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105 ギルドマスターは人生初のモフを経験します

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!!


ちょっと遅めの時間ですが、獣臭で満たしてみました……

どうぞ、よろしくお付き合いくださいませ。

 …………フンフンフンフンフンフンフンフンフン…………そんなに嗅がなくていいから!

 わたしがログインしたらすぐにフンフン……じゃなくて、臭いを嗅ぎにくるチビフェンリルのルゥ。

 小さくなっても犬が苦手なのは変わらないし、しかもログインしてすぐ飛びついてくるのにも慣れないし、極めつけはログインするたびにわたしを確認するように臭いを嗅いでくるの!

 データなんだから臭いなんてしないし、変わりません!


 もう、なんなのよぉ!!


 カニやんなんて笑いながら犬の習性だからっていうんだけれど、フェンリルは犬じゃなくて狼です。

 愛犬家のカニやんがそうやって甘やかそうとするから、全然噛み癖だって直らないんだから。

 さっきも……わたしがログインするとルゥはいきなり飛びついてくるんだけれど、それをクロウが庇ってくれたら、またがっつり食べるし。

 さすがにカニやんの細腕と違って、クロウの手は大きいから手首ぐらいまでしか食べられないんだけれど、これを甘噛みしてるとかいわないでよ。

 がっつり食べてるし、低く唸ってクロウを睨んでるし……どう考えても怒ってるし、怒って噛んでるのよね?


『いやぁ、甘噛みかもよ?』


 うん、カニやんはあくまでもそういうのね。

 じゃあ歯ごたえを期待して、そのへんの脳筋を食べさせておけばいいのかしら?

 あの筋肉ならさぞかし噛み応えというか、噛み甲斐があると思うんだけど?


『ちょっと待てや女王!

 まさかと思うけど、俺の筋肉に期待してないだろうな?』


 あら柴さん、よくわかったわね。

 今から探して実験してみようと思ったんだけど、どこにいるの?

 ムーさんがいないから柴さんしかいないし……


『誰が言うかー!』


 脳筋だからノリに任せて喋らせようとしたんだけれど、さすがに超高性能危機管理センサー内蔵脳筋剣士(アタッカー)

 本能的に危機感を覚えたみたい。

 でもさっきからインカムを通して聞こえる背後の声なんかから、たぶんナゴヤジョーよね。

 カニやんも。

 この二人は仲良し小好しだからよく一緒にいるし……って思ったら、柴さんは確かにナゴヤジョーにいるんだけれど、フレンドと潜っているらしい。

 じゃあカニやんは? ……って思ったら、今日も素材集めに行っているトール君に付き合って、ジャック君を連れてエリアダンジョン 【(じゃ)の道】 にいるんだって。

 このあいだもベリンダやマコト君と一緒に行っていたみたいだけれど……まさかりりか様、またぼったくりを企んでないでしょうね?


『やってないわよ』


 わたしがなにかを言う前に、りりか様から直通会話が入る。

 それどころか結構良心的な仕事をしてくれたらしいことをトール君が説明してくれる。


『実はイベントに間に合わせるために、剣だけ先に作ってもらったんです。

 だから持ち込み素材と必要経費をりりか様とムーさんに借りていて……』


 なるほど、借金分の返済と、これから作る防具。

 両方の持ち込み素材と必要経費調達のため、ここしばらく 【(じゃ)の道】 に通い詰めてるのね。

 第四回イベントが終わったばかりで防具を急ぐ必要はないと思うし、ムーさんは今週はお休み……って思ったらトール君はそのあいだに工面して、休み明けのムーさんにちゃんと返したいんですって。

 うん、ご利用は計画的ね。

 そういう遊び方、好きよ。

 もちろんレベル的に 【(じゃ)の道】 はトール君一人でも大丈夫だと思うんだけれど、エリアダンジョンなので他のプレイヤーと鉢合わせる可能性が高く、当然そういうところじゃトラブルも起こりやすい。

