102 ギルドマスターは喪女なので恋愛がわかりません
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吊り橋効果ねぇ?
思うんだけれど、実際に効果があったのはの~りんのほうだったんじゃない?
自分で仕組んで自分で嵌まって、余計にココちゃんを好きになっちゃった……気がする。
「の~りんらしいっていうか、なんて言うか」
「グレイさんにしては珍しく面白いところをついてくるね」
余計なお世話よ、クロエ。
喪女のわたしにだって、それぐらいは考えられるし、わかります!
ほんと、失礼なんだから。
当のの~りんにも少しは自覚みたいなものがあるのか、ゆりこさんとは一番離れたところに座って小さくなっている。
いずれにしたってカニやんが勝手に持ちかけた賭けについては、カニやんが勝っても負けてもサブマス解任なんてしないから。
そこだけは譲りません、絶対に!
それこそ主催者はわたしだし、サブマスは主催者にしか解任出来ないんだから。
「それこその~りんにはココちゃんを諦めろっていいたいところだけれど、こればっかりはな」
それこそ今のココちゃんの態度で十分に罰ゲームになっているんじゃないかと、溜息混じりのカニやん。
なんだかんだいって、厳しい態度は取れないのね。
他のメンバーに比べて、の~りんとはそれなりに付き合いも長いし。
ただ、ココちゃんはどうなんだろう?
わたし自身、ココちゃんの行動には疑問を持っているのよね。
例えココちゃんがシシリーさんに利用されているとしても、ココちゃんにも責任があると思うの。
自分が何をしているのかちゃんと理解せずに行動すること自体に問題がある……と思うんだけれど、ブーメランに眉間を突き刺されて痛い……。
わたしもそんなところがあるから……みんな、いつもごめんね……。
「まぁグレイさんは喪女案件のみだから実害ないし」
カニやんは優しいことをいってくれるんだけれど、それがわからないんだってば!
ちょうどいいからそれを訊いてみようと思ったらクロエに邪魔される。
「わからなくていいから黙っててっていったよね?」
はい、ごめんなさい。
「でも、でもさ! それでもココちゃんが、シシリーに上手く丸め込まれてるだけって可能性はあるだろ」
う~ん……クロエには黙っていろって言われたけれど、ココちゃんを責めれば責めるほどの~りんが燃え上がっちゃうような気もする。
もちろんの~りんの言うこともわかる。
でもね……第二回イベントの少し前、彼女はちょっと自信を持ち始めていた。
そこを上手くそそのかしてイベントに参加させたのはの~りんで、自信を持ち始めていただけにあの結果はココちゃんにとってショックだったと思う。
でもそれ、【素敵なお茶会】 になんの関係が?
何度もいうけれど、あの第二回イベントは個人戦。
最初から最後まで、みんなずっとそう言っていたじゃない。
だから火力を持たないことを選んだココちゃんに参加は難しいとも。
彼女自身火力がないことはわかっていたはずだし……それともちょっとはやれるって思ったのかしら?
そこまで自信を持っちゃったってこと?
「それもあるかもしれないし、の~りんに守ってあげるって言われて浮かれちゃったのかもしれないわね」
「僕はグレイさんとゆりこさん、両方じゃないかなって思う。
いいこと尽くしでノッてるって思ったら、結果は散々。
で、衝動的にギルドを飛び出しちゃった」
ゆりこさんも結構厳しいけれど、それ以上にクロエは厳しい。
でも話を聞けば、クロエが一番ココちゃんの心情に近いようにも思える。
はぁ~……頭が痛い……どうしよ、これ?
