第1話
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その日はいつもと変わらない普通の日だった。変わった事と言えば、朝起きたら親父が先方がどうしてもと言っていると、二回も断ったはずのお見合い話をもう一度持ってきた事ぐらい。それは当然断った。
「姿絵くらいは見たらどうだ?」
「嫌だよ。面倒くさい」
朝食のトーストを頬ばりながら、俺は三回目の断りを入れた。これだけしつこい相手だ。一度でも見てしまったら最後、断れなくなりそうな気がしたんだ。
親父は困ったように眉尻を下げたが、俺の意思を尊重してくれるようで手に持っていた釣書と姿絵の入った封筒を持っておずおずと部屋を出た。これから断りの手紙を書くのだろう。
俺の実家は先祖から引き継いだ子爵位をもっており、当主である親父は魔虫研究所の所長をしている。ちなみに領地はなく、名ばかり子爵だ。
そしてこの俺は極めて平均的な出で立ちをしている。どれくらい平凡な男かと言うのをこれから説明しよう。
まず、名前はケビンだ。この『ケビン』と言う名前は平均的な奴の代名詞のような名前だ。恐らく、男が十五人居たら最低一人は『ケビン』がいる。両親も随分とありふれた名前を付けてくれたもんだ。俺が極めて平均的な奴になると生まれた時に予見していたのだろうか。
見た目はたぶん中の下だと思う。下の中……ではないと信じたい。背は高めだけど、痩せているからひょろひょろしている。黒い髪は手入れしないからいつも寝癖が付いてる。眼鏡は金縁瓶底でお洒落眼鏡とは程遠い。学校の成績は上の下、趣味は魔虫の飼育。つまり、ちょっとオタクな趣味だ。
これが魔法球技とか、弓矢とか剣とかだったら女子受けが良いんだろうな。しかしながら、俺は魔法球技も弓矢も剣も好きじゃ無い。体型もひょろひょろしているしな。クラスの中では目立たない、ひっそりと席に座って友達と喋ってるタイプだ。
当然、俺の彼女いない歴=年齢だ。と言ってもまだ十六歳だから、これから出来る可能性はあると希望は捨てていない。モテる騎士科の奴らは彼女もちが多いけど、俺みたいな彼女いない歴=年齢の奴らもクラスにはまだ沢山いる。
こんな感じのなんの取り柄もない俺だが、見合いの話は定期的に来る。ほぼ全てが裕福な商人の娘だ。名ばかり子爵でも貴族との繋がりが出来るのは、平民の商人にとってはとてつもないメリットがあるようだ。たまに没落して借金まみれの貴族からも申し込みがあったりする。
俺はそんな裏事情をよく知らなかったし、最初の頃は喜んで相手と会っていたさ。でも、毎回毎回会った時の相手のちょっとがっかりしたような顔にいたたまれなくなってきて、いつしか見合いの話が来ても会うのはやめた。
釣書と姿絵は先に先方に送ってあるんだぜ? あいつらは俺が貴族と端くれだってだけで、実は会ってみたらサファイアの瞳に銀の髪の麗しい騎士候補生でも現れると期待していたのだろうか? もしくは碧い瞳に金の髪の見目麗しい貴公子とか? とにかく、俺はそのどちらでもない、ただの地味なオタクなわけだ。
学校に行くと、今日は友人のロベルトが来ていないことに気付いた。そう言えば、週末にいい石が手に入ると言っていたっけ。
友人のロベルトの趣味は魔法石収集だ。いい石が手に入ると寝るのも忘れて磨き上げている。そんな日の翌日は大抵ロベルトは遅刻してくる。俺とロベルトは同じ魔術科だし、オタクな趣味持ちな極めて平均的な奴同士ということでとても気が合うんだ。
結局、ロベルトは始業チャイムが鳴っても姿を現さなかった。
「今日から転校生が来ます」
教室に入ってきたリチャード先生は俺らを見渡した。俺はおやっと不思議に思った。季節はずれの転校生は珍しい。何でも親の仕事の都合で外国に居たが、この度、事情があって転校してくる本人だけが先に帰国してきたらしい。
