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第6話

 放課後の訓練場。俺はわき腹に鋭い打撃を受けて体ごと吹き飛んだ。


「いってぇ……」

「ケビン、大丈夫か? 見せてみろ」


 すぐにロベルトがやってきて治癒魔法を掛けてくれたので、痛みは軽くなる。俺は腹を擦ると奥歯を噛み締めた。


 俺は今、学園祭の武道会でフレッドに勝つために訓練している。


 フレッドが言っていた学園祭の武道会と言うのは、一ヶ月後に行われる学園祭でのメインイベントの一つだ。学年別に一対一の対決を行い、その学年で一番強いやつを決める。最後にその各学年の優勝者が総当たりで戦い、最優秀選手を決める。

 出場するのは騎士科と魔術科の生徒全員だ。騎士科はともかく何故魔術科が? と入学当時は不思議だったが、これは魔術科が魔術師だけで無く魔導師の育成も手掛けているかららしい。


 魔導師というのは剣よりも魔術をメインに使って戦う戦士のことだ。熟練の魔導師は本業の騎士が十人掛かりで襲いかかっても太刀打ち出来ない程強いという。現に、一昨年の武道会の優勝者は魔術科の学生だった。


「ごめんごめん。でも、フレッドは俺と同じかそれ以上に強いよ。どうする? まだやる??」


 俺に一撃を入れてきた騎士科の同級生、マークは申し訳なさそうに肩を竦めて尻もちをついたままの俺を見下ろした。


 マークはあの日の俺達の騒ぎを目撃していて、俺に特訓を申し入れてくれた。他人の恋人でも平気で口説いたり、身分差別を禁止する学園内で下位貴族や平民を馬鹿にしたような態度をとるフレッドの事を、流石に目に余ると思っていたようだ。


「まだやる。当たり前だろ」


 俺は汗を拭うと、もう一度立ち上がった。


「そう来なくっちゃ。ケビンは最初の受け身で安心しちゃって、いつも次の受け身の体勢まで隙がでるんだ。相手から目を逸らすなよ」

「ああ、気を付ける」

「あと、握力が弱いのが気になるな。剣がぶつかり合ったときに握りが緩んでる」

「……少しでもましになるように努力する」


 マークのアドバイスはまだまだ続いた。俺は悔しさから唇を噛み締めた。今のままでは確実に負ける。あと一ヶ月と少ししかない。それまでに何とか強くなりたいと、俺は焦燥感に駆られた。




 ***


 


 学園からの帰り道、スザンヌはそっと俺の手を持ち上げると、その手のひらを指でなぞった。手を繫いだときに違和感を覚えたようだ。

 俺の手は最近の特訓のせいで豆だらけになっていた。ロベルトに言えば簡単に魔法で治癒できるが、治癒しない方が皮が厚くなって結果的に豆が出来にくくなるのでそのままにしている。そのせいでところどころ皮がめくれて血が滲んでいた。


「ケビンさま、あまり無理なさらないで下さいね」


 俺の手の豆を確認して、スザンヌはきゅっと眉根を寄せた。俺はそんなスザンヌに笑いかける。


「大丈夫だよ。マークに扱かれてるけど、絶対にフレッドに勝ちたいからさ。あいつ、ちょっと痛い目にあった方が良いんだ」


 絶対にフレッドに負けたくない。その一心で毎日特訓に取り組んでいる。マークによると、フレッドはマークと互角かやや強いくらいらしい。今のままでは間違いなく負ける。なので、俺は剣の勝負は分が悪いと見て得意の魔術で戦う事にした。そもそも、魔導師って言うのは魔術メインで戦う戦士だしな。


 だが、問題は魔術を使うには熟練の魔術師、魔導師で無い限りは呪文の詠唱が必要なことだ。特に俺みたいな駆け出し魔術師だと殊更(ことさら)詠唱する呪文が長い。この詠唱時間を持ちこたえられるかどうかが勝負の鍵になる。

 三十、いや、十数える間だけでもいいんだ。それだけでいいからフレッドの攻撃を持ちこたえたい。そのためにマークに毎日ボコボコになるまで扱かれている。毎日毎日付き合ってくれるマークには本当に感謝の言葉しか無いな。


 俺の手のひらの怪我を見て悲しそうな顔をするスザンヌの気分を変えたくて、俺はスザンヌに明るく笑いかけた。


「今日、蝶園を見に行く? 例のやつがいるよ」

「え? 本当ですか?? はい、見たいです!」


 スザンヌは俺の顔を見上げると、パッと表情を明るくして嬉しそうに微笑んだ。俺はスザンヌの手をとると、その手をひいて蝶園に向かった。


「わぁ、本当に紫だわ!」


 スザンヌは蝶園の夕闇エリアでその魔法蝶を見つけると、感嘆の声をあげた。魔法蝶の発光色は羽の色とはまた異なる。紫の模様がある魔法蝶はこれまでもいたが、紫の光を放つ魔法蝶はいなかった。

 俺が作り出そうとしていた紫の光を放つ魔法蝶は、試行錯誤の末になんとかそれらしきものが出来上がっていた。とは言っても、赤と青の斑でほんの少し部分的に紫ががっているだけだ。


「まだ完全じゃ無いけど……。気に入った?」

「はい、とっても。ケビンさま、素敵なものを見せて頂きありがとうございます」


 スザンヌはにっこりと微笑む。そして、まばたきをしてから俺をじっと見上げた。何とも言えない甘い空気が俺達の間に流れた。


 薄暗い中に色とりどりの幻想的な蝶が舞っていて雰囲気はバッチリだ。こういう時、恋人同士なら何をする? 恋愛偏差値ゼロから十くらいにはなったはずの俺は勇気を振り絞ってスザンヌの両肩に手を置いた。

 顔を近づけても嫌がる素振りや逃げる気配は無い。心臓が煩いぐらいにバクバクだ。スザンヌが目を閉じたことを確認してゆっくりと唇を重ねる。初めてのキスは緊張で頭が真っ白になってあまり実感がなかった。けど、柔らかなスザンヌの唇の感触は確かに感じることが出来た。


 唇を離すと俺達はお互いを見つめて真っ赤になってはにかんだ。


「ケビンさま、好きです。ずっとお側において下さいますか?」

「当たり前だろ。俺もスザンヌが好きなんだから」


 それを聞いたスザンヌは嬉しそうにまたはにかむ。その様子があまりにも可愛らしくって、俺は我慢できずにスザンヌを抱き寄せるともう一度キスをした。



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