123 ギルドマスターはアラサー親父どもとはわかり合えません
pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!
最近遅くなりがちですが、なんとか戻したいと思います。
ルゥが復活するという情報を運営から訊き出してくれたクロウ。
でもその内容が、死亡制裁として三日間、腕輪の中での休眠。
ちょっと待って!
プレイヤーの死亡制裁は経験値の減少。
その割合は復活方法によって変わるんだけれど、ルゥは経験値を持たないからって、いわゆる活動停止。
プレイヤーでいえばアカウント停止ってことでしょう?
嫌よ!
それも三日だなんて。
そもそもルゥの経験値は……わたしはすでにレベル上限に達しているためカウンターは動かなくて意味がないんだけれど、でもルゥが獲得した経験値はわたしに流れてくる。
だったらわたしの経験値を減らせばいいじゃない。
ルゥの死亡制裁としてわたしの経験値減少なら納得がいくし、その場合はもちろん即時復活可能が当たり前。
それを三日も休眠ですってっ?
巫山戯ないで!!
「…………うわぁ……また我が儘言ってるよ。
そんでもって小林君は全く巫山戯てないと思う」
カニやんは小林君の味方ってこと?
「誰の味方ってわけじゃなくてさ……ちょっとクロウさん」
「乗りかかった舟は最後まで付き合うものだ。
どのくらいの死亡制裁なら許せるんだ、グレイは」
だから即時復活!
「さすがにそれは無理だろう」
カニやんには苦笑いされちゃったけれど、わたしは本気よ。
代わりにメッセージを打ってくれるらしいクロウは自分のウィンドウを開き、すでになにやらポチポチと打ち始めている。
なにかと思ってのぞき込んだら堅苦しい挨拶文じゃない。
ここは読む必要なし!
「せいぜい一日か?」
「ダメ、一時間!
それが限界!」
カニやんには苦笑いをされたけれど、それがわたしが譲れる限界です。
クロウは少し肩をすくめたけれど、特になにも言い返さずにポチポチポチポチ……。
そのまま打ってくれているのかしら?
夜間は対応が遅れるのはいつものことだから……対応スタッフの人数が日中に比べて少ないんだと思うけれど、だからこの時間に送ったメッセージに今日中の返事は期待出来ない。
まして小林さん個人宛に送ったんじゃ……カニやんのいうとおり、小林って名義で 【中の人】 が複数なら別だけれど、本当に個人で対応しているのならきっと無理よね。
じゃ、送るだけ送って、今日は何かして遊びましょう。
「ポジティブだな。
もう寝るのかと思ったけど」
言いながらカニやんは大きくあくびを一つ。
そういえば日帰り出張で今朝が早かったんだっけ。
「そ。
なので俺はもう寝ます」
だから柴さんたちと一緒に遊びに行かず、クロウと一緒にギルドルームに来たらしい。
でもログアウト前に試したいことがあるのを思い出し、ギルドルームを散策していたルゥを部屋の隅に追い込む。
……えーっとカニやん、凄い怖い顔で両手を挙げてルゥに迫るのはやめてくれる?
珍しくルゥが怯えて……はいないみたいだけれど、グルグル低く唸って真っ赤な目でカニやんを睨み返している。
あ、これはあれよ、気をつけないと……ってわたしが思っているあいだに、ルゥが短い後ろ足で力強く床を蹴ってジャンプ!
カニやんの顎を目指してロケットのようにひとっ飛び……だったんだけれど、ルゥの頭突きはカニやんも何度も目撃していてお見通しだった。
危なげもなくさっと避け、狭いギルドルーム内でルゥを追い回す。
ちょっとカニやん、やめてあげてくれない?
「待てやワンコ、モフらせろ!」
もうね、昨日見た悪代官より悪代官じゃない、カニやんてば……溜息が出るわ。
なんかこう、町娘を手込めにしようとしている酔っ払い悪代官みたいでちょっとみっともないんだけど……しかも町娘役がルゥってどうなの?
もう二人とも、いい加減にしてよ。
おいで、ルゥ……って呼んだら、またルゥが顎を狙ってくる。
ひょっとしてそれ、新しいスキル?
