表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/31

第12話

~第3中隊通信庫~


 無線機等を保管する通信庫では、通信陸曹丸谷2曹が数名の作業員と一緒に通信機の整備をしていた。

そこへ、貝沢曹長、松尾曹長が話し合いながらやってきた。


「で、通信機の運用どうする?」

「それなんだが……

「あ、貝沢曹長、松尾曹長、お疲れ様です」

 貝沢と松尾に気付いた丸谷が声を掛ける。

「おう、お疲れさん」

「お疲れ様です。通信庫に何か用ですが?」

「通信機の運用でちょっと話をしに来た」

「ああ、それですか。少しは聞いてますよ。決まりました?」

「広多無は駄目だな。70と80を使おう」

「まあ、無難な選択だな」

「通信担当としては残念ですが……」

「丸谷、お前だって分かるだろ?」

「そりゃあ分かりますよ」


 広多無、広域多目的無線機は最新型の無線機だが、どうやら彼らはそれを使うつもりがないようだ。

「色々機能があるのは便利なのだろうが、電波伝播が致命的だ。音声だけでもしっかり繋がった方がましってもんだ」

「違いない」

「はあ……ですよねえ……」


 貝沢曹長の評価に松尾曹長が苦笑しながら同意する。

丸谷2曹は渋々というより、諦めるようにその意見を肯定する。


「それに、これから予想される相手は正規軍じゃない。本格的陸上作戦にはならないだろうし、音声だけでも迅速に情報をやりとりできた方が情報伝達が速いだろう」

「では、中隊長用には車載用意しますけど、小隊長用、分隊長用には70と80でいいですか?」

「80は組長にも頼む。4中のもかき集めればいけるだろ?」

「ええ、それは他中隊の通信陸曹とも話しています。編成に合わせて、1中と2中、3中と4中の通信機を集成すると」

「ああ、中隊長には話しているからそれで進めてくれ。通信だけじゃなく、装備品は全てその方針だ」

「それなら装備の数に困ることはなさそうですね」

「ああ、人員の方が問題だな」

「そうですね……」


 人は替えが難しい。

新兵を一人前に育てるには時間と労力が機械の生産以上にかかる。

熟練の兵士となれば尚更である。


「……もう1つ手があるな」

「ん?何だ、マッツ?」


 話が途切れかけたところで、松尾曹長が別の話を持ち出す。


「外国製の無線機、手に入らんか?」

「……そうか、なるほど!」


 丸谷2曹がその意味するところを理解する。


「どういうことだ?」

「外国製のは日本の基準で作られていないから、出力が強いんですよ。だから通話距離が長いです」

「その分電波法に引っかかるから、知らずに使っていると捕まる、なんてことが起きているがな」


 丸谷2曹が貝沢曹長に説明し、松尾曹長が補足する。


「なるほど。そいつはいい」

「あてがありますから、早速行ってみます。貝沢曹長、小銃小隊の人員、2人くらい連れて行っていいですか?護衛をお願いしたくて」

「ああ、それなら……そうだな、武器庫で作業しているサトケンと九重を使ってくれ」

「分かりました!」

「中隊長には俺が報告しておく。頼んだぞ」

「はい!」


 丸谷2曹は早速行動に移すべく、作業員に後の指示を出して通信庫を後にした。

現在、集成第1中隊(第1中隊と第2中隊の生き残りで編成)と集成第3中隊(第3中隊と第4中隊の生き残りで編成)は、戦闘準備をしているが、中隊長は現場の意見を重視して具申があったことはどんどん採用している。

