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122 ギルドマスターはまた運営に抗議します

pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!

 目を覚ました理由がなんだったのか?

 確かに苦しくはあったのよ、息がね。

 で、目を覚ましたわたしの目の前にはルゥがいて……いてっていうか、わたしの胸の上でルゥが足を伸ばして寝ていたっていうか……重ぉ~い……。

 寝ているわたしにその全身は見えないんだけれど、短い手足をビロォ~ンと伸ばしてわたしの上で寝そべっていたの。

 例の如く短い尻尾をパタパタさせてひどくご機嫌。

 うん、ルゥの機嫌がいいのはいいんだけれど……ちょっと重いってば。

 目を覚ましたわたしの顔を、短い舌でべろべろなめたりして本当にご機嫌ね。

 でもちょっと重くて起き上がれないんだけど……これ、どうしたらいいの?


「ルゥ、下りろ」


 わたしの視界いっぱいにルゥの大きな顔があるんだけれど、その後ろっていうか、天井を仰いでいるからその上っていうのが正解かしら? ……クロウの声が聞こえてくる。

 声を聞いた瞬間にルゥがグルって不満そうな声を上げるんだけれど、容赦なく首根っこを掴まれて持ち上げられるときゅーきゅーと可愛い声を上げて鳴く。


 やっと息が出来る……


 深呼吸を二、三回……ゆっくり起き上がったそこは例によってギルドルームの休憩室。

 関東エリアから戻ってくる途中で凄く眠くなったことまでは覚えているんだけれど……景色があまり変わらないから記憶が定かじゃないんだけれど、どのへんまで自分で歩いていたのか。

 いや、問題はそこじゃないか。

 うん、違うわね。

 問題はどうやってここまで戻ってきたのかってこと。

 考える前からすでに凄く嫌な予感がしてるんだけれど……


「え? もちろんクロウさんが運んでくれたに決まってるじゃん」


 他にどうやって戻ってきたと思ってるわけ? ……とか、サラリとカニやんに言われてしまった。

 もちろんそんな予感はしていたんだけれど……していたんだけれど……誰か嘘だといって……。


『それともなにか?

 俺に運んで欲しかったか?』


 インカムから聞こえてくる柴さんの声は、それでもOKとか言ってくれる。

 つまり、柴さんも運んでくれるのね、ありがと…………じゃなくて、誰が運んだかが問題じゃないの。

 誰かに運んでもらったって事実が問題なのよ。

 それが恥ずかしいのよ!

 一度は起き上がったわたしは、再び寝転がって毛布を頭まで被る。

 丁度いいところに顔を隠すものがあってよかった。

 だってもう、クロウにもしがみつけないじゃない。


「淋しいことを言うな。

 寝るならルゥを乗せるぞ」


 待って待って、クロウ。

 ルゥは乗せないで……って思ってちょっと毛布の隙間からのぞいてみれば、クロウに首根っこを掴まれたままのルゥはぶら下げられながらも低く唸り声を上げ、短い手足をバタバタさせて抗議していた。

 それも可愛いわよ、ルゥ。


「起きる」


 ちょっと眠気も覚めたし、むくりと起き上がったところで、やっぱりインカムからJBの声がする。


『俺もオッケっすよ。

 ギルマス軽そうだし、ご指名いただければいつでも抱っこします』


 うん、JBもありがとう……でもそういうことじゃないんだけどね。

 誰に運んで欲しいかってことじゃなくて、誰に運んでもらっても恥ずかしいものは恥ずかしいのよ。

 そもそもゲーム中に疲れて寝ちゃうとか……わたしくらいなものじゃない?

 改めて体力のなさを思い知らされるわ。

 だって事務職のOLなんて日頃体を動かさないから、体力なんて低下の一方。

 そして老化が進むのよ…………自分で言っていて虚しくなってきたわ……。

 とりあえずわたしを抱っこしたければルゥもセットだから、みんな、筋肉を鍛えておいてね。


「それ、俺も?」


 クロウの後ろ、隣のベッドに座っていたカニやんがにひって笑う。

 う~んと、抱っこしたければ……っていっていて恥ずかしくなるから、そろそろこの話から離れてくれない?

 わたしをからかっているってわかっていて、インカムの向こうで柴さんとJBが笑っていて、わたしは顔が熱くなってくる。

 二人だけじゃなくて、他のメンバーの笑い声も聞こえてくるし……もう!

