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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヒモ志望悪魔と養いたい系ガール

作者: 百合ののの

麻木あまねは歓喜していた。

幼いころから恋い焦がれていた悪魔の召喚を成功させたからだ。


召喚に利用した紫色の魔法陣の上には、やる気のなさそうな女性が一人横向きに寝っ転がっている。

服装にまでやる気のなさが表れており、よれよれのグレーのTシャツに、下着のパンツ一枚だけというラフな格好だ。


彼女は、怠惰の悪魔と呼ばれるベルフェゴール。七つの大罪の一つともいわれるほどの大悪魔である。


「私のお願い聞いてくれますか?」


そんな悪魔に、あまねは本題を投げかけた。

気怠げな視線を天音に向けたベルフェゴールは、今度はこれまた面倒くさそうに自分の寝そべっている周辺へとその視線を一周させると。


「……生贄、ないんだけど」


不満げな表情をあまねに向けた。


悪魔たちや悪魔召喚を行おうとする者たちの間では常識であったのだが、悪魔を呼び出す際には通称『生贄』と呼ばれる対価が必要なのである。

それがこの場にはなかったのだ。これがベルフェゴールではなくて普通の、例えば強欲とか嫉妬とかの悪魔だったりしたら生贄がないことを理由にすぐにでも殺されておかしくはない。

そんな状況であった。


しかしあまねは飄々と、その顔色に恐怖も悪びれの一つも浮かべずに言い放つ。


「ベルフェゴールさんのお願いを教えてくださいな。それを私が叶えるのっていうのが対価でどうでしょう? というか、そのつもりでいたので生贄を何にも準備してないんですよね」


えー、と内心でベルフェゴールは不思議に、そして、めんどくさいなとも思っていた。大抵の人間は願いを叶えて欲しいから悪魔を召喚するのであって、そのために生贄を用意するのだ。しかし目の前の少女は対価としてその悪魔の願いを叶えるというのである。


「……普通、逆」


第三者が聞けば至極もっともであろうという感想をこのやる気のない大悪魔は呟いた。。


しかし、ここでブチ切れて召喚者を殺そうとしないのが怠惰の悪魔である。目の前の少女への対価として、自分の願いを言うことに方向を転換した。

もし願いを叶えられないようであれば、目の前の少女の残りの人生を頂こうと考えての事である。

残りの人生といっても命奪うのではなく、その人生を自身のために使えと命令するつもりだったのだ。


つまりは、養えということである。実に怠惰の悪魔らしい考えであった。


そんなベルフェゴールの願いは。


「じゃあ、マモンって悪魔、やっつけて。いつも、働け、働けって、うるさいから」


私利私欲丸出しである。

むしろ悪魔だから正しいのかもしれない。


「了解でーす」


しかしあまねは簡単に首を縦に振った。

そして、無造作に右手を振るう。


ビシリ。


あまねの右腕が空を切ったところから、まるで包丁で豆腐を切ったかのようにいとも容易く空間が避けたのだ。

そしてその避け目から、端麗な女性の顔がすぐ近くに見える。釣り目が特徴的な、気の強そうな女性の顔。

強欲の悪魔、マモンであった。唇の端に米粒がついてるところを見る限り、食事中だったのだろう。時間帯を考えれば、朝食だろうか。


マモンは一瞬驚いたような顔をしてあまねを見ると、 その綺麗な口元が裂けてしまうのでは思う程に大きく口を開き。


「あ!? なんだおまッ……」


彼女のセリフは、最後まで言い切られることはなかった。


お腹の半ばごろから上が、一瞬のうちに消え去ったからである。

そして上半身があった辺りにはあまねの腕が、正しく言うならばデコピンを放った後の形になっているあまねの手があった。


あれじゃあ再生に二百年はかかるな。


上半身が消し飛んだ口うるさい同僚を見て、ベルフェゴールは思った。


そもそもどうやって次元を切り裂いたとか、初めから自身を呼ぶときもそうしなかったのは何故とか、人間のデコピンごときで最上位の悪魔があんなに簡単に消し飛ばされるものなのかとか、ツッコミどころは様々だったが、考えるのが面倒になりベルフェゴールは諦めたのだ。

目の前の少女が口うるさいおばはんをしばらくの間黙らせてくれたのである。それでいいじゃあないかと。

怠惰の悪魔は細かいことを気にしないのである。


けれど、あまねのキラキラした目を見て、思いだしてしまった。

これからこの少女のお願いとやらを聞かなければならないということを。


めんどくさいのは嫌いだったが、悪魔というのは契約を大事にする生き物である。契約が成立してしまった以上は、仕方ないといった顔でベルフェゴールはあまねに視線を向けた。


「……願いは、なに?」


渋々ながら、尋ねる。

じゃあ……と前置きしてから、目の前の怠惰の悪魔の言葉に天音は答えた。


「私が死ぬまで一緒にいてください」


「……?」


ベルフェゴールには、あまねの言っていることがよくわからなった。

首をかしげる彼女の姿をみて、あまねも一度首をかしげると、うーんと考え込んでからもう一度口を開く。


「怠惰の悪魔にこの言い方じゃまずかったですか? えっと……養うので、一生一緒にいてくださいな、ベルフェゴールさん」


あまねが丁寧に、ベルフェゴールに伝わりやすいように言い直した。


「ちっちゃいころ資料で貴女の絵姿見て一目惚れだったんですよね。吸い付きそうなその胸とか、ちょっとだけパンツからはみ出たおなかのお肉とか、下手したら色欲の悪魔なんじゃないかってくらい色っぽいところとか」


自分の身体を抱きしめながら、嬉々として己の欲望をさらけ出すあまね。


「…………まあ、養ってくれるなら」


そんなあまねを見たベルフェゴールは、まあいいか。と床の上ですやすやと寝息を立て始めた。








「はい、あーん」


朝食の時間。

あまねは自家製いちごジャムをたっぷり塗った食パンを指で千切り、ベルフェゴールの口元へと運んでいた。

ベルフェゴールはそれをされるがままに受け入れ、口を開いて適量ずつ運ばれてくるパンを頬張っていた。


「美味しいですか?」


あまねは口をもごもごさせているベルフェゴールを覗き込むようにして、尋ねる。


「ん」


ベルフェゴールも無表情ながらまんざらでもなさそうに、あまねの質問に頷いていた。


「ふへへ~、ベルさん可愛いなぁ~」


あまねは人様にはお見せできない様な表情でニヤニヤとしながら、そうひとりごちる。

そしてベルフェゴールがパンをあらかた食べ終えて、ふぅ、と一息ついたところで人肌より少し熱いくらいに温めておいたミルクの入ったマグカップを差し出した。

ここまで至れり尽くせりだと、見る人が見ればもはや介護である。


「ん。ちょうど欲しかったところ」


マグカップを受け取ったベルフェゴールは、あまねの方を向くと、無表情のまま呟いた。

かなり近づいてベルフェゴールの顔を覗き込んでいたあまねの視界に、ベルフェゴールの美術品のように端麗な顔がアップで映る。


幸福感に包まれながら、あまねは言った。


「ベルさん、マジ天使」


「……? 私、悪魔なんだけど」


人間界のスラングは通じないようだった。


以前茶番ガールズで書いたものに加筆修正したものです。編集で終わらせようかと思ったのですが文字数がいくらか増えてしまったので短編で投稿。

感想お待ちしております。

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