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116 ギルドマスターは悪代官の悪事を裁きます

PV&ブクマ&評価&感想、ありがとうございます!!


本当に最近遅刻ばかりで・・・(汗

 ご禁制の品の抜け荷。

 裏家業にその売り上げの秘匿、模造品の販売に商売敵の暗殺。

 そして大名家への御用達指名に、専売品の独占……えーっと、現代社会に置き換えると密輸とか脱税とか、詐欺、殺人とか、まぁそのへんよね。

 結構色んなことをしてるのね、越後屋は。


 悪事ばっかり


 で、それを全部隠してね、大目に見てねってお願いを悪代官にしてるのが 【密談の間】。

 これはエピソードクエストでしか見られなくて、通常バージョンはもっと早くボス戦に突入する。

 これは一種のプレイヤーサービスって感じかしら?

 ちなみにいつまでも見ていられるし、一通り話が終わるとループする。

 つまり最初に戻ってまたやり直すのよ。

 一瞬で越後屋が自分の座布団の上に戻り、徳利を持って悪代官の傍らに膝を進めてお酌を始めるの。

 そしてまた同じ会話が繰り返される。

 だから一回見たらもういいと思うんだけれど……トール君、バロームさん、もう三回目が始まってるんだけれど、そろそろボス戦しない? って声を掛けたら、二人とも申し訳なさそうな顔をする。

 お互いに、相手がまだ見たいのかと思って待っていたらしい。

 譲り合いの精神ね、うん、尊いわ。

 でもそろそろボス戦を始めましょうか。


「あの、どうしたら……?」


 どうしたらボス戦に突入するのかってトール君が訊いてくるから、そのまま襖を開ければいいのよって答えておく。

 もちろん間違いじゃないんだけれど、開けた瞬間にちょっとね。


「うわぁ!」

「きゃー!」


 ボス戦突入ってことで二人とも用心はしていたと思うけれど、それを上回る事態が起こり、二人とも声を上げながら腰を抜かしたようにその場に座り込む。

 何が起こったのかといえば……


「曲者どもめ!」


 開けられる襖を見た越後屋がトール君たちにそう言って、着物を脱ぎ捨てるの。

 その下から現われるのは、先程までうるさいほどまとわりついていた黒装束の忍者。

 つまり越後屋も忍者だったっていうオチなんだけれど、これまでの忍者とは格が違う。

 全然HPが違うし、刀を持ちならがも手裏剣を投げ、火遁の術で火を噴いてくる。

 一人で三役をこなすだけでなく、畳返しでわたしたちの足下を掬ったり……まぁやりたい放題。

 しかもその後ろでは悪代官が変わらず一人酌でお酒を飲んでるの。

 ちなみにこれは仕掛け(ギミック)があって、本当のラスボスは悪代官なんだけれど……通常のトチョウ攻略で越後屋は出てこないからね……まずは越後屋忍者を倒さなければ悪代官に攻撃は通らない。

 まるで関係のないNPCのようにそこに鎮座したまま、一人で酒を飲み続けるの。

 ちなみに通常のトチョウ攻略では襖を開けた瞬間、悪代官自身が 「曲者じゃ、者ども、出会えー!」 って、まるで時代劇さながらに声を上げる。

 そして出てくるのがまた忍者。

 エピソードクエスト版だとこの忍者は出てこなくて越後屋忍者一人なんだけれど……一人のはずなんだけれど…………なんで出てくるの、普通の忍者が……


 え? バグ???


「最近、あちらこちらのダンジョンで修正が入っているっていう噂があって……」


 畳を返して足下を掬いながら出てくる忍者に呆気にとられていたら、不破さんの屍鬼がその忍者を両断。

 わたしはその後ろにいた越後屋忍者に一撃を食らわせて牽制する。

 確か、プレイヤー先制だったノブナガの自主性が上がってたっけ?

 今まで嫌々プレイヤーの相手をしていたっていうか、仕掛けられれば相手をするけれど、攻撃されなければ足下を通られても知らん顔をしていたノブナガが積極的になっちゃったあれ。

 それと関係あるの?


