かに、クロウと一対一の対戦はしたことがないけれど、でもクロウには確か 【一刀両断】 ってスキルがあるのよね。
柴さんは知らないのかな?
それともわざとここでは触れないの?
常時発動スキルが多い剣士スキルの中では珍しい、プレイヤーの任意で発動する詠唱スキルの 【一刀両断】。
しかも剣士の中でも大剣使いしか取得出来ないスキルで、これを使われちゃうとHP残量が多くても首以外でも断たれるような気がする。
ノギさんやノーキーさんは取得していないのか、使われたことがないからわからないんだけれど。
以前にわたしがクロウとクロエを落としたのは 【灰燼】 で、その時はパーティーメンバーで敵ですらなかったもの。
第五回公式イベントが噂どおり、またプレイヤー同士のバトルロワイヤルならその機会もあると思うけれど……。
『火力だけならグレイさんは最凶。
これに異論がある奴は初心者かモグリ。
魔法攻撃は効かないし、物理も、一撃食らって足を止められりゃ接近出来ずに落とされるのが関の山。
銃士は知らんけど』
『落とせないよ。
徹甲弾でノックバックさせて足止めするのがせいぜいじゃない?
ほとんど使わないからみんな忘れてるだろうけど、グレイさん、自己修復する人だから』
ちょっとクロエ、人を機械みたいに言わないで。
自己回復って言って、回復って。
まぁたぶん、クロエと撃ち合ったら被ダメと与ダメの我慢大会で、回復スキルを持っているだけわたしのほうが有利かな。
レベルも同じだし、お互いに表面をゾーリゾーリ削り合う感じよね。
なんか神経までゾーリゾーリ削られそうで、考えるだけで疲れてきた。
『徹甲弾でノックバックさせてるうちに逃げるに決まってるでしょ。
なんであんな重火力と真正面から遣り合わなきゃならないのさ?』
さすがクロエ、ド正論で返してきた。
そうね、世の中には 「逃げるが勝ち」 って言葉もあるもの。
逃したわたしが悔しがった時点で、確かにクロエの勝ちかも。
『だよねー。
グレイさん、そういうところ凄く悔しがるから』
子どもみたいって言いたいんでしょ、うるさいわよ。
結局この話……もちろんジャック君の相方の話よ、わたしとクロエの対戦予想じゃなくて……この話は、柴さんが締めくくる。
『頭ごなしにダメと言われて納得出来ないのもわかるが、無理なものは無理』
話はここでいったん終わったんだけれど、だからわたしとクロウ、それにトール君、ジャック君は関西エリアに向かったんだけれど、その途中でジャック君が話を蒸し返したっていうかなんていうか……
「俺、クロウさんより強くなって絶対グレイさんと組みます」
なんか、トール君が言いそうなセリフよね。
わたし、ジャック君はクロエと似たタイプかと思っていたけれど、実はトール君と同じタイプだったってこと?
しかもこの場には当のクロウがいるわけで
「なれたらな。
負けてやるつもりはないが」
……大人げなく挑戦を受けるというか、挑発し返しているというか。
男の人ってよくわかんない。
このあと四人でパーティを組んで、カニやんを燃やせない代わりにノブナガを、出現するたびに横殴りしちゃった。
ふっふ~♪
カニやんたちも、わたしがこんな手で嫌がらせをしてくるとは思っていなかったから、すっごい嫌そうな顔をしていたけどね。
やり方なんていくらでもあるのよ、ふーんだ。
火力こそ正義! ……っていっちゃうと、ちょっとノーキーさんっぽくて嫌ね。
そのノーキーさんのアカウント停止処分が明けるより早くわたしの胸当ては完成した。
光沢のある深い青に、左肩から胸に掛けて薄紅色をした桜を散らした柄の胸当て。
うん、綺麗だしいい感じ。
ステータスは珍しくVIT特化にして、ちょっとノギさんノーキーさん対策。
別に噂の第五回イベントを意識したわけじゃないけれど、タイミング的にはよかったかな。
結局は希土塊以外にも素材が必要になったんだけれど、幸いにしてインベントリに在庫があって、費用も即払いしたら優先的に作ってくれた。
さぁこれでルゥの頭突きにも耐えられるわ、いつでもいらっしゃい! ……って思ったんだけれど、抱っこしたルゥの様子がおかしい。
最初は初めて見る装備にきゅ?と鳴いて不思議そうな顔をしていたんだけれど、そのうちに肉球で撫でたり爪で引っ掻き始める。
新品装備に傷が付かないか冷や冷やしながら見ていたら、胸当ての縁に爪を引っ掛けてはがそうとしたり、それが出来ないとわかったら引っ張って、ドレスと胸当てのあいだに出来る隙間に短い手を突っ込んだり、鼻を押し込もうとしたり。
うん? これはなにをしてるのかしら?
わからなくて、とりあえず見ていたらルゥってば癇癪を起こしたようにきゅーきゅー鳴き出して、ムキになって鼻先を隙間に突っ込もうとするんだけれど、隙間が狭すぎるというか、ルゥの頭がデカすぎるというか……。
どうやらルゥは胸当てとドレスのあいだに入りたいみたいなんだけど、両方に不具合があって全然入れなくて、それでも入りたくて仕方がなくて藻掻いている。
…………わたしの胸が陥没したら入れるかもね…………。
ルゥがこの胸当ての製作を知っていたとは思わないけれど、先日のあの頭突きはそれを狙っていたかのようなこの行動。
でも急にどうしたのかしら?
今までこんなこと、なかったのに。
理由というか原因もさながら、どうしたらいいのかしら?
考えているあいだもムキになって、入れもしない隙間に大きな頭を突っ込もうと頑張っているルゥ。
それを見てカニやんが言うの。
「……それさ、その新しい装備、外してみたら?」
どういう意味があるのかはわからないんだけれど、とりあえず言われてみたとおり外してみる。
データだから一瞬で出来るんだけれど、またまた何が起こったのかわからない様子のルゥは、大きな眼をさらに見開いて驚いていたんだけれど、すぐに邪魔なものが消えたことに気づき、きゅー! と嬉しそうな声を上げ、わたしの胸にしがみついてくる。
きゅーきゅーと嬉しそうに鳴きながら、柔らかな布の感触を確かめるように頬ずりする様子を見ると、胸当ての硬さが嫌だったのかもしれない。
そっか、じゃあルゥを抱っこする時は外しておいた方がいいかも。
頭突きを食らいそうになった時だけ、その瞬間だけ装備したら防げるだろうし。
「いや、絶対違う!
こいつはオス!」
その確信的な言葉の意味はわからないんだけれど、カニやんに指をさされたルゥはなぜか勝ち誇った様子。
チロリとカニやんを見たかと思ったらぺったりわたしの胸に張り付いていて、これ、たぶん手を放しても落ちないわよ。
わたしとカニやんのやりとりを聞いていたクロウが、またまたなぜか大きく溜息を吐く。
「ノーキー並みのクズだな、小林は」
えーっとクロウ、それはどういう意味かしら?
まぁこういうオチですが・・・(汗
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