準備に必要であれば、車両の運行も現場の裁量で自由にさせている状態だ

今は1分1秒でも惜しい

彼らは少しでも必要・有益と思われることは何でもやっていた。


「んじゃ、俺たちは別のところも見に行くかね」

「ああ」


 通信庫を勢いよく出て行く丸谷を見送った後、松尾と貝沢も通信庫を後にした。


~第3中隊武器庫~


「この銃はどうします?」

「あ、それは4中の武器庫へ移すやつだからこっち」

「分かりました」


 武器庫では銃の選別が行われていた。

武器陸曹新村1曹が大量の武器履歴簿と睨み合いながら、作業員に指示を出していく。

武器の選別の他、89式小銃にダットサイトを取り付けるといった作業なども並行して行っている


「俺の小銃は交換か~」

「田畑3尉のは当たるけど、履歴簿上撃った弾数多いっすからねえ」


 武器庫には田畑3尉が来ており、武器陸曹と話し合いながら作業を進めていた。

通信庫に向かった貝沢曹長や松尾曹長と同じように、小隊長クラスの幹部・上級陸曹が作業の状況を確認しに回っている


「こと小火器については、メイドインジャパンは信用できないですもんね」

「安かろう悪かろうどころか、高くて悪いっすから」


 小火器の性能について、住友重工がデータの改ざんをしていたのは記憶に新しいところだ。

現場としては、89式もそうそう信用できない。

89式を工業製品として見た場合、機械として工作精度は高い。

しかし、これが軍用銃として見た場合は話が違ってくる。

89式の銃身、バレルは、他国の軍用銃のようにヘビーバレルではないのだ。


「本当は89もミニミも使いたくはないですけど……」

「しょうがないっすよ。ある武器でなんとかするしかないっす」


 89式小銃にはいくつか問題があるが、現在彼らは銃身がヘビーバレルではないことを懸念している。

89式小銃の銃身はその厚みが他国の軍用銃に比べて薄く、耐久性が疑われる。

よって、実戦で本当に手荒に扱った場合、銃身の歪み発生、短命な銃身寿命による精度の低下等が起こる可能性がある。

弾薬にも問題はあるが、他国と共同作戦する状況にはないので、彼らは現時点では問題としていない。

64式小銃用の7.62mm弾のように、明確に「弱装薬弾」とは謳ってはいないが、自衛隊の5.56mm弾は5.56mmNATO弾(SS109、米軍制式名M855)より威力が弱い。

本来、必要とされる威力の弾を基準に銃という「金属弾を撃ち出す機械」は作られるべきであるが、89式はそうではなかった。

米軍と弾薬を交換した場合、お互いに何らかの不具合が発生する可能性がある

もっとも、米軍が自衛隊から弾薬を貰うといった事態は、最前線でのごく限られた状況を除いて起きることはないだろうが。


「えーと田畑3尉には……この銃っすね」


 新村1曹が銃番号を確認して小銃を田畑3尉に手渡す。


「おー、綺麗ですね。表面処理しっかり残って……というか、全然剥げていないじゃないですか」

「そりゃそっすよ。新品同様ですから」


 新村1曹から渡された小銃を手にとって、田畑は小銃の状態を確認する。


「まあ小隊長はほとんど撃つことないでしょうけど、オンボロ持つよりいいでしょ」

「ありがとうございます」


 田畑3尉は話をしながらの小銃の動作確認を終え、続いて小銃の薬莢受けを取り付ける部分に私物のマウントレールを取り付ける。


「田畑3尉も私物のダットサイトっすか?」

「ええ、まあ」

「力ありますねえ」

「独身ですから」


 作業の手は止めず、田畑3尉は苦笑いしながら答える


「官品は小さいねじがあって使いにくいですし」

「まあ、そっすね」


 官品のダットサイトはピカティニーレールに対応したマウントではない。

薬莢受けを取り付ける突起部分に装着する自衛隊独自仕様のものであり、薬莢受けも一緒に装着が可能だ

独自仕様のためか、小さいねじもあって取り付け強度に不安がある

田畑3尉はレールを付け終わると、続いてダットサイトを装着する

田畑3尉の私物ダットサイトはEOTech製のホログラフィックサイトだ。


「ほんとは照準規正したいっすね」

「でも射場に行くのもおいそれとはできないですよ」

「ですよねえ」


 曽根訓練場は駐屯地から東へ約10km、車で約20分の場所にある。

近いといえば近いが、この情勢下、ゲリラの襲撃があってもおかしくはない。

それに、今は諸々の準備をする方が先である。


「小銃、機関銃の選別はいいとして、あとは……」

「対戦車火器の確認、車載装置の取り付け、狙撃銃……は狙撃班に丸投げだったか。銃の選別が一番時間かかりますね。4中の分もあるっすから」

「ですね。なんとか頑張りましょう」

「帳簿と睨めっこしてるの俺ですよ?」

「できる限り手伝ってるじゃないですか」

「それも長くは続かないでしょ」


 などと2人が話していると、廊下で「田畑ぁ~いるか~」と呼ぶ声が聞こえてきた


「ほらあ」

「新村1曹が不吉なこというからですよ」

「お、運幹のこと不吉扱いっすか?」

「ちょ、誰も深瀬2尉のことだって言ってないですよ?」

「まあまあ、呼んでるから行かないと」

「ああ、そうですね。じゃあ後はお願いします」

「あ~い」


 武器庫での作業を中断し、自分の銃を銃架に掛けて、田畑は廊下へと出て行くのだった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