「ノブナガもですか。

 そっちは把握していませんでした」


 そうなのね。

 わたしたちもそれを知ったのはほんの偶然だったんだけれど、不破さん……というか 【特許庁】 がトチョウクエストのこの変化を知ったのも偶然だったらしい。

 第四回イベント前、たまたまこのトチョウクエストに挑戦したメンバーがいて……バロームさんじゃないらしいんだけれど……なにも知らないままこの異変に遭遇。

 主賓以外にお手伝いでもう二人ほどいたらしいんだけれど、見事に落とされて攻略失敗。

 でもお手伝いの二人はとうにこのクエストをクリアしたそこそこの火力プレイヤーだったから、どうして失敗したのか? って話になったらしい。

 もちろんただのバグって可能性もあったんだけれど、直後に第四回イベントが入って確認出来ず。

 しかもエピソードクエストは一度クリアしちゃうと、もう挑戦出来ない。

 だからクリアしていないプレイヤーがいないと確認出来ない。

 バロームさんはその話を知らなかったらしいんだけれど、フチョウを終わらせたのでトチョウに挑戦したいから、誰かにお手伝いを頼めないかって蝶々夫人に相談したのは偶然だったんだけれど、そこに不破さんがいたのも偶然で。

 明日からアカウント凍結でお休みになるノーキーさんを斬り納めておきたかった不破さんが、嫌々ながらもバロームさんに同行したのは蝶々夫人に言われたからってだけじゃなくてそういう理由があったから。

 あちらこちらのダンジョンで修正が入っているっていう噂は少し前から流れていたらしい。

 じゃあわたしや脳筋コンビ以外にも琵琶湖に落ちた人がいるのかしら?

 噂になるってことは、そこそこの人が修正箇所に遭遇してるってことだろうし。

 それにしてもこの数はちょっと……ああ、もう邪魔!

 みんな、下がって。


「起動……業火」


 範囲魔法、業火の一撃で蚊のように……いや、この場合はハエのようにって言うんだっけ? ……どっちでもいいんだけれど、周囲をちょろちょろしてうるさかった忍者諸共に越後屋忍者を焔に包む。

 あれは 【幻獣】 じゃないらしいんだけれど、当然ノーマルの忍者より強くて、当然のようにHPも高い。

 もちろんSTRも高いんだけれど、たぶんVITも高いわよね。

 結構硬いもの。

 だから業火一撃じゃ落ちてくれないんだけれど、(スキル)の効果で動きを止めたところをクロウの大剣・砂鉄が両断する。


 うん、さすがクロウ!


 悪を成敗! って感じで、すっきりばっさり。

 もちろん真の黒幕は悪代官なわけなんだけれど、その悪代官戦に備えて慌ててインベントリからMPポーションを取り出して回復をするわたしの後ろで、不破さんがトール君にひっそりというのよ。


「君はここで仕事をしないんだ」


 あらら……不破さんってば痛いところを衝いてくるんだから。

 ほんと、この人ってクロエに似てる。

 まぁ見た目は、不破さんはホストでクロエは美少年だから全然似てないんだけれど、内面というか、性格というか……容赦のないところとか、ね。

 わたしとクロウは組んでそれなりに長いから、お互いに動きがわかるっていうか、息が合うっていうか……あら? やだ、なんで顔が熱くなってくるんだろ?

 えっと、情緒不安定? ……いやいやいや、業火の焔が熱かっただけね、きっと。

 うん、そういうことにしておこう! ……ま、まぁそんな感じで、わたしがこうしたらきっとクロウがああしてくれるって予想がつくのよね。

 でもトール君にそれをしろっていうのはもちろん無理な話。

 でもまるっきり任せちゃうのもどうなの?

