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124 ギルドマスターは鍛治士に会いに行きます

pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!


気がつくとユニークアクセスが10,000を越えていました。

ありがとうございます!!

まだまだ初ジャンルで戸惑ってばかりですが、今後とも、どうぞよろしくお付き合いくださいませ。

ブクマや評価を励みに、頑張っていきたいと思います。


                      2020/05/19 藤瀬京祥

「アールグレイ、ログインしました」


 いつものようにメンバーにログイン挨拶をして、インカムから返される挨拶を聞きながらルゥの頭を撫でる。

 今日はおとなしくお座りをして待っていて、いい子ね。

 うーん、モフモフで幸せ。


『油断させておいて、絶対またかましてくるぞ』


 カニやんてばちょっと人間不信なの?

 どうしてそんな意地悪なことばかり言うのよ?

 昨日だってログアウト前にこんなことを言っていたのよ。


「ハードの取扱説明書(トリセツ)に、体調の悪い時はゲームをしないで下さい……って書いてあるの、知ってる?」


 あら、そうなの?

 言うまでもないと思ったんだけれど、知らないわよ、そんなの。

 あんな細かい文字の並んだ説明書なんて、誰が読むの?

 読む人いるの?


「普通は読む」


 そう言ってクロウをチラリと見ながらログアウトしていったんだけれど……クロウを見たって仕方ないのにね。

 さぁて、今日は何をしようかなぁ~ってちょっと伸びをしたら、頭にクロウの手が乗る。

 い、いるのはもちろん知ってたのよ、うん。

 別に無視していたわけでもないし。

 あ……なにか用があるの?


「返事が来た。

 向こうは一日と言っている」


 何のことかさっぱりわからなかったんだけれど、クロウがルゥの首根っこを捕まえてぶら下げて、それこそ 「これを見ろ」 と言わんばかりに見せつけてくれたおかげでようやく思い出しました。

 運営に問い合わせていたルゥの死亡制裁(デスペナルティ)の時間ね。

 クロウが受け取った小林さんからの返信によると妥協案は一日ってことみたいだけれど、何度も同じことを言わせないで。


「一時間以上は待てません」


 昨日もそう言ったじゃない。

 クロウはスキルの件と合わせてもう一回交渉してくれるみたいで、開いたウィンドウでポチポチと…………あら? そういえば私も昨日、一件、問い合わせというか意見を送ってみたんだけれど、あれに対する返事はないのね。

 念のためメッセージボックスを開いてみたけれど、やっぱり新着はないみたい。


 どういうこと?


 いや、まぁ普段からそんなに返信って早くないんだけれど……クロウ宛の返信の早さがいつにない対応よね。

 わたしも小林さん宛に出したらよかったのかしら?

 そんなことを考えていたらルゥが外に出たがって、ドアの前にすわってドアをフンフンしている。

 ちょっと待ってね、ルゥ。

 クロウの用事が終わったら遊びに行きましょう。

 下書きというか、挨拶文などは昨日のうちに用意していたからそれほど時間を掛けずに送信を終えたクロウとともにギルドルームを出る。

 もちろんわたしたちの前をルゥが、楽しそうにフンフンフンフン……いつものように忙しく興味津々に周囲の臭いを嗅ぎながら歩いている。


「問い合わせ内容が内容だから、少し検討に時間が掛かっているのかもしれない」


 わたしが送ったメッセージへの返事がすぐに来ないってことは検討がされている、つまりわたしの問題提起に一理ありと判断されたってことよね。

 そもそも今まで誰も文句を言わなかったことが不思議なくらいのシステムじゃない、あれ。

 だからこそプレイヤーが力業(ちからわざ)に訴えるなんてとんでもない暗黙の了解(ローカルルール)が出来たりしたわけで、もちろんそういうやり方もありだとは思うけれど、地下闘技場のランキングシステムに限っては 「なし」 だと思う。

 むしろ今まで、よく大事(おおごと)にならずに済んだわねって呆れるくらい。

 それこそ最初の頃はプレイヤー同士で結構揉めたらしいけれど、自然と落ち着いて今の形になったって柴さんが教えてくれたんだけれど、やっぱりどうなのよ?


『グレイさんは、クロウさんをトップにしたいだけでしょ?』


 久々に出会った頃を思い出させる恭平さん。

 最初の頃はこんな感じでメンバーをねちねちしていたのよね、懐かしいわ。

 まぁ色々あったとはいえ、ねぇ?


『それはもう、忘れて下さいよ』


 恥ずかしそうな恭平さんの声にはあの頃の嫌味感は全然ないんだけれど…… ぬ? クロウをトップにしたいっていうと意図的に聞こえるけれど、実際にクロウがトップなんだけど?

