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第18話(ある日の訓練風景シリーズ)

その3が抜けておりましたので、投稿し直しています。

前回に引き続き、方位角や座標等の数値は適当な値です。

自衛隊用語集を更新、登場人物紹介を新設しています。

~ある日の訓練風景6 その5~


~第3中隊本部~


 初日から2日目にかけて徒歩行進、その後接敵行進で敵を駆逐しつつ前進して、敵主陣地と見積もられる地域に到達した第3中隊。

小銃小隊は引き続き敵との接触を維持している。

そして今は演習2日目の夜。

敵陣地からある程度離れた場所に第3中隊指揮所は設置されていた。

指揮所は地図や砂盤を広げて指揮所活動をする場所で、当然外に光を漏らすわけにはいかない。

とはいえ、天幕をきっちり建てて固定的な施設とするのは第一線の戦闘部隊にとって好ましいものではない。

車両、天幕、ODシートを組み合わせて展開・撤収が容易にしている。

指揮所の中には掲示物を貼った板が立ててあり、砂盤と呼ばれる地図を立体化したジオラマのようなものが指揮所中央に作られている。

その場で簡単に作ることが出来、敵陣地周辺の地形を立体的に捉え、認識を統一するに便利なものだ。

「ジオラマのようなもの」といっても、その場の土、道路を表す紐、陣地を示す兵棋と呼ばれる駒を組み合わせたもので、模型のジオラマのように精密なものではない。

その砂盤を取り囲むように中隊長、運幹、各小隊長が折り畳み椅子に座り、周りには連隊長と補助官がいる。

行進開始前の命令下達の時と同じ状態だ。


「ではこれより作戦会議を始めます。中隊長」


 運幹の深瀬2尉が開始の音頭を執り、中隊長に顔を向ける。


「うむ。まずは敵情の認識統一だ。運幹、各小隊からの情報を整理した結果を説明してくれ」

「分かりました」


 深瀬2尉はすっと指示棒を手に持って、砂盤にその棒を向ける。


「これまでB高地一帯において、A道を挟んで東に1コ分隊規模、西に1コ分隊規模の敵が確認されております。通常の小隊編成ですと1コ分隊足りませんが、その1コ分隊の所在はまだ確認できておりません。防御陣地に合わせ、それぞれの陣地前面には鉄条網が構築されております。現在まで判明した中隊正面の敵情は以上です」


 深瀬2尉は自分が話す内容に合わせて、該当する地域を指し示す。


「ここからは敵情を踏まえた見積となります。判明した敵情と事前の見積からすると、中隊の攻撃目標地域に展開する敵は1コ機械化小隊規模と見積もられます。また、陣前と陣地に連携し得るA道のこの地点には、地雷原が構成されていると思われます」


 深瀬2尉は砂盤の奥、中隊の攻撃目標のさらに先まで全体の状況を説明する。


「続いて連隊の状況です。我が中隊と並行する第2中隊は、西本道沿いのD高地において敵の強固な抵抗に遭い前進困難となり、現在敵と接触を維持しております。連隊はB高地からD高地を敵のFEBAと推定、縦深のE高地にかけて1コ大隊マイナスの敵先遣部隊が展開していると見積っています。全般は連隊の当初の見積とおおよそ合致します」