 不破さんが言いたいのはそういうこと。

 じゃあ不破さんはどうなの? っていわれれば、自分が担当していた範囲だけでなく、さっきまでクロウが担当していた範囲にまでカバーを広げ、接近戦に弱いわたしとバロームさんのフォローをしていた。

 わたしは杖を使って少しは捌くことが出来るし、火遁攻撃については常時発動(パッシブ)スキルの 【愚者の籠】 がある。

 だから効かないんだけれど、さすがに手裏剣を三枚四枚と同時に投げられたら何枚かは当たってしまうし、そこに刀で攻撃されれば捌ききられない。

 それをHPの高さでカバーしているようなものなんだけれど、バロームさんは直撃……それこそ首を守るのが精一杯。

 忍者はプレイヤーみたいに故意に首を狙ってくるってことはないんだけれど……もちろん偶発的に剣や手裏剣の軌道が合ってしまうことがあって、接近戦に対処出来ない魔法使いは、どうしても最大の弱点である首への攻撃を意識しちゃうのよね。

 しかもレベル的にバロームさんはそれほどHPが高いとも思えない。

 MP、HPの両方をポーションで回復するのに結構忙しくしていて、攻撃参加もままならない。

 もちろんトール君に、クロウみたいに敵の懐に飛び込んで一撃必殺をやれとは言わないけれど、もう少しそういうところに気がついてカバーしてくれるといいんだけれど……つまり不破さんが言いたいのはそういうことね。

 【特許庁】 のノーキーさんはあそこでクロウと一緒に飛び込んで行っちゃうタイプだけれど、不破さんは柴さんやムーさんみたいに後背を守るタイプ……かな?

 串カツさんもいるからその時々で役回りが変わるのは当然で、それがマルチの醍醐味。

 今のこのパーティだって、バロームさんに業火ほどの火力があるのなら主賓にお任せ。

 わたしは後背のフォローに回るし、クロウの代わりにトール君が越後屋忍者を斬ってもよかった。

 ううん、むしろその火力があるのならトール君が斬るべき。


 主賓だからね


 お手伝いを得られないソリストたちなんて、嫌でも自分で斬らなきゃいけないわけだし。

 でも二人ともギルドに所属しているし、落とされると死亡制裁(デスペナルティ)でせっかく溜めた経験値を減らされてしまうから、そこまでの無理はさせたくないっていうのが親心よね。

 わたしたちがエピソードクエストをしていた頃なんて、わたしたちよりレベルの高いプレイヤーがいないから全てが自力。

 本当に苦労したんだから。

 でもトール君はおっとりしているから……うん? だからこうやって、その時々に言ってもらったほうがいいのかしら?

 あれ? だとしたらわたし、結構きつい役をクロエにしてもらってない?


 …………クロエ、ごめん。


 これが終わったら謝らないと……な、なんて切り出すかが難しいんだけれど、とりあえず今は攻略に専念しましょう。

 いつも余計なことを考えて脱線しちゃうのがわたしの悪い癖だもんね。

 でも不破さんの言いたいことがわかったのかどうか?

 わからないけれどトール君は 「え?」 っていう顔をして動きを止めちゃうんだけれど、倒したのは越後屋忍者だけ。

 まだまだ雑魚の忍者は出て来るし、真のラスボスはこれからよ。


alert 江戸の悪事を牛耳る悪代官 / 種族・幻獣


 …………このネーミングセンス、いつ見ても最悪。

 カニやんに言わせれば、ここの運営は色んな意味で崖っぷちだからね。

 そのへんのセンスも崖っぷちなのよ。

 そうとしか思えないんだもの、このネーミングは。

 しかもここは江戸じゃなくてトチョウだし。

 せめて江戸城にしたらいいのに、まだダンジョンとしては実装されていないのよね。

 江戸城も、大坂城も。

 でもだからってトチョウを忍者屋敷にして、都知事の代わりに悪代官を据えるとか……ほんと、崖っぷちセンスもここに極まれりって感じ。

 さぁて、それじゃラスボスを倒しますか!

 焔の中に越後屋忍者が崩れ落ちると、それまで延々と一人酌でお酒を飲み続けていた悪代官がクワッと両眼を見開き、脂ぎった顔に怒りの形相を浮かべて片膝を立てる。

 そして床に間に飾ってあった刀を手に取る。

 ただの床の間飾りを思わせるくらい豪華な造りの鞘をした刀なんだけれど、威力はとんでもないくらい抜群。

 成金趣味そのものの着物を着た悪代官は立ち上がりながら抜くと、周囲をわらわらしている忍者も一緒に切り裂く勢いで最初の一撃を振り切る。


「衝撃波!」


 胴を両断されそうになったバロームさんを庇うわたしの腕を、放たれた衝撃波がかすめてHPをドレインさせる。


 痛ぁ~い!