わからないけれど、させないわよ。
運動神経には自信のないわたしだけれど、さすがにこんなに露骨に狙われたんじゃね。
ちょっとは対策を考えるわよ。
椅子にすわっていたわたしは、ギリギリまで背を逸らせて……腹筋がプニプニのわたしにそれを支える筋力はなくて、結局クロウに助けられるんだけれど……わたしが背を逸らせたら突撃進路に攻撃目標を失ってしまうルゥ。
さすがにその状態からはどうしようもなくて空中で失速し、綺麗にわたしの胸の上に落ちてくれる。
うん、我ながらナイスキャッチ。
攻撃目標……とはルゥは思ってないんでしょうけれど、わたしの行動が想定外だったルゥは空中で一瞬、キョトンという顔をしたんだけれど、結果としてわたしにキャッチされてご満足。
でもね、さっきも言ったけれど情けないくらい退化した二十代OLの筋力事情を露呈させちゃって、おまけに自力じゃ起き上がれないというお粗末さ。
ルゥの重さも加わって、頑張れば頑張るほど腹筋がプルプルしちゃって……起き上がれない。
ご、ごめんクロウ、ちょっと持ち上げてくれない?
今も背に当てられたクロウの手に支えられていて、放されたらルゥ諸共後ろにのけぞってしまうんだけれど……意地悪なしでお願いします。
「別にクロウさんの膝枕でもいいんじゃね?」
ねぇちょっとカニやん、ルゥを逃したからって八つ当たりはしないでくれる?
クロウはカニやんと違ってそういうところで意地悪は……うん? いや、なにか結構な意地悪をされたような記憶がごく最近……あ、ダメだ思い出しそう。
顔が熱くなってきた……でもこれ、思い出し笑いならぬ思い出して恥ずかしくなってるだけなんだけれど、カニやんは自分が言った 「クロウの膝枕」 っていう強烈なパワーワードに反応してると思ってるでしょ。
違います!
確かに、わたしには攻撃力の高いパワーワードだけれど……でも大丈夫、カニやんの弱点はもうわかってるから。
とりあえずクロウ、起こしてくれない? ……ごめん。
起こしてもらったら早速ルゥをキュッて抱きしめてカニやんに見せつけてやるの。
ルゥの癖っ毛に頬ずりとかして……ふふふ、羨ましいでしょ。
ルゥもご機嫌で、きゅーきゅー鳴きながらわたしの胸にすりすりして……うーん、可愛い。
でもね、それを見てカニやんが言うの。
「こいつ、絶対にオス」
知らないわよそんなこと、オスでもメスでもどっちでもいいし。
そんなこといってただ羨ましいだけのくせに、ねぇルゥ。
キュッて抱きしめたら……また来たわ、インフォメーション。
information 新しいスキルを取得しました
やっぱりわたししか取得出来ないみたいね、ルゥのスキルは。
さーて本日二つ目のスキルはなにかしら? ……ってちょっとやさぐれた気分でポチってみたら……
skill 抱っこ を取得しました
………………ねぇ、これまでわたしが何回ルゥを抱っこしてきたと思ってるの?
これ、今更じゃない? って首を傾げるわたしにカニやんは呆れる。
「言うことがそれ?」
どういう意味?
「そもそもそんなスキル、いる?」
いらない。
でも取得は取捨出来るものじゃないし、条件を満たしたら勝手に取得するシステムじゃない。
そりゃ消去出来るけれど、消して二度とルゥを抱っこ出来なくなったらどうするのよ?
これってひょっとして、スキルを取得出来たらカニやんでもルゥを抱っこしたりモフッたり出来るってこと?
取得出来ないから抱っこできないとか?
「あー……考えがそっちに行ったか」
「カニやん、諦めて付き合え」
「クロウさんもよく付き合うよな」
「そこは惚れた弱みだ、付き合うしかないだろう」
「うわぁ……覚悟決めちゃってるのか、すげぇな。
いくら美人でも俺は無理」
「競争相手が減って助かる」
オッサン同士……とはいっても二人とも二十代後半だけれど……二人だけで息の合った会話をしてるんだけれど、それ、なんの話?
ねぇクロウ、わたしにもわかるように解説してもらっていい?
「今度な」
ケチ。
「まぁそのうち嫌でも理解するんじゃない?
