第11話
~第2普通科連隊作戦室~
バンッ!
「これはどういうことだ!?」
部屋の中に怒号と机を叩く音が響く。
怒鳴り声は部屋の外まで聞こえるほどで、部屋の外に控えている者は中の様子を恐る恐る伺っている。
声を荒げているのは第2普通科連隊長だ。
第2普通科連隊の作戦室では、先の戦闘の報告を兼ねた作戦会議が行われていた。
会議には、連隊本部の各科長と各中隊長、連隊の首脳陣が集まっている。
作戦・運用を担当する第3科長が連隊の損耗状況を説明したところで、連隊長が怒りを露わにしたのだ。
「ゲリラと交戦した2コ中隊が死傷者多数、中隊長は何をしていたのだ!?」
「そ、その、治安出動下で武器の使用が制限されているところ、ゲリラに不意をつかれ……」
「武器使用の制限は治安出動なのだから当たり前だろう!その処置対策をするのが中隊長だろうが!これだけの損耗を出してどうするんだ!」
バンッ!
報告の書類をまとめたクリップボードが叩きつけられる。
クリップボードは勢い余って机の上で跳ね、書類が机の上と床に散らばった。
連隊長の叱責に誰も答えることが出来ず、重苦しい雰囲気が立ち込める。
「3科長!」
「……はい」
「損耗多数の中隊はどうする?」
連隊長は3科長を睨みつけるように顔を向ける。
「損耗のあった2コ中隊を1コ中隊に編成し直し……」
「それでは運用単位が減って、連隊に与えられた任務が達成出来ないではないか!」
「しかし人員が絶対的に足りませんので……」
「旅団長へ2連隊は任務を達成出来ません、と俺に報告させるつもりか!?」
「いえ、そのようなつもりでは……」
「じゃあどうするんだっ!?」
誰も答えることが出来ない。
自衛隊の普通科(歩兵)連隊の編制は、いくつかの中隊で構成されており、連隊と中隊の間に大隊がない。
旅団隷下の普通科連隊は元々規模が小さく、大隊といった方がくらいの規模なのだ。
加えて昨今の低充足のため、頭数が足りていない。
そこに損耗が多数、もはや第2普通科連隊は連隊としての体をなくしかけている。
「……とりあえず、各科長は旅団に出す報告書をまとめて持って来い」
「……はい」
「各中隊は現有の人員をもって現任務を続行せよ。運用の変更は追って示す」
「「「了解」」」
損耗が出ていない中隊の中隊長は別として、2人の中隊長は内心頭を抱える。
1日、2日ならばどうにかなろうが、それ以上は部隊交代が必要になり、人員の遣り繰りをしようがない。
連隊長は各科長を見遣る。
「他に特記事項はあるか?」
「ありません」
「各科は早急に運用案を策定せよ」
「わかりました」
各科長の中で先任者である第3科長が代表して受け答えをする。
戦死者の扱い、家族への対応は思考の隅に追いやられてしまっていた。
平時であれば殉職者は1人、2人のごく少数、丁重に扱われもしただろう。
しかし、有事の戦死者の取扱いをまともに訓練したことはなく、そのための装備も不十分な状態で発生したこの事態、戦死者への配慮はおざなりになっている。
多数の戦死者が衝撃的であったということに加え、任務遂行の方へと意識が向きすぎているのだが、それに気付くものはほとんどいなかった。
大なり小なり差はあれども、同じような事態が全国各地で発生しており、第一線部隊は混乱の渦中にあった。
~小倉駐屯地弾薬庫~
「小弾は向こうで、大弾はあっちでどうでしょう?」
「ああ、そうだな。小火器用の弾薬は量が多い。この先出番は多いだろうから、出しやすいようにした方がいいな」
「小弾はもう始めてしまっていいですか?」
