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第22話

脳内再生お勧めBGM:「ブリーフィング」(マブラヴオルタネイティヴ)

ブリーフィングという名の説明回。

陸自では作戦会議、認識統一といいます。

~小倉駐屯地体育館~


駐屯地体育館には、係陸曹といったどうしても外せない業務がある者以外、連隊の全隊員が続々と詰め掛けて来ていた。

体育館の入り口には配布用の資料が積まれており、それを手にした隊員は資料に記載されている内容を元に自分の並ぶべき場所へと進んでいく。

配布資料の中には新しい編成表が含まれているため、自分の所属する小隊、分隊が分かる。

4コ中隊を2コ中隊に編成し直した新編成といっても、同じ連隊内のことであるため顔見知りが多い。

お互いを全く知らない、などと困ることはない。

あちらこちらでこれからよろしく、などと軽い挨拶が交わされている。

用意された席が埋まるにつれて、体育館は異様なまでの緊張感と熱気に包まれていくが、それも当然のことと言えた。

この場に集まる誰もが今は既に平時ではなく有事であると認識している。

緊張しているのが明らかな者もいれば、表面上はいつもと変わらない者もいる。

表面的な態度は十人十色でそれぞれに差はあれど、その眼はいずれも爛々としていた。

席が埋まり、正面のスクリーンには「第40連隊認識統一」とプロジェクターで文字が投影されている。


「定刻になりました。ただ今から認識統一を行います。まずは第1中隊長から一言お願いします」


 通常こうした会議の前後には、日本人らしく最上位者に対する敬礼を行うが、今はその時間すらもったいないとばかりに話が進められる。

スクリーンに向かって左側に各中隊の運用訓練幹部が司会進行とパソコン操作のために席を構え、その反対、右側に各中隊長が座る。

司会の声に第1中隊長南部3佐が立ち上がり、中央へ進み出た。

プロジェクターの光は一度遮られる。


「皆も知っての通り、我々の駐屯地は敵の襲撃を受け、連隊長以下多数の犠牲者を出した。そして、被害はこの駐屯地だけに留まっていないものと思われる。日本がどうなるのか、九州がどうなるのか、我々はどうなるのか、今後の見通しは分からないというのが正直なところだ」


 南部3佐は一拍言葉を切って隊員たちの反応を窺う。

幸いにも混乱するようなざわめきは起きない。

皆が皆、覚悟はできているとは南部3佐も思ってはいない。

しかし、あれこれと思い悩む暇もなく襲撃を受けた後の収拾に奔走する中、多少たりとも心の整理がついているのだろうと思われる。

隊員たちの反応にとりあえずの安心を得た南部3佐は、続けて口を開く。


「我々の本来任務の内、我々の存在意義の根本たる任務、即ち国土防衛、国民の生命財産を守るべき事態が起きた。国、国民と言われて漠然とした感がある者は、身近な家族や友人を思い浮かべて欲しい。その人たちが虐げられ、犯され、あるいは殺されることを諸官は許容するか?断じて否であるはずだ。例え連隊長が不在であっても我々のやるべきことに変わりはない。我々は我々の責務を果たし、任務を完遂する」


 南部3佐はもう一度言葉を区切る。

反応は先ほどと変わらない。

彼らの多くはその眼に輝かせるというよりも、熱を、燃え立つ炎のような熱さを感じさせる。

全員が全員ではないとはいえ、南部3佐はそんな隊員たちを改めて頼もしく感じた。


「現在の状況を説明する。テレビの放送を見た者もいるだろうが、出所不明の武装勢力が福岡市に侵攻した。この侵攻に連携するように、小倉駐屯地に対して襲撃があった。自衛隊の部内回線及び一般電話回線は不通状態にある。武装勢力の規模、装備、侵攻状況は一切不明である。以上が現在判明していることだ」

