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第9話

今ほとんどの日本人は危機意識が欠如しているので、「飛んで火にいる夏の虫」となってしまう人もいるのではと危惧する次第です

~福岡市 天神~


 今日も夏真っ盛りで、青空が眩しい。

気温は既に30度を超え、道行く人は汗を拭う。

日傘を差す女性もちらほら見かける。

休みで街に出掛けて来た人、仕事で行き交う人、週を通して人通りの多い大都市の繁華街。

それはいつもと変わらない光景であった。


~side 隅谷誠一~


 青空を見上げながら、俺は額の汗を拭った。

毎度のことながらこの暑さには慣れない。

今日は休養日、馴染みのミリタリーショップや銃砲店を回りながら街をぶらついている。

いくつかの店に行くとはいえ、消耗品を少し買うくらいで、大きな買い物はない。

行きつけの店だけに大した時間もかからず店回りは終わり、今は目的も無く繁華街をぶらついている状態だ。


「次のゲームはいつだったかな……」


 そう独り言をつぶやいてスマホで管理している予定を確認する。

俺は自衛官やタクティカルトレーニング(タクトレ)好きな連中が集まるサバイバルゲーム(サバゲ)チームに所属している。

サバゲの世界で言われるタクトレに近く、実銃と同じようにエアガンを扱って撃ち合う。

エアガンは数百発のBB弾を持ち歩くことが可能で、BB弾をばら撒くように連発で撃ち合う。

多弾マガジンを使えば、千発単位の弾を持つことも可能だ。

それに対して、俺たちのチームでは、弾倉マガジンには実銃通りの弾数しかBB弾を入れない。

一人が持ち歩ける弾数は200発がせいぜいであるため、無駄に撃っていればあっという間に弾切れになってしまう。

縛りの厳しいマゾ的ルールで遊んで何が面白いのかと思う人もいるかもしれないが、好事家が集まった結果なのだから仕方ない。

銃砲所持許可の厳しい日本で一般人が使うことは無い技術とはいえ、技術向上に励むことは充実感を覚えるものであり、参加者は皆それを楽しいと思ってやっている。

最近は実戦的な救護までやるようになって、考えさせられることも多い。

自衛官は小倉(第40普通科連隊)や大村(第16普通科連隊)から有志が集まるが、特に小倉からの参加者が多い。

一昔前、小倉の市街地戦闘訓練がニュースになったが、今も続けているようだ。

雑談では、お偉いさんの意向で市街地戦闘訓練は廃れてしまった、有志で細々とやっている、と苦笑いしていたが……。

とはいえ、ゲームに参加する隊員は貴重な休日を使うだけあってやる気があり、技量も高い。

不用意に物陰から身を晒せば、狙っていたかのように正確な狙いのBB弾が飛んでくる。

切磋琢磨するには非常に良い仲間だ。


「んー、次は月末か。消耗品は切らしていないし、買い足すものはないか?」


 歩きスマホは誰かとぶつかってしまうため、道端で立ち止まってスマホを操作して確認する。

そして、確認を終えようとしていたところに、それはやって来た。


ブオオオー


 重低音のエンジン音を響かせながら、大きなトラックが走ってくる。

そして、多くの歩行者がいる繁華街のど真ん中でトラックは止まった。


「ん?ゲリラライブか?」


 周りと同じように、俺もそのトラックを注視する。

程なくバラクラバや仮面をつけた人がトラックからわらわらと降りてきた。

トラックから降りてきた人が持っているものを見て、血の気が引く。


「おいおい、夢じゃねえよな!?」


 俺は反射的に走り出し、トラックから距離を取り、そして物陰に身を隠す。

もちろん、身を隠すのはしっかりとした建物の陰だ。

一風変わったサバゲチームに所属していることもあり、雑談を通して普通の日本人が知ることの無い様なことも知ることがある。

得た知識の中には、銃撃から身を守る手段もあった。

そうした知識を得ると、ちょっとおかしな妄想をしてしまうこともある。

例えば、銃の乱射事件が起きたらどうしよう、とか。

妄想の中で自分がどうやって生き延びようとか考えたりするのだが、その妄想のお陰か体が自然と動いた。


「あれ……本物か?」


 物陰からそっとトラックを窺う。

トラックから降りてきた不審者らは、トラックを取り囲むように展開していた。

そうこうしていると、不審者の一人が言葉を発した。


「我々は永きに渡って日帝の手にあった祖国の地を解放しに来た!既に多くの同胞が福岡に展開中である!これより福岡は偉大なる朝鮮民族の領土となるのである!」


 バラクラバを被った男の発言に耳を疑う。

隣国のとんでも小説にあるような話かと思ったが、撮影班のようなカメラや人は近くにいない。

映画の撮影でもなさそうだ。

あの発言が本当ならば、市内で同じような連中がいるということになる。

思わず同じような車や人がいないか周囲を確認するが、目に見える範囲ではあの車だけだ。

自分の車を停めている所までの道を思い出しつつ、様子見を続けることにした。


「何これw映画の撮影かw」

「何あの格好、まじっぽいんですけどwうけるw」


 様子を見ていると、軽薄そうな一組の男女が連中に近づき、スマホを構えて撮影を始めた。

それに釣られて、周囲に立ち止まっていた人の何人かが同じようにスマホを構える。


「馬鹿かあいつら!刺激するようなことしやがって!」


 不用意な行動に思わず毒づくも、自分が奴らに見つからないように小声で叫ぶという器用な真似をする。

自分の周りを確認し、奴らの仲間が近くにいないか点検することを忘れない。

視線を戻すと、奴らの一人がその男女に向かって銃を向け始めていたところだった。

なぜかその動作がスローモーション映像のように見えた。

そして……


タンッタンッ!!


