表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/806

120 ギルドマスターは窒息します

pv&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!

 ガルム、ぶっ殺す!!


 同じ犬でも……いや、ルゥは狼だけど、しかも全然格上の 【幻獣】 だけれど、とにかくガルムは邪魔! ……ってことで業火で一掃してみました。

 それでもどんどん沸いてくるから嫌いなのよ。

 ガルムって沸きの多い日と少ない日があって、今日は多い日みたい。

 沸き位置が樹海だから、樹海に入るプレイヤー数に関係があるのかしら?


 どうでもいいけど


 うん、どうでもいいわ。

 目につくガルムを容赦なく焼き払って着いたわよ、あの崖っぷち。

 二度もわたしを落としてくれたあの崖っぷちにね。

 だいたいの座標だからこのあたりにいるはずなんだけれど……って思って見回したら、ガルムを斬る柴さんのすぐ後ろで、崖っぷちに立ったカニやんが大きく手を振る。

 その位置ってことは、ひょっとしてルゥってば、落ちちゃったの?


 うそぉ~ん?!


「飼い主が飼い主だしな、やっぱペットも落ちとかないとダメなんじゃね?」


 ちょっとカニやん、なに言ってるのよっ!

 そんなことは倣わなくてもいいのよ、ルゥは。

 ついでにルゥがわたしを真似て超直毛ストレートになったら、それはそれでモフ感がちょっと落ちそうで嫌!

 あの癖っ毛がいいのよ。

 あとでブラッシングしてあげるんだから。


「それ、どうでもいいけどな。

 あそこ」


 駆けつけるわたしに、カニやんは、案の定崖下を指し示す。

 焦るあまり身を乗り出して落ちそうになるのをクロウに助けられ、その腕にしがみつきながら崖下を見ればルゥが、淋しそうにキューキュー鳴いていた。

 いま行くから、待っててね!

 すぐ行くからそんなに鳴かないで……わたしまで悲しくなってくる……。

 下を見ればその高さに足がすくみそうになるんだけれど、大丈夫!

 だって二回も落ちてるじゃない。

 結構……いや、かなり痛いけれど、でも死ぬわけじゃないし、HPも減らないし大丈夫。

 よし! ……と決心したわたしがいざ飛び降りようとしたら、クロウが手を放してくれない。


 どうしてよ?


「……えっとグレイさん?

 まさかと思うけれど、自分で飛び降りようとしてる?」


 なによカニやん、もちろん自分で助けに行くに決まってるでしょ。

 ルゥの飼い主はわたしなんだから、当たり前じゃない。

 わたし、何かおかしいこと言ってる?

 言っていない自信はあるのに、なぜかみんなには溜息を吐かれてしまう。

 そりゃこの高さを上るのは大変だけれど、ルゥを負ぶって両手を空ければなんとかなるんじゃない?

 ガッツリ爪を立てられそうだけれど、そこは愛情だと思って我慢するわ。


「愛情の意味、違ってねっすか?」

「それは愛情とは言わねぇ」


 そこの脳筋二人、うるさいんですけど?

 ああ、もう、こんなこと言ってるまにもルゥが鳴いてるじゃない。

 わたしたちがここにいるってわかって、早く助けてって鳴いてるのよ。

 行く、すぐに行くから待ってて……だからクロウ、放してってば!


「この犬……じゃなくて狼馬鹿。

 クロウさん、絶対放すなよ。

 ガルムは俺とJBが引き受けるから、柴やん、頼めるか?」


 言いながらも範囲魔法で群れはじめたガルムを焼き払うカニやん。

 その脇ではJBが、漏れたガルムを単体で狩っていく。

 柴さんはカニやんに頼まれた次の瞬間に 「嫌!」 って顔をしたんだけれど、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったわたしの顔を見て……どうしてわざわざ見るのよ!

 しかもわざわざ見てから凄く大きな溜息を吐くの。

 だったら見なきゃいいじゃない!

 いちいちわたしの顔を見ることに何の意味があるのっ?


