11 ギルドマスターはレクチャーします
pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!
「さぁ~て、今日も元気に逝ってみようか」
「逝かないくせに」
せっかく盛り上げようと思って自虐したのに、クロエってば……。
そのうしろではトール君とココちゃんが、どう反応していいのかわからず困り顔。
うん、気にしなくていいから。
こんなのいつものことだしね。
クロウが全くなにも喋らないのもいつものことだしね。
そのクロウなんだけど、ここ最近少し喋るようになったと思ったのに、また元のだんまりに戻っちゃって面白くない。
わたしが人間に戻ったのがそんなに気に入らないの?
わたし、元々人間だし。
勝手に人をペットにしたのはあんたでしょう!
一度も猫にならなかったくせに……
そうね、クロウが一度も猫にならなかったのが一番つまらなかったわ。
つまらないまま化け猫屋敷イベントも終わっちゃって、運営からは 【近く、大きなイベントを計画中!】 なんて中途半端なインフォメーションが出た。
なんかさ、文法的におかしいんだけど。
ってか、まだ計画中なの?
近く、大きなイベント開催予定とかだったらわかるんだけど、計画中ってなによ?
そんな中途半端なインフォメーションなんて要らない。
用意が出来てから告示して。
変に期待を煽って、また化け猫屋敷みたいな半端さだったら怒るわよ。
イベントを考えてくれてるってことはユーザーとして評価するけど、具体的な内容が告示されてから参加は検討することにして、今日はギルドメンバーのクエストのお手伝い。
「フチョウって、このあいだ行ったところですよね?」
「そそ、トール君がギルドに入ってすぐぐらいに行ったところ」
「の~りんさんに案内してもらいました」
ほんと、トール君っていい子。
礼儀正しい子だけど、もちろん自分より歳上かも知れないってことはちゃんとわかってる。
でも、なんとなく違うような気がするんだけど、そんなことよりもずっと気に掛かっていたことがある。
「そういえばさ、トール君ってアギト君と知り合い?」
あまり現実のことは聞いちゃいけないと思うんだけど、どうしても気になって。
クロエやクロウはいつもと変わらないんだけど、ココちゃんにはちょっと非難するような顔をされちゃった。
ごめん、でもちょっと必要だったから。
「いえ、全然。
あの日……えっと、初めてログインしてすぐに、ドームで向こうから話しかけてきたんです。
話した感じで慣れた人かと思って、誘われるままにダンジョンに行って……」
その先はあの日、クロエから聞いた。
でもその出会い方って、トール君を初心者と思って話しかけてない?
つまりアギト君はカモを探してたってこと?
……考えているうちにあの時のことを思い出して、またもやもやしてきたからアギト君のことは考えないことにする。
実はトール君のこととは関係ないんだけど、あのあとアギト君を見掛けることがあって、ちょっと気になってセブン君と話したんだけど……
「アギト君?
うちのギルドの新人さんだね。
グレイさんの知り合い?」
もうちょっと詳しく聞いてみたら、アギト君から 【鷹の目】 に加入申請があったらしい。
わたしが 【鷹の目】 のことを訊きたがるのが珍しかったからか、セブン君は訊かれるままになんでも答えてくれたんだけど……
「ひょっとしてグレイさん、アギト君のことを気にしてるの?
泣くぐらい嫌な思いしたのに、相変わらずお人好しだね」
なんで知ってるのよー!!
自分じゃ平静を装ったつもりだったのに、顔に出てたみたい。
セブン君に同情されるとか……落ち込む……。
誰よ、喋ったのは!
このあと気になってギルドメンバーに鎌を掛けて回ったら、あの時いなかったメンバーまで話を知っていたっていうね。
お喋り犯、許さん!
もちろん見当はついてるのよ、クロエね。
他に誰がいるっていうのよ、人の恥ずかしい話を振れて回るなんて悪趣味が。
ほんと、あとでピエロの餌食になってもらわなきゃ気が済まないんだから。
でもアギト君、もうログインしてないんだって。
【鷹の目】 は廃課金の廃装備ギルドだけど、廃人ギルドでもあるからとっくに切られちゃったって。
トール君もフレンド登録してなかったから、今はもう連絡を取る手段もない。
「いや、リア友だったら申し訳なかったなって思ってさ。
次の日から気まずくなっちゃうじゃない」
それで現実世界での関係が気になったの。
アギト君、最初からトール君のことを 「トール」 って親しげに呼んでたから余計に気になってさ。
一応 【鷹の目】 にいたことも教えてあげたんだけど、やっぱりクロエは知ってたわ。
「あそこは廃課金だし、廃装備もらえると思ったんじゃない?
