128 ギルドマスターは鍛治士に仕事を依頼します
pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!
ビキニアーマーがファンタジー要素っていう運営の考え方が全く以てわたしには理解出来ないんだけれど、このゲームは、男性プレイヤーに比べて女性プレイヤーは圧倒的に少ない。
幸いにしてわたしの周りには……そりゃ男性プレイヤーに比べれば全然少ないけれど、でもゲーム全体を見れば沢山女性プレイヤーがいるんじゃない?
でもね、なにが楽しくてその中に、よりによってビキニアーマーを着た女性プレイヤーが二人もいるのよ。
幸か不幸か、二人ともわたしより胸はな……ゲフゲフ……なんでもありません。
バロームさんなんてTバックだし、ローズなんて、あれよあれ。
アラビアンナイトとかで、ハーレムで踊っている踊り子さんの衣装みたいな感じ。
外れそうで外れない、見えそうで見えない……あんな感じのデザイン。
あれを着ろと言われたら、わたしは三日ぐらいゲームをお休みさせてもらいます。
「ようするにだな、俺がトールにも 【特許庁】 の連中が着ているような装備を作るんじゃないかと心配になって店に来た。
そんなところか?」
ええ、まさにその通りです。
カジさんってば、変態エロ親父からいきなり核心を突いてきた。
はい、間違いなくそれがわたしの訪問目的です。
もしそうなら止めるのも予定に入ってるけどね。
ルゥの後頭部に顔を埋めたまま頷くわたしに、カジさんは 「そうか、そうか」 と笑う。
「そのワンコ、あんたは噛まないんだな」
こんなダメダメでも飼い主ですから。
ルゥの一番可愛いところは、わたしだけは噛まないってことかしら。
ああ、でもこのモフモフ感も捨てられないし、ご機嫌に短い尻尾をブンブン振るのも可愛いし、わたしを見てきゅって鳴くのも可愛いし、短い足で必死に走るのも可愛いし……ああ、どれも捨てがたい。
「グレイ、顔を上げて話せ」
だってこのモフモフが気持ちよくて…………絶対いま、顔を上げたら赤いもの。
お願い、隠させて。
ちょっとだけ顔を上げてクロウにしか聞こえないくらいの声でぼそぼそやりとりしていたんだけれど、カジさんには聞こえていたみたい。
この地獄耳変態エロ親父。
「いいねぇ、あんたみたいなのが 【特許庁】 にも一人は欲しいよな。
あの連中、揃いも揃って恥と遠慮を忘れやがって」
それを言うカジさんも、たぶん両方とも忘れていると思うわ。
「こう、がっちがちに固めた聖女衣装とかいいじゃん。
作ったって【特許庁】 じゃ着る奴いねぇけど」
聖女衣装だったら蝶々夫人がいるじゃない。
回復術に長けた最強の支援魔法使いなんだから、聖女でしょ?
まぁうちのゆりりんほど清楚さはないけれど……っていうか、凄い派手だけど。
あの真っ赤なチャイナドレスといい、あの露出といい、豪華な金髪とか、誰かの足を踏んで穴を空けるのを目的としているとしか思えないようなピンヒールなんて凶悪な武器…………あら? 全然聖女のイメージじゃない?
「蝶々夫人? あー……蝶々夫人はなぁ、あいつの装備、面倒臭いじゃん。
課金アイテムいるし。
たぶんわざわざ調達するのは面倒臭いから、ずっとあの凶悪なチャイナ着てるんじゃないか?」
えーっとカジさん、それ、ちょっと個人情報に切り込んでるような気がする。
さすがにステータス補正とかまでは口にしていないけれど、蝶々夫人のあの装備に仕掛けがあるってバラしちゃってますけど、いいの?
「仕掛けがあることぐらいはみんな気づいてるだろう?
あいつ、あの装備は普通には着られないんだし」
ん? そうなの?
わたしが今着ているアオザイタイプの青色チャイナドレスや、前に着ていた白いチャイナドレスは蝶々夫人が着ている赤いチャイナドレスと同じシリーズなんだけれど、青や白には装備条件なんてなかったのに赤だけあるってこと?
赤だけが凄く派手なデザインなのは見てわかることだけれど、他に違いなんて……公式サイトで見たカタログのステータスを思い出してみても、そんなのはなかったような……?
