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チートスキルで世界樹ガチャを引きまくれ!  作者: 山田マイク
第6章 『幽霊島の世界樹』編
99/137

98 遊覧船にて


 ◆


 次の日。

 コトトは見事に協会と話をつけ、小型の遊覧船を一つチャーターした。

 しかもその際、彼女はかなり値切ったらしく、アビゲイルはその値を聞いて驚いていた。


「本当は船員の給料も向こう持ちにしたかったんだけどね」

 コトトは口惜しそうにそういった。

 こいつ、やっぱりかなり有能だ。


 それから俺たちは港に行き、船に乗り込んだ。

 その遊覧船は30人乗りで、俺たちだけが乗るにはかなり広かった。


 船に乗り込むと、マキとアリスはいつものようにはしゃぎまわり、遠足の時の子供のように船内をくまなく走り回った。

 他方、カイルは舳先に一人で立ち、目を細めて悦に入っていた。(そっとしておいた)


 コトトは船内に残り、早速メーティスの魔石の鑑定を始めた。

 アビゲイルはコトトからもらった船酔い薬のおかげで酔いは大丈夫なようだが、甲板にでて風にあたると言っていた。


 目的のガルバーバ島までは約2時間。

 

 そうして。

 俺はちょうど具合よく、アビゲイルと二人きりになれたのだった。


 ◆


「大佐、ちょっといいですか」

 俺は頃合いを見て、気持ちよさそうに風を浴びていたアビゲイルに声をかけた。


「ん?」

 アビゲイルは俺を見た。

「ああ、ユウスケか。どうした」


 俺はアビゲイルの横に立ち、えーっと、と言いながら目線を湖の先へと向けた。

 気軽に、気軽に。

 そう心で呟きながら、口を開いた。


「大佐、最近どうですか?」

 俺はぎこちなく笑いながら言った。

 意識すると、どうにもうまく笑えない。


「どう?」

 アビゲイルは首を傾げた。

「なんだ、それは。どういう意味だ? 体調なら悪くないが」


「そ、そうっすか。いや、ならいいんすけど」

 俺はたははと笑いながら、頬を指で掻いた。


「……妙なやつだな」

 アビゲイルは微笑み、再び目を湖に移した。

 

 ひと際強い風が吹き、アビゲイルの長い金色の髪を跳ね上げる。

 彼女はそれを右手で押さえながら、気持ちよさそうに目をつむった。


 そのまま、俺はしばらく黙り込んでいた。

 大佐はいつもの大佐のようにも見える。

 やっぱり、俺の勘違いなのかも――。


 いや、と俺は首を振った。

 カイルの過去を見た後の大佐の顔。

 今考えても、あれは普通じゃなかった。

 

