10 ギルドマスターは呪われます
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前足でクロウの顔を叩いてみる。
起きてくれないから顔を踏んでみたら、やっと気がついたみたい。
ひょっとしてわたし、結構重い？
目を開けたクロウはなにか言いたそうな顔をしてたんだけど、結局なにも言わずに起き上がった。
大きく息を吐いて、それからようやく口を開く。
「無事か？」
「わたしはね」
そう言って周囲を見回すと、ボス猫が消えたボス部屋の方々にココちゃん、ベリンダ、トール君が寝転がってる。
ここは期間限定ダンジョン化け猫屋敷。
そ、また最後にビリッときたのよ。
で、みんな気絶しちゃったまでは前回と一緒。
でもね、誰もなにもないの。
わたしが猫のままってことも含めて、全員ダンジョンに入った時のまんまなのよね。
どういうこと？
顔に髭が生えてるとか、掌が肉球になってるとか……一応確かめてみたんだけど、本当になにもなかった。
全く変化がなかったの。
どういうことよ、これ？
どうしてわたしだけが猫になっちゃったわけ？
釈然としないままダンジョンを出たら、クロエ組のパパしゃんが化け猫になってた。
「その猫、パパしゃん……？」
指を差せないから、一本だけ爪を伸ばして指の代わりに差すと、クロエに背を撫でられている化け猫は、苦笑いを浮かべているように見えた。
「うん、どういうこと？」
わたしが困惑を発言すると、集まっているメンバーたちが思い思いに考えを述べ始める。
わたしはてっきり魔型が対象かと思ってたんだけど、一緒に回った同じ魔型のココちゃんは変化なし。
しかもお父さんキャラのパパしゃんは剣士なんだよね。
「うーん、条件なしの確率かな？」
「ランダム？」
「とりあえずもう一周回ってみる？
メンバー増えたし」
わたしたちが潜っているあいだに豆の木、ぽぽ、ゆりりんが新たにログイン。
野良パーティに混じっていたカニやんもギルドパーティに合流ってことで、合計13人を三つのパーティに分けるのはクロエ任せ。
わたしとクロウをセットにするのはともかく、だいたい上手くバランスを考えてくれるんだけど、今回はわたしの注文で、豆の木をわたしとクロウのパーティに入れてもらった。
で、さっきクロウに怒られてちょっと恐縮しちゃってるココちゃんを別のパーティへ。
トール君も移動するかと思ったら、そのまま。
ん？ ま、いっか。
さっきは、すでに猫になってるわたしがいたから誰も変わらなかったのかと思ったんだけど、次の周回ではものの見事に豆の木が化け猫化。
しかも……
「なんでー？
グレイさんはシャルトリューみたいに可愛いのに、なんでわたし、可愛くないのー？」
知りません。
あのさ、豆の木、それをいっちゃうとパパしゃんも可愛くないっていってるようなもんだから、やめた方がいいよ。
いや、ま、実際可愛くないんだけどね。
しかもサイズが結構大きい。
それこそ虎とか、ライオンとか、そんなくらいのサイズ。
そのサイズは、さすがのクロウも抱えられないわってくらい大きいの。
しかも二周目を終えた頃には、化け猫屋敷前は化け猫だらけになっていた。
「なに、これ？
運営は何がしたいの？」
「さぁ、何がしたいんだろうね。
でも面白い光景だよね？」
……クロエって謎だわ……。
たぶんわたしより楽しんでる、そんな気がする。
だっていつも楽しそうだし。
結局豆の木、パパしゃん、ベリンダが化け猫化。
ナゴヤドームに戻ると、ここは動物園かっ？ てなくらいの状況になっていた。
もうね、そこら中に猛獣がいるの。
一応ね全部プレイヤーだってわかってたんだけど、それでもこの中を自分の短い足で歩こうとは思わなかった。
だって怖いの！
人間のままのプレイヤーも、化け猫化したプレイヤーも、みんなもの珍しそうにわたしを見るし。
ログアウトしたあと、ちゃんと人間の姿をしている自分を見てどれだけホッとしたか。
でもね……でもね、翌日ログインしたら、やっぱり猫の姿のままだったの。
どれだけ落ち込んだか……
しかも、昨日化け猫化していた豆の木やパパしゃん、ベリンダは元に戻っていた。
ログインした時には元の姿だったんだって。
なに、これ。
どういうことよ、これっ?!