 乾いた破裂音が2回、鳴り響いた。

銃声が聞こえると同時に、男女の背中に赤い染みが広がった。


「は?」

「え?」


 撃たれた男女は何をされたかわからないといった様子で、程なくその場に崩れ落ちるように倒れた。

その光景を見て、ドクン!と血の巡りが活性化し、息苦しさを覚える。

初めてサバイバルゲームをした時のように、アドレナリンが一気に分泌されるのを感じる。

体が危険信号を発するが、それを堪えてスマホで撮影を開始する。

距離があるため、鮮明さはいまいちだが、仕方ない。


「キャー!!」


 ここに至ってようやく奴らの周囲を囲んでいた人々が現実を認識し始めた。

だが、それは遅きに失した。

発砲をきっかけに、奴らは周囲にいた人々に襲い掛かり始める。

女性は次々と押し倒され、身包みを剥がされていく。

近くにいた男性は、用が無いといわんばかりに次々と撃たれていった。


「おい!お前たち!何の真似だ!今すぐ止め……がっ?」


 男性が一人、奴らに抗議の声を挙げつつ近づいていったが、すぐに撃たれてその場に倒れる。

現実は非常だ。

映画の主人公のように颯爽と女性を救い出すなんてことはそう簡単にできるものじゃない。

丸腰で立ち向かっても撃ち殺されるだけ、自分の身を守るのが精一杯だ。

見れば、裸にされた女性たちはその場で強姦されているようだ。

吐き気と同時に義憤に駆られるも、今の自分には何もできない。


「ッ!まずいな、潮時か」


 奴らの何人かが周囲を見回す。

よく見れば、バラクラバを被っている数人は、女性を襲うことに興味を示す様子も無く、警戒をするような行動をとっている。

何となく分かる。

あの数人はおそらく「プロ」だ……あいつらに捕捉されたらまずい。


「逃げるか……早く市外に出ないと!」


 撮影を止め、物陰に身を引いて、一気に駆け出す。

聞こえて来る銃声と悲鳴から遠ざかるように駐車場を目指す。

いつもより息が上がり、ドクドクと激しく心臓の鼓動が聞こえる。

息苦しいが、体は動く。

足を止めるわけにはいかない。

何とか駐車場に辿り着き、素早く車に乗り込む。


「ハアハア……か、鍵」


 鍵を差し込み、エンジンを回す。

直ちにギアチェンジをして、走り出した。


「見つからないでくれ……!」


 祈りながら車を飛ばす。

混乱が起きているのか、停めている車が多い。

これ幸いとばかりに、信号は無視、自宅のある北九州市へ向かう。

早く!早く!と気持ちの焦りが先行する。

右へ左へ、普通ならあり得ない速度を維持したままで蛇行運転を続ける。

アクセルペダルは緩ませない。

むしろ、少しでも直線が続いたならば、踏み込みを強める。

都市部を抜けたところで、一度路肩に車を停める。


「……ふう」


 大きなため息をつく。


「フー……ハー……フー……ハー……」


そして混乱した頭を落ち着かせようと深呼吸をする。


「……まじかあ」


 誰かがゲームの合間に冗談交じりで話していた、ゲリラの蜂起を思い出す。

その与太話に近いことが起きている。

あんな光景を目の当たりにしたのだ。

現実と認識するしかない。

何をすべきだろうか?


「まずは身を守ることから、だな」


 家には、銃砲用保管ロッカーと装弾ロッカーがある。

銃砲用保管ロッカーには散弾銃とライフル銃が一丁ずつ入っている。

弾薬なのだが、普段は家に実弾を保管することをしない。

しかし、最近……半島情勢が悪化してからは「手違いで弾薬を余らせてしまうことが多い」。

 先ほどの光景が鮮明に思い出される。

福岡市内では大混乱、周辺の自治体も情報収集に追われるだろう。

自治体にまともな対応は期待できない。

警察、自衛隊……小倉の仲間に連絡を取ってみようか。

とにもかくにも、自衛の態勢を整えるのが先決か。


「……よし」


 当面やるべきことを頭の中で整理して、メモ用紙に書き出す。

俺は天才じゃないから、漏れがないように思いついたことを紙に書き留める。

一通り書き終えたならば、すぐサイドミラー、バックミラーと視線を走らせる。

俺は自宅周辺が安全であることを祈りつつ再び車を走らせた。

電話がまともに通じないことに気付いたのは、自宅に辿り着いてからのことだった。

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