 このままじゃ駄目だ。

 俺は意を決して口を開いた。


「あの、大佐」

「なんだ?」

「えーとですね、その、あの」

「だからなんだ、さっきから」

 アビゲイルは苦笑し、俺を見た。


「す、すいません」

 俺はつばを飲み込み、聞いた。

「あのぅ、大佐、最近、ちょっと元気ないかなあって、思って」


「体調は良いと言ってるだろう」

 アビゲイルは眉を寄せた。

「おかしな奴だな。一体、何が言いたいんだ」

「いえあの、身体的にはそうかもしれないすけど、その、メンタルっつーか、悩み事とか、もしかしたらあったりするのかなー、とか」

 俺はたはは、と頭をかいた。

「ああいえ、大佐に限ってそんなことはないとは思うんすけどね。ただ――もしも万が一、何か心配してることとかあったら、話して欲しいなって」


 俺はちらとアビゲイルを見た。

 彼女は無言で、遠くを見ていた。

 ちょうど逆光になってしまって、表情は見えない。


「……まいったな」

 やがて、アビゲイルが口を開いた。

「バレていたのか。上手く隠しているつもりだったんだがな」


 俺は唇をきっと結んだ。

「では――やはり、何か思い悩んでいることが?」

「ない――とは言えないな」

 アビゲイルは自嘲気味に笑った。

「しかし、お前が気に病むことはない。お前たちには、一切関係のないことだ」

「関係ない、なんてことないですよ」

 俺は半歩、アビゲイルに近づいた。

「大佐は、俺たちのリーダーなんですから」


 アビゲイルはふっと笑った。

「なら、なおのこと弱みは見せられない。悪かったな。そのようなそぶりは、もう2度と見せない」

 アビゲイルはそういうと、踵を返して足を踏み出した。


「待ってくださいっ」

 俺はとっさに彼女の腕をつかんだ。

「俺はそういうことを言ってるんじゃないんです」


 アビゲイルは表情を曇らせた。

 そして、無言で俺を見つめた。


「俺は」

 目線をそらさず、俺はアビゲイルを見つめ返した。

「俺は大佐に、もっと弱みを見せてほしいんです。何か嫌なことがあったら愚痴る。悩みがあれば相談しあう。仲間ってそういうもんでしょ?」


「……仲間、か」

 アビゲイルは目を伏せた。

「すまんが、私にはよく分からないんだ。だから……そのように振舞うことは出来ない」


 アビゲイルはそういうと、俺の手を静かに振り払った。

 そうして、今度は俺の横を通って歩き出す。


「ちょ、ちょっと待ってください」

 俺はアビゲイルの前に回り込んだ。

「なんでそうやって強がるんですか? いいじゃないですか、ちょっとくらい相談してくれたって。俺、もっと大佐のこと知りたいですよ」


 アビゲイルは困ったように眉を下げた。

「出来ないと――言っているだろう。私はこれまで、誰かと対等に話をしたことはないのだ」

「そんなこと言わないでくださいよっ」

 俺は強い口調で言った。

「たしかに俺は未だに大佐と話すときは緊張します。でも、ずっとそうだっていうわけじゃない。ここまで一緒に旅してきて、大佐の可愛いとこや天然なとこ、いっぱい見てきました。そのたびに、俺は大佐と距離が縮んだように思えて、嬉しかったんです。それなのに――そんな寂しいこと、言わないでください」


 俺はじ、と大佐の両眼を見つめた。

 あまり美しすぎて、いつもは思わず目を背けたくなるその瞳。

 だけど、今日はそういうわけには行かない。

 俺は――アビゲイルの目を見続けた。


 すると、大佐のほうが俺から目線を外した。

「……お前はおかしな奴だな」

 アビゲイルは微かに笑った。

「お前と話していると――どうにも調子が狂う」


「……それ、褒めてるんですか?」

 俺は笑った。


「さてな」

 アビゲイルは口の端を上げた。

 気のせいか――少し嬉しそうに見えた。

 

「分かったよ」

 と、アビゲイルは言った。

「私の負けだ」

「じゃ、じゃあ――大佐の悩み、打ち明けてくれるんですね?」

「いや……今はまだ、勘弁してくれ」

 アビゲイルは俯き、唇を噛み締めた。

「この胸の内を言語化するのは――私にとっては、ものすごく大変な作業なのだ」


 なぜかそのとき。

 彼女の顔は、ひどく幼く見えた。


「……すまん」

 アビゲイルは言い、顔を上げた。

「だが、いつか耐えきれぬ時が来たら、一番にお前に相談するよ」

 その時にはもう、いつもの大佐の顔になっていた。


「絶対ですよ!」

 と、俺は大きな声で言った。

「絶対、相談してくださいよ! 嘘ついたら――」

 俺はそこで言葉を止めた。


「嘘ついたら、どうする? 針千本飲ますか?」

 アビゲイルが珍しく、軽口を言う。


「いえ」

 俺は短く首を振った。

「嘘ついたら、またラプラスのときのように、キスしてもらいます。しかも今度は格好も、すごく可愛いスカートを履いてもらって、さらに髪型も俺の好きなツインテールにしてもらいますから」


 アビゲイルは刹那、きょとん、とした。

 そして次の瞬間、「あはは」と白い歯を見せて笑った。

「分かった。約束するよ」


 やっぱり、大佐はもっと笑ったほうがいいや。

 彼女の笑顔を見ながら、俺はそう思った。


 ◆


「あ! こんなとこにいた!」

 と、その時、背後から声がして俺は振り返った。

 そこには、息を切らしたコトトがいた。


「どうした、コトト」

 と、アビゲイルが言った。


「聞いてください、大佐」

 コトトは息を整えながら言った。

「今、メーティスの魔石の鑑定が終わったんですけど」

 

「おお、よくやったぞ。早かったじゃないか」

 アビゲイルはコトトのほうへと歩み寄った。


「あれ、どういう代物だった?」

 俺は聞いた。


「それが――」

 コトトは首を振り、こういった。

「あれ、結構やばいモノみたいなのよ――」



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