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118 ギルドマスターはルゥを探します

pv&ブクマ&評価&ご意見、ありがとうございます!!


今回は涙と鼻水と汗で塩分多めとなっております。

血圧にご注意下さい・・・

 装備一覧から呼び出せるステータスには、解説や性能が書かれている。

 で、それとは別に一番下に備考欄があるのも知っていたけれど、いつから 【契約の(あかし)】 の備考欄にこんなことが書かれていたの?


備考 ルゥは遊びに行きました


 …………なによ、これ?

 これじゃどんなに呼びかけたってルゥが応えないのは当然よね。

 どんなに腕輪を、それこそ手首がもげそうなくらい振ってもルゥは出てこない。

 だって、いないんだもん……どこ行ったのよ?

 そもそもわたしがトール君のトチョウクエストを手伝う前に、どうしてルゥを腕輪で休ませたのか?

 ルゥを守るためよ。

 【幻獣】 であるルゥのSTRやVIT等のステータスを、わたしたちプレイヤーに公開しない運営の方針は理解出来る。

 固有スキルやその解説も秘匿されているけれど、もちろんこれも理解出来る。

 でもプレイヤーから攻撃を仕掛けられた場合や、ダンジョン攻略などで落とされた場合ルゥがどうなってしまうのか?

 せめて飼い主のわたしにくらい教えてくれたっていいじゃない。

 このままじゃルゥがどうなっちゃうかわからなくて、不安だらけで、自由に遊ばせてあげられないじゃない。

 そりゃ変なスキルは覚えさせられるし、ルゥは全然噛み癖を直してくれないし、あの癖っ毛も全然直らないし……あ、あの天パは別にいいわ、可愛いし。

 どんなにブラッシングしてあげても直らなかったしね。

 うん、帰ってきたらまたブラッシングしてみよ……帰ってきたらね。


 どこ行ったのよっ?!


「どうしよう、クロウ!」

「大丈夫だ、落ち着け」


 今のわたしに落ち着けって言うのはわかる。

 でも大丈夫の根拠はなに?

 だってルゥのことはなんにもわからないのよ。

 子どもが友達の家に遊びに行くのとは全然違うんだから。

 そもそもルゥに友達なんているわけないし、帰る場所……そう考えるわたしの脳裏にあの岩屋が浮かぶ。

 わたしたちがルゥと出会ったあの岩山の中の堅牢、大型犬サイズのルゥはあそこで四肢を繋がれて……まさかあそこに戻ったわけじゃないわよね?

 あ、でもあれはイベントエリアだから、たぶん今は消失しているはず。

 いくらルゥでも戻れるはずがないし……もう、どこ行っちゃったのよ……。

 ルゥの行き先に心当たりがなくて、頭を抱えて悩むわたしをクロウはソファに座らせる。

 そして自分も隣にすわってウィンドウを開いて……たぶんさっきまでしていた作業の続きだと思うんだけれど、考えながらソフトボードを叩き始める。


「少しここで待ってみろ。

 お前のログインを知れば戻ってくるかもしれない。

 あいつはお前が好きだからな、尻尾を振って戻ってくるかもしれん」


 ルゥは人探しが下手だから、わたしがウロウロしたら却ってルゥもウロウロして戻ってこられないかもしれないって言われて……もちろんクロウの言うこともわかるし、わかるからここで待っているしかないんだけれど……いつまで?

 いつまで待てばいいの?

 ルゥはちゃんと戻ってくるの?

 ダメだ、なにもせずにじっとしていると嫌なことばかり考えちゃう。

 クロウは何をしているの? って思ってウィンドウをのぞき込んでみたら……別に隠したりしないから見てもいいってことなんだろうと思うけれど、すでに文字列が一杯で…………ダメだ、読めない。

 書式の感じが報告書っぽくて、しかも表の一つもない文字ばかりで余計に読めない。

 目が文字列を滑って、脳が理解を拒否するのよ。

 これはあれよ、「本日の業務は終了しました」 ってことよ、きっと。

 うん、間違いない。

 実際終業時間はとっくに過ぎてるし、今は楽しいゲームのお時間のはずなのに……ルゥ、どこ行っちゃったのよ。

 プレイヤーに狩られてたらどうしよう……。

 ダメだ、悪いことばっかり考えちゃう。

 うん、こういう時は楽しいことを……………………無理!