「ああ、OKだ」
「じゃあ小弾は3中の作業員でやります」
「次は迫の弾だが……」
「あー、それは……」
中隊の弾薬陸曹、連隊本部第4科の弾薬陸曹、駐屯地業務隊の弾薬担当者らが集まって話し合いをしている。
第4科の隊員も若干名生き残っており、弾薬陸曹はその一人だ。
小倉駐屯地の弾薬庫では、弾薬支処から目一杯持ち出してきた弾薬の整理整頓を始めようとしていた。
「よーし、弾薬下ろすぞ。3トン半の後ろに集まれ」
「倉庫まで列作れ。バケツリレーでとっとと入れるぞ」
「りょうかーい」「ういーっす」
弾薬陸曹荒2曹の指示に従って、数人の隊員が集まってくる。
弾薬の入った木箱を輸送トラック、通称3トン半の荷台から下ろして、弾薬保管用の倉庫へ入れていく。
5.56mm弾1発は軽くとも、数が集まればそれなりに重い。
容量いっぱいの30発が入った弾倉はおよそ500g、標準携行弾倉は6個なので合計約3kgとなる。
これに89式小銃が3.5kg、防弾チョッキがプレート入りで10kg超、隊員個々の持ち物をバックパックに入れてとなると……個人装備は20kgを簡単に超えてしまう。
機関銃や対戦車火器を装備する場合は更に重量が重くなる。
武器、装備品の進歩は歩兵の戦闘能力を向上させた。
一方で、技術の発展は軽量化に繋がったかと思いきや、装備重量は増加の一途を辿っており、現代の兵士にとって大きな問題となっている。
「次迫の弾いくぞー」
「あいよー」
「手え挟むなよ」
お互いに声を掛け合って安全第一に、しかしなるべく速く、効率よく積み下ろしを進めていく。
暑い中の作業だが、怪我の防止のため戦闘服は長袖のまま。
すぐに汗がにじんで戦闘服の色が変わる。
迫撃砲の弾薬箱は小銃弾の箱よりも大きく重い。
一人で持てなくもないが、安全のため2人掛かりで車両の荷台から下ろす。
倉庫まではバケツリレーだ。
車両と倉庫の間を行き来するのは効率が悪いし、余計に汗をかく。
第4科の弾薬陸曹と業務隊の弾薬担当者は、倉庫に搬入されてくる弾薬箱を数えて書類に記録していく。
「こんなに数多くの弾薬扱うのは初めてだよ」
「でもこの先補給の目処が立たないですから……」
「ああ……」
「薬莢の完全回収、難しいかもな」
「う~ん……書類どうやって処理すればいいですかね」
「ありのままを記録するしかないんじゃないか?過労死するなよ?」
「縁起でもないこと言わないでください」
訓練であれば撃った後の薬莢は100%回収されるが、この先あるかもしれない実戦はそうはいかない。
戦闘という混乱状況の中では、未発火の実弾すら失くす可能性がある。
「薬莢受けつけてください、ってお願いするか?」
「そんなこと言えるわけないじゃないですか」
「貝沢曹長あたりが怒鳴り込んで来るかもな」
「うわあ……」
かといって、実戦で薬莢受けを使うのはナンセンスだ。
ベテラン陸曹から文句を言われるのは目に見えている。
容易に想像できる光景だけに、弾薬陸曹が何ともいえない声を出す。
「とりあえずその件はおいといて、搬入早く終わらせましょう」
「ん。まあ、そうだな」
弾薬陸曹らは、作業員に指示を出しながら5.56mm弾、7.62mm弾、12.7mm弾、対戦車火器用弾薬、81mm迫撃砲弾、120mm迫撃砲弾と、多種多様な弾薬を仕分けていく。
この日一日だけで年間使用量かそれ以上の弾薬が運び込まれ、駐屯地の弾薬庫は普段あり得ない程の弾薬が集積されていった。
リアルにクリップボードが飛ぶのを目にするとは思いませんでした(白目)