「次に、推測と分析を交えた状況認識を説明する。駐屯地に対する襲撃は、小倉駐屯地だけではないと思われ、九州各地の自衛隊駐屯地及び基地に対して行われたと見積もられる。これは、部内回線の不通が裏付けとなっている。最悪、このゲリラコマンド活動は全国規模で行われた可能性も考えられる。昨今、朝鮮半島で南北の戦争が勃発したが、これは日本侵攻を秘匿する陽動であり、現在の状況は統一朝鮮による九州侵攻によるものであると考えられる」

「先立って情報小隊及び通信小隊による偵察活動を実施したが、駐屯地周辺における武装勢力の活動、市民の犠牲者は現時点で確認されていない。他部隊の状況は、近隣の駐屯地との連絡が取れないため不明である」

「テレビの映像から判断するに、この侵攻は正規軍によるものではない。クリミア半島で用いられた手法、いわゆるグレーゾーン事態である。我々が、本格的陸上作戦を訓練し続けている陸自が苦手な状況だ。しかし、このまま手をこまねいていては、座して死を迎えることになる。現時点での認識は以上だ」


 南部3佐の話に合わせて、スクリーンには九州全体の地図、九州北部の地図、北九州市の地図等が投影されていく。

地図には敵の侵攻を意味する赤い矢印や我の部隊を表す記号が表記されていた。

現状は状況の大部分が不明という分の悪い状態である。

一通り状況認識を述べたところで、南部3佐は席に戻り、山沢3佐と交代する。

前に出て、マイクを持った山沢3佐は、連隊の今後の方針を示さんと口を開いた。


「連隊は、日本国民の生命・財産を保護するため、武装勢力を撃破、ないし排除することを最終目的として行動する。現段階における目標は、小倉駐屯地が所在する北九州市の治安安定化と福岡市の情報収集である。任務の形態としては治安出動に近いが、武装勢力との戦闘は十分に予期されるため、脅威の度合いから防衛出動と認識せよ」

「この認識統一後、連隊は情報収集を主体に行動する。この際、武装勢力との交戦が予期される。SОPは配布資料に示してあるが、柔軟な現場判断も必要となる可能性も十分にありうる。中隊長として考えられる事態や可能性は資料に記載してあるが、完璧と胸を張るつもりはない。中隊長とてこれまでの時間は限られているし、人間に完璧は無い。分隊長、小隊長でなくとも、具申はいつでも受け付けている。何か思いついた者は遠慮なく言ってきてくれ」

「我々の装備に関する留意事項についてだが、最も影響のある要素は弾薬だ。戦闘は市街地で発生することが多いと見積もられるが、交戦距離は300m以内になるよう作為する必要がある。これは、我々が運用する5.56mm弾の威力の問題による。5.56mm弾が十分な威力を発揮するのは300m以内だ。それ以上になると威力も精度も下がる。市街地環境においても交戦距離が300mを超える場面は発生し得る。300m以遠では、官品・私物問わず等倍のダットサイトでの戦闘は厳しい。スコープがあれば戦えるが、スコープを私物で持っている者はごく少数だ。小隊長、分隊長は、交戦距離を300m以内にするよう作為に努めよ」

「次にドローンについて。上空を飛ぶもの全てドローンであるという前提で行動せよ。鳥や虫だと思ったものがドローンだったと分かった時には遅い。また、生物型ドローンに限らず、上空を飛ぶドローンは見えない可能性があることを常に考慮する必要がある。これについては実際に目で見てもらった方が分かりやすいだろう。運幹」