「……しゃあね、行ってくるわ」


 行かなくていいわよ、そんなに嫌なら。

 嫌々行かれて、下でルゥと喧嘩して、結局置いてけぼりになんてされたら困るもの。


「ちょっと待てギルマス、俺はいい歳したおっさんだ。

 そんな子どもみたいな真似はしない」


 それはわからない。


「日頃の行いだよな。

 さっさと行けや、脳筋」


 それこそ蹴落としてやろうかというカニやんなんだけれど、なぜかこのタイミングでクロウに何かが届く。

 いきなりインフォメーションが出たの。


「なんでもない」


 隠すつもりはないみたいなんだけれど、でも内容も確認せずにインフォメーションを消してしまうクロウ。

 でもこれはわたしにはチャンス!

 わたしをガッツリホールドするクロウの片腕が外れたタイミングで脱出を試みたんだけれど、ビクともしないっていうね。

 クロウとわたしが無言で、勝負になっていない力勝負をしているのを脇目に、カニやんが柴さんに発破を掛ける。


「グレイさんがなにかしでかす前にさっさと行け」


 柴さんがいかにもオッサンらしい動きで 「しゃーねー」 っていいながら崖を下りようとしたのを、なぜか止めるクロウ。

 さっきからルゥが、自分の足で上ろうとして、何度も何度も崖から落ちてるの。

 でも落ちた瞬間ルゥは何が起こったのかわからないらしく、ひっくり返ったまま短い手足をバタバタ。

 少ししてようやく落ちたことに気づいて、慌ててむくりと起き上がり、また短い足で頑張って崖をガッシガッシ上ろうとする。

 そして落ちる……の繰り返し。

 AIって学習しなかったっけ?

 ……見る限り、ルゥは学習してないみたい。

 ビックリするぐらい残念な子だわ、可愛いけど。

 もう三回も落ちてるんだけれど、また上ろうとしている。

 その短い足じゃ無理よ……っていったら、脇からカニやんに


「あんたの腕力でもこの崖は登れないでしょ。

 わんこ連れてりゃもっと無理」


 うん、そういえば落っこちた時、わたしもおし……ゲフゲフ……何でもありません。

 岩のあいだに頭から突っ込んで、おし……ゲフゲフ……何でもありません、はい。

 あの時のことは誰も知らないんだし……それこそクロウも知らないこと。

 黙っていれば恥をかかずに済むというのに、なにを好き好んで喋ろうとしてるのよ、わたしってば。


 馬鹿なのよ


 わかっているけれど、あえて自覚すると腹が立つわ。

 思わずクロウの腕に爪を立てちゃったところで、クロウが妙案を思いついてくれる。

 いまにも崖を下りようとしていた柴さんと、それを蹴り落とそうとしていたカニやんを止めると、わたしに言うの。


「ルゥに大きくなるよう言ってみろ」


 えーっと、大きくっていうと超巨大サイズ?

 うん、いいけれどちょっと、崖っぷちまで近づかせてね。

 ようやくのことでクロウが放してくれたから、落ちないように気をつけながら崖ギリギリに座り込む。

 そこから下をのぞき込んでみたら……嗚呼、ルゥがキューキュー鳴いてる。

 それ見たらまた涙が出てきちゃって、短い足で、わたしに飛びつこうとして何度も何度もジャンプしてるし……全然届かないんだけどね。


「ルゥ、大きくなってくれる?

 一番大きなサイズに」


 わたしの声は届いていたと思う。

 ジャンプをやめたルゥはちょこんとお座りをしてそれから首を傾げる……と思ったら突然巨大化。

 まるで風船のように膨らんで、見る見る間に超巨大化してしまう。

 すっかり元のサイズに戻ったルゥはのぞき込まなくても崖上に頭が出ていて、気持ちよく咆哮を一つあげると、大きくなった足でひょいと崖をひとっ飛び。

 そ、そっか、このサイズなら全然ジャンプ出来るんだ。

 崖っぷちでそれを見ていたわたしは、久々に見るルゥの超巨大化に驚いてしまって硬直。

 うっかり逃げるのを忘れてしまって、崖上に上ってきたルゥに腰を抜かしてしまう。

 頭ではルゥだってわかってるんだけれど、やっぱりその大きさは怖くて……いや、大丈夫、攻撃は仕掛けないから。

 超巨大化したままのルゥはわたしを見てお行儀よくお座りをして、毛の長い尻尾をブンブン振るの。

 たぶん撫でて欲しいんだと思うんだけれど、大きすぎて頭に手が届かないのよ。

 えっと……ルゥ、久々に大きくなれて気持ちいいのかもしれないけれど、それだとみんなを踏み潰しそうで危ないから小さくなってくれる?