あの子の考えそうなことじゃん」
なんて言ってるけど、あんた、余計なことまでセブン君に話しちゃったでしょ。
主催者の恥までさらさないでよ。
「でも廃課金の連中ってさ、そもそもどうやってゲーム内通貨を稼いでるか知ってる?」
課金装備がある分、装備を作るための素材集めに時間を費やす必要がない廃課金プレイヤーたち。
でもアイテムの中には課金じゃ購入できないものもあって、どうしてもある程度ゲーム内通貨が必要になる。
彼らは不要になった課金装備を、バザーや個人取引で売ることでゲーム内通貨を稼ぐっていう、どこまでも課金頼りのプレースタイルなの。
「だからさ、最初は物珍しさでちょっとはくれるんだろうけど、なんでもかんでもってわけにはいかないんじゃないかな?
あの子、思い通りにならないと癇癪起こすから、そのうち相手にされなくなったんでしょ」
セブン君からアギト君が 【鷹の目】 に入ったってきいて、うちでの経緯を話して、そういう性格だから心配はないってセブン君に助言したらしい。
やっぱりあんたが喋ったんじゃない、クロエ。
絶対ピエロの餌食にしてやる!
「そういえばあいつ、色んなゲームやってきたっていってました。
たぶん、今も別のゲームやってるんじゃないですか?」
えっとトール君、それはあれかな?
アギト君の一件を気にしてるわたしを慰めてくれてるのかな?
ほんと、いい子だー。
クロエとは大違い……じっとりと恨めしげにクロエを見てみたんだけど、わたしがセブン君と話したことも知ってたみたい。
いひひ……って笑ってる。
さすがにちょっとは気まずさを覚えてくれた……と思ったら、わたしの後ろからクロウに威嚇されてたからだった。
ムカつくー
八つ当たりよろしく、華奢なメイス装備で出てくる敵を殴り倒す。
文字通り殴り倒したんだけど、それを見て……って、関西エリアに入ってからずっとそうだったんだけど、今更気がついたらしいトール君が驚いてる。
いったい今まで何体倒してきたと思ってるの?
今更驚くの? ……って、なにに驚いてるの?
ごめん、そこがわかってなかった……
「グレイさん、メイス使えるんですか?」
あ、そこ。
そこですか。
まぁ確かにメイスは打撃武器。
魔法使いのわたしが使うのはちょっと珍しいのかもしれないけれど、理屈を考えれば全然驚くようなことじゃないの。
「使えるわよ」
ちょっと自慢するようにメイスを軽く振ってみせる。
理屈は簡単なのよ。
ちなみにこれはわたしに限らず、一緒にいる回復系魔法使いのココちゃんにも当てはまることなんだけど、打撃と斬撃は初期スキルだから。
だいたい素手だと殴るしかないわけで、クロウやクロエも武器を外せば打撃です。
「そうなんですか?」
「そうなんです」
「実際トール君もさ、その剣の耐久がなくなったら殴るしかないわけでしょ、敵」
クロエが補足のつもりで言ってくれたんだと思うけど、それ、全然補足になってないから。
前衛剣士は元々打撃と斬撃で戦ってるからね。
「剣士はその二つの初期スキルレベルを上げて、新たなスキルを取得して、ステータスをSTRメインに振っていくでしょ?
魔型は初期スキル二種を使ってレベルを上げて、ステータスをINTに振って最初の魔法ファイアーボールを取得。
で、そこからINTメインにステータスを振って、同じように育成していくわけ。
STRにステータスを振らないから威力がないだけで、打撃も斬撃も、使えばスキルレベルだけは上がるのよ」
わたしなんてメイスを振り回すから、初期スキルのくせに打撃のスキルレベルだけは上がってるのよね、徐々にだけど……。
当たり前の知識だと思ってたからこれまで説明したことなかったんだけど、トール君は本当に初めて知ったみたい。
そんな顔をして驚いていた。
ひょっとしたらこのゲームの初心者っていうだけじゃなく、VRMMORPGの初心者かもしれない。
ちょっと注意してみておいたほうがいいのかな?