どうしてわたしだけ戻らないの？
そんでもって新たにの～りんが化け猫化していた。
「の～りん、可愛くない」
中央広場の噴水側、いつもの定位置で化け猫化したの～りんと対面。
からかうように肉球での～りんのごつい頬をモニュモニュしたら、大きな口に丸呑みにされそうになったんだけど、いつものようにどこからともなく現われたクロウに抱え上げられる。
「クロウさんの過保護が加速してる」
現われたクロエはいつものまま。
聞けば、今日はカニやんも化け猫化してるらしい。
今回のイベントダンジョンは一週間。
そのあいだにクロウをのぞいた全員、つまりりりか様まで化け猫化したんだけど、わたしをのぞいた全員が翌日には元の姿に戻っていた。
りりか様なんて、猫のあいだは仕事も出来なくて。
まぁそりゃそうよね、肉球でどうやって鍛冶仕事するのよ？
興味半分でパーティに参加するから……って思ったけど、ま、たまにはいいんじゃない。
翌日には戻れたんだし
結局わたしは期間中、ずっとクロウのペット状態。
マジなんなの？
さすがに交戦の時は邪魔になるから肩に乗ったりしてたんだけど、足場が狭いから踏ん張るのが大変で。
おかげで足腰鍛えられたと思ったんだけど、イベントが終わって人間に戻ったら意味がなかったっていうね。
マジふざけんな
イベント中に気になったことといえば、化け猫化したプレイヤーも当然戦闘できるし、敵も襲ってきたんだけど、わたしも狙われたんだけど、一度だけ、クロウの肩から落ちちゃった時、なぁ～んと敵に咥えられてさらわれそうになったのよね。
あの時は怖かった……。
いくらフーフーシャーシャー威嚇しても効き目ないし……いや、まぁそれは当然か……でも、でもね、頑張って爪で引っ掻いたりしたんだけど、ほとんどダメージが出ないの。
魔法で攻撃も試みたんだけど、ま、これは言わずもがな。
そもそも猫になった時点で魔法の威力がなくなっちゃったんだよね。
基本パラメーターがおかしくなってたのかな。
上級魔法とか、全然使えなくなっちゃったの。
それでも大きな口を開けて迫ってくるから、ファイアーボールを何発も放り込んでやったらゴックンて呑み込まれちゃって。
しかもそのあとゲップをされた時には、顎がガコーンて落ちちゃうんじゃないかと思うくらい驚いたわ。
そのまま首根っこ咥えられて、あれ、どこに連れて行くつもりだったんだろう？
連れて行かれたらどうなっていたんだろ？
今更興味が沸いてきたんだけど、後の祭りよね。
あの時点では、とにかく怖かったんだもん。
また化け猫化した豆の木が、すぐとなりで敵と睨み合ってフーフーシャーシャー威嚇し合ってるのがどんだけ恨めしかったか。
あんた、化け猫化しても残念なのね……
「結局どうしてだったわけ？」
りりか様が、自分の店舗カウンター越しに話しかけてくる。
久々にシャチ金に潜ろうと思って装備の整備に来たんだけど、りりか様の興味は終わったばかりの化け猫屋敷のこと。
自分で興味半分にパーティに参加して化け猫になったくせに、仕事が滞ったとか、八つ当たりしないでよ。
うん、わたしも今から八つ当たりしに、ベリンダと豆の木をシャチ金に連れて行くんだけどね。
「なにが？」
「だーかーらー、グレイちゃんだけが可愛い猫ちゃんになったこととか、一週間猫のまんまだったこととか、クロウがペットにしちゃったこととか」
うん、三つ目は意味不明。
わたし、クロウのペットになったつもりはないから。
りりか様はニヤニヤ笑いながら隣のクロウを見るけど、そのていどで反応するクロウじゃないしね。
「ひょっとして、マジ化け猫の呪いだったりして」
また他人事だと思ってるんだからクロエは。
っていうかね、あんたはなにしに来たの。
別に整備ってわけでもないでしょ。
「僕？ もちろん野次馬。
これからシャチ金行くんでしょ？
ベリンダさんに聞いたよ。
僕も一緒に行くから、りりか様、鱗、買って」
抜け目なく商談してるし。
そのクロエが……ああ、シャチ金には当然クロウも一緒に潜ってたんだけど……豆の木は自分からシャチに食べられるからいいんだけど、ベリンダはそうもいかなくて。
しかもわたしの狙いに気づいているから、なかなかしぶとい。
でも、まさかクロウにはめられるとは思ってなかったみたい。
斬る振りで豪快に空振りをして、シャチをベリンダに……あ、バックリ……。
ふぅ～すっきりした
人間に戻ってMPもスキル威力も綺麗に戻ったし、とりあえず豆の木を咥えたままのシャチを一撃で撃破。
ベリンダのほうは、クロウが責任をもって一刀両断にしてあげてたわ。
これで化け猫屋敷の一件は終了と思ったんだけど、クロエったら……
「あれ、化け猫の呪いっていうより、運営の呪いじゃない？」
わたし、運営に呪われるようなことをした覚えはないんだけど……たぶん……