 一通り説明をした深瀬2尉は、山沢3佐の方を向き、中隊長へ指示棒を差し出す。

山沢3佐は運幹から指示棒を受け取り、小隊長を見回す。


「連隊長は、本日2000、B高地、D高地、E高地一帯を敵の主陣地と判断し、明日の朝敵主陣地に対する攻撃を決心した。中隊の攻撃計画を達する。

敵先遣大隊は、演習場地域北側一帯において陣地防御中であり、主力の敵機械化連隊は、D+4日朝演習場地域に到達すると見積られる。

民間人、友軍、中立勢力はいずれも本作戦地域に存在しない。

第4師団は、D+5日朝演習場地域に進出すべく、作戦準備中である。

中隊の西に第2中隊、第2中隊の後方に第1中隊、我が中隊の後方に第4中隊。

配属・欠如はなし。

中隊は、2コ小隊を並列、連隊の右第一線となりA道沿いに攻撃してB高地一帯を奪取する。

攻撃開始時刻 D+2日0530

攻撃支援射撃 D+2日0425~0530

地雷原通過口 各小隊正面に人員用一条、細部位置は施設小隊と第2、第3小隊長との調整による

突撃支援射撃 前段5分後段3分、射撃開始時刻は中隊長が統制

火力の優先 第3小隊

第1小隊 当初予備、敵陣地縦深への攻撃を準備

第2小隊 A道沿いに攻撃しC台一帯を奪取

第3小隊 A道沿いに攻撃しB高地西側一帯を奪取

対戦車小隊 対機甲戦闘を実施

迫撃砲小隊 全般任務

CCP(傷病者集合点) 座標566478

捕虜収容点  傷病者集合点に同じ

通信 攻撃開始まではテヒカ、攻撃開始後テツカ

   緊急時の通信優先符号 911(ナインイレブン)

連隊CP 座標522393

中隊長の位置 CP、中隊CPは目標奪取後B高地南側へ前進

合言葉 D+1日2400まで 「小倉」~「大村」

    D+2日0000~2400 「北九州」~「対馬」


 山沢3佐は行進命令と同様に、すらすらと攻撃計画を達する。

今回はカンペとなる紙1枚を持っており、同じものを小隊に配っている。


「続いて戦闘指導」


一通り達した後、戦闘指導に移る流れは行進命令と同じだ。


「第3中隊に配属はないが、中隊正面には1コ戦車小隊の火力が配当されている。各小銃小隊は攻撃前進の際、戦車小隊陣地とB高地東側及び西側を結ぶ範囲への進入は避けるように。細部座標は紙に記載の通りだ。なお、攻撃の進展と共に離脱装弾筒の飛散警戒範囲は変化する。変化が生じた場合は無線で達するので注意せよ。次に……」


