表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルドマスターは今日もギルドを運営します! ~今日のお仕事はなんですか?  作者: 藤瀬京祥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/808

101 ギルドマスターは吊り橋効果に悩まされます

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!

 まぁね、硬さには定評のある 【幻獣】。

 しかもイベント用にわざわざ用意したやつだし、しかも……知らなかったとはいえプレイヤーがイベント全体のレベルを決めたとか、やりたい放題の運営に踊らされまくり。

 今回のイベント最終攻略キャラ、フェンリルまで辿り着けたのはよかったけれど……よかったのはそこまで。

 高火力の高HPに高VITまではさすが 【幻獣】 なんだけど、とってもアグレッシブでしかも俊敏。

 もうね、俊敏すぎてうちの脳筋剣士(アタッカー)たちですら動きについていけない。

 特に柴さんとかムーさんなんて内蔵センサーが自動で作動するから……つまり本能的に避けて、本能的に仕掛けてるんだけれど、それでも対応が間に合わない。

 フェンリルは噛みつき引っ掻きはもちろん、四肢で蹴り飛ばしたり踏み潰したり尻尾で(はた)くとか……なんかだかちょっと人間の子どもみたい。

 持ちうるありとあらゆる手段を使って全力でプレイヤーを落としに掛かってくる。

 接近戦に不慣れな恭平さんが最初に落とされて、次にトール君を庇ってマコト君が。

 こうやって一人、また一人と落とされて最後は誰もいなくなってイベント終了?


 ……え、マジで?


 魔法使い(わたしたち)もフェンリルを抑え付けるために魔法で援護するんだけれど、フェンリルってば、その俊敏さを最大限に生かして単体魔法を器用に避けちゃう。

 ほんと、どんだけ俊敏なのよっ?

 範囲魔法で大きく狙っていかないと当たらないからMPの無駄遣い。

 でも範囲魔法だと剣士(アタッカー)たちも近づけず、発動させた魔法の効果が消えるまで仕掛けることが出来ない。

 おまけに銃声やらフェンリルの咆哮やらを聞きつけて、ガルムどころか他のプレイヤーたちまで寄ってくるし……もう散々な消耗戦……。

 イベント制限時間ギリギリでやっと倒せたものだから、反省会のつもりで集まったギルドルームはみんなグッタリ。

 前回のイベントとは違う形で死屍累々って……ほんとわたしたち、運営に踊らされっぱなし。

 当然のことだけれど、イベント不参加だった年少組はまだまだ元気。

 ハルさんを手伝って人気のある無人バザーに各種ポーションを出品し、今もギルドルームを飛び出して売り切れた商品の補充に走り回っている。


 楽しそうね


『うん、楽しい』

『今度、僕らも出品してみようか?』


 ……なにを?

 んーっとキンキー、なにを出品するのかしら?

 そういえばあなたたちの希望職、きいてなかったけれど、まさか……まさかよね?

 今のメンバーで生産職三人を抱えるのはちょっと厳しいんだけれど……そ、そんなことわかるわけないか。

 うん、わからなくていいけど、出来たら生産職はやめて欲しいな……と主催者(マスター)は思うんだけれど……どう?


『え? 生産職はしないよ。

 僕は魔法使い志望です!』

『あたしは剣士(アタッカー)!』


 ドーム内を元気に走り回っている二人の声がインカムから返ってくるんだけど…………まぁいっか。

 一瞬男女逆じゃない? って思っちゃったんだけど、自由よね。

 そもそもこのゲームは圧倒的に男性プレイヤーが多いんだけど、でも女性剣士(アタッカー)もいないわけじゃないし……ローズとか……広義的にいえばベリンダもそう言えなくもないわけなんだけど……そういえばベリンダってば、さっきから珍しいことしてるわね。

 柴さんとかムーさんなんて露骨に伸びてるんだけれど、マコト君とトール君は反省会っていうより、トール君の新しい剣とか作る予定の防具について検討中。

 たまたま近くの席にすわっていた恭平さんやJBが助言なんかをしてあげてるんだけれど、珍しくそこに混じってるの。

 気の強い彼女はいつも自分から積極的に話しかけていくんだけれど、なんだかちょっといつもと雰囲気が違うような……わたしの気のせい?


「……若いよな……」


 疲れ果ててテーブルの上に伸びているカニやんが、顔だけをこちらに向けて呟いてくる。

 そういうカニやんだって、柴さんたちよりは若いでしょ。


「いや、俺ももう三〇前のオッサンだし」


 カニやんとクロウはそんな感じよね。

 でも聞いた話じゃ、脳筋コンビは三〇歳を超えてるらしいから、まだまだカニやんは十分若者に入ってるわよ。


「いや、二三とか、比べないでくれる?