 特にトール君は、火力はまだまだなんだけれど、第一回イベントでノギさんを斬って以来ランカー並みに目立っちゃってる。

 ノギさん自身は矜持(プライド)が高いからトール君を認知しない。

 名前も覚えず雑魚扱いしてるんだけれど、他のプレイヤーには結構やっかまれているらしくて……特にノギさんの支持者(シンパ)なんかから。

 わたしも全然気づいてなくてクロエやカニやんに忠告されたんだけれど、それでこのあいだは、自分でも例の俊敏性の実験をしたいってことでベリンダが一緒に行ってくれて、その二人のフォローって形でマコト君も一緒に。

 もちろんトール君自身がランカー並みの火力を持てばそういう意味でのトラブルは起きないんだろうけれど……起きても自身で解決出来るしね。

 それこそ力で黙らせる形になるんだろうけれど、今のトール君にはまだ無理。


『【素敵なお茶会】 が重火力で有名だし、ギルド自体の支持者(シンパ)も多いから』


 そういう恭平さんも同じ悩みを抱えているらしい。

 ただ恭平さんは 【素敵なお茶会(うちのギルド)】 に所属して日も浅いし、魔法使いから剣士(アタッカー)転職(クラスチェンジ)してからも日が浅い。

 だからそれほど周知されていないぶん気は楽だけれど、油断は出来ないらしい。

 そんなに妬むくらい 【素敵なお茶会(うちのギルド)】 に憧れてくれるんなら加入申請してくれたらいいのに。

 わたしはいつだって待ってるんだから。

 でもそれは敷居が高いって……なんで?

 よくわからないんだけれど、他のプレイヤーとのトラブルなんてない方がいいに決まってるし、それで今日はカニやんがついていって、カニやんがいるならってことでジャック君が初 【(じゃ)の道】 に挑戦……ということらしい。

 あそこなら被毒にさえ気をつけておけば、まぁ大丈夫よね。

 ダンジョンボスの大蛇(おろち)はカニやんが瞬殺してくれるし。


『なんでそこで俺に圧掛けるわけ?』


 なんとなく。

 他意はないから気にしないで。

 まぁそっちはカニやんに任せるとして、じゃ、わたしはナゴヤジョーに行こうかしら。

 もちろんやりたいことがあるんだけれど……柴さん、今から行くから待っててねぇ~。


『来んな!!』


 そんなに本気で拒否しなくてもいいじゃない。

 しかもわたしたちがナゴヤジョーに着いたらダンジョンに逃げ込んじゃうし……もう!

 いいわよ、どうせ潜るのはシャチ銅だし。


『銅? なんで銅? いまさら?』


 双子を連れているわけでもないわたしがシャチ銅に潜り始めると、カニやんから拍子抜けしたような声が。

 確かに今更シャチ銅なんて経験値は微々たるものだし、ドロップもクズばかり。

 わたしやクロウのレベルで潜っても仕方がないんだけれど、やりたいことがあるっていったでしょ?

 全然予想がつかないからとりあえず銅を選んだのは、ルゥを試してみたかったから。

 そもそもルゥを連れてダンジョンに入れるのか? そこからわからないのよ。

 だからナゴヤドームからここまで、来る途中で雑魚を何体か叩いてシャチ銅のプレートを何枚か入手。

 まずはダンジョンに入れるかを試してみたんだけれど、生成したダンジョン内にはちゃんとルゥがいて、興味津々に周囲をキョロキョロしながらわたしとクロウの前を歩き出す。

 すっごく短い足で、頑張ってわたしたちの前を歩くんだけれど、短い尻尾をブンブン振りながら、お尻をフリフリ……ちょっと可愛いかも。

 初めて見る金魚にキョトンとした顔をしたんだけれど、なにを思ったのか大きな口を開けてバックンって……なんでも食べちゃうのね……。

 次々に泳いでくる金魚を見つけては、バックンとひと呑みにしちゃったり、前肢で叩き潰したり踏み潰したり。

 なかなか安定の戦いっぷり。

 ただ小さいから上の方を泳ぐ金魚には届かなくて、それはわたしとクロウで始末していく。

 一見子犬が遊んでいるように見えるんだけれど、そこそこ大きなシャチと遭遇した時には先制攻撃を食らっちゃう。

 鼻先をシャコーンとやられてキャンって短く高い声で鳴いちゃった。


 あらら……


 でも怯んでわたしのところに逃げ込まないのが狼ってところかしら?

