130 ギルドマスターは何度も死に損ないます
pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!
と、とりあえずルゥは預かります、はい、ごめんなさい。
ルゥ、おいで! って呼んだら機嫌良く来るんだけれど、嗚呼、尻尾をピコピコ振ってかわ……がふっ!!
あ、顎が……顎がぁ……あ……
「生きてるか、グレイ?」
死んだ……死にました……絶対、死亡回数 【1】 が付いたはず。
自信あるわよ。
ちょっとクロウ、わたしのウィンドウを見て確かめてくれない?
今、いま出すから、ウィンドウ……ルゥ、重い……。
「断る」
『そんなことに自信を持たれても……』
インカムの向こうでカニやんがぼやくんだけれど、まあ見てなくてもだいたいわかるわよね、わたしがルゥに頭突きを食らったって。
もう、いつにない痛さにのたうち回って、さすがにクロウにまで心配されちゃったわ。
痛すぎて涙が出てきた……恥ずかしいぐらいボロボロ出てきた……心配したクロウに涙拭かれた。
また死んだ……
『すげぇなクロウさん、グレイさん落とすとか』
『違う意味で落としなよ』
死出への旅の道連れは二人くらい欲しいわよね。
カニやん、クロエ、付き合ってくれるわよね?
『冗談』
『クロウさん一人で十分でしょ。
なんで僕が』
「死出でもなんでも付きあってやる。
話を戻せ」
話? ………………………………あ! ジャック君の話ね。
所在なさげにたたずむトール君とジャック君を見て言うクロウに、ようやくわたしも話の本線を思い出す。
『いつになく長いボケだったな』
余計なお世話よ。
で、なんだっけ? ジャック君の話って。
『そこからか』
『まぁグレイさんだからね』
そうそう、ジャック君が剣士になってわたしと組みたいって言い出したのよね。
でもどうしてこの話が問題なのか?
わたしはてっきり、わたしがジャック君のフォローを忘れて戦闘に集中しちゃうからダメなんだと思っていたんだけれど、カニやんたちがいうには違うらしい。
『まるっきり違うわけじゃないけどな』
つまり多少はそういう部分もあるということね。
反省します。
でもね、クロウにフォローなんて必要ないじゃない。
むしろわたしのうっかりをクロウがフォローしてくれているわけで……あ、あら?
なんだか旗色が悪くなってきたような気がする。
『一応わかってるんだな』
クロウはなにも言わないんだけれど、インカムの向こうで話すカニやんと溜息のタイミングがシンクロしている。
ルゥを遊ばせたいからナゴヤドームの中央広場で話していたわたしたちは、話が長くなりそうな気がして噴水に腰掛ける。
今はフンフンフンフン……いつものようにしつこいくらい臭いを嗅ぎながら楽しそうに周囲を散策しているルゥだけれど、さっきまで頭突きを食らった痛みにのたうち回るわたしを真似て、それはそれは楽しそうに一緒にそのへんを転げてたんだけど。
ひょっとして……ひょっとしてだけれど、ルゥはあれを過剰に表現された喜びだとでも思っているのかしら。
全然違いまーす
故意に歪められたAIの思考は、わたしみたいな凡人には到底理解出来ないんだけれど、きっと運営の小林さんとやらの考えもわたしには理解出来ないに違いない。
幸か不幸か、今回もわたしは死なずに済んだけれど、あんな悪意の欠片もない無邪気で超強力な攻撃を食らい続けたら、そのうち絶対に死ぬわ。
あの攻撃の一番の凶悪なところは、可愛すぎるってこと。
とりあえず今回はわたしのVITにGJといっておく。
「あの、なにかダメなんですか?」
『うん、ダメ』
ちょっとクロエ、そんな身も蓋もない言い方をしないで。
わたしやカニやん、脳筋コンビが相手ならともかく、ジャック君相手に大人げない。
おずおずと質問したジャック君は、クロエのストレートを食らってノックダウン……するほど弱くはないけれど、でもちょっと困った顔をする。
まぁダメなんて言葉一つじゃ納得しないわよね。
うん、ジャック君ってそういう子だったような気がする。
でもクロウがいつもわたしと一緒なのは気づいたらそこにクロウがいるからで、これをわたしに説明しろといわれても困る。
『それは今回は関係ないかな』
そういうカニやんが説明するには、【素敵なお茶会】 はわりとメンバーの仲はいいほうだと思うんだけれど、それでもやっぱり合う合わない合わせ辛いっていうのはある。
それにわたしたち社会人組はだいたい20時過ぎからログインし出すし、学生組は19時頃。
年少の学生組はもう少し早い時間からログインするけれど、その分早くログアウトしちゃう。
そんな感じで平日はだいたいみんな同じような時間帯にログインしてくるから、パーティメンバーなんかがいつも同じになっちゃうのよね。
その分休みの日はいつもと違う組み合わせで遊べて、しかも時間もあるから凄く楽しめる。
でもこればっかりはそれぞれの生活だから仕方がない。
だからジャック君の希望が却下される理由ではないというわけ。
クロウがいつもわたしと一緒にいるのも同じ理由だとわたしは思っていたんだけれど、それは違うってみんなに否定された。
どういう意味?