 オッサンは二五を過ぎたら急に老化が始まるから」


 うん? クリスマス理論? ……それって女の人に例えられるんじゃあ……あら?

 席がないからゆりこさんはソファに座って優雅にお茶を飲んでいたんだけれど、その目がこっちを見ているのはなぜ?

 えーっと……ゆりこさんって何歳(いくつ)


「ちょ、グレイさん待って!

 それ、俺が巻き添え食らうから」

「もう遅いわよカニやん。

 後でゆっくり話しましょうか?」


 …………カニやんご愁傷様でした、ちゃんと成仏してね。

 わたしは両手を合わせてカニやんの冥福を祈る。


「だからやめてって。

 だいたい今時適齢期とか、あんのかよ?」


 カニやんってばすっかり焦っちゃって、どんどん自分で墓穴を掘りまくってるの。

 なんだか楽しい!

 自分以外の人が墓穴を掘るのを見るのって、こんなに楽しいのね。


「いっつも掘る側だもんね、グレイさんは」


 クロエってば、せっかく人が楽しんでいるのに水を差さないで。


「楽しんでるついでにいっちゃうと、ベリンダのあれ、吊り橋効果だし」


 唐突にクロエがベリンダのことを言い出したのは、たぶん、さっきまでわたしが彼女を見ていたことに気づいていたからだと思う。

 ひょっとしたらクロエも彼女の様子がいつもと違うって思っていたのかもしれないんだけれど……ところで吊り橋効果ってなに?

 それこそ話が唐突すぎてわたしは首を傾げたんだけれど、カニやんとゆりこさんには通じたみたい。

 たぶん二人もベリンダの様子に気づいていたってことなんだろうけれど、ほぼ同時に


「あれな」

「そうだと思うわ」


 うん、なにが?

 確か吊り橋効果って、吊り橋を渡る時の恐怖心とかそういうドキドキを、恋愛感情と勘違いしちゃうっていうやつよね?

 …………え? まさか、わたしのことをいってるの?

 えっと……その、わたしがクロウに頭を撫でられて嬉しくなるのって……そういうこと?


「それは違う」

「全然違うわ」


 サクッとあっさり否定してくれるカニやんとゆりこさん……なんだけど、これは喜ぶべきところ?

 それとも嘆くべきところ?

 ほんと、情けない話なんだけれど、わたしにはそこからわからない……。


「一生わからなくていいんじゃない、グレイさんは。

 クロウさんは大変だけど」


 向かいにすわるクロエが、わたしの隣にすわるクロウをチラリと見る。

 その意地悪そうな視線を受けても無反応……安定のクロウね。

 さすがにカニやんとゆりこさんはそんな意地悪はしないんだけれど……っていうか、ゆりこさんは別の目標を見つけていたみたいで


「の~りん、さっきから落ち着かないみたいだけれど、大丈夫?」

「大丈夫です……っていうかなんで俺に話、振るの?」


 それこそやめてよって言わんばかりのの~りんも、ゆりこさんと一緒にソファに座って……コーヒーかしら、それ? ……を飲んでいる。


「心当たりがあるんじゃないかと思って」

「ないよ、ない!

 それよりベリンダだろ?

 吊り橋効果なら勘違いなわけだし、教えてあげたほうがいいんじゃない?」


 相当に後ろ暗いところがあるらしいの~りんは酷く早口で、鈍いわたしですら何かあるってわかっちゃうくらい。

 もちろんベリンダも気になるんだけれど、それについてはカニやんが教えてくれる。


「つまりさ、フェンリルに吹っ飛ばされた時、恭平に助けられただろ?

 あれ」


 あの時の感覚を彼女は勘違いして、恭平さんに……ってこと?


「気づかずそのまままとまっても別にいい話だし、放っておいてもいいんじゃね?」


 もちろん恭平さんの気持ちもあるわけだけど、わたしとしては、ギルドに一つくらいカップルが出来るのはちょっと面白いかもって思っちゃったわけで、断然ベリンダを応援したいんだけど、喪女のわたしに出来ることはない……泣きたい……。

 喪女の自覚があるぶん、余計なことはしないでおこうって自制出来るだけマシだと思うことにする……ほんと、泣きたくなるくらい情けない話だけど……。


「いや、カップルなら一つ、あるにはあるでしょ?