 全然浮かばないから……いや、浮かぶんだけれど、昨日のクロウのこととか、ルゥのモフ毛の柔らかさとか……ああ、思い出したら恥ずかしいやら、淋しくて泣きそうなる。

 じゃあ真面目なことを考えましょうってことで一つ、思い出したことがある。

 地下闘技場のシステムについて大いに異議があって……あのたった二戦でランキング上位に入ってしまう変なシステムね。

 あれは絶対におかしいってことで……そうね、五戦か十戦くらいの戦績があることをランキング入りの条件にするっていう具体案付きで提案してみましょう。

 柴さんの話では、いわゆるビギナーズラックで上位に入ってしまったプレイヤーや、上位入りを狙ってわざと自分より弱い相手を選んで戦績を上げようとするプレイヤーに対しては、プレイヤー同士の潰し合いで均衡(バランス)を保っているって……絶対におかしいでしょ、そのシステムって。

 どう考えたってプレイヤーの自主性ってレベルじゃないし。

 ちなみにわたしのランキング1位っていうのだって、ビギナーズラックの範疇じゃない。

 あんな訳あり対戦を二戦したくらいで1位とか、なしでしょっ?

 不正をプレイヤー同士で(ただ)し合うっていうところまではともかく、納得の出来ないランキング上位者を力業(ちからわざ)で引きずり下ろすとか、あり得ないわ。

 運営の怠慢にもほどがある。

 もう少しそういう不具合も考えて設定してもらいたいものだわ……ってことで、運営に要望書(メッセージ)を送る。

 わたしがラストの 【送信しますか?】 に対して、 【OK】 をポチったところで、ほぼ同じタイミングでクロウも送信を終えていた。

 ねぇクロウ、どこにそんな長文を送ったわけ?

 だってあれ、わたしがチラリとのぞいた時すでに結構な長さがあったのに、そのあともポチポチしていたわよね?

 文字数制限ギリギリくらいまで打ってなかった?

 どこの誰にあんな長文を?


「さぁな」


 内容は見ても怒られないけれど、質問には答えてくれないのよね。

 ケチ。

 受け取った相手が、ちゃんと全文を読んでくれるといいわね。

 そういえば思い出したことがあるんだけれど……


「すいません、計算書で一つ、ミスをしました」

「確認した。

 訂正して処理済みだ」


 うん、さすがサトミ課長代理、お仕事が早い……っていうか、本人確定です。

 うわぁ~ん、どうしよ?!

 何気なく今日のミスをこんなところで報告しちゃって、お返事いただいて本人確定とかしちゃって、これからどうするのよっ?

 しかも今、サトミ課長代理と二人きりとか……誤魔化しようが……場も保たなくて……変な汗が出てきた。

 これまでの色んなやらかしを思い出して反省……これ、反省なの?

 よくわからないんだけれど、色んなことを思い出して気まずさに変な汗を掻いて固まるわたしに、クロウは小さく息を吐く。


「……ここで仕事の話はなしだ。

 いつもどおりでいてくれ」


 ど……努力します。

 そもそもあの仕事人間のサトミ課長代理がゲームとか、意外すぎて頭がついていかない。

 でもたぶん、それは訊かないほうがいいのよね。

 うん、訊いたらさらに墓穴を掘りそう……っていうかすでに掘ってるんだけれど、穴が深くなりそう。

 傷口に塩を塗り込むとか、広げるとか、そんな感じね。


「ルゥを探さなくていいのか?

 さすがにもう十分以上経っている、戻らないのはおかしい」


 そうよね?

 足が短いから走っても時間が掛かるのかもしれないけれど、それでもまだ戻らないなんて変よね。

 クロウがいうには、なにか楽しいことを見つけて夢中になってしまっているか、それとも戻れない状況に陥っているか。

 前者なら問題ないんだけれど、後者なら大問題。

 戻れない (イコール) 消滅 って可能性があって、もしそうならもう二度とルゥに会えない!


 探さなきゃ!!


 クロウはもう一度わたしのウィンドウで例の備考欄を確認するんだけれど、表示に変化はない。

 ねぇ、そんなに落ち着いてないで、早く探しに行きましょうよ!