大丈夫だとは思うけど、豆の木二号になるのは可哀相だもんね。
残念キャラ二人っていうのも、ギルドとしても重いもの。
あれだけ面白いのは豆の木一人で十分。
わたしの腹筋が崩壊するから……
「そういえば、魔法も」
「うん、撃てるわよ」
メイスのままファイアーボールを撃ってみせると、当たった食虫花が一瞬で炎に包まれる。
この食虫花、どこからか蔓を伸ばしてきて足を引っかけるの。
で、そのままズルズル引っ張ってって、花の中に突っ込まれてがっぷり食われる。
言わなくてもわかるだろうけれど、いつもマメが食われてる。
仕方ないからマメごと燃やしてあげるんだけど、今日はいないから見せられなくてごめんね。
「どういう仕組みなんですか???」
「んーとね、極論を言えば、武器なしで攻撃が出来ないのは銃士だけかな」
「そうだね」
銃士も頷く。
もちろん初期スキル、打撃と斬撃は持っているから、全くなにも出来ないわけじゃないけど、銃は撃てない。
装備してないないからね。
簡単な理屈だと思う。
「でも魔法は杖が撃ってるわけじゃなくて、魔法使いが撃ってるスキルだから、杖がなくても撃てる」
だから今、わたしはメイスでも撃てるってわけ。
「魔法使いが持ってる杖にしても、トール君やクロウが持ってる剣にしても……増幅器かな?
スキルの威力を増幅するのが主な役割だと思う。
スキル発動に条件がついてるのはたぶん銃士だけ」
もちろん魔法にもINTが一定以上ないと発動しないとか条件はあるし、斬撃にもそういう条件はあると思う。
特殊スキルの一部には特定の条件下でしか発動しないとか、武器依存スキルだってあるしね。
でも絶対装備してなきゃ、職種別スキルを一つも使えないわけじゃない。
「それって、銃士は不利じゃないですか?」
「そうでもないのよ。
大きな魔法ほど詠唱に時間がかかっちゃうから、断然銃士のほうが攻撃速度は速いしね。
でもスキルの発動条件が武器の装備。
連射には次弾装填時間っていう二つの縛りがある」
「同じ遠距離攻撃といっても、銃士のほうが断然射程も長いしね」
「ああ、それが一番の違いかもね。
魔法使いは、遠距離っていうより中距離だもん」
もちろん範囲魔法の中には、かなり広範囲に影響を及ぼすものもあるんだけど、まぁそれはこれからおいおい覚えてくれればいいかな。
一気に詰め込んだってトール君も覚えられないでしょうし。
そもそも剣士だし。
まずは剣士としてスキルを増やして、スキルレベル上げて、装備を調えるって感じかな?
それでも十分やることてんこ盛り。
楽しみだわー。
「これ、大阪府庁ですよね?」
トール君は廃墟と化したフチョウを見上げ、ちょっと顔を歪めてる。
確かにちょっと不気味なんだよね、中は愉快だけど。
今日はココちゃんのクエストとしてこのフチョウをクリアします。
ホームのナゴヤドームを出発する前、の~りんが 「一緒に行こうか?」 って声を掛けてくれたんだけど、の~りんはすでにこのクエストをクリアしている。
まだのトール君を案内しておきたいことを話したら、クロウがいるとはいえ、魔型三人は辛いってことでの~りんは辞退。
同じ魔型とはいえ、硬さはあるからってことでクロエが一緒に行ってくれることになった。
の~りんはちょっと柔らかすぎるのよね、このあいだも言ったけど。
だからそろそろギンナン拾いに行かない?
「モデルはそうね。
でも内装は違うんじゃない?
ダンジョンっぽく改装してあるわよ」
中部東海エリアを出る前にパーティは組んである。
主賓であるココちゃんが、ウィンドウを開いてクエストを選択したら彼女を先頭にフチョウに入る。
まず入り口で出迎えてくれるのは曲芸中のアシカ。
いや、トド?
ひょっとしたらオットセイ?
あれ、オットセイってどんなのだっけ???