 状況を確認すると、今ギルドルームにいるのはわたしとクロウ、カニやんの三人だけで、柴さんとJBは、中部東海エリアに入ったところで別れたらしい。

 あ、ミーティングルームの向こう側にある作業部屋にハルさんもいるらしいんだけれど、なにか考え事をしているから邪魔をしないで欲しいってギルドチャットを切っている。


 うん? なにかしら?


 協力出来ることならいって欲しいんだけれど……って思ったら、単に素材の在庫確認、つまり数を読んでいるから邪魔をされたくなかっただけっていうね。

 そういうことならもちろん邪魔しないけど。

 そういえばこのあいだ素材の調達を手伝って欲しいって言っていたけれど、それはいいのかしら?


「ルゥさ、俺がモフってもその怪しいスキルを取得出来ると思う?」


 ミーティングルームに場所を移したわたしたち。

 椅子にすわるわたしの膝でモフモフしているルゥを指さして、テーブルを挟んだ向かいにすわるカニやんが尋ねる。

 言われてみれば……どうなんだろう?

 疑問に思うわたしの手が止まると、例によってルゥがフンフンフンフンフンフン……手の臭いを嗅がない!

 なぁに? 腕輪に戻るの?

 戻るんだったら戻してあげるけど……って訊いてみたら、それは嫌なのね。

 きゅーきゅー悲しそうな声で鳴くから、たぶん嫌なんだと思う。

 でも暇をしているみたいだから、狭いけれどギルドルーム内ならってことで床に下ろして自由にさせてあげると……前にもしたと思うけれど、忘れちゃったのかしら?

 興味津々にギルドルーム内をフンフンしながら探索しはじめた。

 飽きたら戻ってくるでしょうからルゥはこのままでいいとして、なんの話だっけ?


「あんた、相変わらずトリ頭だな」


 失礼ね、カニやん!

 ちゃんと覚えてるわよ、トリは三歩歩いたら全部忘れちゃうって話でしょ?

 しかもそれ、嘘だってカニやんが言っていたじゃない。


「その話は覚えてるくせに、いま話していたことは覚えてないのかよ?」


 ん? …………覚えてないわ……ごめん。


「だから、ルゥをモフって取得するスキル、グレイさん以外にも取得できると思うかって話」


 ああ、そんな話だったわね、思い出したわ……嘘だけど。


「しょーもない嘘はいいから、どう思う?」


 どうって……カニやんが試してみたらいいんじゃないの?


「食われるから嫌」


 実はルゥに食べられるの大好きなくせに。


「違う。

 あんた俺のこと、どんなマゾだと思ってるわけ?」


 モフの下僕(しもべ)でしょ?


「それは否定しない。

 でも食われるのはごめん。

 ってかこいつ、このあいだクロウさんの首食ってただろう?

 プレイヤー(おれたちの)最大の弱点狙うとか、どんな教育受けてんのっ?」


 特にわたしが躾けたわけじゃないけれど、やっぱりルゥってば出来る子よね、的確に相手の弱点を突くなんて。


「褒めるところ間違ってるから」


 どうして?

 だってルゥが本気を出したら、たぶんクロウの首だって食いちぎれるわよ。

 クロウの首が食いちぎれるってことは、当然VITを持たないカニやんの首なんてお手のものでしょう。

 それこそ胴体だって真っ二つよ。

 でもルゥはそれをしない。

 もちろんわたしが躾けたわけじゃないけれど、ちゃんと加減が出来ているんだもの、いい子じゃない。


「あー……そういう意味ね。

 俺はてっきり、いつでも食いちぎれるぞってやってるのかと思ったけど」


 うん、それもあるかもね。

 でもルゥだから、きっと噛みたいところ……っていうか、その時々で噛みやすいところを噛んでるだけのような気もする。


「……それが大正解の気がする」

「飼い主がグレイだからな」


 ちょっとクロウ、今の今まで黙ってウィンドウを見ていたくせに、急に入ってきてそれ?

 ……うん? いま読んでいたメッセージって、ひょっとしてさっき、崖上で受け取ったインフォメーション?

 誰が崖下にルゥを拾いに行くかを揉めている最中に届いた、確認もせずに閉じちゃったあれ。


「ああ。

 運営の小林に問い合わせてみた」


 え? なにを?


「ルゥのことか?」

「ああ、色々と質問形式で送ってみたんだが……返事があったのは数点だけだな」


 色々と質問形式でって……ひょっとして、ルゥが戻ってくるのをギルドルームで待ってた時にポチポチやっていたあの超長文メッセージ?