確か赤は火焔系の術を、青は氷水系の術を、そして白は回復系の術を底上げしてくれるっていう補正があるのは知ってるけれど、他には何もなかったような?
課金装備だからスキルスロットがあって、INTの底上げがあるのは同じだし、その数値も一緒だったはず。
まぁ火焔系スキルを得意とするわたしが青と白を持っていて、回復系を得意とする蝶々夫人が赤を持っているから、お互い術の底上げ機能は無駄になってるんだけどね。
とりあえず、蝶々夫人は聖女衣装を作っても着てくれないってことか。
わたしも攻撃参加するのに、身動きのとりにくいがっちがちに固めた装備なんてごめんだわ。
「そりゃ残念だ。
イメージ沸くのになぁ」
どんなイメージなのか、ちょっと怖くて聞けない……。
「そんな警戒するなって、俺はあの連中ほど変態じゃない」
どうだか。
「いやいや、割とまともだって。
そもそもさクロウさんだって、その下に着ているシャツを脱げば不破や串カツみたいになるんだぜ」
カジさんの話に顔を上げたわたしは、改めてクロウを見る。
確かに鎧としては軽装のクロウの鎧・ムクロなんだけれど、鎧の下に黒いシャツを着ていて……えっと、そのシャツも装備の一つなのよね、クロウ?
「そうだな」
ん? …………あ…………なんかわかったような気がする。
つまり、不破さんや串カツさんって……あ、ダメだ、二人を思い出してちょっと顔が熱くなってきた。
「あんた、本当にわかりやすいなぁ。
つまりだ、あの二人はいわゆる裸エプロンみたいな装備の仕方をしてるんだよ」
そ、そうよね、ちょっとその表現は何か違うような気もするけれど、よくよく思い出して……いや、思い出したくないんだけれど、でもあれ、素肌の上に直接装備してるのよね。
うん、そういうことだ。
でもでもでも、クロウの話ではそのアンダーも装備の一つってことだから、着ていないあの二人って……。
「まぁSTRなりVITなり、無駄にしてくれちゃってるわな。
ちゃんとその分も素材請求してわざわざ作ってるのに、馬鹿じゃね? って話。
あの二人に関しちゃ、そこそこのランカーで、不破なんて結構勝ちにこだわりがあるくせに無駄にしやがって。
マジ馬鹿じゃね」
んーっと……それって鎧本体にその分の素材を使えば、そっちで補正出来るってことじゃないの?
そうしたら下を着なくても、あんな露出にならないんじゃないの?
「デザインは関係ない。
使う素材の数はどんなデザインにしても一緒だし……あーっとな、デザインは装備した時の見た目だけ。
ステータスの補正値は使う素材だけで計算するから。
俺ら鍛治士の仕事なんて、ほとんど計算ばっか」
そういえばそうだっけ。
しばらく鍛治仕事なんてしてなかったから忘れてたけれど、特殊加工をしなければそうよね。
つまり不破さんや串カツさんのあれは、いわゆる 「着こなし」 ってこと?
「お、それ、いい表現だな」
は、裸エプロンより全然いいわよ。
クロウ、お願いだから絶対に脱がないでね。
「なんだ、脱げって言われるかと思った」
ちょ……クロウ、やめてっ!!
そのいい声でそんな恐ろしいことを言わないで。
一瞬で耳が熱くなっちゃって、慌てて隠したら抱えていたルゥを落としちゃった。
しかもルゥってばすっかり気を抜いていたらしく着地に失敗……ていうか、もろに背中から落ちちゃって、鳴くかと思ったら何が起こったのかわかってないみたい。
痛くないの?
大きな赤い眼を見開いて天井を見上げたまま手足をバタバタしていて、しばらくしてようやく自分がひっくり返っていることに気づいたみたい。
でもわたしに落とされたってことは理解出来ないらしく、きゅ? って、ひっくり返ったまま小首を傾げている。
か、かわいい……あ、油断したら顔まで熱くなってきた。
もう血圧がおかしくなりそう。
「なんか、色々と忙しい人だな。
これ、大丈夫なのか?」
「いつものことだ」
ちょっとクロウ、なに笑ってるのよ!
いつものことじゃなくて、今、わざとからかったじゃない!!