「はい」


 深瀬2尉はスクリーンにドローンの写真を投影する。


「これは一般的なドローン。手のひら2個分くらいの大きさです。これが高度10mの写真」


 スクリーンに投影された写真から、ドローンは小さいながらも飛んでいると視認できる。


「続いて高度30m」


30mとなって、写真のどこにドローンがあるのか分からなくなった。

スクリーンに近い最前列にいる隊員がかろうじて写真に写る点となったドローンを発見できる。

後ろの方にいる隊員は全く分からない。


「高度45m」


 最前列の隊員であっても、写真のどこにドローンがあるか分からない。


「高度30mの段階でもう視認が困難となることが分かります。また、40mくらいになると、ローター音も聞こえません」


 ドローンの現実に、俄かに体育館内がざわつく。


「では実際に、ドローンを飛ばしてみましょう。この体育館は天井まで10mはあります」


 深瀬2尉が右を向くと、そこに控えていた永野3曹がドローンのコントローラーを操作する。

飛び立つドローンは目立たないよう灰色に塗装されており、航空機の翼端灯のように光るランプは外されている。

フィーンと響くローター音はそれほど大きくなく、順調に高度を上げ、体育館の天井付近まで到達した。


「どうでしょうか?約10mでこの有様です。30m、40mとなればその存在に気付くことが難しいことが分かるかと思います」


 やはり自分の目で確認することの意義は大きい。

先程以上のざわつきが体育館に響く。

一方で、第3中隊の面々は当然とばかりに落ち着いている。

既に自分たちで実験済みだし、検閲でもドローンを密かに運用していたのだから、当然のことだった。

 ドローンの発達により、空地中間領域 (InDAG:The Intermediate the Air and Ground)とでも表現すべき空間が生まれた。

従来は空を飛ぶものといえば航空機、固定翼機か回転翼機のどちらかであった。

図体が大きい航空機にとって、15m~150mの領域は危険な高度であり、墜落の危険性があることから低空飛行は忌避される。

しかしドローンにとってはそうではない。


「現時点から、このドローンが脅威となる高度空域を「空地中間領域」と定義する。略称については、「The Intermediate the Air and Ground」を縮めて「インダグ(InDAG)」と呼称する」