んじゃま、話を戻すとして……なんだっけ?
スキルを取得出来たら俺にもチビ助を抱っこ出来るんじゃないかって話だけど……理屈としてはそうだろうけれど、無理じゃね?
そもそもそうならないために、チビはグレイさん以外のプレイヤーを噛みまくってるような気がする」
つまりルゥは飼い主以外に抱っこされるつもりはない……そういうことかしら?
もちろん抱っこだけじゃなくてお腹をモフらせたり、頭を撫で撫でさせたり、全部飼い主以外は嫌ってこと?
「どうなんだ、クロウさん?」
わたしはカニやんに訊いたんだけれど……カニやんが気づいたことだからカニやんに訊くべきだと思ったのに、そのカニやんはなぜかクロウに訊くの。
どういう意味かと思ったんだけど、またしてもクロウには通じていたみたい。
なんなのよ、このオッ……ゲフゲフ……アラサー親父ど……ゲフゲフ……ダメだ、言い換えられる言葉が思いつかない。
「生憎と、そこまでは思い浮かばず質問し忘れたな」
ああ、運営の小林さんに宛てたあの超長文質問メッセージね。
つまりカニやんは、そのことも一緒に質問したんじゃないかと思ったわけだ。
で、運営の答えはなんだったのか? って訊いたのね、クロウに。
残念ながらクロウにとってこのスキルのことは全然問題じゃなくて……そりゃそうよね、クロウが覚えるわけじゃないし。
思い浮かばなかったなんていい言葉を使っているけれど、詰まるところすっかり忘れていたってことじゃない。
よし、追加質問よ!
「なんであんたがそんな命令してるの?
知りたいなら自分で送れよ」
それもそうね、明日送るわ。
だって面倒なんだもの。
「よくいうよ、いつも要望送りまくってるくせに」
今日はもう一通送ったのよ、わたしも。
地下闘技場のランキングシステムについてね。
「ああ、あれ。
そういえば今、グレイさんがトップなんだって?」
普段、地下闘技場になんて行かないくせにどうして知ってるのよ?
ほんと、そういうところばっかり抜け目がないんだから。
「まぁ二戦くらいでランキング入り出来るってのは確かに少ないよな」
ちなみにカニやんは、クエストクリアのためだけに参加した一戦だけなのでランキングには入っていないらしい。
でもその一戦の対戦相手がよりによってノギさんで、しかも引き分けるとか……どんだけよ?
そりゃランキングに入っていなくても対戦したがるプレイヤーは多いでしょうね。
「でもまぁ間違いないと思う。
実際、飼い主以外にそんなスキルを取得されちゃ、持ち逃げされかねないだろう」
………………ああ、スキルの話ね。
もう、あちらこちらに話が飛んでしまって、ついていくのが大変。
カニやんてば眠いくせに……話しながらも何度もあくびをかみ殺してるのよ。
でもかみ殺せてなくてバレてるんだけれど、そのくらい眠いくせに話の切り替えが速いし、頭の回転も速いとか……ここにも出来る奴がいやがるわ、まったく!
「持ち逃げされても契約の証があれば必ず戻ってくるはずだが……今のところ、ペット用のリードになりそうな武器も防具も心当たりはないし、大丈夫だと思うが。
そもそも飼い主以外には必要のないスキルだしな」
そう言ったクロウは、明日あたりに来ると思われる運営の小林さんからの返信メッセージを見て、改めて確認してくれるという。
結局のところ、撫で撫でくらい出来ても契約出来なければルゥの飼い主にはなれないってことでしょ?
だったら別に撫で撫でくらいさせて上げてもいいのに。
わたし、そこまで心の狭い女じゃないつもりだけど?
「そういう問題じゃねぇーよ。
でももう一つ、わかった」
なにが?
「なんでこいつが企画倒れになったか」
そういえば小林さんがいってたっけ? リーダーから企画を却下されたって。
でもせっかく創ったデータだからわたしに飼ってくれってことでルゥがわたしのところに来たわけだけど……なんで却下されたわけ?
「こんなくっだらないスキルばっか作ったからだろっ?」
………………小林さん、自業自得だわ。
ちゃんと確認したのに・・・オッサン二人が十代後半にされていた事実は内緒で。(すでに直しました・汗)