 そうしたら撫でてあげるから……っていうか、そうしてくれないと手が届かないのよ。

 もう一つ、空に向かって大きく咆哮を上げたルゥは、前のように一瞬でぽんっと小さくなってくれる。

 キュッて可愛い声を上げてくれたルゥはなぜか空中に浮いていて、そのまま落ちそうになるのを慌てて拾いに行ったらわたしの運動神経の悪さが露呈。

 つまり着地点を読み間違えて、ルゥがわたしの顔面に張り付いちゃった。

 一瞬で真っ暗になる視界に何が起こったのかすぐにはわからなかったんだけれど、ルゥってば短い手足でわたしの頭をガッツリホールド。

 隙間のないモフなお腹が気持ちよくて……あ……今日はもうこのまま眠っちゃいたいくらい気持ちがいい。

 モフモフな毛に思わず頬ずりとかしちゃって……あ~この気持ちよさはやっぱりルゥよね。

 はぁ~幸せ……に浸っていたら、突然視界が開けた。

 種を明かせばクロウが、ルゥの首根っこを持って引っぺがしたのよ。

 どうしてわたしの幸せを邪魔するのよって思ったら……


「息をしろ」


 ……言われて思い出したっていうか、息苦しさに気づいたっていうか……凄く息が苦しい。

 ルゥのモフ毛で息が出来なくなっていたことに気づいてなかったっていうね。

 なんて恐ろしいモフ毛。

 危うく窒息するところだったわ。

 以前、頭突きを食らった時にもあまりの痛さに死亡を覚悟したけれど、間違いなく、わたしの記念すべき死亡回数 【1】 を付けてくれるのはルゥだわ。

 今、確信しました。

 あまりにもルゥがグルグル唸るからクロウも下ろしてあげたんだけれど、ルゥってばすぐさまわたしの前に来てお行儀よくお座りするの。

 うん、撫でて欲しいのよね、うん、わかってる。

 短い尻尾をブンブン振って、期待に目をキラキラさせてわたしを見ているの。

 わかってるんだけれど……待って、ちょっと待ってルゥ……息が……まだ……


「容赦のないモフだな。

 俺が代わりにモフってやろうか?」


 撫でることを 「モフる」 っていってる時点でもうアウトよね、カニやんてば。

 もちろんモフの下僕(しもべ)はこのあとガッツリ食われるんだけどね。

 やっと落ち着いてわたしもルゥをガッツリモフって大満足……しようと思ったんだけれど、そこはルゥだから、ルゥなのよ。

 しゃがんだわたしに飛びついてきたルゥは……もちろん頭突きには十分すぎるほど用心していたんだけれど、ルゥのほうが目測を見誤ったのか、またしてもわたしの顔面にダイブしてきたの。

 一瞬で視界がブラックアウト、モフ毛に覆われて塞がれる幸せ。

 ただね、短い手足でわたしの頭をガッツリホールドしているルゥが、わたしのおでこのあたりでいつものようにフンフンフンフンフンフン……やめなさい、ルゥ!

 あんたを探して走り回ったから汗を掻いてるのよ、もう!!

 あんまりにもしつこく嗅ぐからベリッてはがしたらインフォメーションが出た。


information 新しいスキルを取得しました


 ………………ルゥ絡みのスキルはいつも唐突なんだけれど、今回もご多分に漏れず唐突。

 しかも突拍子もないスキルなんだけれど、今回はなにかと思えば


skill 腹毛をモフる を取得しました


 ねぇこれ、誰が覚えたのっ?

 ルゥ?

 それともわたしっ?

下僕  ・・・ ルビは 【しもべ】 と振りましたが、 【げぼく】 とお読みいただいても大丈夫です。

むしろそのほうがよろしいかと・・・ゲフゲフ・・・なんでもございません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