127 ギルドマスターは長々と鍛治士と話します
pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
いただきました誤字報告で、以前に終えたはずの表記変更のし損ないも発見!
本当にありがとうございます。
そんな簡単に忘れるわけないでしょ、カニやんってば。
ご希望どおり早めに燃やしに行きたいから、さっさと用事を終わらせなきゃ……ってことで、カジさんのお話に戻る。
でもこのカジさん、結構なエロ親父で、ルゥに頭をガッツリ食わせて成敗したところなんだけれど、わたしがクロウに怒られるっていうね。
当のルゥは、わたしの命令完遂にいたくご満悦。
わたしに抱っこされながらもぶらんと下げた尻尾をご機嫌に振っている。
ルゥは悪くないのよ、ルゥはね。
うん、まぁクロウの言うとおりわたしの躾が悪かったと……申し訳ございませんでした。
でもカジさんに謝るつもりはないから。
このエロ親父!
わたしに、ローズが着ているあのきわどいビキニアーマーを着せようとか……想像されるだけでも恥ずかしさで消えそうになるわよ。
自分で想像しても……想像しても…………ごめんなさい、刺激が強すぎて想像出来ませんでした。
まぁそれを誤魔化そうとして、ルゥをけしかけたんだけどね。
そうそう、ビキニアーマーで思い出したんだけれど、バロームさんのビキニアーマーもやっぱりカジさん作なの?
「バローム?」
わたしの質問にカジさんは、ルゥに噛まれて乱れた髪を直しながら、また自分の記憶を頼りに答える。
「バローム、バロームねぇ……」
なんだか思い出すのにずいぶんと時間が掛かってるんだけれど、まさか本人がわからないとか?
だって同じギルドだし、さっき会ったばかりでしょ。
「さっき? ……ああ、トールの紹介者がバロームか。
会った、会った」
よもやついさっき会ったばかりの人を思い出せなかったとは、予想外中の予想外。
そこまでボケられるとは思いませんでした。
その皺や年配者を思わせる風貌や仕草は演技だと思っていたけれど、実は本当に結構なお歳なんじゃないの?
もちろんこの状況で、しかも今日初めて会ったばかりの人に実年齢を訊こうとは思わないけれど、物凄く疑わしい。
「悪い悪い、ちゃんと思い出したって。
バロームのビキニも俺が作ったわ」
くしゃっとした年配者らしい笑みを浮かべるカジさんなんだけれど、ビキニアーマーをまるで水着のようにいってしまうのはどうなの?
バロームさんの装備がカジさん作っていうのは予想通りだったとはいえ、とりあえずわたしは脱力。
じゃああの魔法使いらしいローブの下にビキニアーマーっていうのは誰の案?
「誰の案っていうか、基本的に俺は頼まれた物しか作らない。
そりゃ組み合わせとか相談されりゃ乗るけれど……バロームのあれは確か……あー……」
何か思い出したらしいカジさんだけれど、ちょっと浮かない感じ。
その反応は一体何なのかと思ったら
「ありゃノーキーの仕業じゃなかったかな?」
はぁ? ノーキーさん?
しかも仕業って何よ、仕業って。
「んー……まぁあんたらはよそのギルドだし、いっかな?」
なにやら酷くいいにくそうな感じのカジさんは、念のためといってインカムを切る。
な、なに、その念の入れようは?
ひょっとして、結構 【特許庁】 の内部事情に立ち入った話?
何気なく訊いちゃったわたしは、予想外に重そうな事情を感じて今更ながらちょっと及び腰。
ここまで聞いちゃったらもう引き返せないけれど、出来たら引き返したい。
助けを求めるようにルゥを抱えたままクロウの腕にしがみついたら、ルゥがクロウの腕に噛みついちゃった。
や、やめてルゥ!
さっき怒られたばっかりなのに、ちょっとー!
「グレイ」
ほら、やっぱり睨まれた……ごめんなさい。
でもルゥのことは怒らないし、無理矢理引き剥がしたりもしない。
……あ、そうか、ここで怒らなきゃいけないのはわたしだっけ?
そういえばカニやんも言ってたわね、褒めるのも怒るのも飼い主がしなきゃダメって。
うん、じゃあここは心を鬼にして…………………………あ…………無理。
わたしの気配を背中に察したのか、きゅ? って短い声で鳴きながら振り返るルゥの無邪気な顔を見たら怒れない。
だって可愛すぎるもの!
もういい、ダメ飼い主でいい!
ルゥが噛むたびにクロウに怒られてもい…………いや、あんまりよくないけどさ。
だってしつこく繰り返したら嫌われそうじゃない。
うん、まぁ嫌われる前にはなんとかしたいと思います。
「バロームはさ、これはまだ噂なんだが、どうやらノーキーが好きらしい」
…………は?