「大丈夫か?」
思わず溜息を吐いちゃったら、クロウが声を掛けてくれる。
うん、大丈夫よ、ありがと。
あ! あとで約束どおり、ご褒美頂戴ね。
忘れないうちに言っておかないと……も、もちろんみんなには内緒でこっそりね。
「わかってる」
笑われてしまった……恥ずかしい……ダメだ、みんながいるのに顔がにやけちゃう……ここは気を取り直して……気合い一発と思って、自分で両頬をパンッと叩く。
うん、いい音! ……痛いけど……。
「グレイさん、違う意味で顔が赤くなってるよ」
「また美人を無駄遣いしてるよ、この人は」
「二人とも甘いんだから」
そう呟いてコーヒー……よね、それ? ……を飲んだゆりこさんは、余裕たっぷりに話を継ぐ。
「ねぇの~りん、そもそもあなた、クロウさんになれると思ってるの?」
「それは、その、もちろん無理だと思うけれど……」
の~りんは魔法使いでクロウは剣士。
戦い方もレベルも違っていて、そもそも性格が違う。
ちょっと厳しめのゆりこさんが言いたかったことはたぶん職とレベルのことだとは思うんだけれど、この程度で狼狽えてちゃ、到底クロウはもちろん、ゆりこさんやカニやんにだって勝てないわよ、の~りん。
自他共に認める腹黒大魔王、クロエもいるしね。
「そうよね、無理よね。
じゃ、ココちゃんがグレイさんになれると思う?」
……ゆりこさんの質問の意図がよくわからないんだけれど、わたしとココちゃん?
見た目ももちろんだけれど、性格も全然違うと思う。
唯一の共通点は魔法使いってことだけれど、彼女は回復をとって、わたしは火力をとっているという違いがある。
の~りんがこっちを見てくるのはわかるんだけれど、どうしてカニやんやクロエまでわざわざわたしを見るの?
こっち見なくていいから。
こういうタイミングであえて見られると恥ずかしい。
だから見ないでってば!
「いい? この可愛さはグレイさんが喪女だからなの。
でもあの子は絶対喪女じゃない。
だからこの程度のことで顔を赤くしたりしないわよ」
ね、ねぇ……ちょっとゆりこさん、それ、どういう意味っ?
いや、ま、うん、凄く顔が熱いんだけど……こんな風に注目されるのはちょっと……やめて欲しい。
しかも喪女とは関係ないと思う。
ねぇ、これ、どういうプレイ?
「結構な羞恥プレイだね」
「どこまでもからかい甲斐があるっていうか、なんていうか……」
か、からかったの?
ねぇゆりこさん、ちょっと訊いてもいい?
「カニやんったら、ネタばらしが早いわよ」
「拗れると面倒でしょ。
でもまぁ言いたいことはちゃんとあって、人真似じゃダメってこと。
の~りんにもココちゃんにも、グレイさんやクロウさんほどの火力はないんだから、この二人は参考にならないって話」
うん、言いたいことはわかった。
でも、そもそもの~りんとココちゃんは魔法使い同士なんだから、わたしとクロウじゃ参考にならないじゃない。
ん? これ、さっきの吊り橋効果と関係あるの?
「待って待って、そっちに行くと話が面倒になる。
絶対拗れるからやめて。
吊り橋は……いや、吊り橋も関係あるんだけど、そもそもそこがの~りんの勘違いで、この二人は吊り橋じゃねぇし。
この二人、普段からこうじゃねぇか」
こうってなによ?
クロウがいつも一緒なのはクロウに訊いてよ、気がついたらいるんだもの。
「相変わらず悪魔な発言しやがるよ。
クロウさんも、言わせておいていいわけ?」
「可愛いものだ。
好きなだけ言わせてやれ」
突然飛び火した割にクロウは余裕でカニやんを黙らせたんだけれど、今度はゆりこさん。
「クロウさんったら余裕ね。
そんなこといって、横から鳶にかっさらわれても知らないわよ」
「出来るものなら」
うん? これもクロウの勝ち???
ゆりこさんってば、ぐっと言い掛けたなにかを呑み込んだんだけれど……聖女様の怒りの形相って迫力がありすぎる……。
「ちょっとカニやん、邪魔するぐらいの根性見せてよ」
「結局俺に返すのやめてくれない?
こういう時、なんでクロエに行かないわけ?」
「だって僕、興味ないし。
それこそゆりこさんが入って三角関係とか、面白そうだけど?」
「絶対に嫌。
誰がグレイさんと張り合うのよっ?」
あ、あら? 結局わたしなの? ねぇ、結局これ、なんの話なの???
回り回って話がすっかり見えなくなっちゃって、わたしの首がねじ切れるんじゃないかってくらい傾ぐのを見て、三人ともに大きく溜息を吐くのはなぜ?