 あ、ルゥが戻ってきた時に備えてクロウはここで待っていて。

 私は探しに行ってくるから! ……って立ち上がったんだけれど、クロウに引き留められる。


「大丈夫だ。

 表示では、ルゥは遊びに行っているとあるだけだ。

 もしルゥが消滅するようなことがあれば、腕輪そのものが消失する可能性がある。

 グレイとルゥの契約が失効するからな」


 でもわたしの右手首にはルビーを思わせる赤い腕輪があって、抜こうとしてもビクともしない。

 表面には傷一つなく、それこそ宝石のように輝いている。

 つまりわたしとルゥのあいだで結ばれた……勝手に結ばれたというか、囚われた感が強いんだけれど、この腕輪がある限り……主従契約か雇用契約かはわからないけれど、とにかく契約は有効ってこと。

 あくまでルゥとわたしがゲーム内(この世界)に存在していることで契約は成立するはずだから、腕輪がわたしの腕にある限りルゥの消滅はあり得ない。

 そうクロウに説得される。

 うん、理屈はわかった。

 でもルゥを実際に見ないとわたしは落ち着かなくて、今すぐにでもルゥをギュッてしたいの。


「すぐには無理だが、必ず見つける」


 でもクロウはルゥと仲が悪いから、ギルドルーム(ここ)にクロウ一人残っても、戻ってきたルゥはすぐにでもわたしを探しに行ってしまうだろうって苦笑いをされた。

 大丈夫、悪戯をしたらすぐに噛むから、そこをがっちりホールドしてくれれば捕獲完了よ。

 そのままわたしが戻るまでキープしていてくれればいいから!


「落ち着け、グレイ。

 探しに行くにしても、あてはあるのか?」


 ないから落ち着かないんじゃない!

 もう、クロウってばどうしてそんな当たり前のことを訊くのよ?

 心当たりがあれば、とっくに迎えに行っているわ。


「そうだな。

 誰か、ルゥを見なかったか?」

『え? いないの、チビ助?』


 真っ先にインカムの向こうで応えてくれたのは愛犬家のカニやん。

 今日は日帰り出張で朝が早かったけれど、帰途の新幹線の中、同行した先輩を無視して熟睡したらしい。

 それでもまだ眠いらしいんだけれど、いつもどおりの時間にログインしている。


「勝手に遊びに行ってしまったらしい。

 グレイが心配している」

『ありゃりゃ』

『女王、また泣いてるのか?』


 泣いてません!

 柴さんってば、ムーさんが休みで淋しいからってすぐにわたしをからかうのはやめて。

 泣きそうだけど、まだ泣いてないし……


『泣いたらまたSS撮るから知らせて』

『柴やん、旦那の前でそれ言う?』

『あ……今のはなしで……』

「……聞き流す……」

『うわ、微妙な間が怖いってクロウさん。

 とりあえず俺もいま中部東海だけれど……手分けして探してみる?

 どこかアテがあれば見に行くけど?』

「いや、全然心当たりがなくて困っている」

『じゃ、手分けしよう』


 他にログインしているメンバーの位置情報を確認したカニやんは、テキパキと指示を出す。

 それを聞きながら開いていたウィンドウを閉じようとしたわたしは、クロエにきいた話を思い出す。

 確かルゥって、ギルドメンバーリストに名前が載っていたはず。

 それならひょっとしてメッセージが送れる?

 そう思って操作してみたら……ビンゴ!


『ルゥ、どこにいるの?

 わたしはギルドルームにいるから、すぐに戻ってきて』


 ……あの子が文字を読めるかどうかが問題だけれど、メッセージ機能がついているってことは、ひょっとしたら読めるかも……っていう可能性に賭けて送信してみる。

 しかもメッセージに 「ギルドルームにいるから」 って書いちゃったから、わたしはここから動けない。


 失敗した……


 クロウが、わたしの代わりにギルドルームでルゥを待っているからって書けばよかったのかしら?

 いや、それだと絶対に戻ってこないわね。

 しかもあの短い足で戻ってくることを考えたら……時間が掛かる……うん、凄く時間が掛かると思う。

 またフンフンフンフンフン……忙しく臭いを嗅ぎながら戻ってきたら、もっと時間が掛かる。

 せめて居場所を教えてくれればわたしのほうから迎えに行くのに……って思っていたら、ルゥから返事が来た。


information ルゥ からメッセージが届きました


 ウソッ!