 衝撃波はスパークや被毒、クロノスハンマーと同系統だから常時発動(パッシブ)スキル 【愚者の籠】 じゃ防げない。

 しかも悪代官の衝撃波は確率じゃなくて100%。

 つまり刀を振れば絶対に衝撃波が飛んでくる。

 あの成金衣装で見事に袴の裾を捌きながら動き回り、畳の上を足袋で走り回っても滑らないし、悪代官のくせに結構な……剣術っていうの?

 嫌になるくらい腕がいいのよ。

 振りが早くて、衝撃波の発生も半端なくて嫌なところを斬りこんでくる。

 しかも近寄ると、袂になにか硬いものが入っているらしく、袖で殴られるっていうね。

 これもおまけ程度の威力じゃなくて、立派な打撃攻撃。

 がっつりHPを持って行かれちゃう。

 もう! クロウでも不破さんでもいいから、こんな奴はさっさと斬っちゃって。

 足止めするから早い者勝ち!


「起動……演蛇」

「ファ、ファイアーボール!」


 ………………うん、バロームさん、それじゃ落ちないわ。

 そういえば前にも、緊迫した場面でカニやんにヘロヘロのファイアーボールを撃たれたっけ?

 年少組を連れて蜘蛛の糸を取りにいった時、ノブナガが現われちゃって。

 あの時を思い出すくらい気が抜けるわ。

 いや、そりゃもちろん早い者勝ちっていったけれど、この場面でそれはどうなの?

 ラスボス 【幻獣】 を相手に初歩級の初歩スキル、ファイアーボールって……わたしにはない発想だわ……


「すいません、うちの馬鹿がとんだ不始末を」


 あまりに予想外な行動にわたしたちが拍子抜けする中、そう言った不破さんは責任をとって悪代官を斬り落としてくれる。

 演蛇に拘束されて悪代官の反撃はないとはいえ、大剣ほどの威力はない屍鬼。

 一撃で片がつくほど簡単ではないんだけれど、電光石火の速さで右腕を断ったかと思ったら続けざまに首を落とす。

 その(やいば)の動きが光の筋となって本当に綺麗。

 やっぱり屍鬼、いいなぁ……というわけでクロウ、たまには砂鉄じゃなくて屍鬼を使ってみない?

 今はわたしのインベントリに入ってるけれど。

 使ってくれるんならすぐに出すわよ。


「また今度な」


 約束よ、たまには使ってね。

 もちろんわたしがいる時に。


「自分で使えばいいだろう」


 ダメ、クロウが使っているところを見たいの。


「俺では満足いただけませんか」


 あら、やだ、不破さんももちろん格好いいわよ……うん、まぁでも直視出来ないからわたしの視線はあらぬ方向を向いてるけれど。

 おかげで言っていることが嘘っぽく聞こえるかもしれないけれど、いい加減不破さんもそれには慣れてくれたみたいでニコリと笑って許してくれる。

 でもそんな不破さんの笑みのほうが、わたし以上に嘘っぽいんだけど。

 というわけで、出来たらもう少し面積の広い装備にして下さい。

 せめてわたしと会った時だけ換装してくれるとか。


「グレイさんは本当に面白いですね」


 うん、この返事は絶対にこの要望をきいてくれる気はないわね。

 むしろ遠回しに拒否された感じがする。

 しかもクロウに怒られた。


「あまり我が儘をいうな。

 お前、もう眠いんだろう」


 うん、少し眠い。

 明日も出勤だし、今日はもうナゴヤドームに戻ってログアウトしようかな。

 トール君とバロームさんは報告があるし、不破さんも、今からでも地下闘技場に行くのならナゴヤドームに戻る……ということで五人で戻ることにしたんだけれど、その道中、そろそろみんなに眠気が襲ってくるこの時間にそぐわないほど元気な声がインカムから聞こえてきた。


『マメ、戻ってきましたー』


 マジ、今頃……?


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