物凄く重量級の話が出てくるかもって警戒していたのにあまりに意外なお話の登場に、ちょっとわたしの思考が停止しました。
だって、まさか、そう来るとは思わなかったじゃない。
もちろん人の好みはそれぞれで、色んな人がいていいわけで……まぁノーキーさんも、喋らなきゃ格好いいのよ、喋らなきゃ。
金髪を部分的に七色に染めたり……こう、前髪から左に流す感じで……いや、右に流す感じだったかしら?
うん、まぁどっちでもいいんだけれど、そんな変な髪型をしていたって見る分には格好いいと思う、わたしの好みじゃないけど。
でも一言喋っちゃうとドスケベ脳筋が露呈しちゃうからダメなんだけど……えっと、バロームさんは同じギルドなんだし、当然そのへんは知ってるのよね?
「知ってる、と思う。
俺も聞いて驚いたけど、でもまさか本人に訊いて確かめるわけにもいかないし」
そうね、かなり微妙でデリケートな問題だわ。
バリケードを蹴り壊すくらいデリカシーがないと思われたカジさんだけれど、あまりにもデリケートすぎる問題に、さすがにそこは遠慮しているらしい。
だからさっき、トール君を連れてきたのにもちょっと驚いたんだって。
そもそも同じギルドだから頼まれれば装備は作るし、整備もする。
けれど普段からそんなに親しいわけではないらしい。
「ノーキー以外の男を連れて店に来た時はちょっと驚いたけれど、まぁそれは、ほら、今、あのクズはアカウント停止中だし、見られる心配がないっていうか、気にしなくていいっていうか、さ」
ノーキーさんに誤解される心配はないとしても、わたし、二人に向かって思いっきり 「デート?」 って訊いちゃったわ。
個性派揃いの 【特許庁】 の人たちですら遠慮してるっていうのに、ごめんなさい。
ちょっとした冷やかしのつもりだったんだけれど、わたしが一番デリカシーがないのかもしれない。
だからあの時バロームさんはそそくさと行ってしまったのね。
でもバロームさんって初対面の時、わたしに憧れてるとか言ってなかったっけ?
「それはあれだろう、将を射んとせばまず馬を射よって言うじゃねぇか。
あのトールっていうのは 【素敵なお茶会】 のメンバーだっていうし」
ん? いや、バロームさんが好きなのはノーキーさんよね?
射るべき将はノーキーさんだから、馬は……ギルドメンバー?
そのメンバーにカジさんも入っていて、馬扱いして申し訳ないんだけれど、話をそっち方向に持っていったのはカジさんだから許してね。
「ノーキーはあんたのことが大のお気に入りって話だから、そっちから攻めることにしたんじゃねぇの?」
トール君伝いにわたしと親しくなって、そっからノーキーさんに近づこうっていうの?
それって、しなくてもいい遠回りだと思う。
しかも凄く果てしないくらい遠回りだと思う。
だって同じギルドなんだから、すぐに近づけるじゃない。
それこそわたしなんかより蝶々夫人や不破さんに相談したらいいと思う。
不破さんはちょっとなにを考えているかわからないけれど、でもホストは基本的に女の子の味方じゃない。
だったら協力してくれると思うんだけれど…………でもそうなら、このあいだのトチョウクエストの時、不破さんがバロームさんに塩対応気味だったのはノーキーさんに誤解させないためだったとも考えられるんだけれど、あの脳筋ノーキーさんがそんなことを気にするとは思えないし、気づきすらしないと思う。
でも相談を持ちかけられて自分趣味のビキニアーマーをバロームさんに勧めるとか、なに考えてるのよ、ノーキーさんは!
「蝶々夫人かぁ、あいつはなぁ……俺に言わせりゃ、一番何を考えてるのかわからない奴なんだけどな」
え? そうなの?
これまたわたしには意外な言葉。
やっぱりギルドの中の人と外の人じゃ、ずいぶん受ける印象が違うのね。
いずれにしたってわたし経由でノーキーさんにアピールっていうのは大失敗よ。
そもそもわたし、ノーキーさんから逃げ回ってるから遭遇することすら滅多にないもの。
ちょっとカジさん、そのへんをバロームさんに話してみてくれない?
「なんで俺が?
だから噂だって言ってるじゃん」
あ、そうか。
下手を打つわけにはいかないバリケード……じゃなくてデリケートな問題なのよね。
しかもそんなに親しくないっていうし、余計なお世話か。
じゃ、様子を見るしかないってことで、もう一つ、バロームさんのあの真っ赤なローブについても訊いていいかしら?
「あのローブは俺じゃない」
え? そうなの?
でもあれ、課金装備じゃないでしょ?
ギルドに生産職がいるのに、わざわざよその人に作ってもらったってこと?