 山沢3佐が攻撃にあたり具体的にどうするかを示し、疑問や確認があれば小隊長は質問をする。

その問答をいくらか繰り返し、翌日の敵主陣地への攻撃要領を固めて作戦会議は終了した。

 作戦会議が終了すると、小隊長は小隊へ戻り、小隊に対して命令を下達する。

小隊命令下達が終われば、大抵補助官は担当の指揮官から離れる。

各小隊が命令下達を終えてしばし後、中隊指揮所には中隊作戦会議に参加した面子が再度揃っていた。


「さて、本当の作戦会議といこう」


 山沢3佐は軽い調子で笑いながら皆に視線を振る。

山沢3佐に合わせるように運幹、各小隊長も笑みを浮かべていた。


「中隊長、コーヒーどうぞ」

「お、ありがとう」

「小隊長もどうぞ」

「ありがとうございます」

「ありがとさん」

「すまんね、頂くよ」

「砂糖ある?」

「ちゃんと松尾曹長の分は甘くしてますよ」

「さっすがだねえ。あんがと」


 中隊本部の要員がコーヒーを配る。

先程とは打って変わって、緊張を解いた雰囲気である。

防護マスクケースからお菓子を取り出す者までいる。


「お作法通りの作戦会議は終わったが、あの場で言えなかった懸念はないかな?」


 山沢3佐は忌憚の無い意見を部下に求めた。


「統裁全般では、大きく奇を衒うことはないかと」

「そうですね。これまで積み重ねてきたもので大丈夫だとは思います」

「我々は今回3コ小隊編成しています。予備の運用である程度のことには対応できるかと」

「統裁全般で見ればそうかもしれんが、相手は南部だ。一杯食わされんようにせんとな」

「1中隊長とは面識があったんでしたね」

「ああ。事なかれ上司の前では隠しているが、我々と同じように国家公務員じゃあない」


 第1中隊長南部3佐は本演習で対抗部隊を指揮している。

演習の統制上、全てが自由とはいかないが、ある程度は裁量を持って動けるはずだ。

南部3佐が何か一手を講じているかもしれない、と山沢3佐は警戒している。


「B高地の北、ここはどうだ?」

「南向きの防御に使える地形ではあります。地積は小さいですが……」

「そこなら車両を隠す場所は……ここ、それとここも使えますね」

「なるほど。この演習場に詳しいのは流石だな。助かるよ」

「中隊長と違って地元九州、ですからね。連隊に長くいれば必然的にそうなります」

「俺も昔はそちら側だったんだがな」


 彼らは雑談のように気軽な調子で話を続ける。

傍目には、灰色のテントの中でむき出しの地面に簡素な椅子を並べ、草木を刺した迷彩服の男たちが話し合う光景はとてもじゃないが穏やかなものには見えない。

それでも、喫茶店で雑談に興じるかのような雰囲気が彼らにはあった。

その後もしばし話し合いが続くが、既に真夜中も真夜中、攻撃開始までの時間は刻一刻と迫る。


「おっと。そろそろ解散するとしよう」

「分かりました。では各自解散」


 足取りはそれぞれに天幕から小隊長達が出て行く。

貝沢曹長は中隊指揮所から少し離れたところに停めてある高機動車へ向かう。

貝沢曹長が車長席のドアを開けると、運転席では箱崎士長が寝ていた。


「ハコ、戻ったぞ。出してくれ」

「っと。分かりました」


 体をびくっと震わせて起きた箱崎士長はV3暗視眼鏡を装着し、それと同時にエンジンをつけた。


「すまんな。付き合わせてしまって」

「いえいえ。うちの小隊はCPから一番遠いですから。出ますよ」

「頼む」


 真っ暗闇の中を、ゆっくりと高機動車が動き出した。


「なんだ、えらい慎重だな」

「今夜は月が出てなくて、余計に暗いですから」

「それにしたってもう少し飛ばせるだろ。おっ、そこを右だ」


 箱崎士長は双眼のV3暗視装置を使っているが、貝沢曹長はV3もV8も使っていない。

それなのに、今が昼間であるかのように貝沢曹長は戸惑い無く指示を出す。


「おっと……本当に見えるんすね」

「俺のことを本物の野生児だとか言う声もあるそうじゃないか。ベテラン士長の誰かさんが発端だとか」

「い、いやあ。誰でしょうね」


 道を間違えそうになったことと、動揺したこと2つの要因で箱崎士長はハンドル操作を一瞬荒くする。


「っと。危ないな。気をつけてくれ」

「すいません」

「何、気にするな。それくらいで怒ったりせんよ。しかしなあ。普通科の、最前線も最前線の小銃小隊にいるんだ。もうちと夜目が利いてもいいだろう」

「貝沢曹長だけですよ。そんなの」

「そうかねえ。左だ」

「あ、はい」


 士長の中でもベテランに入る箱崎士長だが、貝沢曹長はそれ以上だ。

戦闘職種の上級陸曹にとって、演習場は自分の庭のようなものである。

しばらく走り続けた高機動車は小隊の集結地に到着する。

集結地には休息用の天幕が建てられることもあるが、季節柄寒くないこともあり、天幕はない。

隊員たちは集結地の中心地を基点に分散している。

防寒対策としてポンチョや雨衣を羽織り、スリーピングマットを敷く。

2人1組となって木や荷物にもたれ掛かって完全に身を横たることはしない。

互いの足を交差させる、或いは上半身の一部を密着させる。

そうやって各々が身を休めている。

小隊陸曹の福井曹長が起きており、彼は携帯コンロでお湯を沸かしていた。


「福井、戻ったぞ」

「お疲れ様です。小隊は異状なしです」

「歩哨や斥候から何か情報は?」

「特に上がって来てないですね」

「そうか。じゃあ俺も少し休む。すぐそこにいるから、何かあったら起こしてくれ」

「分かりました」


 高機動車を茂みに隠してから後を追ってきた箱崎士長と貝沢曹長は、辺りに散らばっている隊員たちと同じようにして休息をとった。

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