表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

アボカドマフィンをあげる

アボカドマフィンで恋愛小説!

というお題をいただきまして、こうなりました。


甘いです。



今年のクリスマスには、いいことが、いくつかある。


ひとつめ。家族みんなで、ケーキが食べられること。


ふたつめ。部活のさしいれにもケーキがくること。


みっつめ。保科ほしなくんに会えること。




   * * *




 我らオーケストラ部は、クリぼっちを回避できる。



 ぼっち回避どころではない。大きなショッピングモールでコンサートができるんだから、部員はもちろん、お客さんもたくさんきてくれる。つまり、本来だったら家族以外と顔を合わせない私でも、いろんな人に会えるってことだ。



 それに、あれだ。私みたいに同じ部活に好きな人がいれば、その……いちおう? クリスマス、一緒に過ごしているようなもんだ。別の部活に彼氏彼女がいる人は、うん…ドンマイ。だいじょぶ、クリスマスが全てじゃないよ。



「シイノちゃん、お先に失礼するね」

「ぶちょー! お疲れ様でした!」



 音楽室を出るときの挨拶だ。


 あっちらこっちで聞こえてきて、



「お疲れさま! 明日がんばろうね!」



 って、私もそれにこたえる。



 オーケストラ部、総勢75人。女子の割合が高いけれど、男子もまぁまぁいる。



 コンサート前日だから、今日はみんな揃って部活にきてくれた。オーケストラの人数にしたら多いわけではないけれど、この学校の部活では最大規模らしい。



 高校1年生と、2年生。3年生はもう受験期だから、引退してしまった。寂しい。憧れの先輩たちは楽器じゃなくて参考書と向き合っている……って、他人事じゃない。私も来年ああなるんだ。



 元部長さんが引退をして、後継者に任命されたのが、私だ。



 こんなぺーぺーだけど、実は部長らしい。顧問が何を考えて私にしたのかわからないけれど(あみだクジでもした?)、みんな一丸だから大変というより楽しいかな。人数が多くてもちゃんとまとまってくれるから。

 


 先刻まで75人も人がいた音楽室は、あっという間にスカスカになっていた。大人数の割に行動が早いのも、オケ部のいいところ。



 残っているのは私と——、



「先輩、今日も、居残り練習、一緒にいいですか」



 保科ほしなくんだ。



「保科くん、充分ヴィオラうまいのに」

「そんなことないです」



 保科くんは、いっこ下の1年生、まぁまぁいる男子部員の中の1人だ。


 私と同じヴィオラ。



 そして、私の、好きな子。

 


「シイノ先輩、今日ちょっと焦ってましたか」

「え? あぁ…」



 ちょっと目をそらすけど、それが余計怪しくなってしまった。


 間違いじゃ、ない。



 少し先走って、テンポがずれた。すぐに修正したからあんまりバレてないって、思ったんだけど、な。


 コンサート前日に、情けないセンパイだ。

 


「今日調子悪かったよね…ごめん」

「いえ、僕もちょっとミスしちゃいましたし」

 


 保科くんは、ヴィオラがうまい。


 というか、入部したての頃から私を慕ってくれていて、結構みっちり教えたから、天才ではなく秀才だ。


 努力家って言葉がすっごく似合う。

 


 でも今は、むしろ私が教わっている、かな。


 小さい頃からピアノはやっていたらしいし、歌もうまいし。オケ部に入るまで全然音楽が分からなかった私からすると、年下だけどセンパイだ。



 いつも一緒に居残り練習してくれて、本当に感謝している。広い音楽室に1人で練習していた頃は寂しかったけど、今、保科くんとなら楽しい。


 背はちっちゃめだけど優しくて力持ちで、笑うとかわいい。楽器を奏でるときの真剣さは本当に、かっこいい。喋らなくても、遠くで見かけるだけでも満たされるっていうか…むり、言葉じゃ形容できない。というかこれ以上いうとストーカーみたいだ。



「せんぱい?」

「へ!?」



 や…

 やばい、今の顔に出てたかも。


 えええええっと、なんか、なんかないかな、誤魔化し…‥



「そうだ!」

「?」


 首を貸しげる保科くんも、可愛い。

  


「おなか、すいたでしょ」



 午前午後と長らく部活したわけだから、私も疲れてるしおなかもすいた。

 脳みそが糖を欲している気がする。



「アボカドマフィン、どうぞ」

「……え?」



 保科くん、アボカドが好きって聞いたから、頑張ってみた…!



 ちがう、ストーカーじゃないよ。ただちょっと聞こえてきちゃったってだけ。あの、保科くんが移動教室のとき? 廊下で? すれ違ったんだよ。


 盗聴とかしてないよホント、ホントだよ。



「アボカドって…マフィンになるんですか」

「うんっこのとおり」



 ちょっと、色合いはまずいかな? 薄い茶色と、緑…。


 悩んだけど、アボカドってどうがんばっても緑だから仕方ないよね。むしろチョコみたいな茶色のアボカドなんて嫌だよね。ありのままの緑がいいよ。



「保科くん、アボカド…すき?」



 聞き間違い、なはずはないと信じたい。



「すき、です」

「よかった! 見た目よりかはおいしいよ」



 我が家だと、意外と好評だった。


 私はあんまりアボカド食べるほうじゃないけど、弟は好きらしいから味見あげたら喜んでくれた。弟によると、アボカド好きは好きな味らしい。



「…保科くん?」



 俯いちゃってる、?


 もしかして、やっぱり、アレルギーとかあったりしたかな、アボカド、聞き間違いとかだったかな……




「……練習、しよっか」



 とりあえず、暗くなりめな空気をどうにかしようと思って、私はヴィオラを抱えた。



 16時。


 18時には完全下校だから、今日保科くんと一緒にいられるのはあと2時間だ。



「…先輩」

「?」



「僕は、アボカド、好きです。でも……」



 え、



「ご、ごめん、アレルギーとか、あったかな」



 保科くんが、首を横にふる。



「シイノ先輩のほうが、ずっとすきです」



 ……え、


「部活見学で、ヴィオラを奏でる先輩を見てから、ずっと…」

「……ほ、しなく」

「せんぱい」

「、」

「椎野、琴葉せんぱい」



 わたしは、保科くんに、

 ――抱き寄せられた。



「ヴィオラより、僕を愛してくれませんか」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