「あれはなぁ、確か……トレードで譲ってもらったんじゃなかったかな?」
デリケートな話は終わりってことで、カジさんは再びインカムを入れる。
もちろんそこから聞こえる話は、わたしやクロウには聞こえないんだけれどね。
「トレードって、確か掲示板を使ってプレイヤー同士で直接やりとりするあれよね?」
「そう、そのあれ。
いや、相談はあった……と思うんだ、確か、うん。
で、その矢先にトレードに出ているのを見つけて、即買ったみたいなことを言ってなかったっけ?」
トレードっていうのはバザーのようなゲーム内の公式システムではなくて、非公式のプレイヤー同士のアイテム取引。
公式の掲示板に立っている 【売ります・買います】 っていうトピに自分の買いたい物、あるいは売りたい物のリストと希望価格を付けて上げる。
それを見た買いたい人、売りたい人がゲーム内のメッセージ機能を使って直接本人同士で交渉。
売買成立後は、ポスト機能を使って代金と商品を交換するっていう感じ。
でもこれは非公式だから、トラブルになっても運営はほとんど対処してくれず、詐欺なんかに遭った日には泣き寝入りするしかないらしい。
もちろんバザーですら出品したことのないわたしはトレードなんてトピすら見たことがなくて、どんな品が出されているのかも見当がつかないんだけれど……でもそれって凄い偶然じゃない?
そもそもその出品者が何を思って真っ赤なローブなんて作ったのかも疑問だけれど、トレードに出品して買い手が現われたっていうこの偶然。
物が物だけに、需要と供給のマッチは奇跡的な確率じゃないかしら?
だって真っ赤なローブよ?
でもきっと、その下に真っ赤なビキニアーマーを合わせるなんて、売り手のプレイヤーも予想しなかったでしょうね。
わたしだってあの時ローブがなびかなけりゃ気づきもしなかったわよ。
しかもおし……ゲフゲフ……えっと、後ろ姿がTバックとか、ないわー。
「ああ、ケツな」
ちょっとカジさん、あっさり言わないでくれる?
さっきのビキニアーマーの水着並みの軽い発言といい。
わたしは人が言うのを聞くのも恥ずかしいんだから、せめてお尻って言ってよ、お尻って。
もう訂正するのも恥ずかしくなって、抱えたルゥの後頭部に顔を埋めて隠す。
「ケツ面積はローズのほうが……あー……どうだったっけな?
ローズのケツもTバックだったっけ?
あんた、あいつと仲いいんだろ?
今度会ったらめくって確かめてみてくんね?」
ちょっとカジさん、なんてこというのよっ?
そんな変態みたいな真似、出来るわけないでしょ!
しかも 「ケツ面積」 って……その言葉のチョイスはちょっとまずくない?
そもそも自分で作った装備のデザインを覚えてないとか、生産職にはありがちなの?
「女同士なんだし、平気だろ?」
平気なわけあるかー!
「女子校とかじゃ、よくめくりあってるって聞くじゃん」
知らないわよ、そんなこと。
共学育ちのわたしに聞かないで!
このオッサン、女子中高生ににどんな幻想を持ってるのよ?
『そうなんだ。
てっきりお嬢様学校出てるのかと思ってた』
クロエがそう思った根拠は何よ?
『今時珍しいくらい面白い喪女だから』
黙れ、あんたも焼く。
これでも幼稚園から高校まで、共学の公立育ちよ。
『箱入り娘のくせに、意外に普通の学歴なんだ』
箱には入ってないから。
兄たちには箱に放り込まれそうになってるような気はするけれど、まだ入ってないから。
入る気もないから!
前に 【素敵なお茶会】 の誰かがいっていたんだけれど、ビキニアーマーは、運営が無理クリにねじ込んだ最大のファンタジー要素だって。
どこがファンタジーなのか、わたしにはさっぱりわからないんだけどっ?!
「いや、ま、ローズのはほら、上の方がエグかったからそっちばっか覚えてんだわ。
デザインは本人が持ってきたとはいえ、さすがにあれだぜ?
出来上がったのをローズが試着したのを見て、さすがに俺もアカウント凍結覚悟したもんな」
だったら作らなきゃいいじゃない、なに考えてるのよ。
そこまでして危ない橋を渡る意味が全然わかんない。
第一、カジさんは大丈夫よ。
だってあれ着て走り回ってるローズの方が先にアカウント凍結されるのが普通だから。
カジさんはそのあとよ。
「いや、それ、結局俺も凍結されるってことじゃねぇーか」
それは困るのよ。
トール君に頼まれた防具を作ってからにしてくれないと。
「お? それが本題か?」
すっかりバロームさんの恋路より遠回りしちゃったけれど、ここからが本題です!
遠すぎて、自分でも肝心要の本題を忘れるところだったわ。
思い出させてくれてありがとう!
『ちょっとクロウさん、ギルドの恥だからその喪、黙らせてくれない?』
その前にわたしがカニやんを黙らせて上げるから、もう少し待っててね。
『絶対待たねぇ!』
このループは次回で終わるはず・・・(汗
そろそろ暑くなってきましたので、日傘にビキニで夏気分を出そうか出すまいか、考え中~♪
その前に、とりあえずカニやんを燃やしておきますw