 あれ、運営宛だったの?

 しかも小林さん名指しで(ピンポイント)


「運営に小林っていうのがいるのは本当みたいだが……本名かどうかは別として」

「それな。

 小林って名義で複数が 【中の人】 を担当してる可能性もある」


 それにどういう意味があるのかがわたしにはわからないんだけれど、今は関係ないから置いておく。


「どうあってもルゥ自体のステータスは非公開。

 これは致し方ないだろう」

「まぁあんなんでも 【幻獣】 だしな。

 一度イベントで登場してるから再使用(リサイクル)はないだろうけれど、一つがバレれば他の 【幻獣】 のステータスも見当がついてくる。

 運営が公開したがらないのは当然だ」


 ギルドルームをフンフンウロウロしているルゥを、目で追いながら話すカニやん。

 クロウもルゥ自体のステータスにはそれほど興味はないみたいで、カニやんの話にも納得が出来る。

 その手元に開いたままのウィンドウをチラリとのぞいてみれば、ズラリと並んだ文字列に目の焦点が合わなくなる。

 クロウってば、これ、全部読んだんだ……はぁ……さすがお仕事人間。


「ただ、プレイヤーに対しては全力を出さないよう制御してあるそうだ。

 俺たちの首が食い千切られることはない」

「そうあって欲しいわ」

「イベントなどの参加は内容次第。

 その都度ルゥに指示を出すらしいが……どういう形でグレイに伝えられるかは返事がないな。

 参加出来るイベントも、規制が付く可能性もあるらしいが……」


 つまり、そういう細かいことを色々と質問したのがあの超長文メッセージで、その、同じくらい超長文メッセージがお返事なのね。

 でも全部には答えてくれてないってクロウはいっていたから、長さを同じくらいにするために色々と屁理屈を書いてるってことかな?

 イベントは、ルゥも一緒に参加出来るイベントと出来ないイベントがあるってことだけれど、それも仕方がないかな。

 例えば第二回のプレイヤー同士のバトルロワイヤルなんかだと、ゲーム自体にテイム要素がない以上、わたしだけ連れがいるっていうのは(ずる)いものね。

 そのあいだルゥをどうしたらいいかは、その時にわかるのかしら?

 腕輪に入れていればいいのなら連れて行けるけれど、それも駄目となれば通常エリアでお留守番ってことになるから、誰か丁度いい筋肉を……あ、カニやんはダメね。


「当たり前じゃ!

 餌与えて大人しくさせておこうとか、おかしいだろ!!」


 そんなに怒らなくてもいいじゃない。

 わかってるわよ、たいがいのイベントはカニやんも参加だから、イベント開催中は通常エリアにはいないもんね。


「問題はそこじゃねーよ」


 どこよ?


「いいから話を続けようぜ、クロウさん」


 わたしは無視ですかっ?!


「グレイが一番知りたいことはルゥの死亡制裁(デスペナルティ)だろ?」


 うん、凄く知りたい!

 ……っていうか、死亡制裁(デスペナルティ)ってことは再生するの?


「再生する……が、死亡制裁(デスペナルティ)として三日間、腕輪で休眠」


 はぁ~? 三日間て……長すぎる!

 ダメ、絶対にダメ!

 もっと短くして!


「いや、死亡制裁(デスペナルティ)だし……短くしたら意味なくね?」

「運営の言い分としては、HP(ゼロ)の死亡状態から回復に三日かかりますってことらしい」


 わかった、つまりそういう屁理屈を捏ねに捏ねてそんなに長い返信にしたのね。

 クロウが出した全部の質問に答えてないくせに……半分も答えていないってクロウはいっているのに、文章量が同じくらいだなんておかしいと思ったら……。


「ダメったらダメ、三日なんて長すぎるからダメ。

 死亡制裁(デスペナルティ)なら、飼い主のわたしから経験値を持っていったらいいじゃない」

「経験値カウンターが止まってるからって、強気に出るなぁ」

「そうじゃないの。

 だってルゥが稼いだ経験値、わたしに流れてきてるんだもの。

 そりゃ今はカウンターは止まってるけれど、上限開放されたらフェアよ。

 ルゥが死亡制裁(デスペナルティ)を受けるのはおかしいじゃない」


 とにかく!

 理由なんてどうでもいいの。

 三日もルゥが寝てるなんて嫌なの。

 わたしがルゥと会えないのが嫌なのよ。

 だからその設定は変更して!

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