 あの子ってば、わたしが思っている以上に出来る子だったみたい。

 しかも文字が読めるとか、実はわたしが思っている以上に超高性能AI搭載なのっ?

 いっこうに噛み癖は直らないし、癖毛も直らないし、頭突きもやめなくて変なスキルばっかり覚えるけれど……わたしもルゥ絡みでは変なスキルばっかり取得しているけれど、でも 【幻獣】 だもんね。

 きっと本気を出せば凄く出来る子なのよ! …………って思ったのに、意気込んで開いた返信は肉球スタンプ一個とか……………………これ、なに?

 ど真ん中に肉球スタンプ一個って、これ、なによっ?


「まぁ飼い主がグレイだからな」


 ちょっとクロウ、ルゥの個性をわたしと関連づけないで!

 とりあえずこのメッセージは可愛いから保存……と。


『え……それ、保存なの?』


 羨ましいでしょ、カニやん。


『すっげぇ羨ましいです』


 でも転送してあげません。

 だってルゥからメッセージなんて、これが最初で最後かもしれないじゃない。

 こんな可愛いメッセージ、保存せずにどうするのよ?

 消えちゃったりしたら一生後悔するわ。


『犬嫌いが、すげぇ進歩だな』


 感心するのは早いわよ、カニやん。

 実物(リアル)はやっぱり怖くて触れないから。

 このあいだ近所を散歩していた小型犬を撫でようとしてみたんだけれど、飼い主さんに不審がられるくらい怯えてしまって、一緒にいた兄が自宅まで回収してくれました。

 別に吠えられたりしたわけじゃないんだけれど、いざ飼い主さんの許可をもらって……前にゆりこさんが、人様のペットを勝手に触っちゃいけませんっていっていたから、ちゃんとお話しして触らせてもらおうとしたんだけれど、いざ手を伸ばそうとしたら強ばっちゃって、足とかすくんで、て、手も震えてきて……


『ごめん、きいた俺が悪かった。

 謝るからその話はもうやめて』


 うん、やめる。

 お、思い出すだけで心臓がバクバクしてきた。


「……結局泣くのか」


 これはルゥがいなくなったから泣いてるんじゃなくて、あの小型犬を触れなかったことが情けなくて、それを思い出したら涙が出てきただけで、泣いてるわけじゃない。

 ちょっとクロウ、わたしの話、ちゃんときいてる?


「ああ、きいてる」


 クロウってばなおざりに返事をしながら頭を撫でてくれる。

 これって全然きいてないってことよね。

 涙を拭いながらウィンドウを閉じようとしたら、なぜかクロウに止められる。

 ルゥの肉球メッセージは転送してあげないわよ。

 これはわたしの宝物なんだから……って思ったら違ったみたい。

 メッセージ画面を閉じて……もちろんこれはわたしのウィンドウだから、クロウはわたしの手を使って操作してるんだけれど、メッセージ画面の下にあったギルドメンバーリストを見る。

 リストにはメンバーの名前や今のログイン状態、コメント欄の他に位置情報が出る。

 今わたしとクロウはナゴヤドーム内、つまり中部東海エリアにいるわけなんだけれど、同じ中部東海エリアにいるメンバーについてはわりと詳細な場所が出る。

 それこそわたしとクロウの場合……表示機能をoffにしているため今は空欄だけれど、機能をonにすれば 【ギルドルーム】 と表示される。

 でもわたしたちとは違うエリアにいるメンバーについては、所在地のエリア名が表示されているだけ。

 【関東エリア】 とか 【関西エリア】 ってね。

 逆に関東エリアや関西エリアにいるメンバーのリストには、わたしやクロウの位置情報は 【中部東海エリア】 としか表示されない……もちろん機能をonにすれば。

 せっかくある機能だけれど、わたしとクロウはいつもoffにしていて、今も当然のようにoffにしている。

 残念なことにルゥの位置情報もoffらしく、表示欄は空欄のまま。

 これが使えれば……って思ったら、クロウが勝手にわたしの位置情報をonにしたの。

 んーっと……いま捜索しているのはルゥで、わたしじゃないんだけど?

 っていうかわたしの位置情報なんてクロウは見るまでもないでしょ、目の前にいるんだから。

 一体何がしたいのかと思ったらクロウが、リストのルゥを指さしながら言うの。


「関東エリアだ」


 え? どういうこと?

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