 喪女の自覚ついでにもう一つ気づけば?」

「カニやんこそ、それをいっても無駄だって気づけば?」

「そうね、そっちはすんなりまとまってもらっては少し面白くないかもね」

「うっわ、ゆりこさん、腹黒」

「僕より黒いんじゃない?」


 なんだか三人だけでわかり合ってて凄く楽しそうなんだけど、わたしも入れて欲しい。

 ちょっと淋しくなってクロウを見たら、なぜか凄く同情されてしまった。

 憐れみ満載の目で見ないでよ……泣きたくなるから……。

 ベリンダの、突然フェンリルの前に飛び出すなんて無謀な行動の理由も気になるところなんだけれど……あとできいたら、自分の俊敏性を生かせばフェンリルの気を引けるんじゃないか?

 そうすれば足止めが出来て、一気に攻められるんじゃないかって思ったらしい。

 目の付け所はなかなか良いと思うんだけれど、相手がフェンリルでなければ通用したかも。

 その攻略方法については、今度別のダンジョンで試してみましょう……ってことで、とりあえずの~りん、喋ってもらおうかしら?


 逃がさないわよ


 もちろんの~りんと吊り橋効果っていえばココちゃんよね?

 つまりなに? ココちゃんが第一回イベントに続き、個人戦の第二回イベントにまで参加したのは、の~りんがそそのかしたからってこと?

 吊り橋効果を使って自分を好きになってもらおうって考えたわけ?

 ちょっとの~りん、答えなさいよ!


「まあ、その……その通りっていうか……」


 の~りんは物凄く気まずそうなんだけれど、どんなに言い淀んだって最後まで白状してもらいますからね。


「いや、だってさ、クロウさんとグレイさん見てたらそういう方法もありかなって思って」


 ん? わたしとクロウ? じゃあなに、やっぱりわたしがクロウに頭を撫でられて嬉しくなるのは吊り橋効果なの……?


「ちょっと待った、グレイさんは余計なことを考えなくていいから」


 余計なことってなによ?

 これって結構重大なことじゃない、わたしにとって……うん、わたしにとっては。


「わかった、じゃあこうしよう。

 グレイさんのことは後で考えて。

 今はの~りんとココちゃんのことってことで」

「そもそも別の話だしね。

 ややこしくなるからグレイさん、ちょっと黙っててよ」


 クロエは容赦がないんだから。

 でもクロウにまで言われちゃったし……。


「二人の懸案を先に片付けたほうがいいだろう。

 少し大人しくしていろ」


 わかった。

 なんだか納得出来ないけれど、とりあえず話を進めてくれる?


「さっきも言ったけど、別に誰が誰を好きになろうといいんだよ。

 面倒ごとを起こさなけりゃさ」

「別に面倒になんて……」

「なってるだろう。

 ココちゃんはギルドを抜けて、よりによって 【素敵なお茶会(うち)】 を目の敵にしてる 【シシリーの花園】 に入ってシシリーと一緒に 【素敵なお茶会(うち)】 の悪評を流してるんだぞ」

「それはきっとシシリーに利用されてるだけで……」

「それをあの子自身からきいたのか?」

「カニやんこそ、一緒になってるってどうして言えるのさ?」


 真っ向からカニやんに対立するの~りんだけど、たぶんカニやんには根拠があったんだと思う。

 それこそ仕方ないっていうか、ちょっと諦めるような感じに溜息を吐く。


「……シシリーと直接話したしな」


 そういえば元々 【シシリーの花園】 でサブマスターをしていた恭平さん以外、彼女と話したことがあるのってカニやんとハルさんしかいないのよね、うちのギルドでは。

 でもハルさんはまだ 【素敵なお茶会(うちのギルド)】 に所属していなかったから、純粋にハルさんの勧誘……じゃなかったか。

 【復活の灰】 に関する話だっけ、シシリーさんがハルさんに持ちかけてきたのは。

 でもカニやんはずっと前からうちのサブマスだし、ココちゃんが 【素敵なお茶会(うちのギルド)】 に所属していたこともシシリーさんは知っていたはず。

 直接シシリーさんと会ったカニやんは、ひょっとしたらココちゃんのことも話したのかも……わたしたちにはこれまで話してくれなかったけれど。


「でもそれって、シシリーが勝手に言っていただけで、それこそココちゃんから直接聞いたわけじゃないんだろ?」


 うーん、の~りんも頑張るわね。

 でも余裕はカニやんのほうにあって、否定しないし嘘もつかない。


「でも、サブマス権限賭けてもいい。

 ココちゃんは自分から協力してる」


 ちょっとカニやん、そんなものを勝手に賭けないでよ!

 例えその賭けにカニやんが負けても、わたしはカニやんからサブマス権限を取り上げるつもりはないからね!!


「それこそ逆に、引退まで扱き使ってあげなよ」


 クロエは相変わらずの腹黒さなんだけど、でもそれ、採用します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