おずおずと教室の前のドアから入ってきた女の子を見たとき、クラスの空気が変わった。端的に言うと、転校生の女の子は滅茶苦茶可愛かった。薄い茶色の大きな瞳に茶色のふわふわした長い髪、頬はピンク色で唇もピンク色だった。
クラスメートの騎士科の連中は早くも目配せしてお互いを牽制し合う。そんな中、転校生の女の子は緊張の面持ちでお辞儀をした。
「初めまして。スザンヌ=メディカですわ。淑女科所属です。どうぞ皆様よろしくお願いします」
スザンヌがにっこりと微笑むと、クラスメートからざわめきがおこる。いや、やべーなあれ。滅茶苦茶可愛いわ。きっと騎士科のイケメンと付き合うんだろうな。そんなことを思いながら席に座るために移動するスザンヌを眺めていたら、ふいに彼女がこっちの方向を向いた。俺と目が合うと驚いたように目を瞠り、そして嬉しそうににっこりと微笑んだ。
「今こっち見て嬉しそうにしてなかったか?」
「やっぱりフレッド狙いかー」
「結局いつもこいつなんだよな」
俺の周りのやつらが悔しそうに舌打ちした。
「悪いな」
自信満々にそう言ったのは俺の隣に座るフレッド=アルティス。騎士科の生徒だ。学園内では身分差別を防止するために爵位は明かさない決まりになっているが、伯爵家次男坊であることはみんな知っている。金髪碧眼の王子様然とした凛々しい佇まいは学園の女子生徒の憧れで、常に彼女がいる。しかも一人、二人じゃ無く。
俺は自分の勘違いを恥ずかしく思った。あんな可愛い子が俺に笑いかけてくれる筈無いよな。未だに何かを言い合っているフレッド達から目を逸らすと、一時間目の教科書を鞄から引きずり出した。
授業の合間、スザンヌは隣の席の淑女科所属の女子生徒とお喋りしていた。時々こちらの方をちらちらと見て首をかしげたりしていたので、もしかするとフレッドのことでも聞いていたのかも知れない。フレッドは友人に囲まれながらも意味ありげにスザンヌを眺めていた。
そうこうするうちに、スザンヌがこちらに近づいてくる。周りの男どもがざわつき、彼女の行く手を見守っていた。この先の展開なんて読めている。ロベルトもいないので話し相手が居ない俺は、魔法虫の飼育方法に関する研究紙を読む事にした。
「あのっ。私、あなたとお互いのことをもっと知り合いたいんです!」
鈴を転がすような可愛い声がした。教室のざわめきがより大きくなる。ほらやっぱりと、研究紙を読みながら俺は内心でため息をついた。この後の展開は読めている。フレッドが「もちろんだよ」と甘く囁いて、数日後にはスザンヌとフレッドは付き合い始めるんだ。きっと美少女のスザンヌはフレッドの恋人格付け一位に躍り出るだろう。
「あの……、最初はお友達でもいいんです。お友達になって貰えませんか?」
もう一度スザンヌの鈴を転がすような可愛い声がした。フレッドが答えないなんておかしいなと思って顔を上げると、何故が目の前には哀しそうな顔をして俺を見つめるスザンヌがいた。
「あなたと仲良くなりたいんです。駄目でしょうか?」
「え? 俺??」
予想外のことにぽかんと見上げてしまった。近くで見るスザンヌは本当に美少女だった。猫みたいな大きな目を縁どる長いまつ毛が瞬きするたびに揺れ、陰を落とす。
「ケビンさまですよね? 私、あなたとまたお会い出来るのを楽しみにしていました。お友達からで良いので仲良くして頂けませんか?」
スザンヌは真っ直ぐにこちらを見つめてそう言った。俺は頭をフル回転させて状況を把握した。横には唖然としたアホ面のフレッドとその友人達。
彼女はフレッドに近付きたいけれど恥ずかしくて、とりあえず近くにいた俺に声をかけたのだろうか。俺は席が隣なだけでフレッド達とは全く仲良しでは無いのだが。
また会えるのを楽しみにしていたって言ってたな。かつて住んでいた外国で出会った別の『ケビン』と俺を勘違いしている? 俺は外国には行ったことがないし、こんな美少女に会ったら忘れるはずないのでそのケビンが俺で無いことは間違いない。残念ながらケビン違いだ。
ともかくこれだけははっきりと言い切れる。
『彼女は何かを勘違いしている』