 それとも小さくなっても 【幻獣】 の意地があるってこと?

 相手のシャチは 【妖獣】、つまり格下だからね。

 低くうなり声を上げてすぐさまシャチをバシって前肢で(はた)き、バックリ口を開けるシャチの上顎を……食い千切る感じ?

 なんだか野性的な動きなんだけれど、そういえばイベントの時もフェンリルはこんな感じだったっけ。

 体はずいぶん小さくなっちゃったし、足も短くなったチビフェンリル・ルゥなんだけれど、その俊敏さはもちろん野性的な自由も変わらず、その短い尻尾までフルに使って金魚からシャチまでを倒していく。

 しかもルゥが落とした金魚やシャチの微々たる経験値がわたしに流れてくるんだけれど、わたしはすでにレベルキャップに届いていて経験値カウンターはストップしている。

 せっかくなんだけれど、御免ね。

 上限開放されたらありがたく頂戴するわ。

 でも、この調子なら双子を連れてきても大丈夫だったかな?

 ルゥの散歩に行くってきいたら二人も一緒に来たがったんだけれど、初めての実験だから何が起こるかわらかなくて、用心のため二人は置いて来ちゃった。

 でもボス部屋について、その判断が正しかったとしみじみ思ったわ。

 初めて見る銅シャチの巨大さに、ルゥったら、ただでさえ大きな赤い目を、目玉が飛び出るんじゃないかってくらい大きく開いちゃって……そんなに驚いたのね。

 全身の毛とか尻尾とか逆立てちゃって……しかも低く唸って威嚇してる。

 シャコーン、シャコーンしている正面から行くとあの大きな口にバックリやられるってわかっていたのか、短い足でも俊敏に横に回り込んだのは賢いんだけれど、銅シャチはビッチビチと跳ねるから、尻尾でバシコーンと(はた)かれちゃった……うん、まぁ予想通りかな?

 だいたい初めての人はそれ、やられちゃうのよね。

 (はた)かれて壁に叩きつけられたルゥは高い声でキュッって鳴いて、それでも……そこ、毛繕いするタイミングじゃないからね、ルゥ。

 繕ってもあんたのその癖毛、たぶん天パだから直らないし。

 その毛繕いにどんな意味があったのかわからないんだけれど、低い体勢で唸ったルゥは気を取り直したように銅シャチに飛びかかり、尾びれ……っていうのよね、あそこ。

 銅シャチの堅い尻尾にかじりついたんだけれど、銅シャチはまたビッチビチと跳ねてルゥを振り落とす。

 なんで? って一瞬思ったんだけれど、よくよく考えてみればこれ 【幻獣】銅シャチ vs 【幻獣】 チビフェンリル なのね……、そりゃルゥでも振り落とされるわ。

 ここまでの道中に出てきたシャチとは、大きさだけでなく格も違うんだもの。

 さすがに初めてのルゥには荷が重いかなと思って助太刀しようとしたら、クロウに止められる。

 えっと……まさかバックリ食われた仕返しに、銅シャチにルゥをバックリさせようっていうんじゃないわよね?

 さ、さすがにそれは可哀相だから……って思ったんだけど、違うみたい。

 また壁に叩きつけられたルゥはキャンって子犬みたいに鳴いたんだけれど、すぐさま態勢を立て直し低い姿勢で銅シャチを睨みつけたと思ったら、飼い主にお伺いもなく巨大化しちゃった。

 しかも大型犬サイズを通り越して一気に超巨大化。

 つまり本来のフェンリルの姿に戻ってしまった。

 クロウが止めてくれなきゃ、このあとのルゥの大暴れに巻き込まれているところだったわけで、とりあえず感謝したんだけれど、クロウの心がそんなに狭くなかったことにも安心したわ。

 でもルゥの心はとっても狭くて……いや、これは狭いんじゃなくて自分勝手と言うべき?

 我が儘ともいうんだろうけれど、勝手に巨大化したルゥはボス部屋の天井で頭をぶつけて怒り出したの。


 えぇーっ?!


 前肢で何度か頭を掻いたと思ったら、いかにも不快そうなうなり声を上げながら天井を落とす勢いで何度も頭突きを食らわせる。

 ちょっとやめてよ、ルゥ!