脱ぐ気なんてないくせに…………あ、ごめんなさい、絶対に脱がないでね、お願いします……うぅ、強気に押し切れないとか、泣きそう……。
「んじゃ、特にトール本人からリクエストはなかったんだが、下を脱いでも胸元がはだけないデザイン希望ってことにしとくか」
あのトール君が不破さんや串カツさんの 「着こなし」 に憧れて真似をするなんて考えられないんだけれど、整備の都合なんかで下に着たシャツだけを脱いだり……トール君の場合はそういう無意識の天然行動が怖いのよ。
そうね、是非ともそういうデザインでお願いします。
カジさんはメモを取っているのか、開いたウィンドウをポチポチしている。
「他に何か注文は?」
本当はこんな注文だって、依頼主じゃないわたしがいうのは反則なんだから、これ以上は言えるはずないじゃない。
すでに今更感はもちろんあるんだけどね。
あ、そうだ、口を挟んじゃったお詫びにこれ……わたしは自分のウィンドウを開き、インベントリから一つの素材を取り出す。
「希土塊?
なにするんだ?」
カウンターの上に出したそれをカジさんは不思議そうに見る。
なにって、これをトール君の装備を作る時、素材に加えて欲しいの。
わたしはちょっとしたお手伝いのつもりで言ったんだけれど、カジさんは顎をしゃくるように思案する。
そしてわたしの顔を見て改まる。
「……いや……主催者は公平じゃないとダメだろ?
誰か一人にこんなことしちゃよろしくないと思うけど、【素敵なお茶会】 はどうなんだい?」
……ダメ、よね?
そっか、迂闊だったわ。
しかもわたしったら迂闊にも見るからに落ち込んじゃって、注意してくれたカジさんを慌てさせてしまった。
「なにもそんなに落ち込まなくても……。
いや、俺も言い方が悪かったっていうか、【特許庁】 の連中はこの程度のことじゃ屁とも思わないから、言い方がつい、その、な、悪い、悪かった」
ますます落ち込むわたしにそんなに気を遣わないで欲しい。
「あ! そ、そうだ、いいことを思いついた。
こうしないか?
あんた、うちで何か作れよ。
魔法使いだと鎧みたいな大きなものは要らないし、その、装飾品なんてどうだ?
そんで余った分をトールの装備に回すってことで。
魔法使い用の装飾品なら希土塊だけでも作れるし、量としては多い」
あら、それ、とっても素敵な妙案ね。
じゃあそれでお願いしようかしら?
……ん? 待って待って、それってわたしもカジさんに何か依頼するってこと?
「だからそう言ってるだろ?
この人、本当に大丈夫か?」
いつもの調子でいたらいきなり仕事モードの真顔カジさんに怒られてわたしはビックリしたんだけれど、口を開けたまま黙り込んじゃったら、尋ねられたクロウは、それこそなんでもないことのように答える。
「悪いな、グレイのペースで付き合ってくれ」
「なるほど、美人はこうやって甘やかすのか。
一つ、勉強したわ」
うん? カジさん、それ、意味がわかんない。
「わからんでいいけど、こっちに帰ってきたところでなに作る?
見たところ、髪飾りなんかはすでに持っているようだが……」
見事な話の切り返しだこと。
でもここでだだをこねたって仕方がないからわたしも真剣に考えてみる。
装飾品っていうか、明らかに装備なんだけれど……ちょっと希土塊じゃ足りないような気がするんだけれど、とりあえず言うだけ言ってみようかしら。
「弓道とかで見る、胸当てっていうの?
ああいう防具が欲しいの」
「格ゲーでよくチャイナ娘がしてるような装備だな」
格ゲーってなに?
わたしは本当にわからなかったんだけれど、ボケと思われて綺麗にスルーしたカジさんは、どんどん話を進めていく……んだけれど、ちょっと、その……わたしの胸元を凝視するのはやめてくれない?
露骨に隠すのもなんかいやらしいし、恥ずかしいし、かといって普通にもしていられなくて……だって、もうね、本当にどうしていいかわからないくらい見てるんだもの。
服はちゃんと着てるのよ。
それはわかってるんだけれど、あまりにもカジさんの視線が露骨すぎて、た、耐えられません。
鍛治士が作る装備品はそもそもデータなので、個々のプレイヤーのサイズは必要ない。
だからプレイヤー同士で装備を交換出来るわけで、個人のサイズを測る必要もない。
じゃあカジさんは何をそんなに見てるの?
お願い、もうその視線に耐えられません……逃げたい。
ようやくループを抜けて進みました。
次話からもっと進む……予定?(汗