 そもそもわたしが一位になっているのがおかしいんだって。

 だからそれを正そうとしているだけじゃない。

 言っておきますけれど、実質的なトップがノギさんであってもノーキーさんであっても、わたしは同じことをしたんだから。


『ギルマスはそのへん、公平っすよね』

『甘いんだよ、JB。

 この人は自分が目立ちたくないだけ。

 この人とクロウさんとクロエは自己中だから』


 JBの甘さはさておいて、ナイス突っ込みカニやん。

 今すぐ溶かしてやるから居場所を教えろ!


『誰が教えるか。

 あんた一番(たち)悪いしな』


 人聞きの悪い!

 カニやんだって……ってわたしが反論しかけたところにトール君が通りかかる。

 作ったばかりの剣は少し長めで、腰に携えるには邪魔になるらしく背負って歩くトール君は、わたしとカニやんの喧嘩腰の会話にちょっと声を掛けるのも気が引けている様子。

 え? この程度は今更じゃない?

 それより一緒に歩いているのは、このあいだのバロームさんじゃない?

 彼女はトール君が足を止めるとすぐにわたしにも気づき、軽く会釈を送ってくる。

 魔法使いらしい……いや、魔法使いらしくない真っ赤なローブの下に、さらに魔法使いらしくない……っていうか、もうそれは魔法使いの装備じゃないでしょって断言できる真っ赤なビキニアーマーを装備した 【特許庁】 のメンバー。

 ローブ自体は魔法使い装備の定石(セオリー)だし、【素敵なお茶会(うち)】 のメンバーにもいるしね。

 ほら、たった今わたしと口論を展開していたあの大きな杖を持った貧弱な魔法使い。


『うるせーよ』


 すぐさまカニやんからリアクションがあった。

 さすがの早さよね。

 ローブはともかく、どうしてその色のチョイスなのかが理解出来ない。

 しかもビキニアーマーとか……このあいだ見た、彼女のお尻を思い出しちゃったわ……やだ、顔が熱くなってきたから、隠すように、とりあえずわたしも会釈を返して誤魔化す。

 いや、誤魔化せてないか。

 じゃあ別の方法で……そ、そうだ!


「二人一緒で、デート?」


 …………じ、自分でもね、ストレートすぎたとは思ったの。

 思ったけれど、言ってしまってから気づいても遅いじゃない。

 何か話せば話題も逸れるし、わたしの意識も彼女のローブの下から逸れると思ったの。

 それで思いついたことを口にしちゃったんだけれど、作戦としては大失敗。

 ちょっと気まずい沈黙があって、トール君もバロームさんも照れるように視線を逸らし合っちゃって……あら可愛い。

 お似合いかも……バロームさんのローブの下がビキニアーマーじゃなければね。

 う……うん、もちろんトール君がよければそれでいいのよ、トール君がよければね。

 トール君の趣味がビキニアーマーの女っていうのもちょっとあれなんだけれど……ああ、結局わたしの意識がそこから逸れてない。

 もうわたしにはどうしたらいいのかわからないんだけれど……あ、どうもしなくていいのか。

 その結論にいたってちょっとホッとしたところで、トール君がおずおずと言い出す。


「いえ、その、バロームさんにちょっとお願い事をして……」

「そ、そうなんです。

 トールさんが、鍛冶職を探しているって聞いたので」

「そうなんです。

 それでバロームさんたちの知り合いの鍛冶職の人を紹介してもらって」


 ああ、装備を作るための鍛冶職ね。

 なるほど、せっかく知り合ったんだから色々と相談してみたんだ。

 昨日はあのあと二人で長官室まで報告に行ったりして、話す機会もあったし。

 トール君は 【素敵なお茶会】 のメンバーの他に知り合いも少ないみたいで、せっかくだからフレンド登録もお願いしたらしい。

 うん、これはいい傾向よね。

 ただ、相手のバロームさんが 【特許庁】 のメンバーってことがちょっとね。

 しかも 【特許庁】 御用達の鍛冶職を紹介してもらったって……それ、まずくない?

 えーっとトール君、その鍛冶士さんに仕事をお願いしたのかしら?