 本当に落ちたらどうするつもりよっ?

 お……落ちないと思うけれど、念のため、ね……うん、念のため。

 もう、本当に双子を連れてこなくてよかったわ。

 勝手に巨大化するなんて予想外よ!

 天井からパラパラと砂埃が落ちてきて、わたしを庇ってくれるクロウの頭に降り注ぐ。

 払ってあげたいんだけれど、わたしの背じゃ手が届かないのよね……悲しい……。

 ルゥは天井が落ちる前に頭突きをやめてくれたんだけれど、八つ当たりよろしく、低く唸りながら銅シャチの頭を前肢で踏みつける。

 見るからに恨みというか、怒りを込めた鋭く速い一撃。

 そのままビッチビチ跳ねている胴にかぶりつき、食い千切るとか……なんか、シュールな絵面だわ……ほんと、双子を連れてこなくてよかった……。

 とりあえず初めて見る 【幻獣】 vs 【幻獣】 はフェンリルの勝利ってことで終幕。

 巨大化したままのルゥはのっそりとこっちを見るんだけれど……あ、そのままこっち来ちゃダメよ!

 その大きさだと、わたしもクロウも踏み潰しちゃうから!

 チビちゃんに……一番小さくなってくれる?

 恐る恐るお願いしたら、また犬みたいにワンッて吠えて、一瞬で一番小さな姿に戻ってくれる。

 戻るっていう表現もおかしいといえばおかしいんだけれどね、たぶんあの巨大な姿がルゥの本来の姿だと思うから。

 でもわたしはこのチビ姿じゃないとダメだから。

 あの巨大化もダメだけれど、大型犬もダメだから。

 わたしのお願いをきいて一瞬でチビフェンリルになったルゥは、少し自慢げに……誇らしげに、かな?

 短い足で歩いてわたしの足下に寄ってくる。

 そしてちょこんとお行儀よくお座りをして、なにかを待つようにわたしを見上げてくる。

 短い尻尾が、凄く嬉しそうにブンブン振れている。

 うん? これはあれかな?

 褒めて欲しいのよね?

 頑張ったもんね……八つ当たりしたけど……っていうか、八つ当たりで銅シャチ食い千切ったけど……でも、まあ初めてのシャチ銅をほぼ一人でクリアだもんね。

 ここは褒めてあげたい! ……だけど、褒めるってどうしてあげたらいいの?

 ちょっとカニやん?


『撫でてあげれば?

 ちなみにクロウさんじゃ意味ないから。

 グレイさんが撫でてやらないと、飼い主はグレイさんだから』


 え? ……あ、いや、代わりにクロウに撫でてもらうっていう発想はなかったんだけれど……撫でるの? ルゥの頭とか?

 うん、ご褒美待ってるもんね。

 そういえばわたしもイベントのご褒美、まだクロウにもらってないんだけれど……とりあえずルゥにご褒美……ってことで頑張って撫でてみました!

 人生初体験です。


 モフモフ


 恐る恐る手を差し伸べたら、ルゥってば頭を撫でてと催促するみたいにちょっと下を向いたから、ご希望どおりに頭を撫でてみた。

 凄い天パは思っていた以上に柔らかくて、触り心地がいい。

 え? なにこれ? これが噂に聞く癒やしのモフモフっ?


 やだ、気持ちいい!


 予想外の柔らかさというか、気持ちよさというか……なんともいえない、これ!

 あまりにも嬉しくて楽しくて、うっかり両手でルゥの毛をくしゃくしゃにするくらい撫でちゃったんだけれど、ルゥも嫌がらなくて、満足そうな声で鳴いている。

 それでついつい調子に乗って撫で続けていたら、不意にインフォメーションが出た。


information 新しいスキルを取得しました


 うん? この状況で新しいスキルってなに?

 わたしが首を傾げると、真似をするようにルゥも首を傾げる。

 二人で不思議に思いつつウィンドウをポチってみたら……


skill 撫でる を取得しました


 ……これ、どっちが取得したスキル?

 もちろんルゥよね?

 いや、でもこれって、ひょっとして……………………わたし?

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