まぁでも、これをチャンスとみて黙り込んだの~りんだけは逃してもらえなかったけれど。
「……話を戻して、個人的な恋愛感情はどうでもいい。
小中学生の恋愛相談じゃあるまいし、ここが仮想現実だなんて今更言うつもりもない。
けど、少なくとも主催者に一言もなく退会ってのは無しだ」
カニやんてば、それこそ邪魔されてなるものかって感じに一気にまくし立てる。
もちろんの~りんを睨みながらね。
「グレイさんの言葉を借りればこれはゲームだし、遊び方は人それぞれ。
仮想現実だし色んな人間がいるのも当然だが、でもルールはあるし、最低限の礼儀は必要だ。
それさえ守れない奴を、万が一にも本人が戻りたいと希望してきても、俺は再加入には反対する」
……正論……よね。
うん、ぐうの音も出ないくらいの正論だと思うわ。
一時の感情で飛び出したっていうには時間も経っているし、飛び出してからやっていることがやっていることだもの。
それこそシシリーさんに丸め込まれているとしても、善悪の判断がつかない歳じゃないもの、ココちゃんは。
これからも 【シシリーの花園】 でやっていくなら、シシリーさんを止めるぐらい……は無理か。
だってシシリーさんってば、かつての仲間だった恭平さんたちに見捨てられるぐらい頑固っていうか、執念深いっていうか、ね。
昨日今日知り合った程度の人の話になんて、耳を傾けるわけないわよね。
でももちろん、だからって一緒になってあれやこれやとされても困るんだけれど……。
しかもカニやんってば
「最終的な判断を下すのはもちろん主催者だけどさ」
うん、そんでもっていつものあれね。
「俺たちは主催者に従う」
そうくると思ったわ。
参考までにクロウとクロエの意見も聞いてみたいんだけれど?
「お前がカニやんの考えに賛同するのなら、それでいいと思う」
「僕も、正論だと思う。
ギルドに干渉しない限り、の~りんがココちゃんと付き合おうと振られようと興味ないし」
ここでゆりこさんの意見を聞かないのは、さすがに彼女の意見を聞くなら他のメンバーたちの意見も聞かなきゃいけなくなるから。
ゆりこさんはサブマスじゃないもの。
ただ、さすがに途中から他のメンバーたちもわたしたちの話に耳を傾けていて、意見こそ言わなかったけれど、未だグッタリしている柴さんやムーさんもね。
あとはわたしが決めるだけ。
「……現状は、ココちゃんの復帰は認めない。
今はココちゃんも戻りたいなんて思わないだろうしね。
でも状況が変われば、その時にまたみんなに相談したいと思う」
「状況って?」
カニやんでもなくクロエでもなく、恭平さん。
元サブマスだったから、つい色々気を回しちゃうのかな?
「例えばイベントなんかで回復要員が必要になった時とか?」
ちょっと期待するようにの~りんが前のめりになってくるんだけれど、残念でした。
「その時はわたしが回復に回るわ」
「女王が火力を捨てるのか?」
「え? 女王が回復?」
柴さんやムーさんにはそんなに意外だったのかしら?
すっかり伸びていたくせに……って思ったら、他のメンバーも驚いた顔をしている。
ええ、どうせわたしは火力馬鹿ですよ。
火力で押し切るしか芸のない、名前だけのランカーですよ。
「火力を捨てるわけじゃないけれど、必要があればするわよ。
そのために回復術だって取得したんだから」
逆にいえば、ゆりこさんだって攻撃術の基本はほぼ取得出来てる。
の~りんよりずっとレベルも高いしね。
MPはもちろん、HPだってそこそこ持ってる。
実は大技を取得すれば、カニやんに匹敵するぐらいの重火力になれる人なんだから。
でも回復に集中すると戦闘にまで手が回らない。
戦闘に集中すると回復が遅れてしまう。
だから魔法使いは自主的に火力と回復系に別れているだけ。
同じ魔法使いのカニやんとの~りんはもちろん知っているし、だから他のメンバーほどは驚かなかったけれど、わたしが火力にこだわらなかったところには驚いたみたい。
「そういうご都合主義的なことじゃなくて……上手く説明出来ないんだけれど、でもこの先なにがあるかわからない。
だから、みんながココちゃんに戻ってきて欲しいって思った時に、ココちゃんが戻りたいっていってきた時、とか、そんな感じ?」
ごめん、全然具体例が出てこなくて上手く説明出来ないんだけれど……伝わらないかな?
それこそ首がねじ切れるほど捻っても他に説明する言葉が浮かんでこないわたしに、クロウがいう。
「大丈夫だ、ちゃんと伝わってる」