『剣士希望っていってたし、俺から言おうか?』
いつもは頭を使いたがらない柴さんが珍しく立候補してくる。
丁度ノブナガを倒したばっかりで暇なんだって。
戦闘しながらだと考えをまとめられないっていうのは、さすが脳筋よね。
でも説明してくれたのは本線の話で、わたしの疑問じゃない。
いいわ、今回はジャック君に譲ります。
『是非そうしてくれ』
『んーとな、他のギルドはおいとくとして 【素敵なお茶会】 は数の有利で押し切る傾向が強くて、しかも重火力揃いだ。
だから団体戦なんかじゃ、個人の火力よりフォローで数を減らさないようにしている。
個々の火力があるから、人数を維持出来りゃ火力を維持出来る』
だから短期決戦より持久戦が得意。
第四回イベントで、中央に出現した怪鳥ハーピーを落とした時みたいにね。
今、このゲームで三大ギルドって呼ばれている三つのグループがあるんだけれど……もちろん他にも多数のメンバーを抱えるギルドはあるんだけれど、正式サービス開始直後に結成され、今も活動を続けているギルドナンバー一桁を持つ 【素敵なお茶会】【特許庁】【鷹の目】 が三大ギルドと呼ばれている。
その中でも遠距離攻撃を得意とする銃士主体の 【鷹の目】、主催者を筆頭に個性的すぎるメンバーが揃う色物集団 【特許庁】、そして重火力ギルド 【素敵なお茶会】。
こう説明すると 【特許庁】 が弱く聞こえるけれど、個人主義なだけで個々の火力は極めて高い。
ただ団体戦になると主催者に統率力がなくて、あまりにもなさ過ぎてまとまりがなく、結局個人主義になっちゃうっていうね。
総崩れになる可能性も極めて高いリスキーな戦略なんだけれど、一転、調子に乗ると勢いを止めるのが難しいっていう、こう……なんていうのかしら?
浮き沈みの激しいギルドなのよね。
常にノリだけはいいんだけど。
ちなみに統率力のなさはわたしも一緒だけど、ふふ。
この二つのギルドに対して 【素敵なお茶会】 は仲の良さを生かし、火力で壁を作る感じでごり押し戦略。
そのためのバランスと調和を大事にしている……つもりなのよね、主催者としては。
もちろん機動戦の時はちゃんと考えるわよ。
速さ勝負の短剣使いベリンダが面白くなってきたし。
『だいたい二人一組が基本なんだが……』
「俺、グレイさんと組んでみたいです」
ちょっと話が長くなってきちゃって、焦れたジャック君が話の途中で口を挟んじゃう。
気持ちはわかるけれど、少し落ち着いて柴さんの話を聞いてくれる?
私も聞きたいし。
ギルドメンバーとしても先輩だし剣士としても先輩のトール君だけれど、決して先輩ぶることはなく、ジャック君の気持ちを理解し、穏やかに宥める。
案外そう来られるとジャック君も強気には返せないらしく、しぶしぶながらも柴さんの話の続きに耳を傾ける。
『現状で考えれば、お前が組むのは俺かムーかな?』
『え? 俺がハブ?』
今までそこに入っていたの~りんが、少し口を尖らせるように口を挟んでくる。
もちろん本気でそんなことを思っているわけではなくて、声も笑っている。
『お前はJBか恭平あたりだろ。
トール君かマコッちゃんじゃ、お前、あいつらの頭とか吹っ飛ばしそうじゃん』
まぁタイミングとか呼吸とかの問題よね。
もちろんわざとそんなことしないわよ、の~りんは。
いわゆる不可抗力ってやつ。
「痛そうですね」
犠牲者候補の一人であるトール君は苦笑いを浮かべる。
『痛いで済むわけないでしょ。
の~りんはレベル20台だけどほぼINT極振りの火力なんだから、ろくな防具を持ってないトール君のVITじゃ一撃で溶けるよ』
え……とー……やっぱりクロエってばトール君には厳しい。
これ、どうしてなんだろう。
なにか理由があるのかと思ってクロウを見たら……もちろんトール君がいる前で答えて欲しいなんて思わないし、クロウも答えてはくれないけれど、なにか言いたげな苦笑を浮かべてわたしを見る。
つまり、やっぱりなにか理由があるのよね。
クロエの性格の悪さはギルド公認だけれど、トール君って、いわゆる可もなく不可もないタイプ。
嫌われる要因が見当たらないから、たぶんトール君の性格的なことじゃないとは思うんだけれど……。
あ、天然って意味じゃわたしもそうらしいから人のことは言えないし、クロエだってわたしで慣れてると思うし。
「今、生産職の人に作ってもらってます。
次のイベントに間に合うといいんですが」
トール君はトール君で真面目だから、模範解答で返すとか。
ん? ……ひょっとしてクロエの何かに触るのはこういうところ?