「はい。

 ちゃんと話してみて大丈夫な感じの人だったので。

 技術(うで)は 【特許庁】 の人の装備が保証していますし」


 そ、そうか、もう決めたのか。


「とりあえず必要な基礎素材の話をしてきました。

 製作は順番待ちになっているのでまだですが、そのあいだにデザインとか、ステータス補正をどうするかなどを決めようということなって。

 フレンド登録もしたので、メッセージで連絡も取り合えるようにしました」


 そ、そうか、その人ともフレンド登録したのね、トール君にしては積極的な行動だわ。

 でもトール君の 「大丈夫そうな人」 っていう判断は正直心配なのよね。

 凄く正直で騙されやすい子だから、そうと見抜いた相手に簡単に騙されそう。

 過干渉とか過保護とかいわれそうだけれど、心配なものは心配なのよ。


 どうしよ?


「それじゃ、わたしはメンバーに呼ばれてるんで、これで」


 そういってもう一回軽く会釈をしてバロームさんは行ってしまったんだけれど……ノーキーさんはアカウント停止中(停職中)でいないし、他にあの 【特許庁】 で集合が掛かるようなことはないと思うんだけれど……まぁいいか。

 他のギルドのことだしね。


『トール君はどうする?』


 カニやんの問い掛けに、トール君はわたしたちを見る。


「グレイさんたちはどうするんですか?

 どこかに潜るなら俺も一緒に」


 ああ、そういうことか、なるほど。

 でも残念ながらわたしはちょっとしたいことを思いつきました。


「そうですか」

『んじゃ、こっちくる?

 琵琶湖でノブナガ狩り中』

『カニを餌にブショー釣り』


 いひひひ……って笑う柴さんは一緒にノブナガを狩っているのね。

 なるほど、カニやんは今、琵琶湖周辺にいるのね。

 わかった。

 あとで燃やしに行くから待っていてね。


『待つか、アホー!

 釣りの餌でもないわ!』


 カニやんほどの重火力なら、さぞかしノブナガもよく釣れるでしょう。

 用が終わったらわたしも向かうとして、とりあえずは……一つ、溜息を吐いたわたしは周囲を見回して……


「さて、と……どうしようかしら?」

「会いに行くんじゃないのか?」


 何気なく呟いたわたしにクロウが問い掛けてくる。

 うん、まぁクロウにはバレてるわね、わたしの考えることなんて。

 でも問題は、その鍛冶士の店……というか居場所なんだけれど、クロウは知ってる?

 見上げる視線で尋ねるわたしに、クロウは自分の顎をしゃくるように思案する。


「カジ……だったか」


 うん、鍛冶士。

 【特許庁】 が御用達にしている鍛冶士なんだけれど、クロウはなにか知らない?


『【特許庁】 のカジだろ?』


 ノブナガは常に出現しているわけじゃないし、一度狩るとしばらくは出てこない。

 そのあいだ暇を持て余しているらしい狩猟一行様の一人、柴さん。

 最初はなにを言っているのかわたしには意味がわからなかったんだけれど、これはクロウの呟きに対して返した言葉だったらしい。


『俺も知ってるっすよ。

 あの人、ややこしいっすよね。

 鍛冶職のカジさんって』


 なるほど、そういうプレイヤー名なのね。

 確かにややこしいわ。

 しかも柴さんの話じゃ、そのカジさんは 【特許庁】 のメンバーだっていうじゃない。

 というとはカジさんは、あの 【特許庁】 のメンバーの、あの個性的な装備を作っている人で、カジさん自身の好みも個性的ってことじゃないの?

 もちろん依頼主である 【特許庁】 のメンバーの嗜好というか、趣味というか……まぁそのへんも関係あるんだろうけれど、あの個性的な装備を製作から整備(メンテナンス)まで一手に引き受けているっていうからにはどう考えても普通じゃないわよね。

 普通の基準をどこに置くかが問題といわれればそうなるけれど、この場合、基準はわたしです。


 悪い?


 とにかくこのままじゃトール君の装備がどんな物になるかが心配で、気になって、いても立ってもいられなくて……だって、トール君の防具が 【特許庁】 並みの露出になったら……も、もちろんトール君がそういう防具がいいっていうのならいいんだけれど……わたしが全然よくないのよ、本心をいえば。

 それこそトール君の好みじゃなくても、上手く丸め込まれてそんなデザインにされることだってあり得るわけで……とにかく心配なの。

 だからわたしはクロウの案内で、そのカジさんっていう 【特許庁】 の鍛冶士に会って話してみることにした。

 ルゥ、行くわよ。

 まぁ会ってみたら、そのカジさんって人も 【特許庁】 の人といえば 【特許庁】 の人でちょっと変わっていたんだけれど、とりあえずルゥ、食べないようにね。

 生産職はカニやんよりも柔らかいから、取扱い注意でよろしく。


『てめぇーの犬の取扱い注意だろうが』


 うるさいんだけど、カニやん。

 用が終わったらすぐに溶かしに行くから待っててね。


『絶対、待たねぇー』

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