 山沢3佐はドローンに関する概念を説明し、その後も通信や衛生といった作戦行動に必要なSOPを説明していく。

そして、認識統一も終わりに近づき、後は結びの言葉となった頃、


「ちゅ、中隊長!」


 体育館の入り口から焦りの色を含んだ声が掛かる。

体育館に集まる隊員たちが声の方を向けば、第3中隊車両陸曹伊藤1曹がいた。

その後ろには、迷彩服を着ていない男性が一人いる。


「隅屋さん?」


 その男性と面識のある隊員がその姿を見て名前を呼ぶ。

伊藤1曹は隅屋と呼ばれた男性を伴って足早に中隊長らのもとへ移動した。


「この方は隅屋さんといいます。先ほど駐屯地に来られました」

「隅屋といいます。小倉には趣味で知り合った方が何人かおります」

「第3中隊長の山沢と申します。こちらは同じ中隊長の南部、佐竹、武田です」

「第1中隊長の南部です」

「武田です。本部管理中隊長です」

「重迫撃砲中隊長の佐竹です」

「早速ですが、見て頂きたいものがあります」


 挨拶も手短に、隅屋はスマートフォンを取り出す。

スマートフォンに目を向ける伊藤1曹の顔は酷く強張っていた。


「これはスマートフォン、ですね?」

「私は先刻までたまたま福岡市繁華街におりました。そこから避難してきたのです」

「「「!!!」」」


 隅屋の言葉に、中隊長たちはその意味するところを察して、目を見開いた。


「まさか……」

「実際に見て頂いた方がいいかと」

「失礼」


 中隊長たちは、隅屋の差し出したスマートフォンを覗き込む。

映し出されたのは、遠目で分かりくいものの、市民が襲われる光景であった。

銃声と分かる乾いた破裂音も聞こえる。

ある程度予想していたとはいえ、中隊長らは頭を鈍器で殴られたような心理的衝撃を受ける。

何事かと中隊長らを見ていた隊員たちの中には、当たりをつけた者もいた。

前列の方にいて、中隊長らの会話やスマートフォンから聞こえる音、そして今の自分たちの状況から判断すると、凡そ同じ結論に至る。


「運幹!」


 山沢3佐が深瀬2尉を呼ぶ。


「な、なんでしょうか」

「このスマートフォンから映像を取り込み、プロジェクターに映せ。皆が見えるようにな」

「しかし……」

「保全の問題はこの際いい。俺の責任だ。今は現実を認識することが何よりも必要だ」

「……分かりました。隅屋さん、でしたね。こちらにお願いします」


 最初は戸惑っていた深瀬2尉であったが、若干の逡巡の後、隅屋をプロジェクターと接続しているパソコンの方へと誘導する。


「さて、今いらしたのは、民間人の隅屋さんという方だ」


 山沢3佐はマイクを取り、隊員らに向かって話しかける。

映像を映し出す準備が整うまでの場繋ぎにと、事前説明をするためだ。


「彼は福岡市の繁華街にいたそうだ。そして、そこから退避してきたのだが、手持ちのスマートフォンで映像を撮影していた」

「「「!!!」」」


 山沢3佐の説明で、体育館が緊張感で包まれる。


「これから見せる映像はその映像だ。我々の、いや、日本が直面する現実を認識してもらいたい」


 山沢3佐はそう話したところで深瀬2尉の方を見遣る。

深瀬2尉は山沢3佐の目線に対して頷きを返し、それを見た山沢3佐はスクリーンの脇によける。

後ろの方へいた隊員の一部は、もっと近くで見ようと、席を立つ者もいる。


「……再生します」


 深瀬2尉の感情を押し殺した一言に続いた映像。

遠目で分かりにくいが、それでもどんなことが起きているかは分かる。

市民が撃たれ、あるいは押し倒される。

距離が離れているためか、悲鳴と銃声は大きくないが、それでも映像と相まって見る者に与える衝撃は小さくない。

この場にいる全員が一切の物音を立てず、映像に合わせて流れる音声のみが体育館に響き渡る。

時間にして1分程度の動画であったが、体感時間はそれ以上であった。


「……これが、これこそが我々の直面する現実なのだ。皆、今目にした光景を脳裏にしっかりと焼き付けよ」


 映像が終わると同時に山沢3佐は声を発する。

先程手にしていたマイクを今は手にしておらず、普段よりも大きな声を出す。

多くの隊員がそうであるように、彼自身も怒り、憎悪、不安、恐怖といった一つに収まらない様々な感情がごちゃ混ぜになっており、その声には若干の震えが混じっていた。

山沢3佐がマイクを使わず、大声を出したのは、自らの感情の動揺を振り払うためでもあった。


「武装勢力は日本人ではない。今ここで長々と歴史を語って説明する時間はないが、彼らの価値観は、特に倫理観は、我々日本人と決定的に異なるのだ。そして、日本人からあらゆるものを収奪しようとしている。このことを各自は明確に認識せよ。これは紛れもなく実戦だ。我々の行動が遅れた分、我々が守るべきものが失われていく。解散後、直ちに行動を開始する。覚悟を決めろ。一方で、何か不安や相談したいことがあれば、平時の手順を踏むことなく上申し、あるいは周囲と共有するようにせよ。以上だ!」

「か、各中隊は解散し、じ後の行動に移ってください」


 山沢3佐が深瀬2尉に目を向けると、深瀬2尉は山沢3佐に合わせて解散を宣言する。

ある種異様な熱気に包まれた隊員たちは、走るまでは至らなくとも、足早に散っていった。

声を張り上げていた山沢3佐やそれを聞いていた南部3佐は、感情を落ち着けることに成功し、隅屋が表れて映像を流せたことで、偶然にも良い形でこの会合を締められたな、と中隊長としての考えを持っていた。

そして、すぐに気分を切り替え、指揮官としてこの先どうすべきかの思考に没頭していくのだった。

本作よりも過酷な事態が現実で起きるような気がするのですが……本作と同様に筆者の妄想であって欲しいです。


3月27日署名 4月1日発出 アメリカ合衆国大統領令

一部の予備役と即応予備役を招集する国家非常事態権限

Federal Register 2020 Donald Trump Executive Orders


3月24日 Facebook Live Briefing

シャイアンマウンテン空軍基地に基幹要員を移動

https://thenationalsentinel.com/2020/03/30/pentagon-orders-essential-staffers-to-deep-underground-bunker-as-pandemic-broadens-across-u-s/


4月1日 INDEPENDENT UK

米国務長官が在外国民に即時帰国を促す

https://www.independent.co.uk/news/world/americans/us-politics/coronavirus-update-us-travel-flights-home-retuen-pompeo-trump-a9438516.html

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