首を傾げるわたしに、クロウは自分の唇に一本指を立てて見せる。
つまり黙っていろってことよね、わかったわよ。
『レベルのわりに火力のあるの~りんだが、ほぼ極振りなんで柔らかすぎる。
今まではそのへんの理由で俺かムーがの~りんと組んでたけど、お前が実戦に出るならそうなる。
で、だな、そもそも 【素敵なお茶会】 には阿呆使いが三人いてな』
ちょっと柴さん!!
『ちょい待て、そこの脳筋!』
わたしとカニやん、ほぼ同時に上がる抗議の声に、少し遅れての~りんが声を上げる。
『阿呆って……一文字間違えるだけですげぇ違い』
そこ、感心するところじゃないから。
阿呆使い改め魔法使いは、正確には四名いる。
でもゆりこさんは回復主体の魔法使いで火力がなく……もちろん基本スキルのファイアーボール程度なら撃てるけれど、戦闘に参加出来るほどの火力はなく後方支援のさらに後方に控える。
その護衛には、STRよりVIT優先にステータスを振り、片手剣に大楯を装備する盾剣士のパパしゃんがもっぱら担当。
うん、ここも動かせない配置よね。
足りない分の機動力と火力を短剣使いのベリンダが補ってきた。
『グレイさんとクロウさんのコンビは置いとくとして、俺とムーがカニかの~りんと組むわけだが、俺もムーもカニは嫌なんだよ。
なぜかわかるかっ?』
わかるわけないと思うけど…………あ! やっとわかった。
だからジャック君はわたしとじゃ無理なんだ。
なるほど……ってわたしはやっと理解出来たんだけれど、これをジャック君に理解させるのは……うん、柴さん頑張って。
今回はせっかくの立候補だったし、わたしは黙って応援するわ。
でもまぁ案の定、唐突にそんなことを言われてジャック君がわかるはずもなくて、一人分ほど空けた隣でしきりに首を傾げている。
ちなみにこの空間は、なぜか詰めてすわろうとするとルゥがすっ飛んでくる。
そしてそれこそ 「ここは自分の席!」 といわんばかりに割り込んでくる。
最初、わたしのすぐ隣にはトール君が座ろうとしたんだけれど、すっ飛んできたルゥが、あの大きな頭を無理クリにねじ込んで来たから、トール君が譲って、ジャック君の向こう側に移動。
今も不自然に空いたままになっている。
どうしてかしら?
のけ者にされてるって思っちゃうのかしら?
ルゥにはわたしの膝っていう特等席を用意してあげてるのに……いいや、詰めてすわっちゃえ!
ってことでジャック君に詰めるよう言ったら、どこからともなくルゥが凄い勢いですっ飛んでくる。
あの短い足で速い速い。
あまりの勢いに、通りかかったプレイヤーたちが即座に道を空けるほど。
真っ直ぐに敵意丸出しに睨まれたジャック君が 「ひーっ!」 と悲鳴を上げる。
恐怖のあまり硬直して逃げることも忘れるほど。
でもそこはルゥだからね、ルゥなのよ。
「ルゥ、おいで。
抱っこしてあげる」
わたしの声を聞いた瞬間にルゥってばサクッとコース変更。
一直線にわたしに向かってくる。
もちろんこれは間違いなく頭突きを狙ったパターン。
このあいだのように背を逸らしてかわそうとしたら、運悪くクロウが後ろにいないとか。
腹筋がヤバい!
寸前に気がついて頭から噴水に落ちるのは避けられたんだけれど、中途半端な角度じゃ、頭突きこそかわせたけれど……いや、かわせてないわ。
顎こそ守れたけれどっていうべきね、これは。
そう、顎じゃなくて胸に頭突きを食らったのよ……ったぁ……い……。
あまりの衝撃と痛みに息が止まる。
わたしにもう少し胸があれば……ゲフゲフ……何でもありません。
ご機嫌に尻尾をブンブン振りながら顔を舐めてくるルゥを叱る気には到底なれないんだけれど……でも、これはちょっとあれね。
わたしのたいして大きくない胸を陥没させないためにも、カジさんにお願いしないと。
一刻も早く胸当てを完成させて!!
胸当て製作の理由はこういうことでw